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【人事労務系向け・医師向け】産業医の要件と日本医師会認定産業医認定証の更新の必要性について

今回のトップの写真は、スーツを着た男性で、産業医のイメージです。多くの場合、産業医の広告などで使用される産業医の写真は、白衣を着た医師のものが多いですが、実際の産業医は白衣を着る機会はほとんどありません。よって、こちらの写真の方が現実的なイメージに合っていると思います。

さて、今回は日本医師会認定産業医の更新について話しましょう。しばしば「日本医師会認定産業医の更新は必要ないのでは?」という疑問が寄せられます。また、新型コロナの影響で更新ができない医師もいるかもしれません。

ここで実際の状況について説明いたします。

日本医師会認定産業医の更新の必要性について

法令上の産業医の要件

まず、産業医の要件ですが、労働安全衛生法13条2項に「産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。」と記載があります。

労働安全衛生法(産業医等)
第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。

e-Gov 労働安全衛生法

では、「厚生労働省令で定める要件」ですが、こちらは労働安全衛生規則14条2項に記載があります。14条2項に1号から5号までありますね(青色ハイライト)。5号は特殊なので、実質、1号から4号になります。

労働安全衛生規則 14条2項
法第十三条第二項の厚生労働省令で定める要件を備えた者は、次のとおりとする。
一 法第十三条第一項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
二 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、その大学が行う実習を履修したもの
三 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
四 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者
五 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者

e-Gov 労働安全衛生規則

これをまとめますと、以下のようになります。

(1) 厚生労動大臣が定める産業医研修の修了者。 これに該当する研修会は日本医師会認定の産業医学基礎研修と産業医科大学の産業医学基本講座があります。
(2) 労働衛生コンサルタント試験の試験区分保健衛生に合格した者。
(3) 大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師の職にあり、又はあった者。
(4) 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者。

それぞれ解説いたします。

 産業医の要件について

(1)について

これは「産業医研修の修了者」と書いてあります。
これには、日本医師会のものと、産業医大のものがあるということです。

ちなみに法令上は「産業医研修の修了者」とあるので、「産業医研修」を修了した状態で日本医師会認定産業医認定証がなくても産業医になれるかという論点があったので、労働局に確認したことがあります。
この時は、労働基準監督署が産業医研修を修了したかどうかは、日本医師会認定産業医の認定証を見て判断するので認定証がないと確認できないと言われました。

(2)について

こちらの要件は、労働衛生コンサルタント試験の保健衛生区分に合格した者です。
この要件は、労働衛生コンサルタント試験に合格すれば十分であり、労働衛生コンサルタントとなるべく、厚生労働省の名簿に登録する必要はありません。合格証書のコピーが証明書類として十分です。
私は、産業医の選任に必要な書類として、労働衛生コンサルタント試験の合格証のコピーを使用しています。

(3)について

「大学において労働衛生を担当する教授、助教授、常勤講師の職にあり、又はあった者」ということで、私はこれにあたります。公衆衛生で労働衛生を担当していた准教授でした。

この要件には、当該大学の証明書が必要です。証明書の形式については特定の様式がなく、労働基準監督署に確認したところ、「労働衛生を担当している」と明記されていることが必要とのことです。

この要件の難しい点は、証明書の原本を労働基準監督署に提出しなければならないため、一社の産業医契約につき1枚の証明書が必要となることです。私は退職時に大学に数百枚の証明書を作成してもらいました。

なお、この証明書はもらっておくと、安全衛生関連の講師の要件として、准教授または教授が要件となる場合があるので、役に立つ場合があります。例として、建築物石綿含有建材調査者講習の講師などがあります。退職前にはもらっておきましょう。

(4)について

これはそのままですね。産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学をきちんと卒業すれば産業医になれるということです。

法令上、更新は必要か?

さて、よく話題にでる、(1)の日医認定産業医の更新ですが、この条文では「産業医研修の修了者」としか書いていないので更新については言及していません。
つまり、法令上、更新は必要ないということになります。
期限切れの日本医師会認定産業医認定証でも、研修の修了者であることは証明できます。

そして、産業医の選任については、届出になります(労働安全衛生規則第2条第2項、同規則第13条第2項)。
したがって、労働基準監督署は届出の書類は形式がそろっていれば行政手続法37条により受け取らないことはできません。
以上より、期限切れの日本医師会認定産業医認定証でも、労働基準監督署は提出されれば受領せざるを得ないのです。

行政手続法
(届出)
第三十七条 届出が届出書の記載事項に不備がないこと、届出書に必要な書類が添付されていることその他の法令に定められた届出の形式上の要件に適合している場合は、当該届出が法令により当該届出の提出先とされている機関の事務所に到達したときに、当該届出をすべき手続上の義務が履行されたものとする。

Q24 届出をしようとしたら、役所が受け取らないと言っているのですが、どうしたらいいですか?

A

 届出とは、役所に対して一定の事項を通知する行為であって、そのことが法令で義務付けられているものです(そのため、役所からの処分(例えば、許可をする/許可しない)を前提としている「申請」は除かれます。)。
 届出に必要な書類がそろっている、定められた様式で届出が記入されているなど、法令が定める形式上の要件を満たす届出が提出先とされている役所に届いたときは、「届出をする」という手続上の義務は完了したことになります。
 したがって、役所は、形式上の要件を満たす届出が正しい提出先に到達したら、その届出がなかったものとして取り扱うこと(例えば、届出を受け取らない、返却するなど)はできませんので、その旨を役所に説明してください。
 ただし、形式上の要件を満たす届出が正しい提出先に到達しても、その届出の内容に誤りがある場合など、その届出の根拠となる法令の要件を満たしていないものは、届出としての法律的な効果は発生しません。

(第37条)
引用:総務省 行政手続法Q&A
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/gyoukan/kanri/tetsuzukihou/faq.html

労働安全衛生規則
13条2項 第二条第二項の規定は、産業医について準用する。ただし、学校保健安全法(昭和三十三年法律第五十六号)第二十三条(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号。以下この項及び第四十四条の二第一項において「認定こども園法」という。)第二十七条において準用する場合を含む。)の規定により任命し、又は委嘱された学校医で、当該学校(同条において準用する場合にあつては、認定こども園法第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園)において産業医の職務を行うこととされたものについては、この限りでない

2条2項
事業者は、総括安全衛生管理者を選任したときは、遅滞なく、様式第三号による報告書を、当該事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下「所轄労働基準監督署長」という。)に提出しなければならない。

e-Gov 労働安全衛生規則


更新をしないと、最新の知識を知らないのか?

日本医師会認定産業医の更新をしない産業医は、勉強していないのでろくでもないとの意見もあります。しかし、更新講習は5年間で20単位が必要です。正直に言えば、幅広い範囲を5年間で20単位(20時間)でカバーするのは少なすぎると感じます。自己学習を積極的に行う必要があります。

結局のところ、最新の知識を知っているかは、その産業医がどれだけ勉強しているかによると思います。

また、労働基準監督署からすると、期限切れの日本医師会認定産業医認定証の提出は望ましくないとのことです。



 コロナ禍における有効期限の満了

コロナ禍で更新単位を充足できずに既に有効期限が満了した方、今後有効期間の満了を迎える方に関しては医師会の特例措置がありました。
こちらは新型コロナの状況により変わってゆくと思いますので医師会に問い合わせましょう。

まとめ

日本医師会認定産業医の更新は、法令上では必要ありません。しかし、労働基準監督署からすると望ましくないようです。更新を行うことで、更新しておくと、20時間勉強した証拠になります。可能な限り更新を行いましょう。

なお、労働衛生コンサルタント試験の合格証のコピーには有効期限はありません。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

お問い合わせはこちらからお願いいたします。

この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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