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【船舶関係者、プロ向け】船員の二つの労働契約、雇入契約と雇用契約について

船員は船舶所有者と労働契約を結びますが、雇用契約と雇入契約の二つの契約があります。
今回はこれらについてお話したいと思います。

船員の労働契約の特殊性

船員の労働契約、雇入契約と雇用契約について

船員の労働契約には、雇入契約と雇用契約という二つの契約があります。「雇入」(やといいれ) と「雇用」(こよう)で漢字が1字違うだけで似ていますが、まったく別のものです。雇用契約は陸上制度と同様で、雇入契約は船員特有です。

雇入契約とは、乗船中の労務提供について定めた契約です。
それに対して、雇用契約とは、雇用関係の基本となる契約です(民法623条)。こちらは、一般的な通常の陸上の労働者にも適用されます。

民法(雇用)
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

e-GOV 民法

そして、船員が船舶に乗り組む際には、雇用契約を締結している場合であっても、船舶所有者との間で別途、雇入契約を締結しなければなりません。また、下船するときには、この雇入契約を終了させなければなりません。
つまり、雇入契約が終了すると、基本となる雇用契約のみとなります。

この二つの契約が併存するときとしないときがあるのです。

船員・海員・予備船員とは

船員と船舶所有者の労働契約について考えてゆく前に、船員について知っておきましょう。
まず、船員の定義ですが、船員法1条1項に「船員とは、日本船舶又は日本船舶以外の国土交通省令で定める船舶に乗り組む船長及び海員並びに予備船員をいう」と記載があります。そして、予備船員については、船員法2条に記載があります。

船員法)
第2条 この法律において「海員」とは、船内で使用される船長以外の乗組員で労働の対償として給料その他の報酬を支払われる者をいう。
② この法律において「予備船員」とは、前条第一項に規定する船舶に乗り組むため雇用されている者で船内で使用されていないものをいう。

e-Gov 船員法

「海員」とは、船内で使用される船長以外の乗組員で、労働の対償として報酬を支払われる者です。
そして、予備船員は「船内で使用されていないもの 」となっていますが、どのような方が該当するかというと、例として以下があります。

予備船員の例
  1. 船内、船外を問わず傷病により休業している者は、船舶に乗り組むために雇用されていて、雇用契約が存続する限り、予備船員となります。
  2. 乗り組むために雇用されている者で、下船中の者は予備船員となります。

これらを図で書きますとこのようになります。

このように、船内で使用されていないものは、予備船員となります。

これを前提に以下の二つの労働契約について、雇用契約と雇入契約について以下にどうなるか説明します。

  • 2023年4月1日から2023年4月30日まで、ずっと特定の船に乗り組むという契約を結ぶ場合
    この場合は、特定の船に乗り組んだ時から雇入契約により労務提供を行い、下船したのち契約終了となります。
    つまり、雇入契約のみであって、雇用契約がありません。
    下船した場合、雇用契約がないので、船外予備船員としての状態がありません。
  • 2023年4月1日から2024年3月31日まで、船舶に乗り組むために雇用されていて、そのうち一定の期間だけ乗船し、船員となる場合
    この場合は2023年4月1日より2024年3月31日まで、雇用契約があり、船に乗り組んでいない間は予備船員となっています。
    その後、特定の船に乗り組んだ時から船内で雇入契約に基づき労務提供を行い、下船したのち雇入契約は終了し、雇用契約のみとなり予備船員に戻ります。

    つまり、この船に乗り込んでいる期間は雇入契約と雇用契約が併存します。
    船内で使用されていない期間があっても、雇用契約に基づく予備船員としての身分があり、契約は続いているというわけです。

このように、予備船員としての身分が存在するかが問題となってくるのですが雇入契約を締結していない期間についても、雇用契約が存続し、予備船員として雇用関係を維持する制度のことを、「予備船員制度」と言います。
予備船員制度がない場合は、船に乗り組んでから下船するまでですので、船内での労務提供のみになります。この場合の乗船中の労務提供については「雇入契約」に定められます。

 

 

まとめ

まとめますと以下のようになります。

雇入契約を締結していない期間についても、雇用契約が存続し、予備船員として雇用関係を維持する制度である「予備船員制度」の有無によって

①予備船員制度がある場合
雇用契約と雇入契約の二つが存在する。

①予備船員制度がない場合
雇入契約のみが存在する。

このように、船員と船舶所有者には、二つの契約がある場合と、一つだけの場合がありますので
どのような労働条件が適用されるかについては注意が必要です。

また、こちらのページには、モデル就業規則・雇入契約書のモデル様式があります。
船員向け産業医は知っておきましょう。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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