2023/05/10 2023/05/10
【安全衛生・人事労務担当者向け】情報機器作業と肩こり・腰痛の現状と、注意すべき点について
事務系のお仕事をされている方のお悩みの一つとして、肩こり・腰痛があります。
今回は、肩こり腰痛などの現状とその対策についてお話しいたします。
情報機器作業と肩こり・腰痛とその対策について
情報機器作業と肩こり、腰痛の有訴者率
かつて、産業現場では、VDT(Visual Display Terminals)作業としてディスプレイ、キーボード等により構成される電子機器による健康障害を防止していました。
そして、このVDT作業に関するガイドラインが厚生労働省より発表されていました。
しかし、時代が変わり、作業区分を見直し、タブレットやスマートフォンに関する事項を盛り込んだガイドラインが出てきました。
それがこちらであり、以下情報機器作業ガイドラインとよびます。
情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて 基発0712第3号 令和元年7月12日
引用元:https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/content/contents/000707132.pdf
そして、これらの電子機器(情報機器)を扱って頻度の多い症状といえば、肩こり、腰痛ですよね。
こちらの統計を見てみましょう。
厚生労働省の国民生活基礎調査で、「健康」に関する項目を調査しています。
国民生活基礎調査は、毎年行われているのですが、大規模調査年と呼ばれる5年に1度の調査で「健康」に関する事項が調査されています。
今のところ、最新は2019年ですね。こちらが2019年の健康の有訴者率のグラフです。
国民生活基礎調査 厚生労働省 令和元(2019)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21kekka.html
これを見ると、肩こり、腰痛の主訴がある方が多いですよね。
腰痛は男性約9%、女性約12%
肩こりも男性約6%、女性約12%
男女比が同じならば、1割くらいの有訴者といったところでしょうか。
しかし、注意が必要なのは、この生活基礎調査については全年齢が対象だということです。
赤ちゃんから、おじいちゃん、おばあちゃん、情報機器を使用していない方まで含まれています。
ですので、30~50代の情報機器を使用される方の有訴者率はもっと高いと思われます。
以下、厚生労働省からの引用です。
腰痛と肩こりのメカニズム
肩こりと腰痛が起こりやすい原因として、筋肉の等尺性収縮があります。
筋肉は、長さを変えずに収縮する場合と、長さを変えて収縮する場合があります。
例えば、静止して立っている人が力を抜くと、倒れてしまいます。しかし、静止している間は動きがありません。
このように動きがない場合に、長さを変えずに筋肉が収縮しています。
それに対して、腕を曲げる場合は腕の筋肉の長さが変化してますよね。そして、動きが見えます。
このような、筋肉の収縮の違いを
等尺性収縮
等張性収縮
と呼びます。実際には厳密にどちらかだけというわけではなく、両者が混在する形になります。
この等尺性収縮が筋肉痛の原因の一つと言われています。
情報機器を利用していて、同じ姿勢でじっとしていると等尺性収縮より血流を阻害し、筋肉痛の原因の一つになります。
視力は重要
情報機器作業で視力が重要です。
しかし、一般的な健康診断において視力には二つの視力があります。
こちらになります。
近見視力・・・近く(30cmや50cm)を見る視力である。
遠見視力・・・遠く(5m)を見る視力である。
いわゆる視力といった場合、遠見視力となります。
遠見視力が良くて近見視力が低い場合もあり、いわゆる老眼の方でそのようなパターンになります。
通常の健康診断では、遠見視力しか測定しないことがほとんどですので、本当は近見視力に異常があったとしても視力検査は異常なしと報告されてしまいます。
近見視力が落ちているということは、眼の焦点が合う距離が伸びているということになります。
眼からディスプレイまでの距離が焦点の合う距離であればいいのですが、そうでない場合、焦点を合わせるために体が不自然な体勢になります。
この場合、不自然な体勢を保つために、筋肉の等尺性収縮が起きます。
このような場合は、近見視力の調整が必要です。
老眼鏡(遠用メガネ)を使い、ディスプレイの距離で焦点が合うようにします。
情報機器作業ガイドラインにおいて、近見視力の検査はディスプレイの視距離に相当する視力が適正なレベルとなるよう指導することが目的であり、近見視力は、片眼視力(裸眼又は矯正)で両眼ともおおむね0.5以上となることが望ましいとされています。
つまり、近見視力が0.4以下は遠用メガネを考慮しましょう。
その他の疾患の関与
情報機器作業では、拘束性が強いこと、多くの情報をすばやく適切に処理することをもとめられることなどから、精神的な負担となることがあります。
メンタル不調においても身体的症状を訴える場合があることから、メンタル不調も考慮に入れないといけません。
また、他の筋骨格系の病気、例えば、頚部椎間板変性症、腰椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群により肩こり、腰痛等が引き起こされることもあります。
情報機器で注意すべき点
実際の情報機器使用時に注意すべき点について図にして以下に述べます。
以下は、情報機器作業ガイドラインを主な参照元としております。
椅子については、今は4本脚の仕様は少ないと思いますが、4本脚の場合、後ろ方向への転倒リスクがあります。
椅子と机とディスプレイ
PC周辺の環境整備
PCと室内の環境について
情報機器作業に係る労働衛生教育について
情報機器作業に係る労働衛生教育の推進について指針がありますので、チェックしておきましょう。
情報機器作業に係る労働衛生教育の推進について (昭和61年3月31日付け基発第187号)
まとめ
オフィスワークの方で症状を訴えられる方の多い、肩こり、腰痛についてお話しいたしました。
肩こりと腰痛は国民健康基礎調査よりは、1割くらいですが、ずっとオフィスワークをしている方の有病率はもっと高いと思われます。
筋肉の収縮には、等尺性収縮と等張性収縮があり、等尺性収縮が肩こり腰痛の原因の一つと考えられています。
ストレッチはこのような等尺性収縮を解除するような方法を用いるのが良いでしょう。
視力に関しては、近見視力と遠見視力があり、情報機器作業で問題になるのは、近見視力です。
いわゆる老眼は近見視力が低下し、焦点が合う距離がどんどん伸びている状態です。
0.4以下の場合には近用メガネ等の利用を考慮しましょう。
その他、様々な疾患で肩こり、腰痛の症状が出ることがあります。
労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。