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【人事労務系担当者・産業医向け】産業医がしっておくべき懲戒処分について解説

産業医が把握しておくべき労務管理上の制度の一つに懲戒処分があります。
産業医と懲戒処分の関連性について疑問を持たれるかもしれませんが、実際には関係があります。

例えば、従業員の長期にわたる欠勤が続いている場合を考えてみましょう。その欠勤の理由が明確ではない場合、当該従業員は体調不良ではないと主張し、産業医との面談や診断書提出を拒否しているかもしれません。しかし、その従業員が実際に体調不良を抱えている可能性もあります。
今回は、このような場面に関する問題になります。

産業医がしっておくべき懲戒処分について解説

 懲戒制度とは

企業には、一定の規範があります。みんなが好き勝手なことをしては企業は存立し、発展してゆくことができません。そこで、企業秩序を維持するために認められている企業内部の制裁手段を懲戒制度と言います。

 法令よりみた懲戒制度について

 懲戒は就業規則に記載することが必要です。

懲戒については、労働基準法に記載があります。まずは、就業規則に関する労働基準法89条です。
この、労働基準法89条に「制裁の定め」について記載されています。「制裁」が懲戒ということです。
まず、懲戒処分ですが、就業規則への記載がないとできません。
特にどのように決めておかないといけないということはありませんが、種類、程度等についても記載しておかないと実際の場面で生じることがあります。

(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

e-Gov 労働基準法

なお、就業規則は様々な様式がありますので、今回の記事は、厚生労働省のモデル就業規則が会社に整備されているという想定でお話しします。
モデル就業規則には、懲戒についての記載があります。
以下、抜粋ですが、このように懲戒についてはモデル就業規則も想定しています。

(懲戒の種類)
第67条 会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
けん責 始末書を提出させて将来を戒める。
減給 始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
出勤停止 始末書を提出させるほか、 日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
懲戒解雇 予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

(懲戒の事由)
第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
① 正当な理由なく無断欠勤が 〇日以上に及ぶとき。
② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
③ 過失により会社に損害を与えたとき。
④ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
⑤ 第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。
⑥ その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第53条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
① 重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
② 正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
③ 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、〇回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
④ 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
⑤ 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
⑦ 素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
⑧ 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
⑨ 第12条、第13条、第14条、第15条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
⑩ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
⑪ 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
⑫ 私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
⑬ 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
⑭ その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

モデル就業規則について(厚生労働省)

上記モデル就業規則の解説部分にも以下のように記載されています。

懲戒処分については、最高裁判決(国鉄札幌運転区事件 最高裁第3小法廷判決昭和54年10月30日)において、使用者は規則や指示・命令に違反する労働者に対しては、「規則の定めるところ」により懲戒処分をなし得ると述べられています。したがって、就業規則に定めのない事由による懲戒処分はできません。

懲戒処分の種類については、モデル就業規則にある処分の種類に限定されるものではありません。公序良俗に反しない範囲内で事業場ごと決めることも可能です。
上記モデル就業規則67条には、懲戒の種類として、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇があり、その具体的な内容も記載されています。

減給制裁の制限 

懲戒の一つとして、減給制裁の制限があります。
就業規則で、減給の制裁を定める場合において、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない(労基法第91条)こととされています。

労働者が、遅刻や早退をした場合、その時間については賃金債権が生じないため、その分の減給は労基法第91条の制限は受けません。しかし、遅刻や早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、労基法第91条に定める減給の制裁に関する規定の適用を受けます。
※「モデル就業規則」(厚生労働省より引用)

労働基準法(制裁規定の制限)
第九十一条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

e-Gov 労働基準法

 

産業医と懲戒制度の関わり

 従業員の欠勤時

繰り返しですが、今回の記事は、モデル就業規則と同じ懲戒規程がある会社を想定してお話をしていきます。
産業医業務を行っていて、最も懲戒の話が出る頻度が高いのが、冒頭の欠勤が続いた従業員の話ではないでしょうか。

例えば、しばらく欠勤が続いている従業員がいます。しかし、その理由が明らかではありません。当該従業員は体調不良でないので産業医面談、診断書提出を拒否しています。どうも体調不良のようです。なお有給休暇は現時点でありません。

この場合、会社は体調不良による欠勤ではないかと考えています。体調不良による欠勤では多くの会社で就業規則に規定があり、一定の期間休職できることが多いです。その休職手続き沿って休職することにより懲戒の対象にはならず、お金に関しては傷病手当金などでの対応も可能かと思われます。しかし、現時点では、単なる無断欠勤であり、無断欠勤が続けば、企業秩序を維持することが難しくなりかい会社も困ります。なお、モデル就業規則では、休職の規定は以下のようになっています。

(休職)
第9条 労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
業務外の傷病による欠勤が 〇か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき〇年以内
② 前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき 必要な期間
2 休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3 第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

厚生労働省 モデル就業規則

しかし、本当に体調不良かどうかもわかりません。実は会社に行きたくないという理由だけで会社に行かないのかもしれません。
この点、会社による従業員への受診命令・診断書提出命令は就業規則への記載がなければできません。

そこで、先ほどのモデル就業規則です。

第68条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
① 正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及ぶとき。
② 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
(以下略)

このように、無断欠勤が〇日以上続く場合には懲戒の対象となることが記載されています。
しかし、懲戒処分を実際に行うためには、いきなり懲戒処分というのはできず、文書で何度か業務改善指導命令を行います。

そういった事情もあるので、会社から、このまま無断欠勤が続けば懲戒事由に当たり、懲戒処分となりうる旨のお話をすることで、適切な対応を取るべく協力してもらうことができるかもしれません。

 懲戒権濫用法理について

労働契約法第15条において「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められており、懲戒事由に合理性がない場合、当該事由に基づいた懲戒処分は懲戒権の濫用と判断される場合があります。
この、懲戒権の濫用が認められると、民事にはなりますが、懲戒処分は無効と判断されます。

(懲戒)
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

e-Gov 労働契約法

 

客観的に合理的な理由について

懲戒処分には様々な種類が有りますが、該当する懲戒処分を受けるのにふさわしい理由があるかということになります。
繰り返しますが、まずは就業規則に懲戒事由が記載されていることが必要です。
その上で、その制裁の程度が懲戒処分の重さに適合することが必要です。

前述しましたが、懲戒権の濫用が認められると、懲戒処分は無効と判断されます。
したがって、例えば、無断欠勤がしばらく続いている場合への制裁としては、「けん責 始末書を提出させて将来を戒める」といった内容であれば無効と判断される可能性は懲戒解雇が無効と判断される可能性より低くなります。

社会通念上相当について

懲戒処分に至った事情を勘案して、行き過ぎたものでないかが問題になります。
特に、産業医が知っておくべきなのは、過去の事例とのバランスです。
つまり、同じ懲戒の事由に同じ条件で該当したら、同じペナルティになるべきであるということです。
例えば、先ほどの無断欠勤の場合において、前回20日間無断欠勤して「けん責」になった者がいた場合に、今回、同じ状況の20日間の無断欠勤で「出勤停止」となる場合は、社会通念上相当とは言えず、無効となる可能性があるかもしれません。
過去に、クライエント先でどのような行為がどのような懲戒処分に該当したのかはヒアリングしましょう。

職場外の行為についての懲戒

職場外の行為について職務の遂行に関係のない職場外の行為であっても、会社の円滑な運営に支障をきたすおそれがある場合や社会的評価に重大な悪影響を与えるような場合には、その行為を理由に懲戒処分を行うことが認められます。

 本人の体調不良と懲戒について

産業医を行っていると、欠勤が続いている方がいるので面談してほしいとクライエント企業から依頼をうけることは日常、頻繁に起きます。例に挙げたように、欠勤が続いている労働者本人が体調不良が原因でないと言っている場合には、病気休職ではなく、無断欠勤になる場合があります。

もし、無断欠勤が継続した場合、懲戒事由に該当し、懲戒の対象になることがあります。
労働者本人が、実は体調不良で欠勤しているが、なぜか体調不良が原因だと述べない場合には、このような懲戒を受ける可能性があるという不利益を説明すべきでしょう。

また、主治医等に受診者(従業員)の健康状態につき問い合わせる診療情報提供依頼書の重要な一つの効果としては、主治医(かかりつけ医や受診勧奨して受診した病院を含む)に情報提供依頼をかけ、書面にて健康上の問題があるかどうかを確定することです。

もし、主治医が体調不良なく、問題なく勤務できるといった場合に欠勤が続いていれば、懲戒の対象になる無断欠勤となるかもしれません。しかし、主治医が体調不良で働けないと言えば、病気休職へと移行し、休職期間のカウントが始まります。


これは、本人がなぜ休んでいるのかわからない状態を作り出さないようにするという点でも重要です。

また、モデル就業規則には、「正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき」が懲戒事由に該当するということが記載されていますが、こちらも体調不良であれば休職関連のお話しへ、体調不良がなければ懲戒のお話しになります。

これはあくまでわかりやすい一例ですが、このような場面が生じることをわからなければ、安易に診療情報提供依頼書は発行しないほうが良いでしょう。

 まとめ

懲戒についてまとめました。
懲戒処分はまず、就業規則に具体的に記載されていなければできません。
また、懲戒権の濫用という話もありますので注意しましょう。

私の経験上、産業医業務を行う上で、高い頻度で問題となるのは従業員の無断欠勤です。
本人の体調が悪く、その結果として無断欠勤となっているかもしれません。その場合には、きちんと休職等の手続きを行わないと、労働者にとって不利になります。
無断欠勤を行っている労働者に懲戒処分となるかもしれないという不利益について説明を行うことも必要でしょう。

また、人事労務系担当者としては、懲戒処分に該当する可能性がある行為を放置するのも問題があるため、対応が必要です。
この対応のため、例として無断欠勤であれば、人事労務系担当者が書面により本人に理由を明らかにするように通告を行うことがよくあります。
なお、産業医が行政書士を兼ねていれば、行政書士業務としてこの通告書を作成することが可能です。


体調不良や診断書が絡む場合には、主治医の意見が重要なポイントになることがあります。
その場合、産業医としては、労働者の体調不良等に対して労働者の健康を確保するため(労働安全衛生法13条5項)主治医に診療情報提供依頼をかけましょう。


しかし、その内容によって、労働者本人の状況が確定してしまうので、どのような結果が生じるのかは、労働法を勉強して想定できるようになっておかねばなりません。

 

 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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