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化学物質の管理を解説

2023/07/23 2023/07/23

【化学物質】ばく露の程度が低い場合における健康診断の実施頻度の緩和について解説

化学物質の自律的な管理において、有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く)、鉛、四アルキル鉛に関する特殊健康診断の実施頻度について、作業環境管理やばく露防止対策等が適切に実施されている場合には、事業者は、その実施頻度(通常は6月以内ごとに1回)を1年以内ごとに1回に緩和できることになりました。
今回は、この規定について現在わかっている範囲でお話ししたいと思います。

ばく露の程度が低い場合における健康診断の実施頻度の緩和

作業環境管理やばく露防止措置等が適切に実施されている場合における特殊健康診断の実施頻度の緩和についての条文を上げます。有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く)、鉛、四アルキル鉛の、それぞれの規則の健康診断の条文に実施頻度の緩和に関する規定が追加されました。つまり、根拠条文が複数に散らばっていると言えます。
それぞれの規則の該当部分を引用しました。特化則第39条第4項有機則第29条第6項鉛則第53条第4項及び四アルキル則第22条第4項になります。では、条文を見てみましょう。ハイライト色と、条文の該当部分の色は同じ色にしています。

特定化学物質障害予防規則(健康診断の実施)

第三十九条 事業者は、令第二十二条第一項第三号の業務(石綿等の取扱い若しくは試験研究のための製造又は石綿分析用試料等(石綿則第二条第四項に規定する石綿分析用試料等をいう。)の製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務及び別表第一第三十七号に掲げる物を製造し、又は取り扱う業務を除く。)に常時従事する労働者に対し、別表第三の上欄に掲げる業務の区分に応じ、雇入れ又は当該業務への配置替えの際及びその後同表の中欄に掲げる期間以内ごとに一回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
2 事業者は、令第二十二条第二項の業務(石綿等の製造又は取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務を除く。)に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し、別表第三の上欄に掲げる業務のうち労働者が常時従事した同項の業務の区分に応じ、同表の中欄に掲げる期間以内ごとに一回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
3 事業者は、前二項の健康診断(シアン化カリウム(これをその重量の五パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)、シアン化水素(これをその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)及びシアン化ナトリウム(これをその重量の五パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に対し行われた第一項の健康診断を除く。)の結果、他覚症状が認められる者、自覚症状を訴える者その他異常の疑いがある者で、医師が必要と認めるものについては、別表第四の上欄に掲げる業務の区分に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
4 第一項の業務(令第十六条第一項各号に掲げる物(同項第四号に掲げる物及び同項第九号に掲げる物で同項第四号に係るものを除く。)及び特別管理物質に係るものを除く。)が行われる場所について第三十六条の二第一項の規定による評価が行われ、かつ、次の各号のいずれにも該当するときは、当該業務に係る直近の連続した三回の第一項の健康診断(当該健康診断の結果に基づき、前項の健康診断を実施した場合については、同項の健康診断)の結果、新たに当該業務に係る特定化学物質による異常所見があると認められなかつた労働者については、当該業務に係る第一項の健康診断に係る別表第三の規定の適用については、同表中欄中「六月」とあるのは、「一年」とする。
一 当該業務を行う場所について、第三十六条の二第一項の規定による評価の結果、直近の評価を含めて連続して三回、第一管理区分に区分された(第二条の三第一項の規定により、当該場所について第三十六条の二第一項の規定が適用されない場合は、過去一年六月の間、当該場所の作業環境が同項の第一管理区分に相当する水準にある)こと。
二 当該業務について、直近の第一項の規定に基づく健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと。
5 令第二十二条第二項第二十四号の厚生労働省令で定める物は、別表第五に掲げる物とする。
6 令第二十二条第一項第三号の厚生労働省令で定めるものは、次に掲げる業務とする。
一 第二条の二各号に掲げる業務
二 第三十八条の八において準用する有機則第三条第一項の場合における同項の業務(別表第一第三十七号に掲げる物に係るものに限る。次項第三号において同じ。)
7 令第二十二条第二項の厚生労働省令で定めるものは、次に掲げる業務とする。
一 第二条の二各号に掲げる業務
二 第二条の二第一号イに掲げる業務(ジクロロメタン(これをその重量の一パーセントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務のうち、屋内作業場等において行う洗浄又は払拭の業務を除く。)
三 第三十八条の八において準用する有機則第三条第一項の場合における同項の業務

e-Gov 特定化学物質障害予防規則


有機溶剤中毒予防規則(健康診断)
第二十九条 令第二十二条第一項第六号の厚生労働省令で定める業務は、屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)における有機溶剤業務のうち、第三条第一項の場合における同項の業務以外の業務とする。
2 事業者は、前項の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 業務の経歴の調査
二 作業条件の簡易な調査
三 有機溶剤による健康障害の既往歴並びに自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査、別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)についての既往の検査結果の調査並びに別表の下欄(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査を除く。)及び第五項第二号から第五号までに掲げる項目についての既往の異常所見の有無の調査
四 有機溶剤による自覚症状又は他覚症状と通常認められる症状の有無の検査
3 事業者は、前項に規定するもののほか、第一項の業務で別表の上欄に掲げる有機溶剤等に係るものに常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、別表の上欄に掲げる有機溶剤等の区分に応じ、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
4 前項の健康診断(定期のものに限る。)は、前回の健康診断において別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)について健康診断を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該項目を省略することができる。
5 事業者は、第二項の労働者で医師が必要と認めるものについては、第二項及び第三項の規定により健康診断を行わなければならない項目のほか、次の項目の全部又は一部について医師による健康診断を行わなければならない。
一 作業条件の調査
二 貧血検査
三 肝機能検査
四 腎じん機能検査
五 神経学的検査
6 第一項の業務が行われる場所について第二十八条の二第一項の規定による評価が行われ、かつ、次の各号のいずれにも該当するときは、当該業務に係る直近の連続した三回の第二項の健康診断(当該労働者について行われた当該連続した三回の健康診断に係る雇入れ、配置換え及び六月以内ごとの期間に関して第三項の健康診断が行われた場合においては、当該連続した三回の健康診断に係る雇入れ、配置換え及び六月以内ごとの期間に係る同項の健康診断を含む。)の結果(前項の規定により行われる項目に係るものを含む。)、新たに当該業務に係る有機溶剤による異常所見があると認められなかつた労働者については、第二項及び第三項の健康診断(定期のものに限る。)は、これらの規定にかかわらず、一年以内ごとに一回、定期に、行えば足りるものとする。ただし、同項の健康診断を受けた者であつて、連続した三回の同項の健康診断を受けていない者については、この限りでない。
一 当該業務を行う場所について、第二十八条の二第一項の規定による評価の結果、直近の評価を含めて連続して三回、第一管理区分に区分された(第四条の二第一項の規定により、当該場所について第二十八条の二第一項の規定が適用されない場合は、過去一年六月の間、当該場所の作業環境が同項の第一管理区分に相当する水準にある)こと。
二 当該業務について、直近の第二項の規定に基づく健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと。

e-Gov 有機溶剤中毒予防規則

 

鉛中毒予防規則(健康診断)
第五十三条 事業者は、令第二十二条第一項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月(令別表第四第十七号及び第一条第五号リからルまでに掲げる鉛業務又はこれらの業務を行う作業場所における清掃の業務に従事する労働者に対しては、一年)以内ごとに一回、定期に、次の項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
一 業務の経歴の調査
二 作業条件の簡易な調査
三 鉛による自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査並びに第五号及び第六号に掲げる項目についての既往の検査結果の調査
四 鉛による自覚症状又は他覚症状と通常認められる症状の有無の検査
五 血液中の鉛の量の検査
六 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査
2 前項の健康診断(定期のものに限る。)は、前回の健康診断において同項第五号及び第六号に掲げる項目について健康診断を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該項目を省略することができる。
3 事業者は、令第二十二条第一項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者で医師が必要と認めるものについては、第一項の規定により健康診断を行わなければならない項目のほか、次の項目の全部又は一部について医師による健康診断を行わなければならない。
一 作業条件の調査
二 貧血検査
三 赤血球中のプロトポルフィリンの量の検査
四 神経学的検査
4 第一項の業務(令別表第四第十七号及び第一条第五号リからルまでに掲げる鉛業務並びにこれらの業務を行う作業場所における清掃の業務を除く。)が行われる場所について第五十二条の二第一項の規定による評価が行われ、かつ、次の各号のいずれにも該当するときは、当該業務に係る直近の連続した三回の第一項の健康診断の結果(前項の規定により行われる項目に係るものを含む。)、新たに当該業務に係る鉛による異常所見があると認められなかつた労働者については、第一項の健康診断(定期のものに限る。)は、同項の規定にかかわらず、一年以内ごとに一回、定期に、行えば足りるものとする。
一 当該業務を行う場所について、第五十二条の二第一項の規定による評価の結果、直近の評価を含めて連続して三回、第一管理区分に区分された(第三条の二第一項の規定により、当該場所について第五十二条の二第一項の規定が適用されない場合は、過去一年六月の間、当該場所の作業環境が同項の第一管理区分に相当する水準にある)こと。
二 当該業務について、直近の第一項の規定に基づく健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと。

e-Gov 鉛中毒予防規則

四アルキル鉛中毒予防規則(健康診断)
第二十二条 事業者は、令第二十二条第一項第五号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 業務の経歴の調査
二 作業条件の簡易な調査
三 四アルキル鉛による自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査並びに第五号及び第六号に掲げる項目についての既往の検査結果の調査
四 いらいら、不眠、悪夢、食欲不振、顔面蒼そう白、倦けん怠感、盗汗、頭痛、振顫せん、四肢しの腱けん反射亢こう進、悪心、嘔おう吐、腹痛、不安、興奮、記憶障害その他の神経症状又は精神症状の自覚症状又は他覚症状の有無の検査
五 血液中の鉛の量の検査
六 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査
2 前項の健康診断(定期のものに限る。)は、前回の健康診断において同項第五号及び第六号に掲げる項目について健康診断を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該項目を省略することができる。
3 事業者は、令第二十二条第一項第五号に掲げる業務に常時従事する労働者で医師が必要と認めるものについては、第一項の規定により健康診断を行わなければならない項目のほか、次の項目の全部又は一部について医師による健康診断を行わなければならない。
一 作業条件の調査
二 貧血検査
三 赤血球中のプロトポルフィリンの量の検査
四 神経学的検査
4 第一項の業務について、直近の同項の規定に基づく健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないときは、当該業務に係る直近の連続した三回の同項の健康診断の結果(前項の規定により行われる項目に係るものを含む。)、新たに当該業務に係る四アルキル鉛による異常所見があると認められなかつた労働者については、第一項の健康診断(定期のものに限る。)は、同項の規定にかかわらず、一年以内ごとに一回、定期に、行えば足りるものとする。

e-Gov 四アルキル鉛中毒予防規則

これらを見ますと、本規定による特殊健康診断の実施について、以下の①から③までの要件のいずれも満たす場合(四アルキル鉛のみ、②及び③)には、当該特殊健康診断の対象業務に従事する労働者に対する特殊健康診断の実施頻度を6月以内ごとに1回から、1年以内ごとに1回に緩和することができます。
ただし、危険有害性が特に高い製造禁止物質及び特別管理物質に係る特殊健康診断の実施については、特化則第39条第4項に規定される実施頻度の緩和の対象とはならないこととされています。

健康診断の実施頻度の緩和の要件

① 当該労働者が業務を行う場所における直近3回の作業環境測定の評価結果が第1管理区分に区分されたこと。
② 直近3回の健康診断の結果、当該労働者に新たな異常所見がないこと。
③ 直近の健康診断実施後に、軽微なものを除き作業方法の変更がないこと。

注1.四アルキル鉛の健康診断については、②及び③の要件を満たす場合でよい。
注2.製造禁止物質と特別管理物質の特殊健診は実施頻度の緩和はできません。

製造禁止物質の健康診断はほとんど行われていないと考えられますが、一方で特別管理物質の健康診断はかなり行われているかと思います。
こちらの通達にも同様の内容が記載されていますが、概ね条文通りです。

(8)作業環境管理やばく露防止措置等が適切に実施されている場合における特殊健康診断の実施頻度の緩和(特化則第39条第4項、有機則第29条第6項、鉛則第53条第4項及び四アルキル則第22条第4項関係) 本規定による特殊健康診断の実施について、以下の①から③までの要件のいずれも満たす場合(四アルキル則第22条第4項の規定による健康診断については、以下の②及び③の要件を満たす場合)には、当該特殊健康診断の対象業務に従事する労働者に対する特殊健康診断の実施頻度を6月以内ごとに1回から、1年以内ごとに1回に緩和することができること。ただし、危険有害性が特に高い製造禁止物質及び特別管理物質に係る特殊健康診断の実施については、特化則第39条第4項に規定される実施頻度の緩和の対象とはならないこと。 ① 当該労働者が業務を行う場所における直近3回の作業環境測定の評価結果が第1管理区分に区分されたこと。 ② 直近3回の健康診断の結果、当該労働者に新たな異常所見がないこと。 ③ 直近の健康診断実施後に、軽微なものを除き作業方法の変更がないこと。

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

 

 実際に健康診断の実施頻度の緩和を行う上で注意すべきことについて

本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、事業者が労働者ごとではなく、均等ばく露作業ごとに緩和するか判断しましょう

本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、各規則に太字で示しましたが、「異常所見があると認められなかつた労働者については」と規定されていることから、条文上は事業者が労働者ごとに判断を行う必要があるものです。よって、法令上は、労働者、一人ひとりについて、緩和の要件を判定すればよいことになっています。

しかし、行政に確認したところ、分科会資料の文言を実行してほしいとお願いされました。これは、いわゆる行政指導になります。

 行政指導とは、役所が、特定の人や事業者などに対して、ある行為を行うように(又は行わないように)具体的に求める行為(指導、勧告、助言など)をいいます。

行政手続法Q&A – 総務省

これがその、実行してほしいと言われた文言になります。資料も引用しておきます。

同一の作業場で作業内容が同じで、同程度のばく露があると考えられる労働者が複数いる場合には、その集団の全員が上記要件を満たしている場合に実施頻度を1年以内ごとに1回に見直すことが望ましい。

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等第146回安全衛生分科会資料 
厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課労働衛生課

非常に簡単に言いますと、実施頻度の緩和は、同一の作業場で作業内容が同じで、同程度のばく露があると考えられる労働者をひとまとめにして、全員が要件を満たすこと場合に、そのひとまとめの単位で緩和してくださいということになります。

この「同一の作業場で作業内容が同じで、同程度のばく露があると考えられる」という部分ですが、個人サンプリング法における、均等ばく露作業に類似するものとなります。均等ばく露作業とは、作業者がばく露される測定対象物質の量がほぼ均一であると認められる作業になります。「均等ばく露作業」という用語は、個人サンプリング法による作業環境測定のための用語ですので、ここでは類似するものと説明させていただきます。

これは通達ではなく、分科会の資料の文言です。しかも、望ましいという努力義務の範囲内です。しかし、行政からのお願い、行政通達でもあり、そもそも有害業務の健康診断においては事業主がしっかりと管理を行わなければならないことを考慮すると、これは実行せざるを得ないですね。

均等ばく露作業ごとに作業者の集団を設定して、その集団の全員が健康診断の実施頻度の緩和の要件を満たす場合に、健康診断の実施頻度の緩和を実施しましょう。

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等第146回安全衛生分科会資料
厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課労働衛生課

個人サンプリング法における、均等ばく露作業については別記事を記載する予定です。

結局、後述する医師等の専門家の助言を行うためには、作業環境測定の知識と、個人サンプリング法の知識が必要なので、産業医の場合は、作業環境測定士を取得し、「個人サンプリング法に関する特例講習」も修了しておいた方がよいでしょう。

直近3回の健康診断の結果、当該労働者に新たな異常所見がないこと

この異常所見ですが、実際には、すべての健康診断において、偽陽性が発生します。
例えば、特別管理物質でない、アルキル水銀化合物の一次健診を見てみましょう。

特定化学物質障害予防規則 別表第三 (第三十九条関係)

これによると、4号で、「頭重」、「頭痛」等がありますが、これらは、アルキル水銀化合物以外の原因によっても起こり得ます。
ひょっとしたら、アルキル水銀化合物は全く関係のない「頭痛」が問診項目で有所見とされ、健診結果が「要精密検査」とされるかもしれません。
このような場合でも、産業医がきちんと、アルキル水銀化合物による頭痛であることを除外すれば、「異常所見がない」ということになります。
有所見かどうかは、医師等の専門家の助言で確認するようにしましょう。
これは、後述する、「医師等の専門家の助言を踏まえて判断すること」につながります。

直近の健康診断実施後に、軽微なものを除き作業方法の変更がないこと

本規定における「健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと」とは、ばく露量に大きな影響を与えるような作業方法の変更がないことを指します。例えば、リスクアセスメント対象物の使用量や使用頻度に大きな変更がない場合などが該当します。
こちらについては。リスクアセスメントにおいて、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置等を衛生委員会で審議しますが、この中で、軽微なものを除き、作業方法の変更がないかを検討していくことになります。

化学物質の自律的管理において、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置の内容と労働者のばく露の状況についての労働者の意見聴取、記録作成・保存は義務付けられています。

ウ 本規定の「健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと」とは、ばく露量に大きな影響を与えるような作業方法の変更がないことであり、例えば、リスクアセスメント対象物の使用量又は使用頻度に大きな変更がない場合等をいうこと。

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

医師等の専門家の助言を踏まえて判断すること

事業者が健康診断の実施頻度を緩和するに当たっては、労働衛生に係る知識又は経験のある医師等の専門家の助言を踏まえて判断することが望ましいとされています。

前述の健診結果や作業環境測定の結果を提供した上で、医師や専門家の助言を仰ぎましょう。
この規定は「望ましいこと」であり、努力義務とされていますが、実務としては、医師の意見を聴くことは必須と考えた方が良いでしょう。医師は、これまでの健康診断結果や作業環境測定の結果も考慮に入れる必要があり、これらは衛生委員会で審議されることから、実際には衛生委員会に参加する産業医が担当するのがよいでしょう。

ちなみに、もし、私が、産業医先等でない、知らない事業者から、健康診断の実施頻度の緩和について助言を求められても、お断りするでしょう。

エ 事業者が健康診断の実施頻度を緩和するに当たっては、労働衛生に係る知識又は経験のある医師等の専門家の助言を踏まえて判断することが望ましいこと。

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

実施頻度の緩和の判断のタイミング

本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、本規定施行後の直近の健康診断実施日以降に、本規定に規定する要件を全て満たした時点で、事業者が労働者ごとに判断して実施することとされています。

つまり、前回の健康診断の結果を踏まえて、上記条件を判断して、均等ばく露作業ごとの作業者の集団につき、次回の健康診断の実施頻度の緩和を判断してゆくことになります。

労働局、労働基準監督署への届出等は必要ありません

特殊健康診断の実施頻度の緩和に当たって、所轄労働基準監督署や所轄都道府県労働局に対して届出等を行う必要はありません。
しかし、労働基準監督署の臨検で要件を満たしているか聞かれるかもしれませんので、しっかり判断根拠となる記録は残しておきましょう。
以下、通達の抜粋になります。

オ 本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、本規定施行後の直近の健康診断実施日以降に、本規定に規定する要件を全て満たした時点で、事業者が労働者ごとに判断して実施すること。なお、特殊健康診断の実施頻度の緩和に当たって、所轄労働基準監督署や所轄都道府県労働局に対して届出等を行う必要はないこと。

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

 

 まとめ

有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質等を除く)、鉛、四アルキル鉛に関する特殊健康診断の実施頻度について、作業環境管理やばく露防止対策等が適切に実施されている場合には、事業者は、その実施頻度(通常は6月以内ごとに1回)を1年以内ごとに1回に緩和できることになりました。

本規定による健康診断の実施頻度の緩和は、労働者、一人ひとりにつき、実施頻度の緩和ができそうな規定で記載されていますが、実務としては、事業者が労働者ごとではなく、均等ばく露作業ごとに緩和するか判断しましょう

健康診断の頻度を緩和することができれば、コストや手間の削減になります。
しかし、労働者の健康が確保されているからこその実施頻度の緩和です。

要件を満たしているかの判断と、本当に、健康診断の実施頻度を緩和していいかは、熟慮しましょう。

 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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