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化学物質の管理を解説

2024/01/01 2023/04/13

【まとめ】アーク溶接を行う場合に必要な環境測定、個人暴露測定についてわかりやすく解説

アーク溶接を行うと、ヒュームが発生します。ヒュームと言えばじん肺をきたしますので、じん肺法上、アーク溶接は粉じん作業に分類されます。
そして、このアーク溶接のヒュームは溶接ヒュームとして特化物でもあります。アーク溶接の作業環境を適切に管理するには、どのような対策が必要でしょうか?
今回は、アーク溶接の環境測定に関して、何を行えば良いのかをまとめました。

結論として
金属アーク溶接等作業は
①アーク溶接は粉じんに関する作業環境測定は必要ない。
②金属アーク溶接等作業は、安衛法65条に基づく作業環境測定は必要ない。
③安衛法65条の作業環境測定とは別個の「個人ばく露測定」が必要である。
ということになります。

これにつき、順次説明していきましょう。

アーク溶接を行う際に発生するヒュームの安全衛生管理

アーク溶接を行う場合は、じん肺法と労働安全衛生法の両方の対応が必要になります。

まず、「金属をアーク溶接する作業」は、「粉じん障害防止規則」第2条1項1号、別表第1の粉じん作業に該当します。このアーク溶接する作業が粉じん作業であることが定められたのは、金属ヒュームが特化物になる前です。

粉じん障害防止規則 別表第一(第二条、第三条関係)
二十の二 金属をアーク溶接する作業

e-Gov 粉じん障害防止規則

では、①じん肺法による環境測定と、②労働安全衛生法(特化則)による環境測定を別々に確認していきましょう。

① じん肺法では、溶接ヒュームについて作業環境測定は必要ありません。

粉じんの作業環境測定については、粉じん障害防止規則26条に「前条の屋内作業場について、六月以内ごとに一回、定期に、当該作業場における空気中の粉じんの濃度を測定しなければならない。」とあります。

粉じん障害防止規則 (粉じん濃度の測定等)
第二十六条 事業者は、前条の屋内作業場について、六月以内ごとに一回、定期に、当該作業場における空気中の粉じんの濃度を測定しなければならない
2 事業者は、前条の屋内作業場のうち、土石、岩石又は鉱物に係る特定粉じん作業を行う屋内作業場において、前項の測定を行うときは、当該粉じん中の遊離けい酸の含有率を測定しなければならない。ただし、当該土石、岩石又は鉱物中の遊離けい酸の含有率が明らかな場合にあつては、この限りでない。
3 次条第一項の規定による測定結果の評価が二年以上行われ、その間、当該評価の結果、第一管理区分に区分されることが継続した単位作業場所(令第二十一条第一号の屋内作業場の区域のうち労働者の作業中の行動範囲、有害物の分布等の状況等に基づき定められる作業環境測定のために必要な区域をいう。以下同じ。)については、当該単位作業場所に係る事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下この条において「所轄労働基準監督署長」という。)の許可を受けた場合には、当該粉じんの濃度の測定は、別に厚生労働大臣の定めるところによることができる。この場合において、事業者は、厚生労働大臣の登録を受けた者により、一年以内ごとに一回、定期に較正された測定機器を使用しなければならない。
4 前項の許可を受けようとする事業者は、粉じん測定特例許可申請書(様式第三号)に粉じん測定結果摘要書(様式第四号)及び次の図面を添えて、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
一 作業場の見取図
二 単位作業場所における測定対象物の発散源の位置、主要な設備の配置及び測定点の位置を示す図面
5 所轄労働基準監督署長は、前項の申請書の提出を受けた場合において、第三項の許可をし、又はしないことを決定したときは、遅滞なく、文書で、その旨を当該事業者に通知しなければならない。
6 第三項の許可を受けた事業者は、当該単位作業場所に係るその後の測定の結果の評価により当該単位作業場所が第一管理区分でなくなつたときは、遅滞なく、文書で、その旨を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。
7 所轄労働基準監督署長は、前項の規定による報告を受けた場合及び事業場を臨検した場合において、第三項の許可に係る単位作業場所について第一管理区分を維持していないと認めたとき又は維持することが困難であると認めたときは、遅滞なく、当該許可を取り消すものとする。
8 事業者は、第一項から第三項までの規定による測定を行つたときは、その都度、次の事項を記録して、これを七年間保存しなければならない。
一 測定日時
二 測定方法
三 測定箇所
四 測定条件
五 測定結果
六 測定を実施した者の氏名
七 測定結果に基づいて改善措置を講じたときは、当該措置の概要

e-Gov 粉じん障害防止規則

そして、「前条」は粉じん障害防止規則25条ですが、作業環境測定を行うべき屋内作業場が記載されています。以下、粉じん障害防止規則25条です。

粉じん障害防止規則(作業環境測定を行うべき屋内作業場)
第二十五条 令第二十一条第一号の厚生労働省令で定める土石、岩石、鉱物、金属又は炭素の粉じんを著しく発散する屋内作業場は、常時特定粉じん作業が行われる屋内作業場とする。

e-Gov 粉じん障害防止規則

このように「特定粉じん作業」が行われる屋内作業場で作業環境測定が必要ということになります。

そして、粉じん障害防止規則2条1項3号において、特定粉じん作業とは「粉じん作業のうち、その粉じん発生源が特定粉じん発生源であるものをいう」と定義されています。

粉じん障害防止規則(定義等)
第二条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 粉じん作業 別表第一に掲げる作業のいずれかに該当するものをいう。ただし、当該作業場における粉じんの発散の程度及び作業の工程その他からみて、この省令に規定する措置を講ずる必要がないと当該作業場の属する事業場の所在地を管轄する都道府県労働局長(以下この条において「所轄都道府県労働局長」という。)が認定した作業を除く。
二 特定粉じん発生源 別表第二に掲げる箇所をいう。
三 特定粉じん作業 粉じん作業のうち、その粉じん発生源が特定粉じん発生源であるものをいう。
2 前項第一号ただし書の認定を受けようとする事業者は、粉じん作業非該当認定申請書(様式第一号)を当該作業場の属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下「所轄労働基準監督署長」という。)を経由して、所轄都道府県労働局長に提出しなければならない。
3 前項の粉じん作業非該当認定申請書には、当該作業場に係る次に掲げる物件を添付しなければならない。
一 作業場の見取図
二 じん肺法第十七条第二項の規定により保存しているじん肺健康診断に関する記録
三 粉じん濃度の測定結果並びに測定方法及び測定条件を記載した書面(粉じんの発散の程度が低いことが明らかな場合を除く。)
4 所轄都道府県労働局長は、第二項の粉じん作業非該当認定申請書の提出を受けた場合において、第一項第一号ただし書の認定をし、又はしないことを決定したときは、遅滞なく、文書で、その旨を当該事業者に通知しなければならない。
5 第一項第一号ただし書の認定を受けた事業者は、第二項の粉じん作業非該当認定申請書若しくは第三項第一号の作業場の見取図に記載された事項を変更したとき、又は当該認定に係る作業に従事する労働者が、法第六十六条第一項若しくは第二項の健康診断等において、新たに、粉じんに係る疾病にかかつており、若しくは粉じんに係る疾病にかかつている疑いがあると診断されたときは、遅滞なく、その旨を所轄労働基準監督署長を経由して、所轄都道府県労働局長に報告しなければならない。
6 所轄都道府県労働局長は、第一項第一号ただし書の認定に係る作業が、当該作業場における粉じんの発散の程度及び作業の工程その他からみて、この省令に規定する措置を講ずる必要がないと認められなくなつたときは、遅滞なく、当該認定を取り消すものとする。

e-Gov 粉じん障害防止規則

では、この「特定粉じん発生源」という用語ですが、粉じん障害防止規則の2条1項2号によって定義されています(上記の部分を青色でハイライト)。「特定粉じん発生源」とは、別表第二に掲げられた「箇所」を指すとされています。「箇所」という表現が独特ですね。

そして、特定粉じん発生源の列挙されているじん障害防止規則別表2を見ると・・・・
「アーク溶接する作業」は特定粉じん発生源に入っていません。

粉じん障害防止規則
別表第二(第二条、第四条、第十条、第十一条関係)
一 別表第一第一号又は第一号の二に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、坑内の、鉱物等を動力により掘削する箇所
二 別表第一第三号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、鉱物等を動力(手持式動力工具によるものを除く。)により破砕し、粉砕し、又はふるい分ける箇所
三 別表第一第三号又は第三号の二に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、鉱物等をずり積機等車両系建設機械により積み込み、又は積み卸す箇所
四 別表第一第三号又は第三号の二に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、鉱物等をコンベヤー(ポータブルコンベヤーを除く。以下この号において同じ。)へ積み込み、又はコンベヤーから積み卸す箇所(前号に掲げる箇所を除く。)
五 別表第一第六号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、岩石又は鉱物を動力(手持式又は可搬式動力工具によるものを除く。)により裁断し、彫り、又は仕上げする箇所
六 別表第一第六号又は第七号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、研磨材の吹き付けにより、研磨し、又は岩石若しくは鉱物を彫る箇所
七 別表第一第七号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、研磨材を用いて動力(手持式又は可搬式動力工具によるものを除く。)により、岩石、鉱物若しくは金属を研磨し、若しくはばり取りし、又は金属を裁断する箇所
八 別表第一第八号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、鉱物等、炭素原料又はアルミニウムはくを動力(手持式動力工具によるものを除く。)により破砕し、粉砕し、又はふるい分ける箇所
九 別表第一第九号又は第十号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、セメント、フライアッシュ又は粉状の鉱石、炭素原料、炭素製品、アルミニウム若しくは酸化チタンを袋詰めする箇所
十 別表第一第十一号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、粉状の鉱石、炭素原料又はこれらを含む物を混合し、混入し、又は散布する箇所
十一 別表第一第十二号から第十四号までに掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、原料を混合する箇所
十二 別表第一第十三号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、耐火レンガ又はタイルを製造する工程において、屋内の、原料(湿潤なものを除く。)を動力により成形する箇所
十三 別表第一第十三号又は第十四号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、半製品又は製品を動力(手持式動力工具によるものを除く。)により仕上げする箇所
十四 別表第一第十五号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、型ばらし装置を用いて砂型を壊し、若しくは砂落としし、又は動力(手持式動力工具によるものを除く。)により砂を再生し、砂を混練し、若しくは鋳ばり等を削り取る箇所
十五 別表第一第二十一号に掲げる作業に係る粉じん発生源のうち、屋内の、手持式溶射機を用いないで金属を溶射する箇所
別表第三(第七条、第二十七条関係)
一 別表第一第一号に掲げる作業のうち、坑外において、衝撃式削岩機を用いて掘削する作業
一の二 別表第一第一号の二に掲げる作業のうち、動力を用いて掘削する場所における作業
二 別表第一第二号から第三号の二までに掲げる作業のうち、屋内又は坑内の、鉱物等を積載した車の荷台を覆し、又は傾けることにより鉱物等を積み卸す場所における作業(次号に掲げる作業を除く。)
二の二 別表第一第三号の二に掲げる作業のうち、動力を用いて鉱物等を積み込み、又は積み卸す場所における作業
三 別表第一第五号に掲げる作業
三の二 別表第一第五号の二に掲げる作業
三の三 別表第一第五号の三に掲げる作業
四 別表第一第六号に掲げる作業のうち、手持式又は可搬式動力工具を用いて岩石又は鉱物を裁断し、彫り、又は仕上げする作業
五 別表第一第六号又は第七号に掲げる作業のうち、屋外の、研磨材の吹き付けにより、研磨し、又は岩石若しくは鉱物を彫る場所における作業
六 別表第一第七号に掲げる作業のうち、屋内、坑内又はタンク、船舶、管、車両等の内部において、手持式又は可搬式動力工具(研磨材を用いたものに限る。次号において同じ。)を用いて、岩石、鉱物若しくは金属を研磨し、若しくはばり取りし、又は金属を裁断する作業
六の二 別表第一第七号に掲げる作業のうち、屋外において、手持式又は可搬式動力工具を用いて岩石又は鉱物を研磨し、又はばり取りする作業
七 別表第一第三号又は第八号に掲げる作業のうち、手持式動力工具を用いて、鉱物等を破砕し、又は粉砕する作業
七の二 別表第一第八号に掲げる作業のうち、屋内又は坑内において、手持式動力工具を用いて、炭素原料又はアルミニウムはくを破砕し、又は粉砕する作業
八 別表第一第九号に掲げる作業のうち、セメント、フライアッシュ又は粉状の鉱石、炭素原料若しくは炭素製品を乾燥するため乾燥設備の内部に立ち入る作業又は屋内において、これらの物を積み込み、若しくは積み卸す作業
九 別表第一第十三号に掲げる作業のうち、原料若しくは半製品を乾燥するため、乾燥設備の内部に立ち入る作業又は窯の内部に立ち入る作業
十 別表第一第十四号に掲げる作業のうち、半製品を炉詰めし、又は半製品若しくは製品を炉出しするため、炉の内部に立ち入る作業
十一 別表第一第十五号に掲げる作業のうち、砂型を造型し、型ばらし装置を用いないで、砂型を壊し、若しくは砂落としし、動力によらないで砂を再生し、又は手持式動力工具を用いて鋳ばり等を削り取る作業
十二 別表第一第十六号に掲げる作業
十二の二 別表第一第十七号に掲げる作業のうち、土石又は鉱物を開放炉に投げ入れる作業
十三 別表第一第十八号に掲げる作業のうち、炉、煙道、煙突等に付着し、若しくは堆積した鉱さい又は灰をかき落とし、かき集め、積み込み、積み卸し、又は容器に入れる作業
十四 別表第一第十九号から第二十号の二までに掲げる作業
十五 別表第一第二十一号に掲げる作業のうち、手持式溶射機を用いて金属を溶射する作業
十六 別表第一第二十二号に掲げる作業のうち、染土の付着した藺い草を庫くら入れし、又は庫くら出しする作業
十七 別表第一第二十三号に掲げる作業のうち、長大ずい道の内部において、ホッパー車からバラストを取り卸し、又はマルチプルタイタンパーにより道床を突き固める作業

e-Gov 粉じん障害防止規則

つまり、「アーク溶接する作業」は、粉じんの作業環境測定は必要ないということになります。

②金属アーク溶接等作業における環境測定

金属アーク溶接などを行う際には溶接ヒュームが発生し、その溶接ヒュームは特定物質に該当します。そのため、特定物質の作業環境測定が必要です。ただし、金属アーク溶接などの作業における「溶接ヒューム」については、労働安全衛生法の65条に基づく作業環境測定の対象ではありません。
溶接ヒュームの場合、「個別のばく露測定」が必要となりますが、これは労働安全衛生法の特化則38条の21第2項に基づく特殊な環境測定となります。このように、溶接ヒュームに対しては「個人ばく露測定」を行わなければならないのです。

特化則38条の21第2項
 事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。

e-Gov 特化則

この「厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定」のことを、「個人ばく露測定」といいます。

「個人ばく露測定」は、従来法の作業環境測定である、A測定及びB測定、または個人サンプリング法によるC測定、D測定とも違います。
すごく特殊な環境測定なのです。

③特化物「溶接ヒューム」は個人ばく露測定が必要である。

では、条文を見てみましょう。金属アーク溶接等作業に関する特化則の条文は38条の21になります。

(金属アーク溶接等作業に係る措置)
第三十八条の二十一 事業者は、金属をアーク溶接する作業、アークを用いて金属を溶断し、又はガウジングする作業その他の溶接ヒュームを製造し、又は取り扱う作業(以下この条において「金属アーク溶接等作業」という。)を行う屋内作業場については、当該金属アーク溶接等作業に係る溶接ヒュームを減少させるため、全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じなければならない。この場合において、事業者は、第五条の規定にかかわらず、金属アーク溶接等作業において発生するガス、蒸気若しくは粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けることを要しない。
2 事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
(以下略)

e-Gov 特定化学物質障害予防規則

この2項において、2つの場合、「新たな金属アーク溶接等の作業方法を採用しようとするとき」と「当該作業の方法を変更しようとするとき」に測定が必要とされます。この測定は、「当該金属アーク溶接等の作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定」であり、通常の労働安全衛生法65条に基づく作業環境測定とは異なります。

ここで言及されている「個人暴露測定」とは、どのようなものでしょうか。この個人暴露測定は、個人サンプリング法によるC測定やD測定とは異なります。C測定やD測定と異なるため、評価に際してC測定やD測定のような統計処理や管理区分の決定は必要ありません。

これに関連する通達は、以下になります。

「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」(令和2年厚生労働省告示第286号)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/000653559.pdf

「金属アーク溶接等作業について健康障害防止措置が義務付けられます」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/000654441.pdf

よく、C・D測定と「個人暴露測定」の違いがわからないという話を聞きますが、まず、C・D測定も「個人暴露測定」も、両者ともに個人サンプラーを用いて測定を行います。違いとしては、C・D測定では原則として複数のサンプルが必要であり、統計処理を行って管理区分を、第一管理区分、第二管理区分、第三管理区分として評価します。それに対して、「個人暴露測定」にはこのような管理区分は存在せず、単純に被測定者個人が暴露した濃度を示します。

引用:金属アーク溶接等作業について健康障害防止措置が義務付けられます

以下のように、個人ばく露測定においては、個人ばく暴露測定については、その測定結果から算定される8時間加重平均濃度(TWA8h)と有害性評価で算定された評価値とを比較し、リスク評価を行うこととなります。ただ、溶接ヒュームの試料採取の対象者は、均等ばく露作業という、ばく露される溶接ヒュームの量がほぼ均一であると見込まれる作業ごとに二人以上としましょう。もし、一人しかいない場合には、2日にわけて測定を行います。

(ⅰ) 個人ばく露測定 個人ばく暴露測定については、その測定結果から算定される8時間加重平均濃度(TWA8h)と有害性評価で算定された評価値とを比較し、リスク評価を行うこととなる。このため、ばく露実態調査の対象事業場において、ばく露が高いと思われる作業に従事している作業者を優先的に選定して測定を実施することとする。

労働者の有害物によるばく露評価ガイドライン 平成21年12月 化学物質のリスク評価検討会ばく露評価小検討会

この個人ばく露測定については、化学物質の自律的管理においても重要です。8時間時間加重平均値は、8時間濃度基準値を超えてはならず、15分間の時間加重平均値は、短時間濃度基準値を超えてはならないとされています。リスクアセスメントの手法として、実測値を用いる場合には、個人暴露測定を行い時間加重平均値を求め、濃度基準値と比較し、適切な対応を行っていくことになります。

八時間時間加重平均値:1日の労働時間のうち8時間のばく露における物の濃度を各測定の測定時間により加重平均して得られる値

十五分間時間加重平均値:1日の労働時間のうち物の濃度が最も高くなると思われる15分間のばく露における当該物の濃度を各測定の測定時間により加重平均して得られる値



特化則の溶接ヒュームの個人ばく露測定を行った場合の事後措置について

溶接ヒュームの濃度を個人ばく露測定で測定することはわかりましたが、では特化則上、どのように評価すればいいでしょうか。こちらについても、38条の21に対応が記載されています。では、確認していきましょう。
なお、特化則では屋内と屋外で扱いが違います。屋内外において金属アーク溶接等を行う場合についての対応は以下の記事にまとめています。

溶接ヒュームの濃度の測定の結果に応じた換気装置の風量の増加その他必要な措置について

まず、個人ばく露測定を行ったのち、「空気中の溶接ヒュームの濃度の測定の結果に応じて、換気装置の風量の増加その他必要な措置を講じなければならない。」(3項)とされ、「必要な措置」を講じた後に、「事業者は、前項に規定する措置を講じたときは、その効果を確認するため、第二項の作業場について、同項の規定により、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない」(4項)とされています。

(金属アーク溶接等作業に係る措置)
第三十八条の二十一 事業者は、金属をアーク溶接する作業、アークを用いて金属を溶断し、又はガウジングする作業その他の溶接ヒュームを製造し、又は取り扱う作業(以下この条において「金属アーク溶接等作業」という。)を行う屋内作業場については、当該金属アーク溶接等作業に係る溶接ヒュームを減少させるため、全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じなければならない。この場合において、事業者は、第五条の規定にかかわらず、金属アーク溶接等作業において発生するガス、蒸気若しくは粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けることを要しない。
(中略)
3 事業者は、前項の規定による空気中の溶接ヒュームの濃度の測定の結果に応じて、換気装置の風量の増加その他必要な措置を講じなければならない。
4 事業者は、前項に規定する措置を講じたときは、その効果を確認するため、第二項の作業場について、同項の規定により、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
(中略)
7 事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、厚生労働大臣の定めるところにより、当該作業場についての第二項及び第四項の規定による測定の結果に応じて、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。
8 事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、前項の測定の結果に応じて、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させなければならない。
(以下略)
12 労働者は、事業者から第五項又は第七項の呼吸用保護具の使用を命じられたときは、これを使用しなければならない。

e-Gov 特定化学物質障害予防規則

このように、個人暴露測定の結果を見て、適切な措置を講じ、さらにその効果を確認することが求められています。

労働者に有効な呼吸用保護具を使用させるために必要な要素

個人ばく露測定を実施すると、労働者が暴露する溶接ヒュームの濃度を推定することができます。これに基づき、「要求防護係数」を計算し、適切な呼吸用保護具を選択します。「フィットファクタ」、「要求フィットファクタ」、そして「要求防護係数」と「指定防護係数」は化学物質の自律的管理についても重要な知識ですので、理解しておきましょう。詳細は以下の記事で参照してください。

また、12項において、労働者は、事業者から第五項又は第七項の呼吸用保護具の使用を命じられたときは、これを使用しなければならないと定められています。

個人ばく露測定の記録の保存

溶接ヒュームの個人ばく露測定の記録の保存についても規定されています。この項目通りで記録を保管しましょう。

(金属アーク溶接等作業に係る措置)
第三十八条の二十一

(中略)
10 事業者は、第二項又は第四項の規定による測定を行つたときは、その都度、次の事項を記録し、これを当該測定に係る金属アーク溶接等作業の方法を用いなくなつた日から起算して三年を経過する日まで保存しなければならない。
一 測定日時
二 測定方法
三 測定箇所
四 測定条件
五 測定結果
六 測定を実施した者の氏名
七 測定結果に応じて改善措置を講じたときは、当該措置の概要
八 測定結果に応じた有効な呼吸用保護具を使用させたときは、当該呼吸用保護具の概要
(以下略)

e-Gov 特定化学物質障害予防規則

保護具や、個人ばく露測定の結果については、安全衛生委員会などで審議しておきましょう。

まとめ

金属アーク溶接作業においては、粉じんの作業環境測定は必要ありません。
しかし、特化物である「溶接ヒューム」が発生するため、「個人ばく露測定」を行う必要があります。
この「個人ばく露測定」は、作業環境測定(労働安全衛生法65条)とは全く異なるものです。したがって、個人サンプリング法(労働安全衛生法65条に基づく)とも異なる測定方法となります。また、結果については、A測定・B測定、C測定・D測定などの評価である管理区分の決定も行われません。

なお、溶接ヒュームの環境測定には、屋内と屋外では取り扱いが異なることに注意してください。


 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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