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化学物質の管理を解説

2023/08/13 2023/04/13

【安全衛生】化学物質の自律的管理におけるリスクアセスメントにおける一般消費者向けの製品の取り扱い

労働安全衛生規則等の改正により、化学物質の自律的な管理を行う義務が生じました。例えば、化学物質とはあまり関係のなさそうな事務作業を主な業務としている企業から、「うちの会社では、掃除の際に次亜塩素酸やその他の洗剤を使用していますが、リスクアセスメントは必要でしょうか?」との質問が寄せられることがあります。化学物質の製造や取扱いを行っていない場合でも、洗剤などを利用しているケースは多いかと思われます。こうした状況について考えてみましょう。

化学物質リスクアセスメントにおける一般消費者向けの製品の取り扱いに関する法令

リスクアセスメント対象物

化学物質の自律的管理において、「リスクアセスメント対象物」という定義が存在します。これは労働安全衛生法第57条の3によってリスクアセスメントの実施が義務付けられている危険・有害物質を指します。まず、リスクアセスメント対象物に該当するかを確認してみましょう。

具体的には、先ほどの例である次亜塩素酸を消毒に使用している企業について、次亜塩素酸の安全データシート(SDS)が存在するか、または職場の安全サイトで検索してみましょう。


検索した結果、以下のような表示が出ました。SDSがあり、リスクアセスメント対象物のようです。

次亜塩素酸ナトリウム (有効塩素濃度: 6~15%の水溶液) (Sodium Hypochlorite (Solution))
CAS番号:7681-52-9

このように、次亜塩素酸ナトリウム (有効塩素濃度: 6~15%の水溶液)はリスクアセスメント対象物になります。

リスクアセスメント対象物と労働安全衛生法57条の3

労働安全衛生法の第57条の3には、次のように記載されています。こちらは化学物質のリスクアセスメントに関する規定です。「危険性や有害性などの調査」というのが、リスクアセスメントの意味合いになります。

労働安全衛生法
(第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等)
第五十七条の三 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
3 厚生労働大臣は、第二十八条第一項及び第三項に定めるもののほか、前二項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
4 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。

e-Gov 労働安全衛生法

ここで、「(労働安全衛生法)第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物」に対して、危険性又は有害性等を調査(リスクアセスメント)を行わなければなりません。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでないとされており、一般消費者向けの製品については、リスクアセスメントを行わなくてもよいことになります。

また、労働安全衛生法57条の2については文書の交付について記載されています。こちらも、ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでないと記載されていることから、一般消費者向けの製品については、文書の交付義務もありません。

労働安全衛生法
(表示等)
第五十七条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第一項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあつては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。
一 次に掲げる事項
イ 名称
ロ 人体に及ぼす作用
ハ 貯蔵又は取扱い上の注意
ニ イからハまでに掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
二 当該物を取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚生労働大臣が定めるもの
2 前項の政令で定める物又は前条第一項の物を前項に規定する方法以外の方法により譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項各号の事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。


(文書の交付等)
第五十七条の二 労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は第五十六条第一項の物(以下この条及び次条第一項において「通知対象物」という。)を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により通知対象物に関する次の事項(前条第二項に規定する者にあつては、同項に規定する事項を除く。)を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければならない。ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない。
一 名称
二 成分及びその含有量
三 物理的及び化学的性質
四 人体に及ぼす作用
五 貯蔵又は取扱い上の注意
六 流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
七 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
2 通知対象物を譲渡し、又は提供する者は、前項の規定により通知した事項に変更を行う必要が生じたときは、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により、変更後の同項各号の事項を、速やかに、譲渡し、又は提供した相手方に通知するよう努めなければならない。
3 前二項に定めるもののほか、前二項の通知に関し必要な事項は、厚生労働省令で定める。

e-Gov 労働安全衛生法

※ この「第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物」は、今後、追加される予定です。

一般消費者の生活の用に供するためのものについて

繰り返しますが、労働安全衛生法の57条1項の但書き(青色ハイライト部分)には、「主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。」と記載されておりますので、一般消費者向けの製品はリスクアセスメント対象物の対象外となります。

つまり、例えば10%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液であっても、業務用途であればリスクアセスメントの対象となりますが、一般消費者向けの場合はリスクアセスメントの対象物ではないということになります。

では、一般消費者向けの製品かどうかを判定するためには、どのようにすればよいのでしょうか。明確に製品に「業務用」と表示されていれば業務用途ですが、それ以外の場合はどうでしょうか?

はい、そのような場合はメーカーに電話などで確認することをおすすめします。メーカーに直接問い合わせることで、製品の使用目的や対象者について正確な情報を得ることができる可能性が高いです。

リスクアセスメントの努力義務規定について

また、リスクアセスメントの対象物ではない化学物質であっても、危険性や有害性を有する可能性がある場合は、リスクアセスメントを行うことが努力義務となります。健康被害を引き起こし、労働災害や訴訟のリスクとなることを避けるためにもできる限り、リスクアセスメントを実施しましょう。

なお、以下が、化学物質リスクアセスメントの努力義務の部分の条文です。
第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く」(緑ハイライト)とありますが
第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物」にはリスクアセスメントが義務でしたよね。
つまり、義務が課されていない場面において、「努めなければならない」とありますので、努力義務でリスクアセスメントを実施しましょうということになります。

労働安全衛生法
(事業者の行うべき調査等)
第二十八条の二 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。
2 厚生労働大臣は、前条第一項及び第三項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。
e-Gov 労働安全衛生法

SDSの5年に1回の確認等の義務

なお、主として一般消費者の生活の用に供される製品については、SDS交付の義務対象から除外されているものであるため、SDSの5年に1回の確認等の義務はありません。

まとめ

事務作業を主な業務とする事業所において、洗剤などの化学物質を含む製品が使用される場合、一般消費者向けの製品はリスクアセスメントの対象物ではないため、リスクアセスメントの義務はありません。

ただし、業務用の製品を知らずに使用してしまう場合もあるため、注意が必要です。業務用の製品を使用する場合は、リスクアセスメントが必要となります。

一般消費者向けの製品でリスクアセスメントの義務がない場合であっても、危険性や有害性は存在する可能性があるため、できる限りリスクアセスメントを行うことが推奨されます。

労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。

産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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