事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【心理学】「患者とみなされた者」と円環的因果律(Circular causality)

現在のメンタルヘルス対策においては、早期発見、早期治療である二次予防が主流です。


私見ですが、ストレスチェック制度も、本当の意味で一次予防かと言われると違うと思います。

では、事業所におけるメンタルヘルスの一次予防を行うためには、どのような取り組みが必要かについて、私はシステムズアプローチが非常に有用だと考えています。

これは、会社をシステムとして捉え、システムにアプローチしてメンタルヘルスの不調を解消するのがシステムズアプローチです。システムズアプローチには重要な理論として家族療法があります。また、円環的因果関係(circular causality)についても話をします。

システムズアプローチと「患者とみなされた者」、円環的因果律(Circular causality)について

 家族療法と「患者とみなされた者」(IP:Identified Patient)

家族療法という言葉をご存じでしょうか。
日本臨床心理士会は以下のように定義しています。

家族療法は、ご本人とともに、そのような家族の方たちの相談にものりながら、家族ぐるみで、適切な対処法を工夫することによって、症状や問題行動の解決を図ろうという方法です。
引用:一般社団法人 日本臨床心理士会

この、家族療法では、「患者とみなされた者」(IP:Identified Patient)という人が登場します。

家族療法では、支援を必要とする人が現れる原因として、その個人ではなく、その人が所属する家族システムに問題があると考えます。その意味で、精神障害に罹ったり支援を必要とする人を「患者」というよりもむしろ「患者と見なされた人」として、IP(Identified Patient)として考えるのです。

(以下、「患者と見なされた人」をIPと表記します)

 実際のシステム、企業などにおいて

通常、メンタルヘルスの対策は、実際にメンタルヘルスの問題が発生している人だけでなく、将来のメンタルヘルスの問題を抱える可能性のある人々、いわゆるメンタルヘルス不調者の予備軍を早期に発見し、対応することによる二次予防が主なアプローチとなります。したがって、メンタルヘルスの対策は、メンタルヘルスの問題が実際に発生している人だけでなく、予備軍となる可能性のある人々に対しても行われるのが一般的です。

図:メンタルヘルスで不調を訴えたものは氷山一角で、いわゆるメンタルヘルス不調予備軍の方がたくさん控えている図

 

しかし、メンタルヘルスの予備軍が発生する原因は何でしょうか?
長時間労働も一因かもしれません。さらに、過度な業務要求や達成目標のプレッシャーも要因となっているかもしれません。ひょっとしたら、家族の問題が関係している可能性もあります。あるいは、所属する社会人サークルでのトラブルかもしれません。

このように、検討する要素はさまざまですが、それらは所属する組織に原因がある可能性があります。また、IPは会社だけでなく、家庭や他のシステムに所属しているかもしれません。それらの相互関係によってIPとなっている可能性があります。

このように考えると、メンタルヘルス不調者の発生は、不調者の属する組織の不調の一端が、氷山の一角として顕在化したに過ぎないのです。

このような組織では、顕在化しにくい、さまざまな不調が多数発生している可能性があります。

例えば、メンタルヘルスの問題が続発している事業所において、従業員は自社の離職率を正確に把握しているでしょうか?実際に数字で示すと、ここ何年かで離職率がじわじわと上昇している可能性もあります。離職率は事業者にとっては懸念材料ですが、新たな従業員を採用することで一時的に問題を回避し、実態を明確にするのが難しいかもしれません。従業員からの離職の理由も、あいまいなままで雰囲気が悪いといった程度の理由になっているかもしれません。

しかし、メンタルヘルスの問題を抱える人は、突然出社しなくなり休職することがあり、復職の可能性もあるため、新規採用において慎重な対応が必要な場合もあります。

本来、このような、組織の不調に対応することで、ここではIPと呼ばれる、メンタルヘルス不調者の発生を予防することができます。

この支援を要する人をIPと捉え、組織の不調の一端としてIPが発生している考え、組織の不調にアプローチするのがシステムズアプローチとなります。

図2:メンタルヘルスで不調者の発生は「組織の不調」の氷山の一角です。

 

 システムズアプローチと円環的因果律(Circular causality)

この組織の不調を考える上で、重要な概念があります。それは、円環的因果律(Circular causality)です。例えば、以下の図の例を考えてみましょう。
ある人がうつ病と診断され、休職が開始されました。

産業医のヒアリングによると、本人は上司との関係に悩み、それがうつ病の原因であると考えています。一方、課長は彼の自己管理が不十分であると述べています。

ここまでの情報収集では、本人と課長の人間関係が原因で一般的なメンタルヘルスの問題が発生しているという結論になることが殆どかと思います。職場復職支援や治療、そして仕事との両立支援などが通常の産業保健で提供される範囲だと思われます。

では、このうつ病になった方(赤い人物)をIPとして考えてみましょう。
よく聞き取りをしてみると。

①IPの家族の子供が不登校である。
②IPの配偶者は、子供のことで悩みIPに強く当たっている。
③IPはつい、学校へ行けと子供を叱ってしまうが、子供はますます不登校になってしまう。
④また、IPはローンの返済が新型コロナ流行により滞り、子供と配偶者に当たってしまう。

⑤課長はIPに強くあたっているが、その理由は、課長自身が部長からのノルマをこなすために必死であるることが分かった。
⑥しかし、部長は取引先と社長からノルマを課せられているので、また必死である。
⑦その他スタッフはうつ病になったIPの穴埋めをしなければならず大変であり、部長と言い争うことが増え、モチベーションが下がり生産性が低下している。
⑧社長は株主からの要求が大きく困っており、部長にノルマを課している。

という場合にどうすればいいでしょうか?
課長とIPの問題だけではないですよね。

特に、
①→②→③の流れにより、子供の不登校がさらに悪化してしまい
さらに①→②→③の流れが加速することになります。

このような状況
ある原因によって生じた結果が、次の結果の原因となり、循環している状態を円環的因果律と言います。

⑤の結果としてIPがうつ病になり仕事をできなくなったら、⑦がさらに悪化して、結局、部長の負担が増えますよね。こちらも円環的因果律になります。

 これらの問題への対応

本当に組織のメンタルヘルス不調を改善しようとする場合は、支援を要する者、クライエント、患者に断片的にかかわるだけではだめで
うつ病になった者をIPとしてとらえ、その集団・環境の分析を行い、円環的因果律を認識し対応することが必要です。

そもそも、この理論を知らなければ、円環的因果律を認識することすら難しいでしょう。

この情報収集はなかなか大変ですよね。
複数のカウンセラーが組織の構成員と個別にカウンセリングをおこなうことが役立つかもしれません。1人の産業医だけでは負担が大きいかと思います。また、産業医自身の思い込みや偏見も排除しなければなりませんし、それも課題ですね。

しかも、この事例では
子供の不登校、④のローン返済といった問題もありますが、こちらにはどうしましょうか?
本来、プライベートな部分であり、会社のスタッフが対応したり、産業医が対応すべき内容ではありませんよね。

しかし、これらを何とかしなければこの円環的因果律の循環を軽減できません。

ここで、不登校であればスクールカウンセラーの紹介
ローン返済の話であれば、FPや弁護士へのリファー
これらも視野に入ってきます。
多様な問題が想定されるので、産業医単体での対応は通常困難であり、多職種連携は不可欠です。

実務的には 、この円環的因果律は完全に力ずくで止めようとしなくても
各因果を軽減することでうまくまわって消えてゆくことも多いです。

しかし、中には悪意を持った人が、円環的因果律が起きそうなのを想定して介入し、円環的因果律を回そうとする場合もあります。なかなか難しい問題です。

まとめ

システムズアプローチでは、ある人が所属する組織をシステムと捉え介入していきます。
家族療法では、「患者とみなされた者」(IP:Identified Patient)という者が登場します。
家族療法では、支援を要する人が現れる原因として、その個人ではなく、その人が属する家族システムに問題があると考えます。そういう意味で、精神障害に罹った者、支援を要する者を「患者」ではなく「患者とみなされた者」、IPとして考えます。

また、円環的因果律(Circular causality)を理解し、存在を認識することが重要です。
組織(システム)に内在するさまざまな問題が顕在化した氷山の一角がIPであるとして、その組織の不調へのアプローチを考慮します。

実務的には 、この円環的因果律は完全に力ずくで止めようとしなくても
各因果を軽減することでうまくまわって消えてゆくことも多いです。

産業医で介入していくのは通常困難ですので
カウンセラーと連携して対応していかねばなりません。
もちろん、多様な問題が想定されるので、多職種連携は不可欠です。

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務を行っております。

メンタルヘルス不調に関する難しい案件にも対応いたします。社労士ですので、就業規則や社会保障も含めた労務管理を考慮した対応を行い、また、主治医との診療情報提供依頼書のやり取りを通じて、従業員の復職支援、両立支援を行うことを得意としています。

行政書士事務所として、休職発令の書面や、休職期間満了通知書、お知らせ等の書面の作成も行います。

メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務は、原則として、顧問医・産業医としての契約になります。
オンラインツールを用いて、日本全国の対応が可能ですのでメンタルヘルス不調でお困りの方はぜひお問い合わせください。

お問い合わせはこちらかお願いいたします。

この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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