キャリアコンサルタント・心理学について|士業系産業医が語る産業保健
2023/04/10 2023/04/10
【産業医・キャリコン・人事労務担当者向け】産業保健分野におけるキャリアコンサルタントと産業医の接点について
キャリアコンサルタントと産業医の業務の接点についてお話したいと思います。結論を申し上げますと、産業医とキャリアコンサルタントは非常に相性がいいです。キャリアコンサルタントの研鑽を積むと、産業医としての付加価値が高まると思います。
キャリアコンサルタントについて、ご存じない方は、転職時の相談相手として考えられる方も多いかもしれませんが、実際には転職時に関わるだけではありません。
今回の記事が、多くの職種の方にキャリアコンサルタントの職務や役割、そしてキャリコンができることについての理解を深める一助となればと思います。
キャリアコンサルタントと産業医の接点について
産業医がキャリアで悩む従業員と面談する可能性
医師でキャリア関連のお仕事をしている方は少ないかと思いますが、産業医活動を行う上では非常に重要だと感じる場面が多いです。
産業医がキャリアについて考慮することは、私は必須と考えています。
例えば以下のようなケースではどうでしょうか
(以下は架空のケースです)
「メンタル不調の方の面談をお願いします。」というお電話が産業医のクライエント事業所よりあり、産業医面談を予定した。
事前情報をわかっている範囲で事業所にお聞きすると、昇進してから元気がなさそうである。思いつめた表情をしているとのことであった。つまり、当該労働者は、上司による「ラインによるケア」により、産業医面談を勧められ、応じたという状況でした。
実際に医師面談してお話をお聴きしたところ、以下のような話でした。
入社以来、部品メーカーの生産技術部門で10年間働いてきたが、今年4月に営業部に異動となり、同時に課長に昇格した。
自分としては生産技術部門でずっとやっていけると思っていたが、営業の仕事の内容もよくわからないし課長の役割も果たせていないと感じている。このまま続けていく自信がない。
医師の視点からすると、不眠も、抑うつ症状もなさそうである。
産業医の所感としては、確かに元気はなさそうであるが、精神科に紹介する必要もなさそう。就業上の措置も必要なさそうである。
このように、産業医にメンタルヘルス不調が疑われる従業員の面談を依頼されることはよくあります。そして、産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます(安衛法13条5項)。
労働安全衛生法 13条5項
産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
では、この方に健康管理等について「必要な勧告」を勧告すべきでしょうか。勧告する場合には、どのような勧告をすべきでしょうか。
今回の状況では、医療が必要ではなく、就業上の措置も必要なさそうです。医師の意見としては、「通常勤務」となります。しかし、これで当該労働者の方の問題は解決したのでしょうか。
このような状況は、産業医の先生方にとってよくありませんでしょうか。
これが、医療や就業上の措置が必要でな場合で、本人がキャリアの悩んでいるという状況です。知らなければ、産業医も会社もどうしていいのかわからない状況になります。
例えば、キャリアコンサルティング技能検定2級の過去問の「実技(面接)試験」の「ロールプレイケース」を見てください。著作権とかありますので、リンクだけ載せますね。
このロールプレイケースを見てみましょう。5人ほどロールプレイケース内容が記載されていますよね。キャリアコンサルティング技能検定2級に認定されるためは、このような方にキャリアコンサルティングで対応する実技試験に合格しなければなりません。
いかがでしょうか。産業医の皆様は、メンタル不調が疑われるということでお会いする従業員の方々の面談ケースになんとなく似ていると感じないでしょうか。
キャリアとキャリアカウンセリング
では、「キャリア」とは何でしょうか?
「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すものです。「職業生涯」や「職務経歴」などと訳されます。
「キャリア」とは、一般に「経歴」、「経験」、「発展」さらには、「関連した職務の連鎖」等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念として捉えられる。
引用:「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書について (厚生労働省 平成14年7月31日)
今回の事案では、キャリアコンサルティングが有効な可能性ががあります。
「キャリアコンサルティング」とは、労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行うことをいいます
(厚生労働省HP キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタントより)
産業医の現場でキャリアコンサルティングを行っていく場合には
「職業の選択」という部分より
「職業生活設計又は職業能力の開発及び向上」の方がメインになりそうですね。
こう言った、キャリアコンサルティングを行うことにより、労働者が、元気に生き生きと働けるように支援するのです。
そして、キャリアコンサルティングを行う職種としては、キャリアコンサルタントという国家資格・技能検定があります。
また、キャリアコンサルタントは医療による支援が必要であると考えた場合、適切に医療機関等へリファーすることが求められています(キャリアコンサルタント倫理綱領8条参照)。
企業分野において、キャリアコンサルタントが医療へリファーが必要と判断する場合には、産業医にリファーすればよいのです。
もし、企業に産業医がいなければどうすればいいでしょうか、どこかでリファーする医師を探さなければなりませんね。
そのためにも、キャリアコンサルタントは、どちらかの医師と連携する体制をとっておきましょう。
キャリアコンサルタント 倫理綱領
(任務の範囲)
第8条 キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティングを行うにあたり、自己の専門性の範囲を自覚し、専門性の範囲を超える業務の依頼を引き受けてはならない。 2 キャリアコンサルタントは、明らかに自己の能力を超える業務の依頼を引き受けてはならない。 3 キャリアコンサルタントは、必要に応じて他の分野・領域の専門家の協力を求めるなど、相談者の利益のために、最大の努力をしなければならない。
産業医とキャリアコンサルタントの連携について
先ほどの話で、キャリアコンサルタントが医療へのリファーが必要な場合、医師(産業医)にリファーする必要があると述べました。
しかし、逆に、私は産業医や他の関係者がキャリアコンサルタントの支援が必要だと判断する場合、医師(産業医)からキャリアコンサルタントへのリファーを行うべきであると考えています。
私は、産業医面談を数多くこなしてきて、キャリアに悩んだ結果、メンタルヘルス不調に陥るという事案も数多く経験しております。このような問題を未然に防ぐために、キャリアコンサルタントの介入は効果的だと考えています。
しかし、医師や産業医はキャリアコンサルタントの役割や業務内容をよく知らない場合が多いと思われます。キャリアコンサルタントはキャリアに関するカウンセリングを行う専門家ですが、臨床心理士や公認心理師などの心理系カウンセラーとも異なる役割を果たします。特に留意したいのは、キャリアコンサルタントが非医療の職種であることです。
私は、医療職と非医療職の連携が今後の産業保健において重要な要素になると考えています。
今回の事例のように、メンタルヘルス不調で産業医の支援を要するという話で産業医面談を行った場合に、実はキャリアの支援が必要なケースであるということは非常に多いです。
もちろん、キャリアコンサルタントが継続してキャリアの支援を行ってゆく中で、メンタルヘルス不調の発生の可能性があるということで、再度、キャリアコンサルタントから産業医へリファーされるということもあるかもしれません。
さらに、キャリア支援の過程で組織改善や組織開発の取り組みも行われることがあります。
また、治療と仕事の両立支援のガイドラインにも、キャリアコンサルタントという職名が明記されています。したがって、産業医とキャリアコンサルタントは密接に関わり合っていると考える必要があります。
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン
このガイドラインは、事業場が、がん、脳卒中などの疾病を抱える方々に対して、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と仕事が両立できるようにするため、事業場における取組などをまとめたものです。
https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/guideline/
まとめ
産業医とキャリア支援については、連携している事案は少ないかと思います。
産業医とキャリアコンサルタントの連携は、産業保健のみならず、組織改善・組織開発にも通ずるものであります。
継続的にキャリアコンサルタントが従業員に関わることで、1次予防としてメンタルヘルスの発生を防ぐだけでなく、メンタルヘルス不調を早期に発見し、早期に介入できるというメリットもあります。
産業医には、なじみはありませんが、「キャリア」とは、過去から将来の長期にわたる職務経験やこれに伴う計画的な能力開発の連鎖を指すものです。「職業生涯」や「職務経歴」などと訳されます。
この、キャリアの悩みに対応するのがキャリアコンサルタントになります。
産業医がキャリアについて考慮することは、私は必須と考えています。そのためには、産業医がキャリアというものを理解し、キャリアコンサルタントという職種の方々の役割、できることをきちんと理解することが必要だと思われます。
また、私は産業医や他の関係者がキャリアコンサルタントの支援が必要だと判断する場合、医師(産業医)からキャリアコンサルタントへのリファーを行うべきであると考えています。
幸いにして、私は質の高いキャリアコンサルタントとお仕事をさせていただいており、大変、頼りにさせていただいています。
労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。