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化学物質の管理を解説

2023/11/01 2023/11/08

【初心者向け・安全衛生】GHSの概要について、初心者向けにわかりやすく解説

今回は、GHS(「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」)について、初心者向けにお話しいたします。
GHSでは、専門書を読まないと情報が多く理解しづらいですので、ここでは非常に簡単に説明いたします。

GHSは化学物質の有害性について記載しています。

化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)とは

皆様は、このような表示を製品に記載してあるのを見たことがありますでしょうか。きっとありますよね。家庭用の製品にも、よく記載されています。
これが、GHS「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」の対応ラベル、通称、「GHSラベル」と呼ばれるものです。

「世界調和システム」です、すごい名前ですね。これがどのようなものかは、以下のように説明されています。

GHS(Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)とは、化学品の危険有害性(ハザード)ごとに分類基準及びラベルや安全データシートの内容を調和させ、世界的に統一されたルールとして提供するものです。GHSは2003年7月に国際連合から勧告され、その後定期的な更新が行われています。日本を含め各国で、化学品の分類や表示についてGHSを導入して行っています。 

保健・化学物質対策 (環境庁ホームページより)

”Globally Harmonized System ”を直訳すると、「世界調和システム」ですよね。世界的に統一されたルールということになります。つまり、化学品について、危険性・有害性について国際的に推奨された分類・表示方法として、GHSが誕生したのです。

なお、いつも私は化学物質を「化学物質」と呼んでいるのですが、上記のように、GHSについては「化学品」という言葉が一般的なので、ここでは化学物質を「化学品」と呼びます。

前述のように、GHSは国際連合(国連)から勧告されていますが、これを国連GHSと呼びます。この国連GHSは2年に一度改定されますので注意しましょう。

国連の勧告は、日本に強制力がありませんので、日本が国連GHSに必ず従わなければならないわけではありません。そのため、日本では、国連GHSの内容をそのまま利用することもあれば、その一部を利用したり、国連GHSに対応する日本工業規格(JIS)を作成し利用しています。

国連GHS文書(パープルブックとよばれます)については、GHS関係省庁連絡会議が翻訳し、仮訳を公開しています。以下の経済産業省のサイトを参照してください。

GHS文書 改訂第9版(2021年)の仮訳 国連GHS文書 (経済産業省ホームページ)

いったんまとめますと、国連GHSは、世界的に統一されたルールに従って、化学部品の危険性・有害性の種類と程度を分類して、その情報がわかるよう、ラベルで表示したり、安全データーシート(SDS)で提供したりする世界統一のシステムになります。

注意が必要なのですが、日本において、この国連GHSと同様のハザード(後述します)の定義を用いているのは、「労働安全衛生法」、「毒物及び劇物取締法施行法」、「化学物質排出把握管理促進法」の3つになります。日本においては、国連GHSを基にして、日本工業規格(JIS規格)によるGHSに基づく化学物質等の分類方法が定めたり、事業者向けGHS分類ガイダンス及び政府向けGHS分類ガイダンスが関係省庁によって作られています。日本でGHSを扱う上でややこしいところは、このように、国連GHS、日本工業規格のGHSがあり、さらに多くのガイドラインが存在しするため、法令や、GHSを利用する場面でGHSの定義が変わってくることです。以下に、日本工業規格(JIS規格)を示します。「JIS Z7252:2019」が分類方法で、「JIS Z7253:2019」がSDS及びラベルですね。

JIS Z7252:2019 GHSに基づく化学物質等の分類方法(Classification of chemical based on “Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals (GHS)”)
GHSの分類方法を規定し、国連GHS文書改訂第6版に対応させて、2019年5月に制定されました。

JIS Z7253:2019 GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法-ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS)(Hazard communication of chemicals based on GHS-Labelling and Safety Data Sheet(SDS))
SDS及びラベル表示方法を規定し、国連GHS文書改訂第6版に対応させて、2019年5月に制定されました。

GHS分類に関するツール (経済産業省ホームページ)

日本においてGHSと呼ぶものには、国連GHSと、日本工業規格のGHSがあるということになります。
今回の記事では、「国連GHS」と「日本工業規格のGHS」を呼び分けていきますので注意してください。
単に「GHS」と呼ぶ場合は両者を含みます。

 国連GHSにおけるハザード

国連GHSにおいては、危険有害性をハザードと定義し、大きく分けて3つあります。なお、国連GHSは2年に一度の改正があるので、最新のものを参照してください。もし、このブログの改訂が追い付いていなければそっとしておいてください。

ハザードは以下の図にあるように、物理化学的危険性(17項目)、健康に対する有害性(10項目)、環境に対する有害性(2項目)に分類され、合計29分類あり、これをハザードクラスと言います。
29分類はさらに、その危険性有害性の重篤度の程度に応じて、ハザードカテゴリ(GHS区分、または単に区分と呼ばれる)として約90区分ほどに分類されます。

これらの呼称については、様々な呼び方がなされているのでまとめました。特に書籍で呼び名が違う場合が多いので、どのことを指しているのか注意しましょう。

用語のまとめ
  1. ハザード(別名:危険有害性)
    危険性、有害性 大きな枠組みとして、物理化学的危険性、健康に対する危険性、環境に対する有害性に分けられる。
  2. ハザードクラス(別名:危険有害性クラス、GHS分類)
    29分類の危険有害性の分類 例:爆発物、急性毒性、水生環境有害性
  3. ハザードカテゴリー(別名:GHS区分、単に「区分」とも呼びます。)
    29分類のハザードクラスをさらに有害性の重篤度の程度に応じて区分した者。例:区分1、区分2など

これらの危険有害性の情報伝達の手段として、ラベル、及びSDS(安全データシート)が利用されます。

引用: 「-GHS対応-化管法・安衛法・毒劇法におけるラベル表示・SDS提供情報」(令和5年10月 経済産業省・厚生労働省)


このピクトグラムは全部で9種類であり、ハザードカテゴリー(GHS区分)により、どのピクトグラムを表示するかが決まります。ハザードカテゴリー(GHS区分)は90区分くらいあるので、ピクトグラムがかぶるハザードカテゴリー(GHS区分)があることは知っておきましょう。

例として示しますが、「日本工業規格のGHS」である、JISZ7252:2019規格において、どの区分で、どのピクトグラムを利用するかについて、以下の図のようになっています。


引用: 「-GHS対応-化管法・安衛法・毒劇法におけるラベル表示・SDS提供情報」(令和5年10月 経済産業省・厚生労働省)

このように、ハザードカテゴリー(GHS区分)によりきまるピクトグラムが記載されます。これにより製品製造者が記載した文字が、労働者の母国語でない等の理由で読めなくても、その危険性をある程度分かるということになります。そして、図のように、このハザードカテゴリー(GHS区分)は様々で、区分1から5まであるものもあれば、タイプA、Bとよばれるものもあります。

このように、事業所にとって見たことがない化学品であっても、GHSを調べることで、当該化学品の危険有害性について、ある程度は知ることができるのです。

安全衛生の現場での利用はSDSをチェックしましょう。

今回は、初心者の方のために実際に、労働衛生の現場でどのようにGSHを活用するかの例を示します。GHS分類はSDSに記載する内容になります。
例えば、カドミウムのモデルSDSを検索してみましょう。そこにはピクトグラムが表示されていますね。


「H31.3.15政府向けGHSガイダンス」とのことで、GHSの分類が古いようですが、このSDSを見てみましょう。例えば、急性毒性の(経口)が区分4、(吸入:粉じん及びミスト)が区分1になっています。

なお、よく間違えられるのですが、GHSによる「急性毒性」は、「化学品の経口若しくは経皮からの単回ばく露、24時間以内の複数回ばく露、又は4時間の吸入ばく露によって動物を死に至らしめる等によってヒトに対しても致死性の影響があると考えられる又は知られている性質。 」(政府向けGHS分類ガイダンス (令和元年度改訂版(Ver. 2.0)))とされており、化学物質に暴露して、ちょっとめまいのする、ちょっと頭痛のする急性毒性という意味ではなく、致死作用を指すことは知っておきましょう。

以下に国連GHS文書の仮訳の「急性毒性のラベル要素」を引用いたしましたが、急性毒性の「吸入」、区分1は「吸入すると生命に危険」とされています。
さらに、区分4は「感嘆符」で、区分1は「どくろ」のシンボルになっています。よって、シンボルの「どくろ」が記載されています。

このように、このGHSのハザードクラスとハザードカテゴリー(GHS区分)を確認することにより、化学品にどのような危険有害性があり、その危険有害性がどの程度なのかがわかるということになります。

引用:GHS文書 改訂第9版(2021年)の仮訳 国連GHS文書 (経済産業省ホームページ)

このように、GHS区分により危険有害性があることがわかり、GHSカテゴリーによりリスクアセスメントを行ってゆくことになります。逆に言えば、GHS区分がなければ、どのような危険性があるかわからないので、リスクアセスメントが困難です。

では、もう一つ、ハザードカテゴリー(GHS区分)を見てみましょう。今回のカドミウムのGHS区分の記載を抜き出してみます。

カドミウム
急性毒性(経口) 区分4
急性毒性(吸入:粉じん及びミスト) 区分1
生殖細胞変異原性 区分2
発がん性 区分1A
生殖毒性 区分2
特定標的臓器毒性
(単回ばく露) 区分1(肺、呼吸器)
特定標的臓器毒性
(反復ばく露) 区分1(腎臓、肺、血液、骨、呼吸器)
環境に対する有害性 水生環境有害性(急性) 区分1
水生環境有害性(長期間) 区分1

ここで「発がん性 区分1A」を見てみましょう。以下に、「政府向けGHS分類ガイダンス」を引用いたしましたが、発がん性は区分1がさらに1Aと1Bに分類されています。ヒトに対する発がん性が知られている又は恐らく発がん性がある化学品ということになります。この区分で注意が必要なのは、1Aと1Bの違いは、発がん性の証拠がヒトよるか、動物によるかの違いになります。また、発がん性のみを問題にしているので、がんの種類については記載がありません。

これより、カドミウムについ打てはヒトに対する発がん性が知られている化学物質であることがわかります。

今回は国連GHSではなく、分類JISによる有害性区分の図表になります。しかし、同ガイダンスに「国連GHSにおける分類基準は分類JISと同一の区分を採用している」と記載があるので国連GHSと分類JISは同じものということがわかります。

引用:政府向けGHS分類ガイダンス (令和元年度改訂版(Ver. 2.0) 経済産業省ホームページより

以下は、上記政府向けGHS分類ガイダンスの発がん性の有害性区分の説明です。

 GHS区分の詳細な内容について

このように、GHSにより、化学物質の有害性は、あるていど把握できます。しかし、例えば、前述のカドミウムの発がん性については、ヒトに対する発がん性が知られていることはわかるのですが、どのような癌をきたすかまでは記載されていません。このように、具体的な症状やその他の詳細については書かれていませんので、詳細を知りたい場合は、論文などを調査する必要があります。

例えば、上記カドミウムの以下についてですが。GHS区分では「(反復ばく露)では、腎臓、肺、血液、骨、呼吸器が区分1で危険です。」と記載されていました。

上記の部分について、下記サイト、アメリカのCDCで調べてみました。
腎臓においては近位尿細管の再吸収障害をひき起こします。
カドミウムは、骨粗しょう症、骨軟化症が報告されています。
血液に関しては貧血のチェックが必要とされます。

参照:Center of Disease Control and Prevention

GHSについては、ざっくりとした毒性しかわからないので、詳細な健康障害を知るためには、様々な公的なサイトや、論文を検索する必要があります。リスクアセスメント対象物健康診断においては、ハザードカテゴリー(GHS区分)や論文などを利用して、化学品に対する健康診断を策定していくのですが、健康診断を行うには健診項目を決定するだけでなく、判定基準や判定フローも考慮する必要があります。正直なところ、これは大変な作業です。正直、毒性学をきちんと勉強していない医師には難しいのではと思います。

まとめ

今回は、GHS(「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」)について解説しました。

上記のように、国際連合(国連)から勧告されているものを国連GHSと呼びます。国連の勧告は強制力がありませんので、日本が国連GHSに必ず従わなければならないわけではありません。そのため、日本では、国連GHSの内容をそのまま利用することもあれば、その一部を利用したり、日本工業規格(JIS)に落とし込んだりして利用しています。国連GHSは、世界的に統一されたルールに従って、化学部品の危険性・有害性の種類と程度を分類して、その情報がわかるよう、ラベルで表示したり、安全データーシート(SDS)で提供したりする世界統一のシステムになります。

国連GHSにおいては、危険性・有害性について分類があり、この危険有害性をハザードと呼びます。分類は以下の図にあるように、物理化学的危険性(17項目)、健康に対する有害性(10項目)、環境に対する有害性(2項目)に分かれ合計29分類あります。これらの危険有害性の情報伝達の手段として、ラベル、及びSDS(安全データシート)が利用されます。

GHSは世界的に統一されたルールであり、GHSの区分には毒性のレベルや危険度が記載されていることが重要です。これにより、どの化学品がどのような危険有害性を有するのかがわかります。
ただし、GHS区分だけでは毒性の詳細は分かりませんので、物質に関しては論文などを調査して毒性を特定していきましょう。
これには、相当な毒性学(Toxicology)の知識が必要になります。

労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。

産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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