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【人労系担当者向け】傷病手当金の支給期限が近付いたら障害厚生年金の請求をしましょう

産業医としての経験から言うと、よく遭遇する話があります。就業規則により、最大2年間の休職が認められている状況で、メンタル疾患により長期間休職している従業員がいます。その方が1年半の休職ののち、大慌てで突然復職したいと申し出ることがあります。産業医として面談を行った際、その方が復職することは非常に難しいと感じることがありますが、本人は復職可能だと主張し、復職可能の診断書を持ってきます。

今回は、なぜ、このような状況が起こり得るかと、このような状況に対応するため情報を提供したいと思います。

 私傷病で休職中は傷病手当金が支給されます。

 傷病手当金の支給期限が近づいたら、障害厚生年金への切り替えを考慮しましょう

前述のような場合、まずは、従業員本人と会社に傷病手当金の状況について聞いてみましょう。傷病手当金は別の記事で解説しています。傷病手当金を受給しているということは、ほとんどの場合、健康保険加入者であり、厚生年金保険にも加入していると考えられます。

病気や怪我による休職中の従業員に支給される傷病手当金は、支給開始日から1年6ヶ月の期間にわたって通算で支給されます。この「通算」という点は非常に重要ですので、覚えておきましょう。私傷病で休職し傷病手当金を受け取っている従業員の中には、この1年6ヶ月の支給期限が近づくと、手当金の打ち切りにより経済的に困窮することに気づき、急に復職を希望するケースが少なくありません。また、多くの企業ではこのような状況に対してどのように対処すべきかわからないことが多いです。

前述の例は、従業員がこのような状態になったため、あわてて復職したいといった状況の例になります。

このような場合、傷病手当金から障害厚生年金への切り替えを準備することが一つの解決策です。前述のように、障害の年金については、障害基礎年金と障害厚生年金があります。障害厚生年金では、障害の重症度に応じて1級、2級、3級の等級が設定されています。ここで、1級が最も重い障害、2級、3級と続き、障害の程度は軽くなっていきます。同様に、障害基礎年金では、1級と2級があります。

以下に、障害厚生年金における障害の程度と、等級についての解説を引用しておきます。

障害厚生年金に該当する状態

障害厚生年金が支給される障害の状態に応じて、法令により、障害の程度が定められています。

障害の程度1級
他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできないほどの障害の状態です。身のまわりのことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲がベッドの周辺に限られるような方が、1級に相当します。

障害の程度2級
必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活は極めて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害です。例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方(または行うことを制限されている方)、入院や在宅で、活動の範囲が病院内・家屋内に限られるような方が2級に相当します。

障害の程度3級
労働が著しい制限を受ける、または、労働に著しい制限を加えることを必要とするような状態です。日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある方が3級に相当します。

引用:日本年金機構:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-02.html

上記のように、障害厚生年金が支給される障害の状態に応じて、法令により、障害の程度が定められています。

1級や2級の障害等級に該当する方は比較的少ないですが、3級に該当する方は多いと考えられます。障害厚生年金の3級を受給するための条件を簡潔に説明すると、基本的には完全に労働能力が失われている状態が必要です。特に、傷病手当金を受給中で「傷病が治らない」と判断された場合に障害厚生年金へ切り替わる際、3級の受給条件が緩和されることがあります。この点はあまり知られていないかもしれませんが、人事労務担当者や産業医の方々はこの情報を把握しておくことが重要です。


障害厚生年金3級の場合、専門的な表現を使うと「報酬比例の年金額」が支給されます。2023年の基準では、最低保障額が583,400円以上に設定されています。具体的な年金額は、過去の健康保険加入期間中の標準報酬月額を基に計算されます。しかし、現代の職場環境においては、転職や中途採用が一般的であるため、多くの企業では従業員が新卒から現在に至るまでの全標準報酬月額を完全に把握するのは困難です。そのため、企業が従業員の障害厚生年金額を計算することは難しいことが多いです。

にもかかわらず、従業員にとって受給する障害厚生年金の額を知ることは極めて重要です。この年金額は日本年金機構に問い合わせることで確認できます。まずは従業員の居住地を管轄する日本年金機構に連絡を取り、予約をしてから、年金手帳などの必要な書類を持参して相談することが推奨されます。

もし、新卒採用時からの標準報酬月額がすべて知ることができる場合には、年金額を計算できますが、産業医が年金アドバイザーであれば、簡単に計算できるでしょう。

 実際の傷病手当金から障害厚生年金の切り替えの具体例

さて、具体的にイメージできるように、以下のような架空の事例で考えてみましょう。

①23歳より同じ会社で厚生年金保険・健康保険に加入している30歳の方がいます。
②体調不良があり、初めて病院を受診し、「うつ病」診断されたのは2021年1月1日であった。(これを初診日と言います)
③2021年7月1日より、「うつ病」が悪化し、労働ができない状態になり休職を開始し、その後もずっと休職をしている。

 

欠勤開始から3日は傷病手当金の要件である待機期間で傷病手当金は支給されません。つまり、2021年7月1日から休み初めであれば、7月3日まで傷病手当金は支給されません。
2021年7月4日より、傷病手当金が支給され、ずっと休んでおり、傷病手当金が継続して支給されるのであれば、1年6月間支給されるので、2023年1月3日まで傷病手当金が支給されます。

障害厚生年金と障害認定日

障害厚生年金の受給のためには、障害の認定をしてもらわなければなりませんが、その、障害を認定する日を障害認定日と言います。

障害認定日

障害の状態を定める日のことで、その障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6カ月を過ぎた日、または1年6カ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日をいいます。
なお、初診日から1年6カ月以内に、次に該当する日があるときは、その日が「障害認定日」となります。

人工透析療法を行っている場合は、透析を初めて受けた日から起算して3カ月を経過した日
人工骨頭または人工関節をそう入置換した場合は、そう入置換した日
心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD)または人工弁を装着した場合は、装着した日
人工肛門の造設、尿路変更術を施術した場合は、造設または手術を施した日から起算して6カ月を経過した日
新膀胱を造設した場合は、造設した日
切断または離断による肢体の障害は、原則として切断または離断した日(障害手当金の場合は、創面が治癒した日)
喉頭全摘出の場合は、全摘出した日
在宅酸素療法を行っている場合は、在宅酸素療法を開始した日

日本年金機構HPより
https://www.nenkin.go.jp/service/yougo/sagyo/ninteibi.html

障害認定日は障害の原因となった病気やけがの初診日から1年6ヶ月経過した日と定められています。例えば、前述のモデルにおいて、初診日が2021年1月1日の場合、障害認定日は2022年7月1日となります。

障害認定日に3級の障害程度に該当し、さらに2022年7月1日以降に障害厚生年金の申請が認められた場合、障害厚生年金3級の受給資格が得られます。ただし、これは初診日の要件を含む他の障害厚生年金の受給条件を満たしていることが前提です。

しかし、傷病手当金と障害厚生年金を同時に受給することはできません。障害厚生年金が優先され、傷病手当金は障害厚生年金の額との差額がある場合に限り、その差額のみが支給されます。

多くの場合、傷病手当金の額は障害厚生年金よりも高いことが一般的ですが、これは個人によって異なります。したがって、具体的な金額や受給資格については、年金事務所に確認する必要があります。障害厚生年金の受給が不可能な場合や、受給額が非常に低い場合など、個々の状況に応じた対応が必要ですので、年金事務所での確認が重要となります。

年金事務所への相談

傷病手当金の支給期限が終了する場合、障害厚生年金を受給する可能性は一般的に高いです。そのため、障害厚生年金を受給できる場合、傷病手当金の支給期限が切れても収入が突然なくなることは少ないでしょう。ただし、いつ年金事務所に障害厚生年金を申請するかが重要です。この申請プロセスは専門用語で「裁定請求」と呼ばれます。

初診日から時間を経て休職し、傷病手当金を受給する場合、つまり初診日と障害認定日の間に大きな時間差がある場合、障害認定日は通常より前に設定されることがあります。そのため、障害認定日に合わせて年金事務所に相談するのが適切です。以下では、障害認定日と障害厚生年金の受給開始日が大きくずれるケースの例を示します。
このような場合、障害厚生年金の裁定に時間がかかることがあっても、傷病手当金が長期間支給されるため、急ぐ必要はありません。



通常、裁定請求が行われてから審査が完了するまでには、事案にもよりますが、約3ヶ月程度かかることが多いです。また、請求に必要な書類の準備にも時間が必要です。そのため、初診日と休職開始日が同日で、その後も継続して傷病手当金を受給している場合、特に回復の見込みが少ない場合は、支給期限が終了する約6ヶ月くらい前に、一度は年金事務所にお電話でご相談することをお勧めします。年金事務所は、今後の対応についてのアドバイスを提供してくれるでしょう。
以下に、初診日と休職開始日が同じである場合の具体的なモデルを示します。」


年金事務所への相談に関しては、日本国内のどの年金事務所でも個人からの相談を受け付けています。実際に窓口で相談することが多いため、自宅に近い年金事務所に電話して相談し、訪問日程を決めるのが便利です。

電話で初めて相談する際には、基礎年金番号を事前に準備しておくと手続きがスムーズに進みます。この番号を電話で伝えることで、迅速に対応を受けることができます。」

 

まとめ

傷病手当金が1年6ヶ月間支給された後、金銭的に困る可能性がある場合、障害厚生年金への切り替えが検討できます。そのため、病気により長期間働けない見込みがある場合は、早めに年金事務所へ相談することが重要です。

この相談のタイミングは、裁定請求に時間がかかるため、大まかに言って6ヶ月以上前が望ましいです。受傷日と休職開始日が同じであれば、傷病手当金の終了時期と障害認定日が重なることになります。しかし、初診日からしばらくたってから休職する場合には、傷病手当金の終了時期と障害認定日が大きくずれるかもしれません。

障害厚生年金の認定に要する時間はケースにより異なりますが、障害認定日が近づいたら裁定請求を行うことが推奨されます。

新卒から同じ会社で長く働いている場合、過去の厚生年金保険の標準報酬月額が分かるため、年金額の計算が可能です。しかし、転職している場合は、過去の標準報酬月額が分からないため、年金事務所に相談する必要があります。受給要件を含め、最終的には年金事務所での確認が必要です。

障害厚生年金3級の受給額は通常、傷病手当金よりも低いため、マネープランの見直しが必要になることがあります。このような場合、ファイナンシャルプランナー(FP)の知識が役立つでしょう。

従業員が将来的に傷病手当金の給付期限が到来し、金銭的な不安を感じている場合、障害厚生年金に関する適切な情報提供ができると良いです。年金は医学部の公衆衛生の講義で扱われるテーマであり、産業はこのような社会保障の制度を理解し活用することで、対応の幅が広がります。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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