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【産業医・人事労務担当者向け】退職後に傷病手当金を受給する条件について(傷病手当金の継続給付)

皆様は傷病手当金の継続給付制度についてご存じでしょうか?
この制度では、特定の条件を満たせば退職後も傷病手当金を継続して受け取ることができます。
産業医や人事労務担当者の方々は、この制度について知っておくべきです。
今回は、この制度についてのお話をさせていただきます。

注意:傷病手当金の制度の利用については健康保険組合で取り扱いが違う場合がありますので
必ず健康保険組合に要件を確認しましょう。


例えば、以下の事例を想定してみましょう

ある、従業員がうつ病の診断で治療を開始して、主治医よる休業の診断書が会社に提出されました。
その後、6か月間休職し、就業規則の休職期間満了で退職となりそうです。
休職中は傷病手当金を支給されていました。
しかし、退職してもうつ病が改善せず、働けない状況が続きそうです。
労災の可能性は全くありませんでした。

もし、6か月で退職しても翌日にすぐにお仕事ができる状況に改善した場合には、雇用保険の対象となります。雇用保険には様々な内容がありますが、ここでは詳細は割愛します。

この方は、退職後しばらくは症状が改善せず、働けない状況のようですね。もし退職と同時に傷病手当金が打ち切られると、経済的に困窮する可能性があります。
そのため、傷病手当金の継続給付制度が重要です。

以下は一般的な要件ですので、実際の事案で継続給付をもらえそうかは健康保険組合に相談できますので必ず確認しましょう。

条文は健康保険法104条になります。

健康保険法(傷病手当金又は出産手当金の継続給付)
第百四条 被保険者の資格を喪失した日(任意継続被保険者の資格を喪失した者にあっては、その資格を取得した日)の前日まで引き続き一年以上被保険者(任意継続被保険者又は共済組合の組合員である被保険者を除く。)であった者(第百六条において「一年以上被保険者であった者」という。)であって、その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているものは、被保険者として受けることができるはずであった期間、継続して同一の保険者からその給付を受けることができる。

e-Gov 健康保険法

これより、要件を満たす場合に退職後も引き続き残りの期間について傷病手当金を受けることができます。
注意点を説明します。

1年以上の健康保険の被保険者期間

被保険者の資格喪失をする日の前日(退職日)までに、継続して1年以上の被保険者期間がある必要があります(健康保険任意継続の被保険者期間は除外されます)。つまり、一般的には1年以上働いている場合が該当しますが、要件には1日の違いなども存在する場合がありますので、必ず健康保険組合等に確認してください。

この要件は非常に重要ですので、必ず健康保険組合等に確認してください(しつこいですが繰り返します)。
きちんと継続給付の要件を調査し、ご案内いたします。

この継続給付はもらえるかもらえないかで人生を左右するような問題になる場合があります。

資格喪失時に傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていること。

健康保険の資格喪失時については、注意が必要です。健康保険法の36条1項2号によれば、「その事業所に使用されなくなったとき」が該当します。

つまり、資格喪失日は退職日の24時(退職日の翌日0時)となりますので、日が変わる瞬間に資格を喪失します。この点は被保険者期間の算定においても重要ですので、注意が必要です。

健康保険法
(資格喪失の時期)
第三十六条 被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の翌日(その事実があった日に更に前条に該当するに至ったときは、その日)から、被保険者の資格を喪失する。
一 死亡したとき。
二 その事業所に使用されなくなったとき。
三 第三条第一項ただし書の規定に該当するに至ったとき。
四 第三十三条第一項の認可があったとき。
e-Gov 健康保険法

重要なのはこちらです。健康保険法104条をもう一度見ましょう。

その資格を喪失した際に傷病手当金又は出産手当金の支給を受けているもの

このように記載がありますよね。これは言い換えますと、退職日(最後に出勤するはずの日)に傷病手当金を受給していることになります。

 傷病手当金の継続給付について知っておくべき事

在職中の傷病手当金は、原則として働いて賃金が支給されると、その日の傷病手当金は支給されません。少しでも働いて賃金を得た場合も同様です。この点は覚えておく必要があります。

 退職日の出勤で、傷病手当金の継続給付は支給されなくなる。

退職日に出勤したときは、継続給付を受ける条件を満たさないために資格喪失後(退職日の翌日)以降の傷病手当金の支払いはありません!!

めちゃくちゃ重要なので覚えておきましょう。例えば以下のような例はどうでしょう。

とても働けない方が、1時間だけ最後の日だからと出勤し、荷物を片づけました。
その分の賃金が支給されました。

この場合、退職日(最後の出勤日)に賃金が支払われるので、傷病手当金を受け取れないので、継続給付が出ません。



 待期期間を完成したのち、1日でも傷病手当金をもらっていることが必要

退職日の前日までに連続して3日以上休んだ期間があり(待期期間の完成)、 かつ退職日も休んでいることが必要です。
これはどういうことかというと、4日連続で休むとすると、傷病手当金は3日の待機を満たして最後の1日に支給されます。

以下の図は、3月28日から私傷病にて欠勤して、そのまま退職した場合になります。
3月28日から30日までで、待期期間が完成するので、3月31日に傷病手当金が支給されますので、4月1日からも継続給付が支給されます。

しかし、退職日を含む、3日だけの欠勤の場合は、待期期間は満たすものの、傷病手当金を1日ももらえていないので、継続給付の要件を満たしません。以下の通達によります。

3 法第五十五条は、「被保険者ノ資格ヲ喪失シタル際疾病、負傷又ハ分娩ニ関シ保険給付ヲ受クル者ハ……同一保険者ヨリ其ノ給付ヲ受クルコトヲ得」と規定しているが、この「保険給付ヲ受クル者」とは、療養の給付を受給中の者のように現に給付を受けているか、又は労務不能期間中であつても、報酬の全部が支給されているため法第五十八条の規定によつて傷病手当金の支給を一時停止されている者のように、現に給付を受けてはいないが、給付を受けうる状態にあるものをいうものと解されているのに対し、設問の場合、資格喪失の日前療養のため労務に服することのできない状態が三日間連続しているのみでは、いまだ、現に傷病手当金の支給を受けているわけではなく、また、支給を受ける状態にもないので資格喪失後の継続給付としての傷病手当金の支給を受けることはできないものと解される。

傷病手当金の支給について (昭和32年1月31日 保発2号の2)


図にするとこのような状況になります。


 有給休暇を取得したらどうなるの?

傷病手当金が支給される条件がそろっていれば、有休取得をしているかどうかは問題ありません。
有給休暇を使うと、多くの場合、1日のお給料の100%をもらえるわけです。
(※有給休暇の額の算定方法はいくつかあり、100%でない場合もあります。)

ここで、傷病手当金を受け取ると二重取りになるため、有給休暇を取得した場合は傷病手当金の支給要件を満たしていても支給されません。
有給休暇を取得することで受け取れる金額と比較すると、傷病手当金の額は少ないと思われます。そのため、傷病手当金の支給要件を満たすために欠勤する場合でも、有給休暇がまだ余っているのであれば、有給休暇を使うことができます。
以下の図は、その状況を示しています。


いつまでもらえるの?

傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算して1年6月になります。
退職しても、起算日も、支給可能日数も変わりません。

 まとめ

傷病手当金の継続給付について解説いたしました。
この制度は、特定の要件を満たした場合に退職後も傷病手当金を受け取ることができるものです。

産業医や人事労務担当者の方々は、このルールを覚えておくことが重要です。しかし、退職後にも傷病手当金を受け取ることができるということを、従業員の中には知らない方が多くいます。特に金銭面で困っている方もいらっしゃるかもしれませんので、注意が必要です。

しつこいですが
この継続給付はもらえるかもらえないかで人生を左右するような問題になる場合があります。
傷病手当金支給の要件は非常に重要なので、実際の例では必ず健康保険組合等に確認しながら手続きを勧めましょう。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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