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化学物質の管理を解説

2023/09/13 2023/04/16

【安全衛生】個人サンプリング法を実施できる化学物質と個人ばく露測定の関係についてわかりやすく解説

個人サンプリング法に関心を持つ事業所が増えているようです。また、2024年から化学物質の自律的管理の一環として、「第3管理区分の事業場」における措置の強化が実施される予定です。しかし、リスクアセスメントで実施される個人ばく露測定と個人サンプリング法は異なるものですが、この二つの違いや活用方法についての混乱がしばしば見られます。

本記事では、個人サンプリング法と個人ばく露測定の概要について説明します。

令和5年10月からは、個人サンプリング法で対象となる化学物質の範囲が拡大されたため、ガイドラインが改正されました。この記事は改正後のガイドラインに基づいています。

なお、作業環境測定基準及び第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等の一部を改正する告示(令和5年厚生労働省告示第174号)が、令和5年4月17日に告示され、令和5年10月から個人サンプリング法の測定対象物質等が拡大されます。

【安全衛生】個人サンプリング法(C測定・D測定)を実施できる作業場所について

労働安全衛生法における作業環境測定と個人サンプリング法との関係について

その前に、作業環境測定について、労働安全衛生法2条に定義が以下のように記載されています。
「作業環境の実態をは握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)をいう。 」とされています。

労働安全衛生法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 労働災害 労働者の就業に係る建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等により、又は作業行動その他業務に起因して、労働者が負傷し、疾病にかかり、又は死亡することをいう。
二 労働者 労働基準法第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。
三 事業者 事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。
三の二 化学物質 元素及び化合物をいう。
四 作業環境測定 作業環境の実態をは握するため空気環境その他の作業環境について行うデザイン、サンプリング及び分析(解析を含む。)をいう。

e-Gov 労働安全衛生法

労働安全衛生法の第65条では、作業環境測定の実施に関する規定が定められています。これは作業環境測定の基礎となる重要な条文です。本ブログにおいて「労働安全衛生法第65条に基づく作業環境測定」という言葉が使用された場合、それはこの条文において実施される作業環境測定を指します。

労働安全衛生法
(作業環境測定)
第六十五条 事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。
2 前項の規定による作業環境測定は、厚生労働大臣の定める作業環境測定基準に従つて行わなければならない。
3 厚生労働大臣は、第一項の規定による作業環境測定の適切かつ有効な実施を図るため必要な作業環境測定指針を公表するものとする。
4 厚生労働大臣は、前項の作業環境測定指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者若しくは作業環境測定機関又はこれらの団体に対し、当該作業環境測定指針に関し必要な指導等を行うことができる。
5 都道府県労働局長は、作業環境の改善により労働者の健康を保持する必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、作業環境測定の実施その他必要な事項を指示することができる。

e-Gov 労働安全衛生法

作業環境測定の詳細に関して、厚生労働省は従来の方法であるA測定・B測定に加え、個人サンプリング法を選択的に導入できるよう省令等を改正しました。この改正は令和2年4月1日から順次施行され、適用されています。

重要なポイントとして、「選択的」という用語があります。これは、従来法であるA測定・B測定、または個人サンプリング法によるC測定・D測定のいずれかを選択できることを意味します。さらに、個人サンプリング法を実施できる条件が限られている点も重要です。

 

個人サンプリング法を実施できる作業場

個人サンプリング法を実施できる作業場については、次のように述べられています。個人サンプリング法による作業環境測定の対象は、個人サンプリング法の特に発揮できる状況にある作業場となります。

2 個人サンプリング法による作業環境測定の対象となる測定
個人サンプリング法による作業環境測定の対象となる測定については、個人サンプリング法の特性が特に発揮できるものとして次のとおり規定されていること。 個人サンプリング法による作業環境測定の対象となる測定については、個人サンプリング法の特性が特に発揮できるものとして次のとおり規定されていること。

(1) 労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)別表第3に掲げる特定化学物質のうち、令別表第3第1号6又は同表第2号2、3の2、5、8から11まで、13、13の2、15、15の2、19、19の4、20から22まで、23、23の2、27の2、3 0、31の2から33まで、34の3若しくは36に掲げるもの(以下「個人サンプリング法対象特化物」という。)及び鉛に係る測定。

(2) 令別表第6の2第1号から第47号までに掲げる有機溶剤及び特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)第2条第3号の2に規定する特別有機溶剤(以下「有機溶剤等」という。)に係る測定で行われるもの。

(3)粉じん(遊離けい酸の含有率が極めて高いものを除く。)に係る測定

「個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドライン」(厚生労働省)

個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関するガイドライン(厚生労働省)

このガイドラインですが、2023年10月から以下のような点が変更になりました。

① 「低管理濃度特定化学物質」と呼ばれていたものは、「個人サンプリング法対象特化物」となりました。
② 有機溶剤も「発散減の場所が一定しない作業」と限定されていたものの限定がなくなり、単に「有機溶剤等」になりました。
③ 粉じんが追加されています。

わかりにくいですよね、個人サンプリング法を選択できる事業場をまとめますと以下になります。

①個人サンプリング法対象特化物及び鉛を取り扱う作業にかかる場所における測定
②有機溶剤等(有機溶剤と特別有機溶剤)
③粉じん

2023年10月から個人サンプリング法の対象とされる物質は以下のようになります。粉じんが入ったことは画期的でしょう。

2023年9月末までの対象物質

ベリリウム及びその化合物
コバルト及びその無機化合物
インジウム化合物
MOCAオルトーフタロジニトリル
重クロム酸及びその塩
カドミウム及びその化合物
水銀及びその無機化合物(硫化水銀を除く。)
クロム酸及びクロム酸塩
五酸化バナジウム
トリレンジイソシアネート
砒素及びその化合物(アルシン及び砒化ガリウムを除く。)

2023年10月から追加された対象物質

アクリロニトリル
エチレンオキシド
オーラ―ミン
オルト-トルイジン
酸化プロピレン
三酸化二アンチモン
ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト
臭化メチル
ナフタレン
パラ―ジメチルアミノアゾベンゼン
ベンゼン
ホルムアルデヒド
マゼンタ
マンガン及びその化合物
リフラクトリーセラミックファイバー
硫酸ジメチル

有機溶剤は、限定がなくなり、すべての有機溶剤業務(特別有機溶剤を含む)となりました。

粉じん

「個人サンプリング法による作業環境測定及びその結果の評価に関する ガイドラインの一部改正について 」基発0417第2号 令和5年4月17日

②について、「有機溶剤」の中には、第一種有機溶剤、第二種有機溶剤、及び特別有機溶剤が含まれます。
シンプルにすべての有機溶剤に個人サンプリング法が適用できることを覚えておきましょう。

①と②の測定について、現時点では、従来の方法と個人サンプリング法を選択して実施できるということになっております。
注意が必要なのは、上記化学物質でなければ、個人サンプリング法のみは不可であるということです。

なお、個人サンプラーに関しては、呼吸域の作業場の空気を測定する機器です。従来法のA測定、B測定では床上50cm以上150cm以下の位置での測定となっています。ですので、床上50cm未満の呼吸域、または床上150cm超での作業では、個人サンプラーの方がきちんと実態を把握できるということになります。有機溶剤は空気より比重が重いです。

従来法と個人サンプリング法の作業環境測定の評価について。

この個人サンプリング法を実施するためには、個人サンプリング法について登録されている作業環境測定士による実施、または同様に登録されている作業環境測定機関か、指定測定機関への委託が必要です。

最終的に、得られたデーターを処理して作業環境測定の結果を出しますが、こちらは、従来法(A測定、B測定)と同様方法により、管理区分を決定します。

個人サンプリング法による作業環境測定は、評価基準に基づき測定値を統計的に処理した評価値と測定対象物質の管理濃度とを比較して作業場の管理区分の決定を行うものであり、いわゆる個人ばく露測定には該当しません。
ここは重要ですので、後述します。




個人サンプリング法と個人ばく露測定

さて、個人サンプリング法についてはお話してきましたが、先ほど少し話に出た個人ばく露測定という測定もあります。
個人ばく露測定は労働安全衛生法65条の作業環境測定ではありません。
「個人サンプリング法」と「個人ばく露測定」は全くの別物です。注意しましょう!!

どちらも個人サンプラーを用います。

個人サンプラーによる測定の目的が
①労働者の作業する環境中の気中濃度の把握であれば「作業環境測定」であり
②個人ばく露濃度の把握であれば「個⼈ばく露測定」です。

個人ばく露測定は、ある人のばく露濃度の把握を行うものであり、原則、統計処理は基本ありません。
個⼈サンプラーによる測定のデータを利⽤して、同時に作業環境測定と個⼈ばく露測定(リスクアセスメント)を⾏うことも可能であり、どちらも作業環境の改善に活用されます。

なお、個人ばく露測定を行わなければならないものとして特化物の溶接ヒュームがあります。

個人サンプリング法のデザインとサンプリング

個人サンプリング法においては、検体を採取する場所が移動するという特殊性があります。作業者がどのような動きをするのかを把握しておかなければなりません。

作業環境測定方法の決定において、従来法にすべきか、個人サンプリング法にすべきかは、作業環境測定⼠の意⾒を踏まえ、事業者が考えないといけません。その際、作業環境測定士は、産業医を含む安全衛生委員会等での測定結果の評価に関する意⾒等に基づき、作業場の実態に合った適切な⽅法となるようにします。

また、A測定、B測定と違い、C測定、D測定の場合はサンプリングの時間が長いです。

以上より、産業医も作業環境測定士の知識が必要になります。

まとめ

個人サンプリング法の法令について解説しました。現時点では、従来の方法と個人サンプリング法を選択して実施できるということになっております。

①個人サンプリング法対象特化物及び鉛を取り扱う作業にかかる場所における測定
②有機溶剤等(有機溶剤と特別有機溶剤)
③粉じん

注意が必要なのは、上記化学物質でなければ、個人サンプリング法のみで労働安全衛生法65条の作業環境測定はできないという点です。

この個人サンプリング法を実施するためには、個人サンプリング法について登録されている作業環境測定士による実施、または同様に登録されている作業環境測定機関か、指定測定機関への委託が必要です。

個人サンプリング法と個人ばく露測定が別物であり、個人ばく露測定が労働安全衛生法65条の作業環境測定と別物であることも知っておきましょう。

労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。

産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。

個人ばく露測定のご相談やリスクアセスメント対象物健康診断の実施についても対応可能です。
化学物質の個別的な規制についても得意としています。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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