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【初心者向け】産業医・人事労務系担当者が知っておくべき、傷病手当金の支給要件に関する基本的な知識について解説

まず、皆様は「傷病手当金」という言葉を聞いたことがありますか?傷病手当金は、業務によらない病気で休職した場合に生活を支えるために設けられた制度です。今回は休職に関連する傷病手当金の基本について説明いたします。この記事では、わかりやすさを重視し、難しい言葉をなるべく使用しません。産業医や人事労務担当者が知っておくべき情報です。

傷病手当金の支給要件に関する基本的な知識について

傷病手当金とは

まず、先述の通り、傷病手当金は業務に関係のない病気による休職時に生活支援のために支給される制度です。傷病手当金の支給は、健康保険に加入している方が対象となりますので、要するに健康保険証を所持している方が対象です。短時間勤務の場合、健康保険に加入していないことが一般的です。

それでは、傷病手当金の要件を以下に示します。

傷病手当金の支給される要件
  1. 業務外の事由による病気やけがの療養のための休業であること
  2. 仕事に就くことができないこと
  3. 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

以上の3つになります。こちらは健康保険法99条に記載されています。

(傷病手当金)
第九十九条 被保険者(任意継続被保険者を除く。第百二条第一項において同じ。)が療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して三日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する。
2 傷病手当金の額は、一日につき、傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した十二月間の各月の標準報酬月額(被保険者が現に属する保険者等により定められたものに限る。以下この項において同じ。)を平均した額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)の三分の二に相当する金額(その金額に、五十銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、五十銭以上一円未満の端数があるときは、これを一円に切り上げるものとする。)とする。ただし、同日の属する月以前の直近の継続した期間において標準報酬月額が定められている月が十二月に満たない場合にあっては、次の各号に掲げる額のうちいずれか少ない額の三分の二に相当する金額(その金額に、五十銭未満の端数があるときは、これを切り捨て、五十銭以上一円未満の端数があるときは、これを一円に切り上げるものとする。)とする。
一 傷病手当金の支給を始める日の属する月以前の直近の継続した各月の標準報酬月額を平均した額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)
二 傷病手当金の支給を始める日の属する年度の前年度の九月三十日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎となる報酬月額とみなしたときの標準報酬月額の三十分の一に相当する額(その額に、五円未満の端数があるときは、これを切り捨て、五円以上十円未満の端数があるときは、これを十円に切り上げるものとする。)
3 前項に規定するもののほか、傷病手当金の額の算定に関して必要な事項は、厚生労働省令で定める。
4 傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して一年六月間とする。

e-Gov 健康保険法

健康保険法99条の要件に合致すれば支給されることとなりますが、実際の事案では該当し要件を満たすかどうかについて微妙な案件はかなりあります。
必ず健康保険の保険者(健康保険のお問い合わせ窓口)に確認しましょう。
では、それぞれの要件を見てみましょう。

業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること

傷病手当金は、業務外の原因による病気やケガの場合にのみ支給されます。業務による病気やケガの場合は、労災保険から給付されるため、傷病手当金は支給されません。
また、通勤災害の場合も労災保険が適用され、傷病手当金は支給されません。

しかし、法人の役員は健康保険に加入していますが、労働者ではないため労災保険の対象外となります。そのため、業務上の理由により休業すると労災給付を受けることはできず、傷病手当金も支給されません。このような状況にならないように注意が必要です。ただし、この場合、労災の特別加入という方法を利用することで、このような事態を回避することができます。

また、医師からの療養を受けない場合、例えば病気後に自宅療養の期間についても、医師の意見及び事業主の証明書等の書類等を資料として支給されるかどうかの判断がなされます。

なお、業務上の事由(労災)か業務外の病気(私傷病)か判断が難しい場合は、まず労災を申請します。
しかし、労災かどうか判断が難しい案件であれば、労災認定に数か月の時間がかかる場合があります。その場合、その数か月に金銭を得られず、労災申請者の生活が困窮する可能性があるため、同時に傷病手当金の申請も行うことが一般的です。
この場合、労働基準監督署と健康保険の保険者に相談することをおすすめします。
また、傷病手当金の申請書には、労災申請中である旨を記載する欄があります。


仕事に就くことができないこと

仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者である主治医の意見等をもとに、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。
こちらについては、主治医と産業医の意見が割れる場合もあります。

労務不能の判定は必ずしも医学的基準によって行わなければならないものではなく、「その被保険者の従事する業務の種別を顧慮しその業務に堪え得るか否かを標準」として、社会通念により保険者が個々に事例を判断するととなっています(昭和29.12.9、保文発14236号)。

○傷病手当金の支給について (昭和二九年一二月九日、保文発第一四二三六号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb3505&dataType=1&pageNo=1

連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと

こちらに関しては、仕事を休んだ日から連続して3日間の次の日である4日目以降の日に対して、1日ごと傷病手当金が支給されます。
この連続する3日間のことを「待機」と言います。
ポイントは連続3日でないと待機が完成しないことです。土日、祝日はカウントに入ります。
終業時間中の途中でお仕事ができなくなった場合には、待機の初日にカウントします。
待機期間については産業医先でご相談されることも多いので、詳しく記載します。

 傷病手当金の支給要件である待機の完成パターン

待機期間につきましては、以下に例を示します。
注意が必要なのですが、実際の事案では微妙に要件に合わなかったりする場合もありますので
必ず、加入する健康保険組合に状況をお話しして、確認しながら対応しましょう。

 待機の完成する場合の基本形です。

下の図では、3/29-3-31までで3日間の欠勤があり、待機が完成しているので、同一の疾病であれば4/1以降の欠勤日に対して傷病手当金が支給されます。

 3日連続しないと待機は完成しません。

下の図では、2日連続やとんだ欠勤で3日あっても待期期間は完成せず、連続3日という要件が必要になります。

 土日祝日は待機の期間に含まれます。

下の図では、お休みである土曜日から病気で働けなくなり、主治医からも土曜日から労務に服することができない旨の証明があった場合には火曜日から傷病手当金が支給されます。
待機期間に土日祝日が含まれることが覚えておきましょう。

待機以外の要件を満たしている場合に取得した有給休暇は、待機のカウントに入ります。 

下の図は、3/29から3/31まで療養のために欠勤したが、本人が有給休暇が余っているので30日と31日に有休休暇を取得したいといった場合です。待機期間を有給休暇で処理することはできますので覚えておきましょう。

がんのように長く療養を要する病気の場合、当該労働者にとって積極的に有給休暇を取得したほうがいいか、欠勤として有給休暇の日数を残しておいた方がいいかは状況や制度によって変わるので注意しましょう。

例えば、がんの外来通院で1日欠勤する場合は就業規則上は病気による欠勤制度を使えるが、親族の結婚式に参加する場合は有給休暇を取得するしか方法がないといった場合に、有給休暇の日数がない状態で結婚式に参加するために欠勤してしまい、欠勤に対して業務指導改善がなされるなどが起こりえます。


 業務中に体調不良でお仕事ができなくなった場合

こちらのパターンは、3月29日に体調不良で早退した場合です。
早退は、待期期間のカウントの初日に含まれますので、覚えておきましょう。
なお、労務に服することができなくなった状態になった時が業務終了後である場合には翌日からの起算になります。
引用:傷病手当金ノ支給ニ関スル件 (昭和五年一〇月一三日 保発第五二号)


 まとめ

傷病手当金の支給要件で産業医が関わりそうな部分をお話しいたしました。傷病手当金が支給される3つの要件はしっかり理解しておきましょう。

業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であることが必要です。業務による病気やケガであれば、労災保険の対象になります。

待機期間については、様々なパターンがあります。傷病手当金がいつから支給されるかは、当該休職する従業員にとって重要な事項なので間違いがないようにしましょう。
実際の事案では微妙に支給要件に合致しなかったりする場合もありますので、必ず、加入する健康保険組合に状況をお話しして、確認しながら対応しましょう。


 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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