事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

化学物質の管理を解説

2023/08/08 2023/08/09

【化学物質】産業医向けに「作業環境管理専門家」になるための要件を解説

化学物質の自律的管理において、「作業環境管理専門家」と「化学物質管理専門家」と呼ばれる専門家が時々登場します。
「作業環境管理専門家」と「化学物質管理専門家」をまとめて解説しようとするとすごい長文になってしまうので、分けて解説しています。
今回は、産業医が、作業環境管理専門家となるためにどうすればいいかという視点をもとに、作業環境管理専門家について解説いたします。

「作業環境管理専門家」について要件を解説

作業環境管理専門家は、化学物質の自律的管理において、第三管理区分となる作業場所が発生した場合に意見を求められます。

こちらについては以下の記事を参照してください。


以下、リーフレット「労働安全衛生法の新たな化学物質規制労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の概要」より引用

作業環境管理専門家となる要件については、以下の通達に規定があります。

ウ 本規定の「作業環境管理専門家」には、次に掲げる者が含まれること。

① 別に定める化学物質管理専門家の要件に該当する者
② 3年以上、労働衛生コンサルタント(試験の区分が労働衛生工学又は化学であるものに合格した者に限る。)としてその業務に従事した経験を有する者
③ 6年以上、衛生工学衛生管理者としてその業務に従事した経験を有する者
④ 衛生管理士(法第83条第1項の労働衛生コンサルタント試験(試験の区分が労働衛生工学であるものに限る。)に合格した者に限る。)に選任された者で、その後3年以上労働災害防止団体法第11条第1項の業務を行った経験を有する者
⑤ 6年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者
⑥ 4年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者であって、公益社団法人日本作業環境測定協会が実施する研修又は講習のうち、同協会が化学物質管理専門家の業務実施に当たり、受講することが適当と定めたものを全て修了した者
⑦ オキュペイショナル・ハイジニスト資格又はそれと同等の外国の資格を有する者

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

では、それぞれの要件についてみてみましょう。

① 化学物質管理専門家は、自動的に作業環境管理専門家となります

化学物質管理専門家の要件は、作業環境管理専門家より厳しく、化学物質管理専門家の資格があれば、作業環境管理専門家になることができます。

つまり、化学物質管理専門家は、作業環境管理専門家の上位資格であるとも言えます。
今後、化学物質の関与する業界で、作業環境管理専門家から化学物質管理専門家へと至るキャリアが一般化するのではと思われます。

② 3年以上、労働衛生コンサルタント(労働衛生工学又は化学)としてその業務に従事した経験を有する者

こちらについては、産業医は労働衛生コンサルタント(保健衛生)がほとんどですので、産業医は別途、労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)を取得しなければなりません。
医師であれば、労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)の受験資格はありますが、かなり難しいかと思われます。
以下のサイトに受験資格につき、掲載されています。

公益財団法人 安全衛生技術試験協会

https://www.exam.or.jp/exmn/H_shikakueisei.htm

結論を申しますと、産業医にとって、この要件は現実的ではありません。
なお、④の要件も労働衛生コンサルタント(労働衛生工学)が関わりますので、同様に産業医がこの要件を満たすのは難しいでしょう。

③ 6年以上、衛生工学衛生管理者としてその業務に従事した経験を有する者

産業医が衛生工学衛生管理者の資格を取得すること自体は難しくありません。
しかし、衛生工学衛生管理者として選任され、業務に従事するには、まず、産業医が衛生工学衛生管理者の選任が必要な事業所に勤務することが必要です。衛生工学衛生管理者の選任な事業所の規模は500人以上であり、医師が勤務する場合には産業医として勤務することになるでしょうし、6年以上、衛生工学衛生管理者としてその業務に従事するという要件を満たすのは現実的ではありません。

⑤ 6年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者

この要件ですが、産業医が作業環境測定士の資格を取得することは難しくありません。
「従事した経験」については、どこまでの経験が必要かという論点はあります。
2023年8月初旬に行政に確認したところ、特に従事した経験についての規定や、認定等はないとのことです。
今後通達として示されるかもしれませんね。

今後の通達次第ではありますが、この要件は産業医が作業環境管理専門家となる方法の一つかと思われます。

⑥ 4年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有する者であって、公益社団法人日本作業環境測定協会が実施する研修又は講習のうち、同協会が化学物質管理専門家の業務実施に当たり、受講することが適当と定めたものを全て修了した者

この要件は存在するのですが、2023年8月初旬に公益社団法人日本作業環境測定協会に問い合わせたところ、準備中だそうです。
詳細はわからないことが多いです。

⑦ オキュペイショナル・ハイジニスト資格又はそれと同等の外国の資格を有する者

産業医が作業環境管理専門家になるための一つの方法として、日本作業環境測定協会のオキュペイショナルハイジニスト養成講座を受講することがあります。こちらについては、化学物質管理専門家になるための記事で解説しています。
日本作業環境測定協会のオキュペイショナルハイジニストになれば、自動的に化学物質管理専門家の要件も満たしてしまいます。

産業医が化学物質管理専門家、作業環境管理専門家となる正規ルートと言えるでしょう。



 結論として、産業医は作業環境管理専門家ではなく、化学物質管理専門家を目指しましょう

産業医が、「作業環境管理専門家」となるための要件について法令より検討してみました。
今後の通達次第かと思いますが、以下の二つが現実的かと思います。

6年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を積む
日本作業環境測定協会のオキュペイショナルハイジニストとなる

もし、作業環境測定士の実務6年の要件を利用する場合には、講習を受け、化学物質管理専門家にまでなってしまうのが良いでしょう。
以下が、化学物質管理専門家の要件の一つです。

作業環境測定士で、その後六年以上作業環境測定士としてその業務に従事した経験を有し、かつ、厚生労働省労働基準局長が定める講習を修了したもの

また、日本作業環境測定協会のオキュペイショナルハイジニストは、化学物質管理専門家となる要件も満たします。

以上より、産業医は作業環境管理専門家を目指すより、上記2種のルートで化学物質管理専門家を目指すのが良いかと思います。

 まとめ

化学物質の自律的管理において、「作業環境管理専門家」と「化学物質管理専門家」と呼ばれる専門家が時々登場します。
「作業環境管理専門家」と「化学物質管理専門家」の法令上必要とされる要件は違いますが、「化学物質管理専門家」であれば、「作業環境管理専門家」の要件を満たすことができます。

法令上必要とされる要件としては、産業医の視点から検討すると、「作業環境管理専門家」と「化学物質管理専門家」であまり違いがありません。
6年以上、作業環境測定士としてその業務に従事した経験を積む、又は日本作業環境測定協会のオキュペイショナルハイジニストとなるかの二つのルートが現実的だと思われます。

以上より、産業医は作業環境管理専門家ではなく、化学物質管理専門家を目指してしまうのが良いかと思います。

労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。

産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。

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化学物質の個別的な規制についても得意としています。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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