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【開業】医師・保健師・看護師・心理職等が社会保険労務士とのダブルライセンスで開業をする形態について解説

医療従事者として社会保険労務士を目指すことには、いくつかのメリットがありますが、知っておくべき重要なポイントがあります。実は、社会保険労務士には登録の形態によって異なる特徴があるのです。これは、士業特有の問題となります。以下では、この点について説明します。
本文中では、産業医、保健師、看護師と記載していますが、心理士、キャリアカウンセラーも同様です。

社会保険労務士の登録の形態は複数あります

以下、社会保険労務士を社労士と略します。
(このブログではできるだけ略称を使わないようにしているのですが、以下、開業社労士と勤務社労士と呼びます。)
社労士には、開業社労士、社会保険労務士法人の社員、勤務社労士、およびその他登録の社労士などの形態が存在します。

ここでは頻度が高いと思われるこの4つの形態、社会保険労務士法人の社員、開業社労士、一般企業での勤務社労士、その他登録の社労士について解説しています。
実際の登録の形態の詳細については、全国社会保険労務士会連合会のHPをチェックしましょう。

全国社会保険労務士会連合会

 

開業社労士

開業と勤務の社会保険労務士会については、社会保険労務士法18条があります。
開業社労士は、自分の名前で、業として社会保険労務士の仕事をすることができます。開業社労士は「事務所」を1か所だけ設置できます。

社会保険労務士法

第十八条 他人の求めに応じ報酬を得て、第二条に規定する事務を業として行う社会保険労務士(社会保険労務士法人の社員を除く。以下「開業社会保険労務士」という。)は、その業務を行うための事務所を二以上設けてはならない。ただし、特に必要がある場合において厚生労働大臣の許可を受けたときは、この限りでない。
2 社会保険労務士法人の社員は、第二条に規定する事務を業として行うための事務所を設けてはならない。

e-Gov 社会保険労務士法

 

社会保険労務士法人の社員

社労士は、社会保険労務士法人を開設することができます。
社会保険労務士法人は、社会保険労務士法において、社会保険労務士の業務を行うことを目的として社会保険労務士が設立した法人をいうと規定されています(社会保険労務士法25条の6)。
なお、「社会保険労務士法人の社員」の「社員」は従業員ではなく、法人の役員だと思ってください。
社会保険労務士法人の社員は、社会保険労務士でなければなりません(社会保険労務士法25条の8)。

社員は、社会保険労務士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の社会保険労務士法人の社員となってはならないとされています(社会保険労務士法25条の6)。
簡単に言うと、社会保険労務士法人の社員は、社労士の業務は法人の仕事以外できなくなるのです。

社会保険労務士法
(設立)
第25条の6 社会保険労務士は、この章の定めるところにより、社会保険労務士法人(第2条第1項第1号から第1号の3まで、第2号及び第3号に掲げる業務を行うことを目的として、社会保険労務士が設立した法人をいう。以下同じ。)を設立することができる。

(社員の資格)
第二十五条の八 社会保険労務士法人の社員は、社会保険労務士でなければならない。
2 次に掲げる者は、社員となることができない。
一 第二十五条の二又は第二十五条の三の規定により社会保険労務士の業務の停止の処分を受け、当該業務の停止の期間を経過しない者
二 第二十五条の二十四第一項の規定により社会保険労務士法人が解散又は業務の停止を命ぜられた場合において、その処分の日以前三十日内にその社員であつた者でその処分の日から三年(業務の停止を命ぜられた場合にあつては、当該業務の停止の期間)を経過しないもの

(社員の競業の禁止)
第25条の18 社会保険労務士法人の社員は、自己若しくは第三者のためにその社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行い、又は他の社会保険労務士法人の社員となつてはならない。

2 社会保険労務士法人の社員が前項の規定に違反して自己又は第三者のためにその社会保険労務士法人の業務の範囲に属する業務を行つたときは、当該業務によつて当該社員又は第三者が得た利益の額は、社会保険労務士法人に生じた損害の額と推定する。

e-Gov 社会保険労務士法

 

一般企業の勤務社会保険労務士

社労士が雇用契約に基づいて勤務する場合の形態について説明します。勤務先としては、社労士事務所、社労士法人、一般企業などがあります。ここでは、産業医、保健師、看護師の一般企業での勤務社労士を想定します。

一般企業などに勤務登録している社労士は、勤務している事業所の従業員の社会保険や労働関係の手続きなど、事業所内での社労士業務に限定されることになります。

社会保険労務士法(登録)
第十四条の二 社会保険労務士となる資格を有する者が社会保険労務士となるには、社会保険労務士名簿に、氏名、生年月日、住所その他厚生労働省令で定める事項の登録を受けなければならない。
2 他人の求めに応じ報酬を得て、第二条に規定する事務を業として行おうとする社会保険労務士(社会保険労務士法人の社員となろうとする者を含む。)は、事務所(社会保険労務士法人の社員となろうとする者にあつては、当該社会保険労務士法人の事務所)を定めて、あらかじめ、社会保険労務士名簿に、前項に規定する事項のほか、事務所の名称、所在地その他厚生労働省令で定める事項の登録を受けなければならない。
3 事業所(社会保険労務士又は社会保険労務士法人の事務所を含む。以下同じ。)に勤務し、第二条に規定する事務に従事する社会保険労務士(以下「勤務社会保険労務士」という。)は、社会保険労務士名簿に、第一項に規定する事項のほか、当該事業所の名称、所在地その他厚生労働省令で定める事項の登録を受けなければならない。

(勤務社会保険労務士の責務)
第十六条の二 勤務社会保険労務士は、その勤務する事業所において従事する第二条に規定する事務の適正かつ円滑な処理に努めなければならない。

e-Gov 社会保険労務士法

 

「その他登録」の社労士

社労士の登録を「その他」とすることができます。これは士業の登録としては非常に特殊です。
「その他登録」の社労士は、社労士の業務を社労士として行うことはできず、そのため、「社会保険労務士」と名乗って相談業務を行うこともできません。

しかし、社労士会の会員として、社会保険労務士連合会や都道府県社労士会が行う研修等への参加がでます。個別労働紛争解決制度に携わる特定社労士になることもできます。
また、社労士は「その他登録」のことをよく知っており、社労士として接してくれますので、他の社労士との人的ネットワークを作ることができます。

 産業医、産業保健師・看護師が社労士として活動する形態

では、上記の登録形態と特徴があるとして、産業保健分野で活躍する場合にどうなるのでしょうか。
例をもって、解説します。
以下の例において、C保健師は、社会保険労務士試験に合格して、登録を行っているものとします。

重要なことですが、例に示す、B株式会社は、ダブルライセンスを有する者が自分で設立した法人(株式会社・医療法人)も含みますので注意しましょう。

開業社労士の場合

開業社労士の場合、自分の事務所を持ちます。以下は、C保健師が自宅を社労士事務所としてA社労士事務所を開業登録した場合の例です。

C保健師は、B株式会社で保健師として勤務し、保健師の業務のみを行っていますので、B株式会社において社労士としての活動はできません。
ただし、B株式会社はA社労士事務所に社労士業務を委託することができます。

保健師としては、複数の企業と保健師として雇用契約を結ぶことが可能です。
保健師のみならず、産業医、看護師、キャリアコンサルタントにお勧めの開業形態です。


社労士法人の社員の場合

社会保険労務士法人の社員の場合社労士法人の場合、1人で法人を設立してもいいですが、複数名の社員がいる法人かもしれません。
以下は、C保健師がA社労士法人の社員となり、個人でC保健師が、B株式会社と保健師業務を行うことを約して雇用契約を締結した場合です。
C保健師は、B株式会社で保健師として勤務し、保健師の業務のみを行っていますので、B株式会社において社労士としての活動はできません。
ただし、B株式会社はA社労士法人に社労士業務を委託することができます。

保健師としては、複数の企業と保健師として、雇用契約を結ぶことが可能です。
保健師のみならず、産業医、看護師、キャリアコンサルタントにお勧めの開業形態ですが、社労士法人は個人の開業と違った注意点が様々あります。
開業社労士のパターンと似てはいます。


 一般企業の勤務社労士の場合

勤務社労士の場合、以下の図のようになります。簡単に言えば、B株式会社に専属の社労士として雇われるため、自身や第三者のための社労士業務を行うことはできません。社労士業務はB社の業務に限定されます。

ただし、専属となるのは社労士業務のみであり、他の企業で産業看護師や保健師の業務だけを兼業することは可能です。専属の社労士・保健師として、兼業不可の大企業でフルタイムで働くにはよいかもしれません。
ただし、大規模企業では通常、人事労務部門があり、そちらが社労士業務に関連する業務を担当しているため、社労士業務を実施する必要性が低いかもしれません。

また、小規模事業所で1社のパートタイム保健師や社労士として雇われる場合は、専属の立場になることで他の企業で社労士業務を行うことができないという点が考慮される必要があります。このような状況はもったいないと感じるかもしれません。さらに、その企業でしか社労士の実務経験を積むことができないというデメリットも考えられます。


その他登録の社労士の場合

その他登録の社労士の場合は、社労士として活動できません。しかし、知識はありますので重宝されるかもしれません。
また、社労士会の会員として、他の登録区分の会員と同様に社労士会等が行う研修等へ参加ができ、他の社労士との人的ネットワークを形成することができる等のメリットがあります。
自宅が賃貸で、賃貸借契約の制限で開業登録できない場合もその他登録でよいかと思います。
ただ、社労士として活動できませんが、社労士会の会費のお支払いは必要になります。
私の個人的な見解ですが、この形態は、開業登録ができない場合の選択肢かなと思います。社労士であることは間違いないので、労務系の知識があるという付加価値がつきます。



 産業医、産業保健師・看護師が社労士として活動する形態のまとめ

社労士の登録には、いくつかの形態がありますが、これは産業医・保健師・看護師としての契約が短時間かフルタイムで事業所に常駐するかによってもどの形態が適しているか異なります。また、事業所が勤務社労士としての業務を希望するかどうかでも異なります。一般的に、開業社労士としての活動は汎用性があるかと思います。さらに、社労士としてのスキルやレベルも向上させていく必要がありますが、開業社労士の方が様々なお仕事を受託できるかと思います。

なお、社労士の登録を実際に行う際には、社会保険労務士連合会に問い合わせて、想定する業務が可能かどうかを確認する必要があります。

全国社会保険労務士会連合会

産業医が社会保険労務士事務所開設時は、「依頼に応ずる義務」に注意しましょう

産業医が社労士事務所を開業すること場合、「うちの事務所は産業医事務所なので、給与計算や労働基準監督署への手続き業務はしません」と言いたいかもしれません。しかし、社会保険労務士には、「依頼に応ずる義務」があり、「正当な理由」がなければ、仕事の依頼を拒否できないので注意しましょう。詳しくは、以下の記事でまとめました。



まとめ

社労士の登録の形態について説明しました。社労士の業務形態には、社労士法人や社労士事務所での勤務社労士の場合もありますが、ここでは頻度が高いと思われる3つの形態、開業社労士、一般企業での勤務社労士、その他登録の社労士について解説しています。
それぞれの形態で、産業保健師としての雇用契約や業務委託契約を行った場合に社労士業務が可能かどうかを解説しました。

また、今回は保健師を念頭に置きましたが、産業医、看護師、キャリアコンサルタントでも同様になります。

実際には、社労士の登録の際には、社会保険労務士連合会に確認をしましょう。










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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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