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【産業医向け】産業医が留意すべき労災保険二次健康診断等給付の申請に関するポイントをわかりやすく解説

産業医の皆様は、労災保険二次健康診断等給付の利用を勧奨されていますでしょうか。
今回は、労災保険二次健康診断等給付の申請要件について産業医が知っておくべきポイントにつき、解説します。

 労災保険二次健康診断等給付

 労災保険二次健康診断等給付とは

労働安全衛生法に基づいて行われる定期健康診断等のうち、直近のもの(以下「一次健康診断」といいます)において、脳・心臓疾患に関連する一定の項目に異常の所見がある場合、労災保険二次健康診断等給付が受けられます。
「労災保険二次健康診断等給付」には「等」が就いていますが、この「等」に「特定保健指導」が含まれます。
つまり、労災保険二次健康診断等給付には、二次健康診断と特定保健指導の二つが含まれます。
(後ほど、詳しく説明いたしますが、いわゆるメタボ健診に付随する保健指導である、「特定保健指導」とは別物になります。)

二次健康診断は脳血管・心臓の状態を把握するために行い、特定保健指導は脳・心臓疾患の発症の予防を図るために行う保健指導ですが、両者とも1年度内に1回、無料で受診することができます。

二次健康診断の前提となる法令による一般健康診断の内容は、原則として自己管理の部分を対象とするものではありますが、この 労災保険二次健康診断等給付を行う趣旨は、二次健康診断等給付を行うことで、結果として脳血管・心臓病の労災である8号認定を防ぐことができるという考えに基づきます。

労災保険二次健康診断等給付の内容

前述のように給付の内容として、労災保険二次健康診断等給付には、二次健康診断と特定保健指導があります。

空腹時血糖値検査、空腹時血中脂質検査、ヘモグロビンA1c検査、負荷心電図検査、胸部超音波検査、頸部超音波検査、微量アルブミン尿検査、特定保健指導などを組み合わせたコースが選べます。
かなり詳しい検査メニューですね。
概ね、15000円~25000円前後のコースになりますが、労働者は無料の負担はなく、無料で受診できます。
こちらについては以下の資料をご覧ください。

労災保険二次健康診断等給付 (厚生労働省)

引用元:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05927.html

労災保険二次健康診断等給付が給付される要件

労災保険二次健康診断等給付が給付される要件としては、以下になります。原則として以下の4つの健診項目ですべて「異常の所見」ですね。
これらの4つは、すべて生活習慣病関連になります。

1 一次健康診断の結果、異常の所見が認められること
一次健康診断の結果、次のすべての検査項目について、「異常の所見」があると診断されたときは二次健康診断等給付を受けることができます。
(1)血圧検査
(2)血中脂質検査
(3)血糖検査
(4)腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定
なお、一次健康診断の担当医師により、(1)から(4)の検査項目において「異常なし」と診断された場合であっても、労働安全衛生法に基づき事業場に選任されている産業医等が、就業環境等を総合的に勘案し、異常の所見を認めた場合には、産業医等の意見を優先します。

2 脳・心臓疾患の症状を有していないこと
一次健康診断またはその他の機会で、医師により脳・心臓疾患の症状を有すると診断された場合、二次健康診断等給付を受けることはできません。

3 労災保険の特別加入者でないこと
特別加入者の健康診断の受診は自主性に任されていることから、特別加入者は二次健康診断等給付の対象とはなりません。

こちらに関しては、一般健康診断を受診する医療機関によって「異常」の基準は違いますが、基準値内である「正常」以外であれば請求できるようです。

そして、産業医として重要なのは以下の、黄色ハイライトの部分です。
つまり、4つすべてではなく、1~3つしか健康診断の結果で「異常の所見」がなくとも、産業医が「異常の所見」を認めた場合には、労災給付二次健康診断等給付を請求できるのです。

「脳・心臓疾患の症状を有していないこと」について、高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療中の場合はどうでしょうか。
高血圧・糖尿病・脂質異常症で治療中の場合であっても、こちらは「症状」ではなく、労災保険二次健康診断等の給付対象とされます。
しかし、将来的に通達などで変更される可能性があるため、時々労働局に確認することをおすすめします。

上記のように、「今、病気で通院中だから労災保険二次健康診断名等給付は支給されないだろうな」と思われる方も申請できるかどうか労働局に確認することをお勧めします。

実務としては、支給申請書(様式第16号の10の2)の裏面に異常の所見について、産業医が異常の所見があることを記載できる部分があります。
ここで、説明通りにイ~ニまでに〇を付けるだけでもいいですが、私は余白に「異常の所見」を認めた理由を書いておきます。
なお、「産業医等が以上の所見があるものと診断」とあり、こちらにも「等」が記載されていますが、これは労働安全衛生法13条の2の「医師」であり、50人未満で産業医を選任する必要がない事業所で、産業医ではないが、産業医と同じ業務をしてもらう医師に健康管理等をお願いした場合になります。

この場合、後で産業医との業務の違いが問題にならないよう、医師(産業医)契約書には産業医と同じ業務を担当する旨を明記しておきましょう。


労働安全衛生法
第十三条の二 事業者は、前条第一項の事業場以外の事業場については、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない。
2 前条第四項の規定は、前項に規定する者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせる事業者について準用する。この場合において、同条第四項中「提供しなければ」とあるのは、「提供するように努めなければ」と読み替えるものとする。
e-Gov 労働安全衛生法

労災保険法の特定保健指導について 

まず、注意が必要なのは、「特定保健指導」という言葉なのですが、同じ言葉で法令が違うものがあります。
高齢者医療確保法による「特定保健指導」はメタボリックシンドロームに対する保健指導であり、通称メタボ保健指導とよばれます。
今回、解説している労災保険法の「特定保健指導」は別物なので覚ええておきましょう。

二つの「特定保健指導」と呼ばれる保健指導があるが、全く別物である。
①高齢者医療確保法による「特定保健指導」(メタボ保健指導)
②労災保険法の「特定保健指導」

労災保険法の特定保健指導の実施に関しては、以下に詳細がありますので確認しておきましょう。
高齢者医療確保法の特定保健指導に関しては分厚いマニュアルを読み込まなくてはならないのですが、それに比べるとだいぶ情報量が少ないです。

労災保険二次健康診断等給付 (厚生労働省)

 

 産業医と労災給付二次健康診断等給付のかかわりと、受診勧奨について

この給付は、あくまで従業員自身が申請するものであり、産業医が強制するものではありません。産業医が従業員の方にお勧めすることは問題ありません。
しかし、この給付を受けるには、原則として、生活習慣病が4つ重複している状態であるため、何らかの生活習慣病が治療が必要な可能性が高いです。

もし治療が必要な場合は、あえて労災保険二次健康診断等給付を利用せず、かかりつけ医に相談してもらい、必要な検査のみを受け、治療に進むのも一つの方法です。
どちらが適切かについては、従業員が産業医かかかりつけ医のどちらかに相談することをおすすめします。

 まとめ

労災給付二次健康診断等給付について解説いたしました。
要件として産業医が留意すべきなのは以下の2点です。

①異常の所見について、健診機関等の医師が異常でないとしても、産業医が異常であると意見を述べれること
②糖尿病・高血圧等で治療中であっても受給できる可能性があること

要件が不確かであれば、労働局に電話で聞きましょう。
①については、50人未満の産業医と同様の業務をおこなう医師でも可能です。

ただ、労災給付二次健康診断等給付を受給できる場合は、なんらかの生活習慣病が要治療レベルに当たる可能性があります。
そこで、労災給付二次健康診断等給付をあえて受給せず、産業医がどちらかの医療機関へ紹介状を発行し、治療へと進むのも一つの方法です。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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