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【安全衛生・初心者向け】労働安全衛生法における健康診断の目的と事後措置について

事業所(会社・企業)が実施する健康診断は、何のために行われるのでしょうか。
多くの方は、健康の維持・増進を目的として実施されていると考えているかもしれません。
しかし、健康診断にはそれだけでなく、法律に基づく重要な役割があります。

今回は、労働安全衛生法に基づく健康診断の「事後措置」について解説します。

労働安全衛生法における健康診断の目的と事後措置について

事業所(企業・会社)が行う健康診断の根拠法令

事業所(会社・企業)は、従業員に対して健康診断を実施する義務があります。
「健康診断は、健康の保持・増進を目的としたメタボ健診ではないか」と考える方もいるかもしれません。

確かに、健康診断の結果は、いわゆるメタボ健診(特定健康診査)や、メタボリックシンドロームに対する保健指導(特定保健指導)のデータとして活用されています。
これは、労働安全衛生法に基づく健康診断の項目を流用できるため、保険者(健康保険組合等)がその結果を活用しているためです。

なお、「メタボ健診」の正式名称は、「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づく特定健康診査です。
同法第21条には、「労働安全衛生法に基づく健康診断を受けた場合、特定健康診査を兼ねることができる」との規定があります。

高齢者の医療の確保に関する法律
(特定健康診査)
第二十条 保険者は、特定健康診査等実施計画に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、四十歳以上の加入者に対し、特定健康診査を行うものとする。ただし、加入者が特定健康診査に相当する健康診査を受け、その結果を証明する書面の提出を受けたとき、又は第二十六条第二項の規定により特定健康診査に関する記録の送付を受けたときは、この限りでない。


(他の法令に基づく健康診断との関係)
第二十一条 保険者は、加入者が、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)その他の法令に基づき行われる特定健康診査に相当する健康診断を受けた場合又は受けることができる場合は、厚生労働省令で定めるところにより、前条の特定健康診査の全部又は一部を行つたものとする。
2 労働安全衛生法第二条第三号に規定する事業者その他の法令に基づき特定健康診査に相当する健康診断を実施する責務を有する者(以下「事業者等」という。)は、当該健康診断の実施を保険者に対し委託することができる。この場合において、委託をしようとする事業者等は、その健康診断の実施に必要な費用を保険者に支払わなければならない。

e-Gov 高齢者の医療の確保に関する法律

実は、労働安全衛生法に基づく健康診断の目的は、現在の業務や、これから就こうとする業務を遂行できるかどうかについて、健康上問題がないかの医師の意見を聞くことにあります(労働安全衛生法第66条の4)。

ここで注意が必要なのは、医師の意見を聴く対象となるのは、健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者に限られるという点です。
そのため、健康診断で異常が認められなかった労働者については、医師の意見を聴く必要はありません。

労働安全衛生法
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。

 

(健康診断実施後の措置)
第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者又はその団体に対し、当該指針に関し必要な指導等を行うことができる。

e-Gov 労働安全衛生法

なお、労働安全衛生法には、医師または保健師による保健指導を実施するよう努めなければならない、という規定もあります(労働安全衛生法第66条の7)。
ただし、これは努力義務であり、実施が厳格に義務付けられているわけではありません。

また、産業保健において保健指導が関係する制度として、THP(トータル・ヘルス・プロモーション・プラン)**もあります。

労働安全衛生法(保健指導等)
第六十六条の七 事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
2 労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。

e-Gov 労働安全衛生法

医師の意見はどのようにつければいいのか

では、実際に医師の意見にはどのようなものがあるのでしょうか。

この点については、**厚生労働省の「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」に記載があります。この指針は、健康診断に関わる方にとって、重要な内容が示されているため、ぜひ熟読することをおすすめします。

この指針によると、医師の意見は、「通常勤務」、「就業制限」、「要休業」の3つの区分に分類されます。

健康診断の事後措置に関する指針(厚生労働省)

ただし、これはあくまで指針であり、必ずしもこの区分に従って意見を述べなければならないわけではありません。

また、医師の意見は「健康診断個人票」に記載する必要があります(労働安全衛生規則第51条の2)。
さらに、健康診断が実施された日から3か月以内に意見を述べなければならないと定められています(同規則第51条の2)。

労働安全衛生規則
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第五十一条の二 第四十三条等の健康診断の結果に基づく法第六十六条の四の規定による医師又は歯科医師からの意見聴取は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 第四十三条等の健康診断が行われた日(法第六十六条第五項ただし書の場合にあつては、当該労働者が健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出した日)から三月以内に行うこと。
二 聴取した医師又は歯科医師の意見を健康診断個人票に記載すること。
2 法第六十六条の二の自ら受けた健康診断の結果に基づく法第六十六条の四の規定による医師からの意見聴取は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 当該健康診断の結果を証明する書面が事業者に提出された日から二月以内に行うこと。
二 聴取した医師の意見を健康診断個人票に記載すること。
3 事業者は、医師又は歯科医師から、前二項の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供しなければならない。

e-Gov 労働安全衛生規則

よくある「就業制限」の例ですが、就業場所の変更、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少について、以下のように述べることもあります。

  • 高度の高血圧 
    →夜勤ができない、時間外労働の制限など
  • 重度の糖尿病 
    →夜勤ができない、時間外労働の制限など
  • 活動性のある腎炎 
    → 夜勤の禁止など

このように、病気や異常がある場合、医師は従業員が業務を遂行できるかどうかを判断し、意見を述べることになります。

ここで重要なのは、健康診断の結果をもとに業務の適性を判断するためには、医師がその従業員の職務内容を把握している必要があるという点です。
健康診断を受けた方の仕事内容がわからなければ、医師は適切な意見を述べることができません。

産業医は、従業員の業務内容を正しく把握した上で、適切な就業判定を行っているでしょうか。
特に、医師がクライアント事業所以外の従業員に対して就業判定を行う場合は、業務内容が分からず、判断が難しくなることがあります。
50人未満の事業所における、健康診断の就労判定については、この点が難しいのです。

その点、私が懇意にしている社会保険労務士の先生方の顧問先であれば、業務内容を把握しやすいため、就業判定がスムーズに進められます。

まとめ

事業所で実施される健康診断は、「高齢者の医療の確保に関する法律」などに基づき、メタボ健診として健康増進のための手段として活用されています。
しかし、労働安全衛生法の観点では、健康診断を実施し、医師が意見を述べることで、労働者が現在従事している業務を継続できるかどうかを判断する役割を持ちます。

健康診断の事後措置については、厚生労働省の「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」に記載されています。
この指針には、事業者が講じるべき具体的な対応が示されており、健康診断に関わる方にとって重要な内容となっています。ぜひ熟読をおすすめします。

ただし、医師が意見を述べるためには、当該労働者がどのような業務を行っているのか、または今後就こうとしているのかを把握している必要があります。
そのため、産業医は従業員の業務内容を正しく理解し、適切な就業判定を行うことが求められます。

さらに、医師が意見を述べる際には、業務内容だけでなく、労働条件についても把握しておく必要があります。
この点については、別の記事に詳しくまとめていますので、ぜひそちらもご参照ください。



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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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