事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【医師向け】行政機関における産業保健業務について(人事院規則と健康管理医)

行政機関の「産業医」を頼まれたという先生もおられるかと思います。行政機関なので公務員の「産業医」になります。しかし、実は、公務員関係においては「産業医」の制度がないのです。

公務員関係は、通常の労働安全衛生法・労働基準法の適用がなく、「産業医」として活動するためには、特殊な知識が必要です。さらに、公務員には三権分立の観点から、国会職員(立法府)、国家公務員(行政府)、裁判所職員(司法府)などが存在し、それぞれ制度が違います。また、同じ行政になりますが、国家公務員と地方公務員では制度が異なります。

今回は、最も人数が多く、組織が大きい、行政の「国家公務員」について、私の経験も踏まえてお話ししたいと思います。

行政機関における産業保健業務 

行政機関において、公務員の「健康管理医」、「産業医」をしているという医師の先生方も多いのではないでしょうか。実は国家公務員には、労働基準法・労働安全衛生法の適用はなく、人事院規則が適用されます。衛生関係において、重要となるのは、人事院規則10―4(職員の保健及び安全保持)です。

実は、国家公務員の場合「産業医」という制度はなく、「健康管理医」が産業医と同じような業務を行っています。同じようなというのは、やはり労働安全衛生法の産業医と違う部分があるのです。

例えば、人事院規則10-4第9条に、健康管理医の規定があり、その詳細については「人事院規則10―4(職員の保健及び安全保持)の運用について」に定められています。国家公務員関係の産業保健業務を行うには、これらをしっかり読み込んでおかなければなりません。

国家公務員関係の産業保健業務では以下の規則と指針が重要です。なお、地方公務員の場合も、この人事院規則と同様の場合が多いのですが、自治体によって違うかもしれないので、健康管理医の業務を行う際には必ず条文等を確認しましょう。

人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)
人事院規則10―4(職員の保健及び安全保持)の運用について
人事院規則10-4(職員の保健及び安全保持)

人事院規則10-4
(健康管理医)
第九条 各省各庁の長は、第五条第一項の組織区分ごとに、健康管理医を置かなければならない。
2 健康管理医は、医師である職員(当該健康管理医を指名しようとする組織区分に係る各省各庁の長及び当該組織区分の長を除く。)のうちから指名し、又は医師である者に委嘱するものとする。
3 健康管理医は、指導区分の決定又は変更その他人事院の定める健康管理についての指導等の業務(以下「健康管理指導等」という。)を行うものとする。
4 健康管理医は、職員の健康管理指導等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
5 各省各庁の長は、健康管理医に対し、人事院の定めるところにより、職員の勤務時間に関する情報その他の健康管理医が職員の健康管理指導等を適切に行うために必要な情報として人事院の定めるものを提供しなければならない。
6 各省各庁の長は、健康管理医による職員の健康管理指導等の適切な実施を図るため、健康管理医が職員からの健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
7 各省各庁の長は、健康管理医の業務の内容その他の健康管理医の業務に関する事項で人事院の定めるものを、常時各勤務場所の見やすい場所に掲示し、又は備え付けることその他の人事院の定める方法により、職員に周知させなければならない。

e-Gob 人事院規則10-4

 

 産業医と健康管理医の業務の違いについて

産業医と健康管理医の業務の違いについてお話をしたいと思います。健康管理医は産業医で必要とされる安全衛生委員会への出席義務もありません。いわゆる労働災害も、公務災害とよばれるものになります。言葉が違ってくることは注意しましょう。

また、人事院規則上は、労働安全衛生法上の産業医の要件となる日医認定産業医等は必要ありません。医師免許のみで健康管理医になれます。

健康診断の事後措置について(就業判定)

健康診断を行ったのち、判定区分につき医師が意見を述べる場合の規定につき、人事院規則10-4、第23条、第24条に記載があります。

労働安全衛生法の場合、産業医が医師の意見を述べる場合には、通達(健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針 )はあるもの、医師の意見の形式は自由です。

ちなみに、こちらが労働安全衛生法の事後措置に関する条文です。

労働安全衛生法
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。

(健康診断実施後の措置)
第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。

e-Gov 労働安全衛生法

そして、こちらが人事院規則の事後措置に関する条文です。

人事院規則10-4
(指導区分の決定等)
第二十三条 各省各庁の長は、健康診断又は面接指導を行つた医師が健康に異常又は異常を生ずるおそれがあると認めた職員については、その医師の意見書及びその職員の職務内容、勤務の強度等に関する資料を健康管理医に提示し、別表第四の指導区分欄に掲げる区分に応じて指導区分の決定を受けるものとする。
2 各省各庁の長は、前項の職員の医療に当たつた医師が指導区分の変更について意見を申し出た場合その他必要と認める場合には、所要の資料を健康管理医に提示し、当該職員の指導区分の変更を受けるものとする。

(事後措置)
第二十四条 各省各庁の長は、前条の規定により指導区分の決定又は変更を受けた職員については、その指導区分に応じ、別表第四の事後措置の基準欄に掲げる基準に従い、適切な事後措置をとらなければならない。
2 各省各庁の長は、前項の事後措置の実施に当たり、伝染性疾患の患者又は伝染性疾患の病原体の保有者である職員のうち、他の職員に感染のおそれが高いと認められる職員についてやむを得ないと認める場合には、業務に就くことを禁止することができる。
3 前項の規定による就業の禁止は、人事院の定める事項を記載した文書を交付して行なわなければならない。

e-Gob 人事院規則10-4

労働安全衛生法では「医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない」とありますが、人事院規則では「別表第四の指導区分欄に掲げる区分に応じて指導区分の決定を受けるものとする」と文言が違いますよね。

そして、人事院規則においては、以下の別表第4に示すような指導区分により決定いたします。こちらについては、行政機関によって、健康診断の項目ごとに判定を付ける場合と、1回の健診でまとめて一つの指導区分の決定をおこなう場合があります。

人事院規則10-4 別表第4


では、実際に公務員関係の健康診断の事後措置に関する判定をどうするかの例ですが、以下は例です。 

健診結果の異常が糖尿病に関する項目のみ異常があった場合

①生活規正の面:業務の内容から糖尿病のデータを勘案しても「平常の生活でよい」場合
 →「D」判定


②医療の面:現在、糖尿病の治療はしていないが、経過観察のため時々かかりつけ医で採血等をしている場合
 →「2」判定

①と①を組み合わせて、「D2判定」といった形で指導区分を決定いたします。

 長時間労働者への医師による面接指導

労働安全衛生法においては、長時間労働者への医師による面接指導制度における面談実施義務が発生するのは月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者となります。(※ 研究開発業務従事者、及び高度プロフェッショナル制度適用者は除く)しかし、人事院規則のもとにおいては下記のようになり、本人からの申出がなくとも医師による面接指導を行うこととなっています。

各省各庁の長は、職員に1箇月について100時間以上又は2~6箇月平均で80時間を超える超過勤務を命じた場合には、本人からの申出がなくとも当該職員に対して医師による面接指導を行うものとする。

超過勤務の上限等に関する措置について 平成31年2月人事院

なお、長時間労働の面接指導の結果も、民間の場合は、通常勤務、就労制限、要休業とすることが多いですが、公務員の場合は、人事院規則10-4 別表第4の判定基準、つまりD3とかD2とかC1等により判定します。これは、人事院規則10-4第23条において、「面接指導」を行った医師は別表第4で指導区分を決定しますとありますが、この「面接指導」には長時間労働の面接指導も入ることが根拠になります。

 安全衛生委員会はありません

国家公務員に適用される人事院規則において、労働安全衛生法における衛生委員会に相当する機関はありません。健康管理者と安全管理者という制度はあります。労働安全衛生法の衛生管理者と安全管理者に似ていますよね。

(健康管理者)
第五条 各省各庁の長は、人事院の定める組織区分(内部組織の構成等により必要があると認める場合にあつては、当該組織区分を細分した組織区分)ごとに、それぞれの組織に属する職員のうちから健康管理者を指名しなければならない。
2 健康管理者は、上司の指揮監督の下に、職員の健康管理に関する事務の主任者として次に掲げる事務を行うものとする。
一 職員の健康障害を防止するための措置に関すること。
二 職員の健康の保持増進のための指導及び教育に関すること。
三 職員の健康診断又は面接指導(医師が問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)の実施に関すること。
四 職員の健康管理に関する記録及び統計の作成並びにその整備に関すること。
五 前各号に掲げるもののほか、職員の健康管理に必要な事項に関すること。

(安全管理者)
第六条 各省各庁の長は、人事院の定める組織区分(内部組織の構成等により必要があると認める場合にあつては、当該組織区分を細分した組織区分)ごとに、それぞれの組織に属する職員のうちから安全管理者を指名しなければならない。
2 安全管理者は、上司の指揮監督の下に、職員の安全管理に関する事務の主任者として次に掲げる事務を行なうものとする。
一 職員の危険を防止するための措置に関すること。
二 職員の安全のための指導及び教育に関すること。
三 施設、設備等の検査及び整備に関すること。
四 職員の安全管理に関する記録及び統計の作成並びにその整備に関すること。
五 前各号に掲げるもののほか、職員の安全管理に必要な事項に関すること。

e-Gov 人事院規則一〇―四(職員の保健及び安全保持)

実務においては、衛生管理者と安全管理者と直接やり取りすることはほとんどないかと思います。産業医をされている方が初めて健康管理医を行う際には「なぜ、衛生委員会に参加できないんだ!!」と怒らないでください。そもそも、衛生委員会はありません。

 行政庁によって業務が少しずつ違うので注意しましょう

国家公務員の健康管理医を行う際に、通常の産業医と異なる点として知っておくべきことは、業務内容が健康管理医となる行政機関によってわずかに異なることです。

例えば、就業上の措置については、前述のように、LDL、AST、ALTなどの各項目に対して別々にD2やD3といった判定を行う行政機関もありますが、一つの健診結果に一括してD2、D3などの判定を付ける場合もあります。また、長時間労働面談や、ストレスチェック面談についても行政によって手続きや書式が違う場合があります。

もし、医師の皆様が健康管理医として働く場合には、これらの手続きを担当者からきちんとお聞きしておきましょう。他の行政ではこうだったということは通用しないと考えておきましょう。

なお、通常の企業の産業医では、担当者の裁量が大きい場合があり、担当者の行動力によってさまざまな対応が行われることがありますが、公務員においては、基本的にすべて法令や規定などに従った手続きが進行しますので、担当者との密接な連絡と調整が必要です。

なお、基本的に行政にお勤めの方は、法令全般に詳しいです。通常の産業医が単に労働安全衛生法を知っているくらいのレベルではないことに注意しましょう。

 まとめ

まず、この記事は、国家公務員の健康管理医について解説してます。裁判所や国会の職員の場合、人事院規則が当てはまらない場合があることにご注意ください。

国家公務員の健康管理医の業務内容は、通常の産業医の制度とは違いますので人事院規則を読み込みながら対応しなければなりません。
国家公務員の場合「産業医」という制度はなく、「健康管理医」が産業医と同じような業務を行っています。

労働安全衛生法における安全衛生委員会にような制度はありません。また、行政庁によっても少しずつ業務が違うので注意が必要です。
はじめて、行政の健康管理医を行う医師の方は、担当者の方にしっかりお話を聞いて実務をこなしていきましょう。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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