2023/04/14 2023/04/14
【産業医・人事労務担当者向け】特殊健診の診断区分と医師の意見(就業上の措置)について
皆様はの事業所では特殊健診は行われていますでしょうか。特殊健診を受けられて、結果が出たのち、事業者はどのような手続きを行っているのかご存じでしょうか。あるいは、特殊健診の労務管理上の対応をされておられますでしょうか?きちんと事後措置をなされていますでしょうか。
では、特殊健診の就業上の結果はどのような判定になっているでしょうか。
診断区分としてA、B1、B2、Cなどの表示がされているのでしょうか?
今回は、このような特殊健診の事後措置である診断区分、医師の意見の就業区分についてお話いたします。
特殊健診の事後措置の法令について
特殊健診の事後措置についての法令と指針
特殊健診の事後措置については、具体的にはどのような手続きを取ればよいのでしょうか。
特殊健診の事後措置に関しては、じん肺を除く場合は、労働安全衛生法の第66条の4および66条の5に基づいて規定されています。
労働安全衛生法
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)第六十六条の四 事業者は、第六十六条第一項から第四項まで若しくは第五項ただし書又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
(健康診断実施後の措置)第六十六条の五 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成四年法律第九十号)第七条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。2 厚生労働大臣は、前項の規定により事業者が講ずべき措置の適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
特殊健診の事後措置について、結論を述べますと、一般健診と同様の手順を取ることになります。
まず、診断区分を確定し、その後、就業上の対応策を決定することとなります。
特殊健診の診断区分も一般健診と同じでいい
皆様の特殊健診の結果は、どのような判定になるのでしょうか。ひょっとしたら皆様の事業所では、判定区分としてA、B1、B2、Cなどの分類が使われているかもしれません。
しかし、健康診断の事後措置に関する以下の指針によれば、このように規定されています。
(抜粋)
2 就業上の措置の決定・実施の手順と留意事項
(1)健康診断の実施
事業者は、労働安全衛生法第66条第1項から第4項までの規定に定めるところにより、労働者に対し医師等による健康診断を実施し、当該労働者ごとに診断区分(異常なし、要観察、要医療等の区分をいう。以下同じ。)に関する医師等の判定を受けるものとする。
「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(厚生労働省)
このように「労働安全衛生法第66条第1項から第4項まで」と記載があります。労働安全衛生法66条2項と3項の規定は、いわゆる特殊健診の規定になります。以下、労働安全衛生法66条2項、3項について以下、解説します。
労働安全衛生法(健康診断)第六十六条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。4 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
e-Gov 労働安全衛生法
まとめてみましょう。
労働安全衛生法66条2項
「有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し・・・医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。」
労働安全衛生法66条3項
「有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し・・・歯科医師による健康診断を行なわなければならい」
つまり、2項が医師による、3項は、いわゆる歯科医師による特殊健診になります。ちなみに、1項は医師による一般健診になります。この条文は重要ですので覚えておきましょう。
つまり、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」における、「労働安全衛生法第66条第1項から第4項まで」という規定には一般健診も特殊健診(じん肺健診を除く)も含まれるということになります。
以上より、特殊健診の診断区分も一般健診と同じでいいということになります。
特殊健診ではどのような診断区分を使うべきか
それでは、その診断区分はどのようなものを使えばいいのかについてですが、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」上は、「当該労働者ごとに診断区分(異常なし、要観察、要医療等の区分をいう。以下同じ。)に関する医師等の判定を受けるものとする。」(上記指針の緑ハイライト部分)とあり、診断区分は「異常なし、要観察、要医療等の区分をいう。」となっています。
しかし、これは指針であり、こうしなければならないというものではありません。
合理的な理由があれば、なんでもいいのです。
「A、B1、B2、C・・・」という判定でもいいですし、「松、竹、梅」でもいいでしょう。
しかし、指針がこう言っているので、「異常なし、要観察、要医療等」がよいかとは思います。
ただ、健康診断を行う医療機関の診断区分の医学的根拠がしっかりしていることが重要です。
もし、皆様の事業所で特殊健康診断を実施されているのであれば、一度、特殊健診を実施している医療機関にどのような場合に、どのような判定になるかをお聞きしてみてもよいかと思います。
じん肺健診の判定区分は全く別物です
なお、注意が必要なのは、じん肺健診です。じん肺検診は、じん肺法に基づくため、上記の「労働安全衛生法第66条第1項から第4項」に含まれないのでじん肺健診について、この「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」は対象外ということになります。
じん肺の事後措置については別記事にて記載いたします。
特殊健診の医師の意見(就業区分)について
そして、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」によりますと、以下のように診断区分を決定したのち、医師の意見である就業区分を決定します。
3)健康診断の結果についての医師等からの意見の聴取 事業者は、労働安全衛生法第66条の4の規定に基づき、健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)について、医師等の意見を聴かなければならない。イ 意見を聴く医師等事業者は、産業医の選任義務のある事業場においては、産業医が労働者個人ごとの健康状態や作業内容、作業環境についてより詳細に把握しうる立場にあることから、産業医から意見を聴くことが適当である。 なお、産業医の選任義務のない事業場においては、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等から意見を聴くことが適当であり、こうした医師が労働者の健康管理等に関する相談等に応じる地域産業保健センターの活用を図ること等が適当である。ロ 医師等に対する情報の提供事業者は、適切に意見を聴くため、必要に応じ、意見を聴く医師等に対し、労働者に係る作業環境、労働時間、労働密度、深夜業の回数及び時間数、作業態様、作業負荷の状況、過去の健康診断の結果等に関する情報及び職場巡視の機会を提供し、また、健康診断の結果のみでは労働者の身体的又は精神的状態を判断するための情報が十3 分でない場合は、労働者との面接の機会を提供することが適当である。また、過去に実施された労働安全衛生法第66条の8、第66条の9及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導等の結果又は労働者から同意を得て事業者に提供された法第66条の10第1項の規定に基づく心理的な負担の程度を把握するための検査の結果に関する情報を提供することも考えられる。なお、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第51条の2第3項等の規定に基づき、事業者は、医師等から、意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供する必要がある。また、二次健康診断の結果について医師等の意見を聴取するに当たっては、意見を聴く医師等に対し、当該二次健康診断の前提となった一次健康診断の結果に関する情報を提供することが適当である
この医師の意見である就業区分も「労働安全衛生法第66条第1項から第4項まで」の健診であれば、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(厚生労働省)が適用され、一般健診、特殊健診の区別に関係なく、指針にある以下でよいことになります。
私としては、この指針指針により、以下の様な区分がよいかと思います。
医療区分→異常なし、要観察、要医療等
就業区分→通常勤務、就業制限、要休業
しかし、前述のとおり、なんでもいいのです。きちんと医学的根拠や、健康診断の精度管理ができていることが重要でしょう。
特殊健診の結果のフィードバック
特殊健診の結果は、就業上の措置を決定するだけではありません。医師は、特殊健診の結果を見て、職場と業務の改善について意見を述べることがあります。こちらについては、現場を知っている産業医が望ましいです。
(抜粋)
作業環境管理及び作業管理についての意見 健康診断の結果、作業環境管理及び作業管理を見直す必要がある場合には、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、作業方法の改善その他の適切な措置の必要性について意見を求めるものとする。(抜粋)
なお、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第51条の2第3項等の規定に基づき、事業者は、医師等から、意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供する必要がある。
(抜粋)
イ 意見を聴く医師等 事業者は、産業医の選任義務のある事業場においては、産業医が労働者個人ごとの健康状態や作業内容、作業環境についてより詳細に把握しうる立場にあることから、産業医から意見を聴くことが適当である。
「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(厚生労働省)
また、事業者は、以下の様に医師等から、意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供する必要があります(労働安全衛生規則51条の2第3項:青色ハイライト部分)。
こちらが労働安全衛生規則51条の2になります。
労働安全衛生規則(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第五十一条の二 第四十三条等の健康診断の結果に基づく法第六十六条の四の規定による医師又は歯科医師からの意見聴取は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 第四十三条等の健康診断が行われた日(法第六十六条第五項ただし書の場合にあつては、当該労働者が健康診断の結果を証明する書面を事業者に提出した日)から三月以内に行うこと。
二 聴取した医師又は歯科医師の意見を健康診断個人票に記載すること。
2 法第六十六条の二の自ら受けた健康診断の結果に基づく法第六十六条の四の規定による医師からの意見聴取は、次に定めるところにより行わなければならない。
一 当該健康診断の結果を証明する書面が事業者に提出された日から二月以内に行うこと。
二 聴取した医師の意見を健康診断個人票に記載すること。
3 事業者は、医師又は歯科医師から、前二項の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかに、これを提供しなければならない。
まとめ
このように、一般健診と特殊健診の医療区分と就業区分は、じん肺を除いて同様であり、問題ありません。具体的な区分については、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」を参照しましょう。
そして、医療区分と就業区分に関しては、健診を実施する医療機関や判定を行う医師が自由に設定しても問題ありません。医師の意見を述べる際、事業者は医師等から労働者の業務に関する情報を求められた場合、速やかに情報を提供する必要があります。
また、医師・産業医は特殊健診の結果を見て、職場や業務の改善についても意見を述べることがあります。
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