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化学物質の管理を解説

2023/04/15 2023/04/15

【安全衛生担当者・医師向け】雇入健診、定期健診、配転後健診と健康管理手帳の関係について

健康診断には、配転後健診というものがあることをお話しいたしました。

配転後健診については、在職中の期間に行われることが一般的ですが、退職後にも健診が必要な場合があります。今回はこの点について解説します。

 配転後健診と健康管理手帳

配転後健診という言葉は法令にはない

配転後健診という言葉は法令上ありませんが、一般的に使われていますので、このブログでは「配転後」という言葉をつかいます。なお、「労働衛生のしおり」(中央労働災害防止協会編)には「配転後」という言葉が記載されています。

 配転後健診の具体例

例として、特化則と、じん肺法で、配転後健診がどのように表記されているか、以下に示しました。

・特化則であれば、一部の特化物を取り扱う業務等に「常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているもの 」が受ける健診
・じん肺法であれば「常時粉じん作業に従事したことがあるが、現在は非粉じん作業に従事している」労働者で、じん肺管理区分、管理2又は3の方

まずは、配転後健診の具体例をお話ししましょう。

まず、ある人が入社します。ここではAさんとします。Aさんの業務はクロム酸(特定化学物質)を取り扱う業務です。特定化学物質の健康診断が必要ですね。

Aさんは入社後にクロム酸の特化物の雇入健診を行い。
その後、クロム酸の特化物の定期健康診断を行います。

そののち10年ほどたって、ある日社長から
「Aさん、あなたには管理業務を任せたいと思っています。事務作業がメインですので、クロム酸を取り扱うことはありません。」
と言われました。

Aさんは、以前はクロム酸を取り扱っていましたが、現在は取り扱っていません。しかし、クロム酸はGHS分類で発がん性区分1Aに分類されていますので、発がんのリスクがあります。

したがって、取り扱いを終了した後に、がんに罹患する可能性があるため、放置することは適切ではありません。このような場合には、配転後健診が必要です。
具体的な条文については、確認してみましょう。特化則39条2項になります。

特化則
(健康診断の実施)
第三十九条 事業者は、令第二十二条第一項第三号の業務(石綿等の取扱い若しくは試験研究のための製造又は石綿分析用試料等(石綿則第二条第四項に規定する石綿分析用試料等をいう。)の製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務及び別表第一第三十七号に掲げる物を製造し、又は取り扱う業務を除く。)に常時従事する労働者に対し、別表第三の上欄に掲げる業務の区分に応じ、雇入れ又は当該業務への配置替えの際及びその後同表の中欄に掲げる期間以内ごとに一回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
2 事業者は、令第二十二条第二項の業務(石綿等の製造又は取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務を除く。)に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し、別表第三の上欄に掲げる業務のうち労働者が常時従事した同項の業務の区分に応じ、同表の中欄に掲げる期間以内ごとに一回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
(以下、略)
 

なお、以下が「令第二十二条第二項の業務」になります。特化物の一部が該当します。

労働安全衛生法施行令 22条第2項

2 法第六十六条第二項後段の政令で定める有害な業務は、次の物を製造し、若しくは取り扱う業務(第十一号若しくは第二十二号に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第十一号若しくは第二十二号に係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務、第十二号若しくは第十六号に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第十二号若しくは第十六号に係るものを鉱石から製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務及び第九号の二、第十三号の二、第十四号の二、第十四号の三、第十五号の二から第十五号の四まで、第十六号の二若しくは第二十二号の二に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第九号の二、第十三号の二、第十四号の二、第十四号の三、第十五号の二から第十五号の四まで、第十六号の二若しくは第二十二号の二に係るものを製造し、又は取り扱う業務で厚生労働省令で定めるものを除く。)又は石綿等の製造若しくは取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務とする。
一 ベンジジン及びその塩
一の二 ビス(クロロメチル)エーテル
二 ベータ―ナフチルアミン及びその塩
三 ジクロルベンジジン及びその塩
四 アルフア―ナフチルアミン及びその塩
五 オルト―トリジン及びその塩
六 ジアニシジン及びその塩
七 ベリリウム及びその化合物
八 ベンゾトリクロリド
九 インジウム化合物
九の二 エチルベンゼン
九の三 エチレンイミン
十 塩化ビニル
十一 オーラミン
十一の二 オルト―トルイジン
十二 クロム酸及びその塩
十三 クロロメチルメチルエーテル
十三の二 コバルト及びその無機化合物
十四 コールタール
十四の二 酸化プロピレン
十四の三 三酸化二アンチモン
十五 三・三′―ジクロロ―四・四′―ジアミノジフェニルメタン
十五の二 一・二―ジクロロプロパン
十五の三 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)
十五の四 ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト(別名DDVP)
十五の五 一・一―ジメチルヒドラジン
十六 重クロム酸及びその塩
十六の二 ナフタレン
十七 ニツケル化合物(次号に掲げる物を除き、粉状の物に限る。)
十八 ニツケルカルボニル
十九 パラ―ジメチルアミノアゾベンゼン
十九の二 砒ひ素及びその化合物(アルシン及び砒ひ化ガリウムを除く。)
二十 ベータ―プロピオラクトン
二十一 ベンゼン
二十二 マゼンタ
二十二の二 リフラクトリーセラミックファイバー
二十三 第一号から第七号までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含有し、又は第八号に掲げる物をその重量の〇・五パーセントを超えて含有する製剤その他の物(合金にあつては、ベリリウムをその重量の三パーセントを超えて含有するものに限る。)
二十四 第九号から第二十二号の二までに掲げる物を含有する製剤その他の物で、厚生労働省令で定めるもの

e-Gov 労働安全衛生法施行令

 労働安全衛生法施行令22条2項の業務に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し配転後健診を行わなければなりません。

よって、Aさんは、管理業務に就いたあともクロム酸に関する配転後の特化物健診を受けました。

 配転後健診と退職と健康管理手帳

しかし、配転後健診は、「現に使用しているものに対して」行われるものですよね。つまり、使用しなくなった場合にはどうなるのでしょうか。具体的には、会社を退職した場合ですね。

確かに、65歳で定年退職した後も会社が寿命まで健康診断を行うことは厳しいですよね。費用もかかりますし、引っ越した労働者を追いかけるのも大変ですし、健診の予約にも問題が生じます。

しかし、この場合、退職後の健診が行われなくなると、時間が経ってからがんなどの病気になった場合に適切なフォローアップができないという問題が生じます。

そこで、健康管理手帳です。
健康管理手帳は労働安全衛生法67条に記載があります。

労働安全衛生法
(健康管理手帳)
第六十七条 都道府県労働局長は、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事していた者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する者に対し、離職の際に又は離職の後に、当該業務に係る健康管理手帳を交付するものとする。ただし、現に当該業務に係る健康管理手帳を所持している者については、この限りでない。
2 政府は、健康管理手帳を所持している者に対する健康診断に関し、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を行なう。
3 健康管理手帳の交付を受けた者は、当該健康管理手帳を他人に譲渡し、又は貸与してはならない。
4 健康管理手帳の様式その他健康管理手帳について必要な事項は、厚生労働省令で定める。

e-Gov 労働安全衛生法

ここで、厚生労働省令で定める要件に該当する者に対し、離職の際に又は離職の後に、当該業務に係る健康管理手帳を交付されます。

ここで「政府は、健康管理手帳を所持している者に対する健康診断に関し、厚生労働省令で定めるところにより、必要な措置を行なう」との記載がありますが、主な措置として、健康管理手帳の交付を受けると、指定された医療機関で決まった時期に無料で受けることができる等があります。

つまり、退職後の健康診断は、健康管理手帳でフォローされるということですね。

ここまでまとめるとこのような図になります。

健康管理手帳を申請する際には、従事歴証明書という書類を提出する必要があります。
従事歴証明書は、各化学物質によって異なる要件がありますが、業務内容や従事歴等を記載し、労働局に提出します。
つまり、健康管理手帳を所持していることは、ある化学物質に暴露された可能性があることを証明するものとなります。そのため、万が一の際には労災の手続きがスムーズに進むことになります。

なお、健康管理手帳は自動的に労働局から送付されるわけではなく、申請しなければ入手できませんので、注意が必要です。



 注意:特別管理物質であっても配転後健診・健康管理手帳の交付がないものがあります。

上記の例は全ての特化物に当てはまるわけではありません。
特定の有機溶剤であるクロロホルムや四塩化炭素などの場合、30年間の特別管理物質としての記録が必要ですが、配転後の健康管理手帳の交付や健康診断の対象ではありません。これらの物質はむしろがん原性物質の取り扱いに近いものです。
したがって、これらの物質については記録を適切に残しておくことが重要です。

また、配転後健診があるからと言って、必ずしも健康管理手帳が交付されるわけではありませんのでご注意ください。健康管理手帳の交付は一部の業務に限られていますので、それに該当するかどうか注意してください。

まとめ

がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務などの健康管理は例として、以下のようになります。

①その業務をしている間は、事業者により雇用時健診および定期健診を受けます。
②その業務をしなくなってから退職するまでの期間においては、事業者により配転後健診が実施されます。
③退職後、特定の条件を満たす場合には、健康管理手帳を受け取ることができ、それに基づき特定の医療機関で無料の健康診断を受けることができます。

それぞれの業務や、化学物質により、①②③の取り扱いが違ってくるので調べて対応しましょう。
産業医は、このような定期健診、配転後健診と健康管理手帳の対応までよく知っておきましょう。

 

労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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