事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【産業医・人事労務担当者向け】産業保健にかかわる様々な保健指導の種類について解説

皆様は健康診断に基づく保健指導は行ってますでしょうか。
実は、保健指導と言ってもさまざまな種類が存在します。

今回は、会社が関与する保健指導について、どのようなものがあるかご説明したいと思います。

産業保健におけるさまざまな保健指導について

保健指導の種類について

産業保健においては、一般的に保健指導が行われます。ただし、保健指導と一口に言っても、様々な種類が存在します。以下に主なものを挙げます。

①THP(トータルヘルスプロモーション)
②高齢者医療確保法に基づく特定保健指導
③労働安全衛生法66条の7による保健指導
④労災保険二次健康診断等給付(労災保険法の特定健診・特定保健指導)

これらについて、違いを説明していきましょう。

①THP(トータルヘルスプロモーション)

THPとは、トータル・ヘルスプロモーション・プラン(Total Health Promotion Plan)の略称で、労働安全衛生法第70条の2により厚生労働大臣が公表した指針に沿って、働く人が心と体の両面で健康的な生活習慣への行動変容を促進するために、事業場で計画的に行われる健康教育などの活動を指します。

こちらに関しては指針があり、「事業場における労働者の健康保持増進のための指針 」という指針です。この指針をTHP指針と呼びます。最初の公示第1号は昭和63年9月1日に行われました。当時はバブル経済が全盛期でした。

これに基づき、「職場における心と体の健康づくりのための手引き」(厚生労働省)が示されています。

職場における心とからだの 健康づくりのための手引き 2021年3月 ~事業場における労働者の 健康保持増進のための指針~
引用:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000055195_00012.html

2021年3月に改訂されています。改正の内容については、以下に指針を抜粋しています。

2 改正の内容 筋力や認知機能等の低下に伴う転倒等の労働災害を防止するため、体力の状況を客観的に把握し、自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、加齢による心身の衰えを確認するフレイルチェック等の健康測定の実施や保健指導への活用が考えられる旨規定するもの。 また、健康保持増進対策の考え方として、事業者は医療保険者と連携したコラボヘルスを積極的に推進すること、労働安全衛生法(昭和47法律第57号)に基づく定期健康診断の結果の記録等を積極的に医療保険者と共有すること及び当該記録等は電磁的な方法による保存・管理が適切であることを明確化したもの。

引用:「事業場における労働者の健康保持増進のための指針の一部を改正する件」の周知について(基発0331第1号 令和5年3月31日)


このTHPには、保健指導が含まれていました。
現在は「健康指導」と呼ばれており、以下の2つのステップで実施されます。まず、労働者の健康状態を把握し、次にその情報に基づいて運動指導や保健指導などを行います。令和元年度の改正以前に行われていた取り組み(健康測定結果を踏まえた運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、保健指導)は、一般的に健康指導に該当します(引用:「事業場における労働者の健康保持増進のための指針の一部を改正する件」の周知について)。

THPは以前に比べて注目度は低くなっていますが、保健指導の実施における根拠となる指針です。

②高齢者医療確保法に基づく特定保健指導

こちらは、労働安全衛生法ではなく、高齢者医療確保法に基づくものです。
注意していただきたいのは、「特定保健指導」という用語には後述する労災保険法によるものも存在することです。これらは異なる内容を指していますので、注意が必要です。

(厚生労働省HPより)
糖尿病等の生活習慣病については、若い時からの生活習慣を改善することで、その予防、重症化や合併症を避けることができると考えており、生活習慣を見直すための手段として、特定健康診査の実施や、その結果、メタボリックシンドローム該当者及びその予備群となった方々に対して、お一人お一人の状態にあった生活習慣の改善に向けたサポート(特定保健指導)を実施することとしております。
引用:「生活習慣病予防にお役立てください」厚生労働省 

以前、高齢者医療確保法の特定健診・特定保健指導が存在しなかった時代には、多くの企業がTHPを導入していました。しかし、高齢者医療確保法の「特定健診・特定保健指導」が導入されてからは、生活習慣改善の観点では、THPと特定健診・特定保健指導が重複することがあり、そのためにTHPの注目度は低下してきました。

③労働安全衛生法66条の7による保健指導

実は、労働安全衛生法において、保健指導は一つだけ条文があり、それが66条の7です。

労働安全衛生法(保健指導等)
第六十六条の七 事業者は、第六十六条第一項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第五項ただし書の規定による健康診断又は第六十六条の二の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
2 労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に努めるものとする。
e-Gov 労働安全衛生法

よく見ると、「努めるものとする」と書いてあります。
よって、保健指導の実施は努力義務です。

④労災保険二次健康診断等給付(労災保険法の特定健診・特定保健指導)

労災保険における二次健康診断等給付については、以下の記事を参照してください。

この労災保険の二次健康診断等給付の「等」には、保健指導が含まれています。ただし、この保健指導は高齢者医療確保法に基づく「特定保健指導」とは全く異なるものですので、注意が必要です。

つまり、特定保健指導としては、以下の2つが存在します。

  • 「高齢者医療確保法18条に基づく特定保健指導」
  • 「労災保険法26条に基づく特定保健指導」

同じ「特定保健指導」という呼び方でも、実際の保健指導の内容は全く異なりますので、注意が必要です。

それぞれの保健指導は実施主体が違います。

さて、保健指導はさまざまな形態が存在し、その内容の重複と実施主体の違いが悩ましい点です。

①は事業所が実施し、
②は健康保険の保険者が実施し、
③は医師(主に産業医)が実施し、
④は事業所と医療機関で共同して実施します。

これらは前述したように実施する根拠は違いますが、内容が重複する可能性が高いです。複数の保健指導を受ける場合、一方で痩せるように言われて、さらに別の場所でも同じように痩せるように言われることがあります。

THPに関しては、大規模な取り組みもあるため、できれば実施したいという感じでしょうか。メタボ関連については、高齢者医療確保法の特定保健指導がしっかりと実施されていると思いますので、医師(主に産業医)が労働安全衛生法第66条の7に基づく保健指導を行う場合は、メタボ以外の健康面をしっかりカバーすればよいのではと思います。

また、労災保険の二次健康診断等給付については、受けることも可能ですが、条件が厳しい(悪い状態である)ため、あえて労災保険の二次健康診断等給付を利用しなくても、医療機関での受診で十分な場合も多いと思われます。

保健指導とは言っても、さまざまな制度が存在し、それぞれの特徴を理解し、適切に制度を活用することが望ましいです。

 まとめ

産業・企業領域において行われる保健指導についてまとめました。
①THP(トータルヘルスプロモーション)、②特定保健指導、③安衛法66条の7、④労災給付二次健康診断等給付があります。
それぞれの特徴を解説いたしました。
人事労務担当者と産業医は、それぞれの保健指導の趣旨と特徴を理解して利用できるとよいでしょう。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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