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【産業医・人事労務担当者向け】労働安全衛生法における事業者、労働基準法の使用者の違いと注意すべき点について

今回は、労働基準法と労働安全衛生法における使用者(事業者)の違いについて解説します。
雇用契約を会社と労働者が締結する場合において、この会社の主体について法令で範囲、呼び方が違い、法令上の義務を果たす者の違いにもかかわります。
さらに、労働基準法と労働安全衛生法における労働者についても説明します。
これらは非常に重要な概念ですので、注意が必要です。

労働基準法の「使用者」と労働安全衛生法の「事業者」について

労働基準法の使用者

労働基準法と、労働安全衛生法はどちらの産業保健において重要な法律です。
そして、労働基準法では、会社側を「使用者」(労働基準法10条)と呼び、労働安全衛生法においては会社側を「事業者」(労働安全衛生法2条)と呼びます。

労働基準法 
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

e-Gov 労働基準法

使用者には、以下の通達によって定められた規定があります。つまり、役職に関わらず、実質的に一定の権限を持って労働者を指揮監督しているかどうかによって、使用者とみなされます。
重要なポイントとしては、法人や役員だけでなく、実質的に労働者を使用する者が含まれることです。つまり、人事部長が使用者となる場合があります。
例えば、人事部長が労働基準法に違反する指示をした場合、人事部長自身が罰せられる可能性があります。

  • 事業主
    →法人または個人事業主
  • 事業の経営担当者
    →代表取締役、役員等
  • その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者
    →実質的に人事労務管理を行う者

 

法第一〇条関係

(一) 「使用者」とは本法各条の義務についての履行の責任者をいひ、その認定は部長、課長等の形式にとらわれることなく各事業において、本法各条の義務について実質的に一定の権限を与へられてゐるか否かによるが、かゝる権限が与へられて居らず、単に上司の命令の伝達者にすぎぬ場合は使用者とはみなされないこと。
(二) 右の権限の所在については各事業毎に予め明かにする様指導すること。
引用 労働基準法の施行に関する件 昭和二二年九月一三日 発基第一七号


労働安全衛生法の事業主について

では、労働安全衛生法を見ましょう。
労働安全衛生法によると、以下のように、「事業主」と記載されています。労働安全衛生法において「使用者」は12条に少し出てくるくらいです。
労働安全衛生法においては、義務がある主体は事業主になります。

労働安全衛生法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 労働災害 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
二 労働者 労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。
三 事業者 事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。
三の二 化学物質 元素及び化合物をいう。
四 作業環境測定 作業環境の実態をは握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)をいう。

e-Gov 労働安全衛生法

労働安全衛生法には、次のような通達があります。事業者とは、法人または個人事業主であり、労働基準法上の「使用者」とは異なる義務主体となります。

五 事業者の意味づけ

この法律における主たる義務者である「事業者」とは、法人企業であれば当該法人(法人の代表者ではない。)、個人企業であれば事業経営主を指している。これは、従来の労働基準法上の義務主体であつた「使用者」と異なり事業経営の利益の帰属主体そのものを義務主体としてとらえ、その安全衛生上の責任を明確にしたものである。なお、法違反があつた場合の罰則の適用は、法第一二二条に基づいて、当該違反の実行行為者たる自然人に対しなされるほか、事業者たる法人または人に対しても各本条の罰金刑が課せられることとなることは、従来と異なるところはない。

引用 労働安全衛生法の施行について (昭和四七年九月一八日 発基第九一号)

労働者災害補償保険法(労災保険法)における事業主

なお、労働者災害補償保険法(労災保険法)においては事業主ということばで記載されています。

労働者災害補償保険法 第一条 
労働者災害補償保険は、業務上の事由、事業主が同一人でない二以上の事業に使用される労働者(以下「複数事業労働者」という。)の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由、複数事業労働者の二以上の事業の業務を要因とする事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
e-Gov 労働者災害補償保険法

労働基準法と労働安全衛生法における労働者

では、労働基準法と労働安全衛生法における労働者の定義を見てみましょう。
まず、労働基準法における労働者の定義は9条に記載があります。
使用され、賃金を支払われるものです。
労働安全衛生法においては、2条1項2号に記載があります。
労働安全衛生法では、「同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く」と記載されていますが、労働基準法においても116条で「同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない」と適用除外とされていますので内容は同じになります。
労働基準法と労働安全衛生法において、労働者の定義は同じということです。

労働基準法(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
(適用除外)
第百十六条 第一条から第十一条まで、次項、第百十七条から第百十九条まで及び第百二十一条の規定を除き、この法律は、船員法(昭和二十二年法律第百号)第一条第一項に規定する船員については、適用しない。
② この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
e-Gov 労働基準法

労働安全衛生法(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 労働災害 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
二 労働者 労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。
三 事業者 事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。
三の二 化学物質 元素及び化合物をいう。
四 作業環境測定 作業環境の実態をは握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)をいう。

e-Gov 労働安全衛生法

 

 まとめ

労働基準法と労働安全衛生法について、会社側の責任を誰が負うのかまとめました。
労働基準法では、実質的に一定の権限を持って労働者を指揮監督する現実の行為者が「使用者」として責任主体となります。
一方、労働安全衛生法では、「事業者」が事業経営の利益を享受する主体自体が義務主体となり、その安全衛生上の責任を明確にしています。

このように、使用者と事業者の範囲の違いにより、労働基準法と労働安全衛生法での義務の課せられ方が異なります。したがって、罰則の適用範囲も異なるため、注意が必要です。

一方、労働者に関しては、労働基準法と労働安全衛生法の両方で同様の法的規定が適用されます。
この定義は重要なので理解して、覚えておきましょう。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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