2023/09/30 2023/09/30
【石綿】石綿含有建材調査者が行うべき安全衛生上の対応を解説
石綿含有建材調査者は調査の過程において石綿に暴露する可能性があり、石綿関連疾患に罹患する可能性があります。
そのため、石綿に関する安全衛生上の対策を行いましょう。
今回は、石綿に対して必要とされる必要な安全衛生上の規定について解説します。
石綿含有建材調査者が行うべき安全衛生上の対応
石綿含有建材調査者は、原則として調査すべき建築物の現地に赴き、石綿含有建材の調査を行います。この調査を行う上で必要な安全衛生上の対応について解説いたします。
非定常作業であることを認識しましょう。
石綿含有建材調査は、特定の状況を除き、現地での調査を行わなければなりませんが、初めて訪問する建築物の場合や、初めて立ち入る場所での調査が多いかと思います。これらは非定常作業になりますので、労災の危険が高いことを認識しておきましょう。本当はKY活動を行っていきたいところですが、立ち合い者の同席のもとで時間をかけるのは難しいかもしれません。
事前調査を行わなくていい場合は、以下の記事を参照してください。
石綿の健康診断と個人事業主や社長が気を付けるべき点
石綿等の取扱い若しくは試験研究のための製造又は石綿分析用試料等の製造に伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者については石綿健診を実施しなければなりません。石綿健診の詳細については以下の記事で解説しています。
この石綿健診ですが、事業者があくまで労働者に対して実施しなければなりません。石綿則における労働者は、労働基準法9条と同じなのですが、以下の定義があります。ここで、「使用され」、「賃金を支払われる者」であることより、いわゆる社長や、個人事業主は労働者にあたらないということになります。
労働基準法(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
つまり、自ら石綿建材調査を行う社長さんや、個人事業主の方は石綿健診を行わなくていいということになります。
そして、社長や個人事業主などの使用されていない者、つまり労働者でないものは労災の適用がありませんので、注意しましょう。
この点、社長や個人事業主の方も人間ですので、石綿で病気になるかもしれません。石綿健診を行わないことで石綿により健康障害の発見が遅れたり、石綿関連疾患になって労災保険の適用がないと不利でしょう。
そこで、社長、個人事業主の方は石綿健診を自ら受診し、労災保険への特別加入することをお勧めいたします。
では、以下のような例ではどうでしょうか。
私は、現在70歳です。25歳から解体業のお仕事をしており、30歳から解体業を個人事業主(一人親方)で行っています。
業務には石綿がつきものでした。そのため、個人事業主になってから30歳から55歳まで労災の特別加入をしていました。
しかし、60で引退後、70歳で肺がんに罹ったことがわかりました。
肺がんになった原因は石綿だと思いますので、労災申請をしようと思うのですができるでしょうか。
ここで、70歳になった時点では、労災の被保険者ではありません。しかし、労働者であった期間と特別加入の期間につき、肺がんについて労災申請が可能性です。
つまり、25歳から29歳までの解体業の労働者として従事した労災保険の被保険者期間と、30歳から55歳までの特別加入の労災保険の被保険者期間で石綿を取り扱っていた業務に関して労災申請ができます。労災の申請に関しては、労働者が労災申請を申請できるで、労働者でない56歳からまでの時期については労災ができないのが原則になります。
ここはすごくややこしい話なので、石綿のように時間がたって発症する疾患につき労災申請をする場合で、現在労働者でない場合は、労働局へ相談しましょう。
石綿の作業の記録
石綿の作業の記録については、石綿則35条があります。
(作業の記録)
第三十五条 事業者は、石綿等の取扱い若しくは試験研究のための製造又は石綿分析用試料等の製造に伴い石綿等の粉じんを発散する場所において常時作業に従事する労働者について、一月を超えない期間ごとに次の事項を記録し、これを当該労働者が当該事業場において常時当該作業に従事しないこととなった日から四十年間保存するものとする。
一 労働者の氏名
二 石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する作業又は石綿分析用試料等を製造する作業に従事した労働者にあっては、従事した作業の概要、当該作業に従事した期間、当該作業(石綿使用建築物等解体等作業に限る。)に係る事前調査(分析調査を行った場合においては事前調査及び分析調査)の結果の概要並びに次条第一項の記録の概要
三 石綿等の取扱い若しくは試験研究のための製造又は石綿分析用試料等の製造に伴い石綿等の粉じんを発散する場所における作業(前号の作業を除く。以下この号及び次条第一項第二号において「周辺作業」という。)に従事した労働者(以下この号及び次条第一項第二号において「周辺作業従事者」という。)にあっては、当該場所において他の労働者が従事した石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する作業又は石綿分析用試料等を製造する作業の概要、当該周辺作業従事者が周辺作業に従事した期間、当該場所において他の労働者が従事した石綿等を取り扱う作業(石綿使用建築物等解体等作業に限る。)に係る事前調査及び分析調査の結果の概要、次条第一項の記録の概要並びに保護具等の使用状況
四 石綿等の粉じんにより著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要(測定及びその記録)
第三十六条 事業者は、令第二十一条第七号の作業場(石綿等に係るものに限る。)について、六月以内ごとに一回、定期に、石綿の空気中における濃度を測定しなければならない。
2 事業者は、前項の規定による測定を行ったときは、その都度次の事項を記録し、これを四十年間保存しなければならない。
一 測定日時
二 測定方法
三 測定箇所
四 測定条件
五 測定結果
六 測定を実施した者の氏名
七 測定結果に基づいて当該石綿による労働者の健康障害の予防措置を講じたときは、当該措置の概要
ちょっとわかりにくいので、以下にまとめます。なお、石綿則35条に「次条第一項の記録の概要」とありますが、こちらは石綿則36条の作業環境測定の結果の概要になります。
一 労働者の氏名
→ 当然名前は必要です。
二 石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する作業又は石綿分析用試料等を製造する作業に従事した労働者にあっては、従事した作業の概要、当該作業に従事した期間、当該作業(石綿使用建築物等解体等作業に限る。)に係る事前調査(分析調査を行った場合においては事前調査及び分析調査)の結果の概要並びに次条第一項の記録の概要
→石綿を直接扱った労働者については、従事した作業の概要、当該作業に従事した期間、事前調査の結果の概要、作業環境測定の記録の概要を記録しければなりません。
三 石綿等の取扱い若しくは試験研究のための製造又は石綿分析用試料等の製造に伴い石綿等の粉じんを発散する場所における作業(前号の作業を除く。以下この号及び次条第一項第二号において「周辺作業」という。)に従事した労働者(以下この号及び次条第一項第二号において「周辺作業従事者」という。)にあっては、当該場所において他の労働者が従事した石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する作業又は石綿分析用試料等を製造する作業の概要、当該周辺作業従事者が周辺作業に従事した期間、当該場所において他の労働者が従事した石綿等を取り扱う作業(石綿使用建築物等解体等作業に限る。)に係る事前調査及び分析調査の結果の概要、次条第一項の記録の概要並びに保護具等の使用状況
→この3号については、周辺業務従事者に関する規定になります。周辺業務作業者の環境も、2号と同様の内容で記録を残さなければなりません。
周辺作業従事者については、周辺作業に従事した場所における石綿の作業の概要、周辺業務の期間、周辺作業の場所の事前調査、周辺作業の場所の作業環境測定の結果の記録が必要です。
四 石綿等の粉じんにより著しく汚染される事態が生じたときは、その概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
→特化物の特別管理物質、がん原性物質の規定と同じですね。
健康管理手帳
石綿には健康管理手帳の制度があります。健康管理手帳の制度については以下の記事をご覧ください。
石綿における健康管理手帳の交付要件は以下になります。
① 両肺野に石綿による不整形陰影があり、又は石綿による胸膜肥厚があること。
→こちらについては、直接業務及び周辺業務が対象となります。②下記の作業に1年以上従事していた方。(ただし、初めて石綿の粉じんにばく露した日から10年以上経過していること)
・石綿の製造作業
・石綿が使用されている保温材、耐火被覆材等の張付け、補修もしくは除去の作業
・石綿の吹付の作業又は石綿が吹き付けられた建築物、工作物の解体、破砕などの作業
→こちらについては、直接業務及のみが対象となります。③ 上記②以外の作業以外の石綿を取り扱う作業に10年以上従事していた方
→こちらについては、直接業務のみが対象となります。
では、各号をそれぞれ解説しましょう。
① 両肺野に石綿による不整形陰影があり、又は石綿による胸膜肥厚があること。
こちらは、胸部レントゲン等により明らかに石綿の陰影がある場合になります。明らかな石綿の陰影があれば今後、石綿関連疾患に罹患する可能性があり、フォローが必要でしょう。
二 石綿等の製造作業、石綿等が使用されている保温材、耐火被覆材等の張付け、補修若しくは除去の作業、石綿等の吹付けの作業又は石綿等が吹き付けられた建築物、工作物等の解体、破砕等の作業(吹き付けられた石綿等の除去の作業を含む。)に一年以上従事した経験を有し、かつ、初めて石綿等の粉じんにばく露した日から十年以上を経過していること。
こちらの要件ですが、少し特殊です。まず、「石綿等の製造作業、石綿等が使用されている保温材、耐火被覆材等の張付け、補修若しくは除去の作業、石綿等の吹付けの作業又は石綿等が吹き付けられた建築物、工作物等の解体、破砕等の作業(吹き付けられた石綿等の除去の作業を含む。)」(青色ハイライト部分)について分解して解説します。
石綿等の製造作業→ 現在は石綿等の製造作業は存在しません。発じん性は作業内容にもよるでしょうが高いかもしれません。
石綿等が使用されている保温材 → 石綿含有保温材であり、レベル2建材に相当します。
耐火被覆材等の張付け、補修若しくは除去の作業 → レベル2建材の石綿含有耐火被覆材に関する作業であり。
石綿等の吹付けの作業又は石綿等が吹き付けられた建築物、工作物等の解体、破砕等の作業(吹き付けられた石綿等の除去の作業を含む。)」→レベル1建材に関する作業です。
上記作業は、発じん性が高いと考えられる作業であり、この作業を1年行うと、相当量の石綿を吸入する可能性があります。
この10年という数字ですが、石綿による肺がんの労災認定基準が根拠だと思われます。
別記事に掲載いたしましたが、健康管理手帳を所持しているということは、今後、がん等の病気を発症する可能性があり、労災の適用となる可能性があることを意味します。
石綿の労災認定基準については、石綿ばく露を開始してから10年未満での肺がんの発症は業務上疾病から、原則として除かれるそうです(青ハイライト部分)。
2 肺がん
石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって、次の(1)から(6)までのいずれかに該当するものは、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除き、別表第1の2第7号8に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
(1) 石綿肺の所見が得られていること(じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上であるものに限る。以下同じ。)。
(2) 胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラークが認められ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間(石綿ばく露労働者としての従事期間に限る。以下同じ。)が10年以上あること。ただし、第1の2の(3)の作業に係る従事期間の算定において、平成8年以降の従事期間は、実際の従事期間の1/2とする。石綿による疾病の認定基準について 基発0301第1号 令和5年3月1日
なお、「別表第1の2第7号8」は、労働基準法施行規則別表1の2になります。労働基準法施行規則別表1の2第7号
七 がん原性物質若しくはがん原性因子又はがん原性工程における業務による次に掲げる疾病
1 ベンジジンにさらされる業務による尿路系腫瘍
2 ベータ―ナフチルアミンにさらされる業務による尿路系腫瘍
3 四―アミノジフェニルにさらされる業務による尿路系腫瘍
4 四―ニトロジフェニルにさらされる業務による尿路系腫瘍
5 ビス(クロロメチル)エーテルにさらされる業務による肺がん
6 ベリリウムにさらされる業務による肺がん
7 ベンゾトリクロライドにさらされる業務による肺がん
8 石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫
9 ベンゼンにさらされる業務による白血病
10 塩化ビニルにさらされる業務による肝血管肉腫しゆ又は肝細胞がん
11 三・三′―ジクロロ―四・四′―ジアミノジフェニルメタンにさらされる業務による尿路系腫瘍
12 オルト―トルイジンにさらされる業務による膀胱ぼうこうがん
13 一・二―ジクロロプロパンにさらされる業務による胆管がん
14 ジクロロメタンにさらされる業務による胆管がん
15 電離放射線にさらされる業務による白血病、肺がん、皮膚がん、骨肉腫しゆ、甲状腺せんがん、多発性骨髄腫しゆ又は非ホジキンリンパ腫
16 オーラミンを製造する工程における業務による尿路系腫瘍
17 マゼンタを製造する工程における業務による尿路系腫瘍
18 コークス又は発生炉ガスを製造する工程における業務による肺がん
19 クロム酸塩又は重クロム酸塩を製造する工程における業務による肺がん又は上気道のがん
20 ニッケルの製錬又は精錬を行う工程における業務による肺がん又は上気道のがん
21 砒ひ素を含有する鉱石を原料として金属の製錬若しくは精錬を行う工程又は無機砒ひ素化合物を製造する工程における業務による肺がん又は皮膚がん
22 すす、鉱物油、タール、ピッチ、アスファルト又はパラフィンにさらされる業務による皮膚がん
23 1から22までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他がん原性物質若しくはがん原性因子にさらされる業務又はがん原性工程における業務に起因することの明らかな疾病
八 長期間にわたる長時間の業務その他血管病変等を著しく増悪させる業務による脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)、重篤な心不全若しくは大動脈解離又はこれらの疾病に付随する疾病
九 人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病
十 前各号に掲げるもののほか、厚生労働大臣の指定する疾病
十一 その他業務に起因することの明らかな疾病
以上より、発じん性の高い石綿を吸入する業務を1年すれば、今後、石綿関連疾患を発症するかもしれない。しかし、10年以内であれば、業務上疾病は否定的であるということで健康管理手帳は交付されないようです。しかし、10年を経過すれば、石綿関連疾患に罹患する可能性があるので、健康管理手帳をあげましょうということです。
③ 上記②以外の作業以外の石綿を取り扱う作業に10年以上従事していた方
②は発じん性が高い石綿を吸入する業務ですが、③は、それ以外の石綿業務に10年従事していても、やはり発がんの可能性があるので健康管理手帳を交付しましょうということです。
まとめ
石綿含有建材調査者は石綿に暴露する可能性があります。そのため、石綿に関する安全衛生上の対策を行いましょう。石綿に対して必要とされる必要な規定について解説しました。
まず、石綿含有建材調査は、訪問したことのない建築物の内部、特に通常時は人が立ち入らない場所での調査を行う可能性が高く、 非定常作業であることを認識しましょう。
非定常作業は労災の発生可能性が高いです。
石綿の健康診断も実施しましょう。社長や個人事業主等の労働者でない者は労働安全衛生法上、石綿健診を実施する必要がありません。
また、社長や個人事業主などの使用されていない労働者でない者は労災の適用がありません。
そこで、社長、個人事業主の方は石綿健診を自分で受診することで石綿関連疾患の早期発見を行い、また、労災保険の特別加入することをお勧めいたします。
石綿の作業の記録についても解説しました。
健康管理手帳の要件については、どのような作業を行っていたかで要件が違います。
石綿の健康管理手帳を交付される要件を満たす場合には、是非、健康管理手帳の交付申請を行いましょう。
この交付申請は社労士ができます。
労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。
産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。
個人ばく露測定のご相談やリスクアセスメント対象物健康診断の実施についても対応可能です。
化学物質の個別的な規制についても得意としています。
Zoom等のオンラインツールを用いて日本全国対応させていただいております。
詳しいサービス内容は以下のページをご参照ください。