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【人事労務・産業医向け】職場復帰支援における、お試し出社とリハビリ出勤

「お試し出勤」と「リハビリ出勤」という言葉を聞いたことはありますか?これは、メンタルヘルスやその他の病気にかかった方が復職する際の仕事の調整のことを指しています。具体的には、本当に会社に行けるかどうかを試してみたいという意味です。復職時には、一度に100%の業務量や業務時間で戻ることができるかどうか分からないため、段階的に業務を増やしてほしいという要望もあります。

皆様は、この「お試し出勤」と「リハビリ出勤」の違いをご存じでしょうか?
今回は、「お試し出勤」と「リハビリ出勤」についてお話いたします。

最初に、注意していただきたいことがあります。
理由については後述しますが、こ
の「お試し出勤」と「リハビリ出勤」という言葉についてはこのブログ内での言葉ですので、他でこの言葉をお話されても違った意味となり齟齬が生じる可能性があります。

「お試し出勤」と「リハビリ出勤」とは

職場復帰に関する指針「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

まず、職場復帰といえば、メンタルヘルスの職場復帰が思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
こちらに関しては心の健康問題に関してですが、指針があります。通称、「職場復帰支援の手引き」と呼ばれます。

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
厚生労働省HP

「試し出勤制度」について

その中で、職場復帰支援の手引きには、「試し出勤制度等」として、以下のように記載がされています。

正式な職場復帰決定の前に、社内制度として試し出勤制度等を設けると、より早い段階で職場復帰の試みを開始することができます。休業していた労働者の不安を和らげ、労働者自身が職場の状況を確認しながら、復帰の準備を行うことができます。

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(厚生労働省)

そして、「試し出勤」は、職場復帰支援の手引きにより、以下の3つが例示されています。
さまざまな段階が含まれていますね。

<試し出勤制度等の例>
① 模擬出勤:勤務時間と同様の時間帯にデイケアなどで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで時間を過ごす。
② 通勤訓練:自宅から勤務職場の近くまで通勤経路で移動し、職場付近で一定時間過ごした後に帰宅する。
③ 試し出勤:職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する。

さて、試し出勤制度は、上記のように「正式な職場復帰決定の前」と記載されていますので職場復帰前の話になります。
職場復帰支援の手引きには、職場復帰前の話しか記載されていないのですね。

「リハビリ出勤制度」について

上記のように、「試し出勤制度」は職場復帰決定の前の話であり、職場復帰後の段階的な就業上の配慮(残業・交替勤務・深夜業務等の制限又は禁止、就業時間短縮など)は含まれないということになります

「リハビリ出勤制度」とは、復職する従業員が、いきなり休職前の業務時間や業務量で復職すると、復職を失敗する可能性があるため、配慮するものです。職場復帰支援の手引きでは、「リハビリ出勤」という言葉は使用されず、代わりに「管理監督者による就業上の配慮業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など」と説明されています。

ウ 職場復帰支援プランの作成
 以下の項目について検討し、職場復帰支援プランを作成します。

(ア)職場復帰日
イ)管理監督者による就業上の配慮業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など
(ウ)人事労務管理上の対応等 配置転換や異動の必要性、勤務制度変更の可否及び必要性
(エ)産業医等による医学的見地からみた意見 安全配慮義務に関する助言、職場復帰支援に関する意見
(オ)フォローアップ
(カ)その他 管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォローアップの方法、就業制限等の見直しを行うタイミング、全ての就業上の配慮や医学的観察が不要となる時期についての見通し 労働者が自ら責任を持って行うべき事項、試し出勤制度の利用、事業場外資源の利用

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(厚生労働省)

中間まとめ「試し出勤」と「リハビリ出勤」 の定義

以上より、このブログでは
正式な職場復帰決定の前の、社内制度としての試し出勤制度を「試し出勤」
職場復帰後の「就業上の配慮業務サポートの内容や方法、業務内容や業務量の変更、段階的な就業上の配慮、治療上必要な配慮など」を「リハビリ出勤」と呼びます。

 

「試し出勤」と「リハビリ出勤」 内容の違い

さて、再度「試し出勤」と「リハビリ出勤」の違をまとめます。

試し出勤:復職する前の休職期間中に行われるお試しの出勤
リハビリ出勤:復職後に段階的な負荷をかけながら行われる出勤。

これらをきちんと理解して、適切に使い分けることが重要だと考えています。
試し出勤とリハビリ出勤で注意すべき点につき、以下解説します。

①復職する前の休職期間中の試し出勤で注意すべき点

この場合、復職前であり休職期間中であることが前提となります。休職期間中は労働義務がないため、会社は試し出勤の場所を提供するだけです。

したがって、業務命令を行うことはできません。また、本人の意思により、その日に来社して勤務するか否かは自由です。
会社に出勤することで、以下の点を確認できます。始業時刻に正確に到着できるかどうかを確認できます。また、通勤に関する問題がないかも確認できます。

ポイント
きちんと現場の上司に説明しておかないと、上司が試し出勤されている方に業務命令を行うかもしれないので注意しましょう。
業務命令を行ってしまうと、賃金を支払わないことで未払い賃金が生じてしまったり、さらには傷病手当金の支給が受けられない状況になる可能性もあります。

実務上は、上記、職場復帰支援の手引きにおける模擬出勤と通勤訓練は、休職期間内に労働者本人に自己管理してもらうことが多いでしょう。「今日は、図書館に9時に行って、3時間滞在した」、「会社まで始業時間に合うように移動し、近くの公園で1時間過ごした」等になります。

産業医・人労系の方とで本人と面談を行ったのち模擬出勤と通勤訓練に本人が合意し、後に会社が模擬出勤及び通勤訓練ができたかどうか報告を受けるような形です。

試し出勤を実施して、大丈夫そうであれば職場復帰となるわけですが、もし試し出勤中に、やはり復帰が難しそうだということであれば、医師(産業医)の意見により、そのまま休職続行になります。

交通費は、従業員が就業するために来るためではないので、基本的には従業員本人が負担することになります。ただし、会社が任意で支給する場合は問題ありません。就業規則に明記しておくことも一つの方法です。

また、会社の指揮命令下にあらず、賃金も支払われていないため、原則として労災の適用はありません。例えば、会社に来て滑って転んだ場合でも、労災保険の対象にはなりません。このような場合、滑って転んだ状況によっては紛争が生じる可能性もあります。お試し出勤をする際には、けがなどに注意しましょう。

ポイント

私は、このような場合、会社に普通傷害保険への加入をお勧めしています。普通傷害保険は労災制度とは無関係で、損害保険の一種であり通常は任意で加入するものです。加入はどちらかの保険会社に相談し契約することになります。

多くの場合、日単位での加入が可能だと思われます。加入の方法としては、労働者本人または会社が契約者となり、労働者本人が被保険者および受取人となります。保険料は会社が負担する形となります。

普通傷害保険は、業務上および業務外を問わず給付されるものがほとんどですので、労災かどうかでややこしくならないのです。

②復職後の段階的な負荷をかけるリハビリ出勤で注意すべき点

原則として、復職の前提としては、労働契約書や就業規則に明記された労働時間を提供できることが求められます。
このリハビリ出勤については、労働契約書や就業規則に明記された労働時間を提供できることが条件になります。

しかし、例えば朝9時から夕方6時までの労働時間(休憩1時間)というスケジュールは、長い休職後だと厳しいと感じたり不安を抱くこともあるかもしれません。
そこで、復職直後に休職前と同様の勤務を行うのは困難な場合もあるため、段階的に業務を増やしていくなど、就業上の配慮を行うものです。

職場復帰支援の手引きの「就業復職の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成<第三ステップ>」に当てはまります。

このリハビリ出勤は、復職後のため、本人に対して業務命令を行うことができます。
会社は職場復帰支援プランの範囲内で、様々な業務を命令することが可能です。
ただし、もし再び休職する場合は、一度復職しているため再度の休職発令が必要になります。

業務の量を減らすという対応も行いますが、時間を短縮して短時間勤務に切り替えることも一般的です。
ただし、労働契約に基づき労務を履行することが原則ですので、本来は就業規則で定められた労働時間に従って労務を提供することが求められます。

ただし、リハビリ出勤の場合、短時間勤務に関連して傷病手当金についての考慮事項が存在するため、注意が必要です。この点については別途お話しいたします。



まとめ

様々な病気による休職後の職場復帰では、調整を行うことで円滑に復帰することができる場合があります。当ブログでは、復職前と復職後につき、以下の二つの方法に分類しています。

試し出勤:復職する前の休職期間中に行われるお試しの出勤
リハビリ出勤:復職後に段階的な負荷をかけながら行われる出勤。

それぞれには注意事項がありますので、適切に使い分けましょう。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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