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【心理学】つい、自分の得意分野で考えてしまう確証バイアス(Confirmation Bias)について

例えば、産業医のクライエント先で以下のような事案があったとしましょう

会社で、調子が悪い従業員がいる。具体的には、元気がなさそうである。思い悩んでいる。
元気にしているが、最近悩みがあってよく眠れないと言っている。
そういえば、最近、昇進して、部署が変わって新しい仕事をしているらしい。

会社は、この相談を産業医、キャリアコンサルタント、上司にしました。
すると各々、以下のように考えました。

  • 産業医
    →メンタルヘルス不調の発生が考えられる。
  • キャリアコンサルタント
    →昇進、または新しい部署の仕事、キャリアに悩んでいるのでは?
  • 上司
    →上司は「自分は、その従業員のことをよく知っている」と言っていました。従業員はもともと釣りが大好きで、上司もよく一緒に釣りに行っていましたが、最近は一緒に行けていません。おそらく、従業員が昇進して管理職になったことで忙しくなり、釣りに行けなくなったのかもしれません。それでストレスを感じて悩んでいるのではないか?

みんな考えることが違いますよね。なぜでしょう。
今回は、バイアスの一種、確証バイアス(Confirmation Bias)についてお話します。

つい、自分の得意分野で考えてしまう確証バイアス(Confirmation Bias)について

確証バイアスとは 

上記のように、同じ情報に対する産業医、キャリアコンサルタント、上司の思考は異なるものの、一定の特徴が見受けられます。それは、各人が自身の得意分野を主に考慮しているということです。
このような場合、確証バイアスが現れている可能性があります。

確証バイアスとは、思考の偏りのことです。人間は利用可能な全ての事実を処理するには時間とエネルギーが必要なため、既存の意見や知識と最も一致する情報を選ぶ傾向があります。その結果、自分の意見や知識を補強する情報に目が行き、それ以外の情報を軽視してしまうことがあります。
つまり、自分の既存の信念を支持する情報を積極的に探し出す傾向のことです。

確証バイアスは、さまざまな場面で誤った意思決定につながる可能性があります。
上記の例では、産業医、キャリアコンサルタント、上司の各人が自身の得意な分野や既知の情報に基づいて意見を補強しようとしている例です。彼らは、おそらく自分が正しいと思う分野の情報を重視し、それに基づいて判断しようとするでしょう。

結論として、何が正しい結果であるかではなく、確証バイアスの存在に常に注意し、自身の意見や知識に偏りがないかを常に考慮することが重要です。

確証バイアスを避けるには

確証バイアスを避ける方法については、バイアス全般を避けるための方法とも言えますが、自身にバイアスが存在することを認めることが重要です。そして、確証バイアスが常に発生する可能性があること、自分自身が、自身の意見に矛盾する情報を無視または軽視する傾向があることを理解し、注意することが必要です。それでも、確証バイアスを完全に避けることは難しいでしょう。

情報を収集する際には、利用可能な証拠を積極的に考慮することが重要です。客観的かつ包括的に情報を集め、違和感を感じた場合は、情報の信頼性を確認するためのさらなる情報収集を行いましょう。

 産業保健現場での確証バイアス

前述の例について

①産業医の立場から
前述の例を考えてみましょう。「メンタルヘルス不調の発生が考えられる。」と考えている産業医は、確証バイアスによりメンタルヘルス不調発生を補強する情報を集めようとするかもしれません。

また、産業医は通常、キャリアコンサルタントと接触する機会がなく、キャリアに関する学問を学ぶ機会も少ないかと思われます。そのため、キャリアコンサルタントの視点を理解できない可能性もあります。キャリアコンサルタントの視点を理解していないと、キャリアコンサルタントにリファーしようとは思わないかもしれません。

もし産業医が確証バイアスにより「メンタルヘルス不調」という情報を補強し、精神科の医療機関への紹介を勧めた場合、実際にはキャリアの悩みが原因であるにもかかわらず、医療での対応となってしまうかもしれません。

②キャリアコンサルタントの立場から
キャリアコンサルタントはキャリアコンサルティングを行い、キャリアアンカーの探索や必要に応じたキャリアサバイバル(職務と役割の戦略的プランニング)を提案するかもしれません。もし「調子が悪い」原因がキャリアに関連する悩みである場合、このようなアプローチが有効である可能性があります。

また、キャリアコンサルタントは確証バイアスにより、キャリアの問題に関する情報収集に偏ってしまい、メンタルヘルス不調を軽視してしまうかもしれません。確証バイアスにより情報収集は偏らないように心がけ、必要ならば適切に産業医などへリファーすることが望ましいです。

③上司の立場から
上司の理屈は科学的ではありませんが、結果として上司の言う通り、釣りに行けないことで悩んでいるのかもしれません。「釣りが大好き」について軽視せず、情報を集めることは重要かと思います。

 確証バイアスは自己効力感にも影響をあたえます

バンディーラ(Bandura)は、人がある問題に対処する際、その問題をどの程度効果的に処理できると考えているかという認知を重視し、これを自己効力感と呼びました。これは、簡単に言いますと、物事がうまくいくであろう期待であり、自信のようなものです。


確証バイアスを上手に利用することで、自己効力感を高めることができます。
先ほどの別の記事では、代理体験(モデリング)や「言葉による説得」が自己効力感の向上に寄与することを説明しました。

代理体験では、他の人ができることを見て、「その人ができるなら、私にもできるかもしれない」と考えることで、自己効力感が高まります。そのとき、「その人にできて自分にできない理由」について、確証バイアスにより軽視されてしまえば、自己効力感は高まりやすくなるでしょう。

同様に、言葉による説得でも、「あなたならできる!」という部分に確証バイアスが作用すれば、「あなたにはできない」という情報は軽視される可能性があり、自己効力感を高める方向に向かいます。

自己効力感を高めるために、確証バイアスを利用することは高度なテクニックですが、有用です。

集団に対する確証バイアスの影響

確証バイアスは集団の意思決定でも発生することがあります。集団の意思決定が偏った情報に基づいて行われると、問題が生じる可能性があることはわかるかと思います。例えば、確証バイアスによって集団の信念を補強する情報だけを収集し、同調が生じる場合、集団極化(リスキーシフト、コーシャスシフト)が発生するかもしれません。しかし、この集団極化には良い面も悪い面も存在し、集団極化によって困難な問題に立ち向かい、解決に至る可能性もあります。

集団に心理学の理論を適用する際には、バランスが重要です。異なる意見や視点を受け入れ、さまざまな情報を考慮することが求められます。バランスの取れた意思決定プロセスにおいて、確証バイアスの影響を抑制することは重要です。


その他 

その他、マーケティングのために、確証バイアスが利用されることがあります。ただし、それは本ブログの主題からやや外れるため、ここでは省略します。

私たちは、様々な場面で確証バイアスが関与していることを認識し、その中で生活していることを知りましょう。

 まとめ

確証バイアスとは、思考の偏りのことです。人間は利用可能な全ての事実を処理するには時間とエネルギーが必要なため、既存の意見や知識と最も一致する情報を選ぶ傾向があり、その結果、自分の意見や知識を補強する情報に目が行き、それ以外の情報を軽視してしまうことがあります。
つまり、自分の既存の信念を支持する情報を積極的に探し出す傾向のことです。
確証バイアスは、さまざまな場面で誤った意思決定につながる可能性があります。

確証バイアスを避ける方法については、自身にバイアスが存在することを認めることが重要です。
確証バイアスが常に発生する可能性があること、自分自身が、自身の意見に矛盾する情報を無視または軽視する傾向があることを理解しましょう。
それでも、確証バイアスを完全に避けることは難しいでしょう。

今回は、産業現場の事例についてお話しましたが、確証バイアスにより不利益を被らないようにすることも重要ですが、確証バイアスをうまく使いこなせることも重要であることを覚えておきましょう。




労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務を行っております。

メンタルヘルス不調に関する難しい案件にも対応いたします。社労士ですので、就業規則や社会保障も含めた労務管理を考慮した対応を行い、また、主治医との診療情報提供依頼書のやり取りを通じて、従業員の復職支援、両立支援を行うことを得意としています。

行政書士事務所として、休職発令の書面や、休職期間満了通知書、お知らせ等の書面の作成も行います。

メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務は、原則として、顧問医・産業医としての契約になります。
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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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