事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【メンタル】厚生労働省「職場復帰支援の手引き」について産業医が知っておくべことについて解説

メンタルヘルス不調で休職した従業員の職場復帰について解説します。この範囲は論点が多いので、記事にするのを躊躇していました。
まずは、基本的な部分からお話ししたいと思います。

今回は、ガイドラインがしっかりしたものがあるので、そちらをきちんと読み込んでいただくことが重要なのですが、このガイドラインに記載されていない部分について詳細を解説したいと思います。

職場復帰支援とは

まず、職場復帰支援とは病気で休職した従業員の方が、うまく復職できるように支援することです。病気で休職といっても、様々な病気があります。例えば、脳血管障害で治療が終了したが、後遺症として障害が残っているような場合には、障害と職場を適応させる必要があります。脳血管障害の場合、高次脳機能障害(メンタルヘルス不調に近い)と麻痺(身体の問題)が混在する場合もあります。このような場合、メンタルヘルス不調についての職場復帰支援だけでなく、治療と仕事の両立支援や、障害と仕事の両立支援を行っていく必要があります。

これは私見ですが、いわゆるメンタルヘルス不調の後の復職も、身体疾患あるいは障害を残して復職する場合も労務管理上・産業医的に手続き的には変わらないと考えています。労働条件は労働契約や就業規則等により決定されますが、これらの契約・規定をどのように適用するかが産業医の腕の見せどころではないかと考えています。産業医の先生の中には、そのような仕事は人事労務系の仕事であると考えるかもしれませんが、人事労務系の担当者と産業医が連携する方が、病気にり患した従業員の保護に資すると感じています。

繰り返しますが、このように私としては、メンタルヘルスの職場復帰支援も、身体疾患の職場復帰支援も、疾病により障害を残した場合の職場復帰支援も、産業医の対応としては、あまり違いはないと考えています。

しかし、厚生労働省は、精神障害で休職した従業員の方に特化した指針として「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を発行しており、今回はこちらについて解説したいと思います。

厚生労働省の、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」について

この点、平成16年10月に、厚生労働省では、メンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰を促進するため、事業場向けマニュアルとして、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を周知しました。こちらは、タイトルにあるように、「メンタルヘルス不調により休業した労働者」に対する指針になります。

「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」 厚生労働省

この指針は、休職した労働者に適用されます。このほかに、厚生労働省のガイドラインとしては、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(以下、職場復帰支援の手引き)がありますが、こちらは、どちらかというと、メンタルヘルス不調にならないようにする指針です。すなわち、職場復帰支援の手引きにより普段からメンタルヘルス不調の発生を予防しつつ、休職者が発生したら、職場復帰支援の手引きにて対応するものと考えておけば、おおむね間違っていないでしょう。

「労働者の心の健康の保持増進のための指針」厚生労働省

メンタルヘルス以外の職場復帰や、障害による職場復帰・仕事の適合については、「仕事と治療の両立支援」も参考にするのが良いでしょう。



この「職場復帰支援の手引き」ですが、5つのステップで職場復帰支援を行うとされています。以下は、リーフレットからの引用になります。

詳細は、職場復帰支援の手引きを読み込んでいただくのですが、概略とポイントについて解説いたします。

「職場復帰支援の手引き」の5つのステップ

職場復帰支援プログラムと就業規則等

まず、この「職場復帰支援の手引き」については、以下のような記載があります。

 基本的な考え方

 心の健康問題で休業している労働者が円滑に職場復帰するためには、職場復帰支援プログラムの策定や関連規程の整備等により、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが必要です。手引きでは、実際の職場復帰にあたり、事業者が行う職場復帰支援の内容を総合的に示しています。事業者はこれを参考にしながら、衛生委員会等において調査審議し、職場復帰支援に関する体制を整備・ルール化し、教育の実施等により労働者への周知を図っていきましょう。 以下、5つのステップごとに、職場復帰支援の流れを解説します。

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き 厚生労働省

つまり、上記の5ステップの流れに載せる前に、「職場復帰支援プログラムの策定や関連規程の整備等により、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが必要」だと述べています。

ここで、「職場復帰支援プログラム」ですが、のちに「職場復帰支援プラン」という言葉も出てくるので混同しないように注意しましょう。以下に引用して解説しておきます。つまり、休職者が発生する前にあらかじめ定めたものが職場復帰支援プログラムであり、休職者が発生したのちに、その個人にあわせて支援のプランを定めたものが職場復帰支援プランになります。

職場復帰支援プログラム…………職場復帰支援についてあらかじめ定めた事業場全体のルール

職場復帰支援プラン…………休業していた労働者が復職するにあたって、復帰日、就業上の配慮など個別具体的な支援内容を定めたもの

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き 厚生労働省

職場復帰支援プログラムも重要なのですが、「関連規定の整備」という部分の方が重要です。この「関連規定」とは何でしょうか。これは、労働契約関連や、就業規則の整備が含まれます。厳密には、「職場復帰支援プログラム」は、「安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項」(労働基準法89条)に当たる可能性が高く、制度がある場合に必ず就業規則に記載をしなければならない「相対的記載事項」として、就業規則に記載しなければならないでしょう。

労働基準法
(作成及び届出の義務)
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

e-Gov 労働基準法

本気で職場復帰支援の整備をしようとすると、就業規則の整備はほぼ確実に必須となります。産業医で就業規則を自分でいじろうとする方もおられるのですが、就業規則の規定は、様々な労働条件に影響するため、社会保険労務士と連携しながら作成することをお勧めします。また、就業規則の作成は、「労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含み、申請書等を除く。)を作成すること。 」に当たり、社会保険労務士の独占業務になるので注意しましょう。なお、行政書士が就業規則を作成できるかについては業際問題として難しい問題となります。


また、就業規則を整備したとしても、その内容を産業医が理解して利用できなければ意味がありません。そのためには、様々な判例の知識も必要となります。これについては、民法と要件事実も絡む話であり、できれば、弁護士か、特定社会保険労務士の関与が望ましいでしょう。私としては、産業医は、社会保険労務士となり、さらに特定付記を得ることが必要だと考えています。

例えば、私が改定した就業規則を「関連規定」として考慮して、対応できる産業医が多いかというと、それほど多くないかと思います。

話を職場復帰支援プログラムに戻しますが、「職場復帰支援についてあらかじめ定めた事業場全体のルール」についてですが、休職期間や、休職期間のリセット期間については就業規則への記載が必須です。それら以外の細かい部分になります。

(2)職場復帰支援の基本的考え方

ア 職場復帰支援プログラム心の健康問題で休業している労働者が円滑に職場に復帰し、業務が継続できるようにするためには、休業の開始から通常業務への復帰までの流れをあらかじめ明確にしておく必要がある。 事業者は本手引きを参考にしながら衛生委員会等において調査審議し、産業医等の助言を受け、個々の事業場の実態に即した形で、事業場職場復帰支援プログラム(以下「職場復帰支援プログラム」という。)を以下の要領で策定し、それが組織的かつ計画的に行われるよう積極的に取り組むことが必要である。

・ 職場復帰支援プログラムには、職場復帰支援の標準的な流れを明らかにするとともに、それに対応する手順、内容及び関係者の役割等について定める。・ 職場復帰支援プログラムを円滑に実施するために必要な関連規程等や体制の整備を行う。

・ 職場復帰支援プログラム、関連規程等及び体制については、労働者、管理監督者及び事業場内産業保健スタッフ等に対し、教育研修の実施等により十分周知する。

もし、産業医の先生方で、職場復帰支援プログラムを作成しようとする場合には、就業規則とセットで考慮する必要がありますので、注意しましょう。
なお、就業規則のほかにも労働条件に影響する規定がありますので、注意しましょう。

 <第一ステップ>病気休業開始および休業中のケア

指針においては、労働者が病気休業期間中に安心して療養に専念できるよう以下のような点について、情報提供を行うこととされています。

傷病手当金などの経済的な保障
不安、悩みの相談先の紹介 
公的または民間の職場復帰支援サービス 
休業の最長(保障)期間等 

傷病手当金については、様々な論点があり、産業医は知っておく必要があります。なお、休業中に従業員に接触するかどうかについてですが、私は、原則として休職中の従業員に産業医面談を行わないようにしています。理由はいくつかありますが、まず、会社が産業医と面談するように命令した場合には、業務命令となるかもしれません。その場合、主治医から「休職を要する」との意見書が提出しているにも関わらず、業務を命じたことになってしまうかもしれません。さらに、休職中で業務命令で面談を行った場合、当然、業務命令であるため賃金が発生します。その場合、傷病手当金の支給にも影響が出るかもしれません。このような論点を明らかにしておきましょう。

このような問題を避けるために、私が産業医として産業医面談を休職中に行う際には、会社の休職者への福利厚生の一環として、あくまで本人の任意の希望に基づき面談します。

さて、それでも、休職されている従業員の方がどんな状況なのかは気になりますよね。このような場合、会社が傷病手当金の書類のやり取りを行う際に、従業員に近況を聞いてもらうとよいでしょう。この時、本人がしんどそうであれば引きとどめないように注意しましょう。

私の場合ですが、会社と相談して、休職が開始された場合、休職発令書を作成することがあります。その内容としては、いつから休職開始で、現時点では、いつまでが休職期間の満了かについて記載します。休職期間について、会社と従業員が共有することで、のちのトラブルを回避できるでしょう。

休職中の従業員へのアプローチについては、以下の記事で解説しています。

また、休職が突然、無断欠勤の形で始まってしまうこともあります。このような場合の対処については、以下の記事に解説しています。

<第2ステップ>主治医による職場復帰可能の判断

この第2ステップについては、非常に論点が多いです。指針上は、下記のような内容が記載されていますが、これだけの情報では厳しいでしょう。一つ言えることは、主治医の診断書に不明な点がある場合には、診療情報提供依頼書等を用いて、その点を確認しましょう。

<第2ステップ> 主治医による職場復帰可能の判断

 休業中の労働者から事業者に対し、職場復帰の意思が伝えられると、事業者は労働者に対して主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書の提出を求めます。診断書には就業上の配慮に関する主治医の具体的な意見を記入してもらうようにします。 主治医による診断は、日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとの判断とは限りません。このため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応を判断し、意見を述べることが重要です。 なお、あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力に関する情報を提供し、労働者の状態が就業可能であるという回復レベルに達していることを主治医の意見として提出してもらうようにすると良いでしょう。

引用元:引用元のURL

こちらについては、非常に重要で、ボリュームがあるので別記事にしたいと思います。

<第3ステップ>職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成

 安全でスムーズな職場復帰を支援するため、最終的な決定の前段階として、必要な情報の収集と評価を行った上で職場復帰ができるかを適切に判断し、職場復帰を支援するための具体的プラン(職場復帰支援プラン)を作成します。この際に、配転や、業務の転換を行う可能性がありますが、こちらについては、労働条件の制約があることに留意しましょう。もし、必要があれば、労働条件を合意により変更することも必要になります。

この段階で、労働者の職場復帰に対する意思の確認を行います。
私の場合ですが、従業員の方が復帰するにあたり、最低限度必要なのは、「主治医による職場復帰が可能という判断が記された診断書」と、「労働者の職場復帰に対する意思」(ステップ4)だと考えています。原則として、私はこの2つの要件があれば復職可能とします。もちろん、例外があり、例外の部分が非常に広いのですが、それは別記事にします。


ここで、実際に復職して、業務ができなかったらどうするのか?という意見もありますが、そもそも、業務ができないことについては、民法上の債務不履行の問題になります。おそらく、ほとんどの企業に「業務効率が著しく低下している場合」が懲戒事由や再休職命令の発動についての就業規則があるのではないでしょうか。これらに基づいて、労務管理的に対応してゆくこととなります。このように、懲戒に関する規定は、職場復帰支援の規定として実務に影響する可能性があります。

職場復帰支援プランについては、傷病手当金等の知識が必須です。産業医は傷病手当金について勉強しておきましょう。

<第4ステップ> 最終的な職場復帰の決定

第3ステップを踏まえて、事業者による最終的な職場復帰の決定を行います。産業医としては、主治医に診療情報提供書により、就業上の措置等の情報提供するのもよいでしょう。

この時、復職後に体調不良が生じる可能性もあり、再休職にかかる条件についても説明しておいたほうが良いでしょう。

<5ステップ> 職場復帰後のフォローアップ

職場復帰後は、管理監督者による観察と支援のほか、事業場内産業保健スタッフ等によるフォローアップを実施し、適宜、職場復帰支援プランの評価や見直しを行います。具体的には、産業医面談を適時行い、職場復帰支援プランまたは、産業医の意見書を変更していきます。

 まとめ

職場復帰支援とは、身体疾患、メンタル不調などにより休職した従業員が、うまく職場に復帰できるように支援することです。

この点、厚生労働省では、メンタルヘルス不調により休業した労働者に対する職場復帰を促進するため、事業場向けマニュアルとして、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を周知しました。こちらは、タイトルにあるように、「メンタルヘルス不調により休業した労働者」に対する指針になります。

今回は、この職場復帰支援の手引きについて、指針に記載されていない勘所について解説しました。私は、メンタルヘルス不調・身体疾患・障害も含めて、職場復帰支援は、対応にそれほど違いはないと考えています。

職場復帰支援については、労働法の理解や、判例等の知識が必要になります。これらの知識がなく、産業医が意見を述べた場合、従業員にとっても、会社にとってもよくない結果が生じる可能性があることを知っておきましょう。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

お問い合わせはこちらからお願いいたします。

この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

詳しいプロフィールはこちら

ジャンルから記事を探す

CONTACTお問い合わせ

困ったことをどの分野の専門家に相談すればいいか分からないということはよくあります。LAOが対応できる内容か分からない場合でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。

もちろん、弊所では、オンラインによる対応を行っております。Zoom, Teams, Webexは対応しております。その他のツールをご希望の場合はご相談ください。

オンライン相談に関して詳しくはをご覧ください。

オンライン相談について

オンライン相談とは

オンライン相談とは、スマートフォン・タブレット・パソコンを使って、ご自宅にいながらスタッフにご相談できるサービスです。スタッフの顔をみながら簡単にご相談することが可能です。

使用可能なアプリ等について

Zoom・Teams・WebExは実績があります。その他に関してはご相談ください。

オンライン相談の流れ

1.お申し込み
メールフォームまたはお電話よりお申し込みください。

2.日程のご予約
メールアドレス宛に日程調整のメールをお送り致します。

3.URLの送付
日程調整後、弊所より開催当日までにオンライン相談の方法をメールでご案内します。

4.相談日
お約束のお時間にお送りしたURLより参加していただきますと、打ち合わせが始まります。