事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【健診機関・人事労務担当者向け】就業判定において、医師は健診結果をすべて見て「医師の意見」を述べるべきです

近年、健診データを数値化して機械的に判定する方法が一般的になっていますが、正確な判定がなかなか行われていないように思われます。
もちろん、「そんなことはない!」とおっしゃる先生方もいらっしゃるかもしれませんが、私は以下の問題点を主張します。
医師や産業医は、医師の意見を述べる際に、健康診断の結果をすべて確認し、適切な判定を行うべきです。
そのためには、当該個人の健診結果をすべて把握することが重要です。

師は健診結果をすべて見て「医師の意見」を述べましょう

一般的な健診機関の診断区分の判定について

健診結果はすべて見るべき?
当たり前のことのように思われるかもしれませんが、意外に医師の中には全てを確認していない方もいるのではないかと思います。
なぜなら、現在一般的な健診結果の判定システムは、各データ項目ごとに重症度を自動判定し、最も重大な判定結果を総合的な判定とするシステムがほとんどです。
つまり、各項目に対して一つの判定を行い、最も重大なものを選択するのです。

実際の問題の例
 例えば、これはご存じでしょうか。高齢者医療確保法の特定健診関連の文献です。厚生労働省が作成している、「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック) 文例集  」です。
どの健診項目がどのくらいの値の場合に、どのような文例で受信者にフィードバックするかについて文例があげられています。
「健診結果とその他必要なな情報の提供(フィードバック) 文例集  」(厚生労働省)




例えば、血糖に関してであれば、空腹時血糖の値、HbA1cの値、肥満の有無等の組み合わせによりその判定が変わってくるのです。
例えば、ある人の健康診断のデータと結果を以下に示します。

空腹時血糖 125mg/dl → C判定(要経過観察・生活改善)
HbA1c 6.4% → C判定(要経過観察・生活改善)
BMI 30 → C判定(要経過観察・生活改善)

上記3項目のみ異常でした.
最も重い判定を取り、総合判定はC判定となりました。

その健康機関では健診項目につき、判定の一番重いものを総合判定としていたので、一番重いものを取るとC判定となりますので、健診全体がC判定となったということでした。
しかし、「血統高値に関するフィードバック文言集」の血糖高値に関するフィードバック文例集に当てはめてみましょう。
すると

BMIが25以上なので肥満者であり、空腹時血糖とHbA1cより、⑤の「生活習慣の改善を」ではなく
⑦の「是非、精密検査を」ということになります。

ですので、C判定(要経過観察・生活改善)でよいのか?という問題が生じます。
このように、各データーを組み合わせて判定することにより、その人の判定の重症度が変化するという考えもあるのです。

皆様が健康診断を受けられている健診機関はどのような判定基準でしょうか?

健診結果のデータをすべて見る事の重要性

多くの健診機関のシステムは一つの項目の区分を述べるだけで、組み合わせての判定をしません。
しかも、就業判定には、年齢や、従事する業務のチェックも必要であり、そちらには多くの健診機関において判定区分がつきません。
というわけで、結局、意見を述べる医師が健診結果全体を見なければならないのです。

また、近年では、化学物質の自律的管理において、がん等の遅発性疾病の把握強化がうたわれており、化学物質を製造し、または取り扱う同一事業場で、1年以内に複数の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、その罹患が業務に起因する可能性について医師の意見を聴かなければならないということになっております。
産業医が、健診結果を見て、おかしいと思う場合もあるかもしれませんね。
既往歴を判定しない健診機関の結果の場合、やはり問題をスルーしてしまう危険性があります。



まとめ

まとめると、各健診項目で最も重度の判定が「経過観察」となり、医師が総合的な判定を「経過観察」と認識して通常勤務と意見を述べ、詳細なデータを見ずに就業判定を行ってしまった場合、実は複数の健診項目で経過観察が判定され、全体的に見ると精密検査が必要な状態であったということもあり得ます。

当然のことですが、その他の場合にも、年齢による判定がない、既往歴や自覚症状に対する判定がないなど、健診結果には欠落があることもあります。

最近では、健診結果の各項目を個別に区分分けして、就業区分を簡単に出力するシステムが広まっていますが、それでもなお、医師が健診結果全体を総合的に判断することが重要であると考えています。

その他、複数の健康診断機関のデータを一括管理する場合には問題が生じる可能性があります。
そちらについては以下の記事を参照してください。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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