事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

化学物質の管理を解説

2024/01/01 2024/01/03

【安全衛生】従来法(A・B測定)と個人サンプリング法(C・D測定)の測定実施後の評価についてわかりやすく説明

今回は、作業環境の評価について解説します。まず、有名な労働衛生の3管理ですが、以下の3つから構成されています:作業環境管理、作業管理、そして健康管理です。
特に作業環境管理では、作業場における有害物質の環境測定が重要になります。実は、作業場で行われる環境測定には三つの種類があることを理解することが必要です。
作業環境測定とは、具体的に労働安全衛生法第65条に基づく測定を指しますが、これは作業場で実施される全ての環境測定を意味するわけではありませんので、注意が必要です。
以下でこれらについて簡単に整理します。

作業環境の有害物質の測定には、3種類があります。
①従来法と呼ばれるA測定、B測定
②個人サンプリング法というC測定、D測定
③特化物の溶接ヒュームや、リスクアセスメントに用いる「個人ばく露測定」

①と②は労働安全衛生法65条の作業環境測定ですが、③は労働安全衛生法65条の作業環境測定ではありません。




労働安全衛生法65条の作業環境測定の評価方法

労働安全衛生法65条に基づく、従来法と呼ばれるA測定・B測定と、個人サンプリング法というC測定・D測定については、評価方法は同じです。今回は、この測定の実務についてはお話せず、測定が終わった後のデータの取り扱いを解説します。

 

個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドライン(令和2年2月17日付け基発0217第1号)

引用:https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000595744.pdf

有害物質濃度のヒストグラムと第一評価値と第二評価値

この労働安全衛生法65条に基づく作業環境測定の評価ですが、まず、第一評価値と第二評価値を計算します。第一評価値と第二評価値については、以下のように定義されています。

四) 「第一評価値」とは、単位作業場所において考え得るすべての測定点の作業時間における気中有害物質の濃度の実現値のうち、高濃度側から五%に相当する濃度の推定値をいうものであること。

(五) 「第二評価値」とは、単位作業場所における気中有害物質の算術平均濃度の推定値をいうものであること。

作業環境評価基準の適用について (昭和六三年九月一六日 基発第六〇五号)

今回は、初心者向けに非常にわかりやすく説明します。作業環境測定(A・B測定、C・D測定)において、少なくとも5箇所(人)以上の測定点が必要です。ここで、この測定点が1万点あったと仮定しましょう。そのデータの値とその出現回数をプロットすると、以下のようなの図が得られます。このように、データの値とその頻度をプロットしたグラフをヒストグラムと呼びます。実際には、1万点も測れないので、測定した5点から統計処理して、以下の図を求めます。

注目すべき点は、データの分布がやや右に偏っていることです。理論上、このようなデータは通常、左右対称の正規分布を示すと考えられますが、実際には「Skewed to right」として知られるように、右に偏った分布を示すことがよくあります。統計処理では、こうした偏りを扱うために対数変換などの技術が使われることがあります。しかし、今回の解説では、分布の偏りをそのままの形で説明します。

さて、先ほどの測定で得た第一評価値と第二評価値を計算し、それを示します。ただし、この図は解説用の簡易的なものであり、正確なものではありません。




怒られそうですが、もっと簡単に言い換えます。正確な説明ではありませんので注意してください。

第一評価値とは、この作業場では高く見積もってもこのくらいだろうという濃度
第二評価値は、この作業場ではだいたいこれくらいだろうという濃度

「この作業場」では、「このくらいだろう」という推定値であるというのがポイントです。

第一・第二・第三管理区分と管理濃度

この部分では、先ほどのガイドラインに基づき、C・D測定において得られたデータより、第一管理区分、第二管理区分、第三管理区分の定義を確認するとしましょう。測定方法には、C測定のみを行うケースと、C測定とD測定の両方を行うケースがあります。今回の説明では、C測定のみを行ったケースに焦点を当てます。


この表で管理濃度という値が出てきますが、これは行政が設定した値になります。例えば、トルエンであれば20ppm、溶接ヒュームの管理濃度はマンガンとして0.05mg/㎥となります。これは決まっているので、厚生労働省HP等で調べるだけです。この管理濃度は、超えてはいけない基準だと思ってください。

管理濃度とは、作業環境管理を進める上で、有害物質に関する作業環境の状態を評価するために、作業環境測定基準に従って実施した作業環境測定の結果から作業環境管理の良否を判断する際の管理区分を決定するための指標です。

職場のあんぜんサイト(厚生労働省)

では、実際にどのような場合に第一・第二・第三管理区分になるか図示してみましょう。

第一管理区分

まず第一管理区分についてですが、これは高い方の評価値である第一評価値が管理濃度以下であることを意味します。つまり、この濃度の分布を示す作業場は、有害物質の濃度を高く見積もっても、管理濃度を超えることはあまりないということです。

つまり、第一管理区分であれば、心配はなさそうであることを意味します。

第二管理区分

第二管理区分に関しては、管理濃度が第一評価値と第二評価値の間である状態を指します。つまり、測定を行った作業場に有害物質の濃度が、平均的には管理濃度を超えることはないものの、有害物質の濃度を高く見積もった場合、管理濃度を超える可能性も考えられる状態です。

つまり、第二管理区分では、注意が必要となります。

第三管理区分

第三管理区分はその作業場の平均が管理濃度を超えている状態です。

気中有害物質の算術平均濃度の推定値が管理濃度を超えているのは、よくない状態なのはわかるでしょう。

 管理区分に応じた対応について

このように、労働安全衛生法65条による作業環境測定の結果の評価を行ったら、対応が必要になります。この対応については、各規則に個別規制として記載されています。以下は、特化則の条文ですが、他の個別規制にも同様の記載があります。

(評価の結果に基づく措置)
第三十六条の三 事業者は、前条第一項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所については、直ちに、施設、設備、作業工程又は作業方法の点検を行い、その結果に基づき、施設又は設備の設置又は整備、作業工程又は作業方法の改善その他作業環境を改善するため必要な措置を講じ、当該場所の管理区分が第一管理区分又は第二管理区分となるようにしなければならない。
2 事業者は、前項の規定による措置を講じたときは、その効果を確認するため、同項の場所について当該特定化学物質の濃度を測定し、及びその結果の評価を行わなければならない。
3 事業者は、第一項の場所については、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させるほか、健康診断の実施その他労働者の健康の保持を図るため必要な措置を講ずるとともに、前条第二項の規定による評価の記録、第一項の規定に基づき講ずる措置及び前項の規定に基づく評価の結果を次に掲げるいずれかの方法によつて労働者に周知させなければならない。
一 常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
4 事業者は、第一項の場所において作業に従事する者(労働者を除く。)に対し、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させなければならない。

第三十六条の四 事業者は、第三十六条の二第一項の規定による評価の結果、第二管理区分に区分された場所については、施設、設備、作業工程又は作業方法の点検を行い、その結果に基づき、施設又は設備の設置又は整備、作業工程又は作業方法の改善その他作業環境を改善するため必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
2 前項に定めるもののほか、事業者は、同項の場所については、第三十六条の二第二項の規定による評価の記録及び前項の規定に基づき講ずる措置を次に掲げるいずれかの方法によつて労働者に周知させなければならない。
一 常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

e-Gov 特定化学物質障害予防規則

他の条文も同様なので、まとめますと、第一管理区分に区分された場所については、作業環境管理が適切であると判断されるため、その状態のの継続に努めましょう。

第二管理区分に区分された場所については、設備、作業方法等の点検を行い、その結果に基づき設備等の設置、作業方法等の改善その他作業環境を改善するために必要な措置を講ずるよう努めなければなりません。

第三管理区分に区分された場所については、直ちに設備、作業方法などの点検を行い、その結果に基づき、作業環境を改善するために必要な措置を講じ、当該場所の管理区分が第一管理区分または第二管理区分となるようにしなければなりません。

化学物質の自律的管理により、2024年4月よりは、作業環境測定結果が第3管理区分の事業場に対する措置が強化され、作業環境管理専門家に助言を求めなければなりません。以下の記事を参照してください。

このように、労働安全衛生法65条の作業環境測定の評価は、A測定・B測定、C・D測定ともに同じです。ただし、個人サンプリング法においては、測定値を計算するためには、サンプリング中の休憩時間や総サンプリング時間などを考慮に入れた計算が必要です。

作業環境測定の報告書は、厚労省のモデル様式があり、ほぼどこの測定機関も同じ形式です

作業環境の測定結果をご覧になったことはありますか?衛生委員会が開催される事業所では、これは法定審議事項となります。

実は、どの作業環境測定機関でも、ほとんどの検査結果は同じ形式で提供されています。これは、厚生労働省が提供している「作業環境測定のモデル様式」があるためです。多くの測定実施機関がこの様式を採用しています。

令和3年4月以降、このモデル様式は個人サンプリング法にも対応しています。

作業環境測定の記録のモデル様式の改正について
基発0805第1号 令和2年8月5日

https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T200807K0010.pdf


一部になりますが、このような書式になります。管理区分を記載する欄がありますね。



なお、「産業医又は労働衛生コンサルタントの意見 」という記載部分がありますので、産業医、労働衛生コンサルタントは何か意見を記載してもいいですね。

自社で作業環境測定を実施している場合でも、こちらのモデル様式を利用することがおすすめです。

個人ばく露測定について

ここで、例えば、ある一人の作業者の有機溶剤の暴露が心配なので、その作業者に個人サンプラーを着用して測定を行う場面があったとします。この場合、その当該一人の作業者の暴露する有機溶剤の濃度が高いか低いかを見るだけであり、C測定やD測定とは異なります。

今回は有機溶剤なので、個人サンプリング法であるC測定、D測定もおこなえますが、C測定、D測定を選択できない化学物質を、個人サンプリング法で評価しても、労働安全衛生法65条の作業環境測定にはなりません。

こう言った測定を、「個人ばく露測定」と言います。今後は、労働安全衛生法の65条に基づく作業環境測定(A・B測定、C・D測定)を行った後、個人のばく露測定を行い、個人のリスクを評価する場面も増えるかもしれません。個人のばく露測定においても、専門的な知識が必要となります。測定のデザイン、いつ・どのように測定するかを慎重に考慮する必要があります。また、個人のばく露測定では、1日8時間が基本とされ、測定時間が8時間以外の場合には、8時間ばく露値に換算する必要があります。

個人ばく露測定を行うにあたっては、現場をよく知る産業医や作業環境測定士との連携が重要です。

また、重要なことですが、上記、C測定、D測定を行った場合、各個人の測定データは個人ばく露測定の結果として利用できます。

まとめ

作業環境の有害物質の測定の評価方法について簡単に説明しました。労働安全衛生法65条に基づく、従来法と呼ばれる、A測定とB測定、個人サンプリング法と呼ばれる、C測定とD測定、さらに、個人サンプリング法がありますが、こちらは労働安全衛生法65条に基づくものではありません。

労働安全衛生法に基づく作業環境測定の評価は、個別規制により、第一管理区分、第二管理区分、第三管理区分として評価します。その対応についても個別規制で定められています。また、化学物質の自律的管理により、第三管理区分の場合は作業環境管理専門家に助言を求める必要があります。

また、作業環境測定の結果の形式は、「作業環境測定のモデル様式」(厚生労働省)と呼ばれるものが存在しますので、ほとんどの作業環境測定機関がこれを利用しています。令和3年4月以降は、個人サンプリング法にも対応するようにモデル様式が改正されました。自社で作業環境測定を実施している場合でも、こちらのモデル様式を利用することがおすすめです。

労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。

産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。

個人ばく露測定のご相談やリスクアセスメント対象物健康診断の実施についても対応可能です。
化学物質の個別的な規制についても得意としています。

Zoom等のオンラインツールを用いて日本全国対応させていただいております。

詳しいサービス内容は以下のページをご参照ください。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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