2023/04/07 2023/04/19
【医師・健診機関向け】有機溶剤健診の実際について、どうすればいいかわかりやすく解説
今回の記事は、医師や健診機関向けの記事となります。
医師の方々からは、有機溶剤中毒予防規則(以下、有機規則)における特殊健診の方法について教えてもらおうと思っても、教えてくれる人がいないという声が寄せられています。
また、有機規則は専門的で難解な内容であり、研修医の時には有機溶剤健診に関する経験がない方も多いです。このように、有機溶剤健診について診察方法がわからないという医師の方々が相当数いらっしゃるのではないかと思われます。
今回の記事では、有機溶剤健診について分かりやすく解説し、理解を深めることを目指しました。
有機溶剤の特殊健診について
有機溶剤中毒予防規則の有機溶剤について
有機溶剤の健康診断についてですが、有機溶剤とは他の物質を溶かす性質を持つ、総称的な言葉であり、有機化合物のことを指します。有機化合物は炭素を含み、元素記号で表すとCとなります。さまざまな種類の有機溶剤が存在します。
しかし、法律上の有機溶剤に関しては、有機溶剤中毒予防規則によって定義されています。有機溶剤中毒予防規則の規制対象となるのは、この有機溶剤中毒予防規則で定義されている有機溶剤です。
有機溶剤中毒予防規則の第2条には、「有機溶剤とは、労働安全衛生法施行令(以下「令」という)別表第六の二に掲げられている有機溶剤を指す」と記載されています。
したがって、有機溶剤中毒予防規則によって規制されている物質は、労働安全衛生法施行令別表6の2に記載されている物質です。
これらの物質は、第一種有機溶剤(以下、1種)、第二種有機溶剤(以下、2種)、第三種有機溶剤(以下、3種)のカテゴリに分類されます。
ポイントですが、非常に簡単に言いますと、有機溶剤はさまざまな種類がありますが、基本的にはおなじような健康障害を引き起こす可能性があります。その上で、各有機溶剤の個性を考慮した健診項目を追加したり、聞き取りを行う必要があります。
特定の有機溶剤が有する個性については以下のような部分があります。
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トルエンは体内で代謝された後、尿中に馬尿酸として排泄されるため、測定が可能です。
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メタノールは基本的な有機溶剤の障害に加え、視力障害も引き起こす可能性があります。
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ノルマルヘキサンは基本的な有機溶剤の障害に加え、末梢神経障害も引き起こす可能性があります。
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二硫化硫黄は特に危険な物質です。
有機溶剤健診の条文(有機溶剤中毒予防規則29条)
①有機溶剤中毒予防規則29条の構造
さて、有機溶剤の健康診断に関しては、有機溶剤中毒予防規則の第29条に記載があります。
先ほども述べた通り、有機溶剤の症状は基本的には同様の健康障害を引き起こす傾向があります。そのため、共通の健康診断を行い、さらに、物質の特性に応じて追加の検査を行うという構造になっています。
では見ていきましょう。以下が、有機溶剤中毒予防規則29条です。
有機溶剤中毒予防規則(健康診断)
第二十九条 令第二十二条第一項第六号の厚生労働省令で定める業務は、屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)における有機溶剤業務のうち、第三条第一項の場合における同項の業務以外の業務とする。
2 事業者は、前項の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 業務の経歴の調査
二 作業条件の簡易な調査
三 有機溶剤による健康障害の既往歴並びに自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査、別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)についての既往の検査結果の調査並びに別表の下欄(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査を除く。)及び第五項第二号から第五号までに掲げる項目についての既往の異常所見の有無の調査
四 有機溶剤による自覚症状又は他覚症状と通常認められる症状の有無の検査
3 事業者は、前項に規定するもののほか、第一項の業務で別表の上欄に掲げる有機溶剤等に係るものに常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、別表の上欄に掲げる有機溶剤等の区分に応じ、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
4 前項の健康診断(定期のものに限る。)は、前回の健康診断において別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)について健康診断を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該項目を省略することができる。
5 事業者は、第二項の労働者で医師が必要と認めるものについては、第二項及び第三項の規定により健康診断を行わなければならない項目のほか、次の項目の全部又は一部について医師による健康診断を行わなければならない。
一 作業条件の調査
二 貧血検査
三 肝機能検査
四 腎じん機能検査
五 神経学的検査
e-Gov 有機溶剤中毒予防規則
29条第1項:どのような業務で健康診断を行わなければならないのか
第1項を解説しましょう。
有機溶剤健診を行う対象業務は、「令22条1項6号の厚生労働省で定める業務」となっていますが、以下になります。「屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所」ですね。
労働安全衛生法施行令 22条1項6号
屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第六の二に掲げる有機溶剤を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるもの
e-Gov 労働安全衛生法施行令
厚生労働省令で定める場所というのが出ていますね。
有機溶剤中毒予防規則1条2項に記載されています。
2 令第六条第二十二号及び第二十二条第一項第六号の厚生労働省令で定める場所は、次のとおりとする。
つまり
労働安全衛生法施行令 22条1項6号によりますと
屋内作業+タンク+船倉+坑の内部+これらの11か所
ということになります。
第三種有機溶剤の健康診断が必要となる「タンク等」について
別表第6の2に掲げられている有機溶剤は、前述の通り第1種、第2種、第3種の有機溶剤です。
ただし、「第3種有機溶剤等については、タンク等の内部に限ります。」(有機溶剤中毒予防規則29条1項)と規定されています。
したがって、第3種有機溶剤に関しては原則として健康診断は必要ありませんが、「タンク等」である場合には健康診断が必要です。
「タンク等」という範囲は、有機溶剤中毒予防規則の第1条2項の範囲とは異なるので、注意が必要です。第3種有機溶剤に関する「タンク等」については別の記事を参照してください。
適用除外認定
消費する有機溶剤等の量が少量で、許容消費量を超えないときは、所轄労働基準監督署長の適用除外認定を受けることができます。
「第三条第一項の場合における同項の業務以外の業務とする。」という部分は、消費する有機溶剤等の量が少量で、許容消費量を超えないときは、所轄労働基準監督署長の適用除外認定を受けることができるのですが、その認定を受けた場合は除くという意味になります。
有機溶剤中毒予防規則
第三条 この省令(第四章中第二十七条及び第八章を除く。)は、事業者が第一条第一項第六号ハからルまでのいずれかに掲げる業務に労働者を従事させる場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、当該業務については、適用しない。この場合において、事業者は、当該事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下「所轄労働基準監督署長」という。)の認定を受けなければならない。一 屋内作業場等のうちタンク等の内部以外の場所において当該業務に労働者を従事させる場合で、作業時間一時間に消費する有機溶剤等の量が有機溶剤等の許容消費量を常態として超えないとき。二 タンク等の内部において当該業務に労働者を従事させる場合で、一日に消費する有機溶剤等の量が有機溶剤等の許容消費量を常に超えないとき。
健康診断の項目
有機溶剤中毒予防規則29条2項の健診項目を一つずつ見ていきましょう。
一 業務の経歴の調査
業務経歴の記録は基本的な要素ですね。個人票には、有機溶剤中毒予防規則の第1条第1項第6号に定められている有機溶剤の業務番号を記載します。有機溶剤中毒予防規則の第1条第1項第6号には、「有機溶剤業務」として以下の業務が掲載されています。「イ」~「ヲ」のイロハ順をつけます。
有機溶剤中毒予防規則第1条第1項第6号
イ 有機溶剤等を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌かくはん、加熱又は容器若しくは設備への注入の業務
ロ 染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、香料、甘味料、火薬、写真薬品、ゴム若しくは可塑剤又はこれらのものの中間体を製造する工程における有機溶剤等のろ過、混合、攪拌かくはん又は加熱の業務
ハ 有機溶剤含有物を用いて行う印刷の業務
ニ 有機溶剤含有物を用いて行う文字の書込み又は描画の業務
ホ 有機溶剤等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
ヘ 接着のためにする有機溶剤等の塗布の業務
ト 接着のために有機溶剤等を塗布された物の接着の業務
チ 有機溶剤等を用いて行う洗浄(ヲに掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払しよくの業務
リ 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)
ヌ 有機溶剤等が付着している物の乾燥の業務
ル 有機溶剤等を用いて行う試験又は研究の業務
ヲ 有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。以下同じ。)の内部における業務
e-Gov 有機溶剤中毒予防規則
二 作業条件の簡易な調査
こちらは、特化物と同じもので兼用ですが、以下に厚生労働省より、問診票の例が提示されています。
こちらは定期健康診断用のフォームですね。雇用や配置の変更がある場合には、必要な項目について適宜聞き取る必要があるとのことです。
ちなみに、多数の有機溶剤を使用している場合、各化学物質につき「作業条件の簡易な調査」が必要かという論点があります。つまり、例えば10種類の有機溶剤がある場合、10種類の作業条件の簡易な調査が必要となるかということです。
労働局に確認したところ、複数の化学物質をまとめて調査してもよいとのことでした。この点に関しては、行政通達などで具体的な規定がある可能性がありますね。
三 有機溶剤による健康障害の既往歴並びに自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査、別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)についての既往の検査結果の調査並びに別表の下欄(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査を除く。)及び第五項第二号から第五号までに掲げる項目についての既往の異常所見の有無の調査
はい、ここは既往歴、つまり、過去の有機溶剤による健康障害のチェックです。分解しますと以下のようになります。
有機溶剤による
①健康障害の既往歴
②自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査
③別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)についての既往の検査結果の調査
④別表の下欄(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査を除く。)及び第五項第二号から第五号までに掲げる項目についての既往の異常所見の有無の調査
ここで前提として重要なのは「有機溶剤による」という部分です。
よく、医師が有機溶剤と関係のない所見について記載を行うのですが、そうすると見た人は「有機溶剤による」と誤認する場合があります。
①については、有機溶剤の健康障害の既往歴を記載するだけです。
②については、自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無を記載します。
自覚症状と他覚症状は、どんな所見の有無を見ればいいのでしょうか?
それは、これです。
有機溶剤健診の結果について、デフォルトで準備されている有機溶剤健康診断個人票があります。
その有機溶剤健康診断個人票(様式第3号(第30条関係)に、「自覚症状」および「他覚症状」の欄は、次の番号を記載することとあります。
これらが、有機溶剤の健康障害の自覚症状と他覚症状と想定されているわけです。
③及び④については、「別表」とあります。有機則の別表は一つしかなく、以下になります。
いくつかの有機溶剤については、以下のように追加の健康診断項目があります。
これらで異常があったかどうかの調査ということになります。
有機溶剤中毒予防規則 別表(第29条関係)
四 有機溶剤による自覚症状又は他覚症状と通常認められる症状の有無の検査
この「自覚症状」と「他覚症状」についてはこの番号になります。
あと、「通常認められる症状」ですが、こちらは医師による判断ということになります。
有機溶剤の二次健診
有機溶剤健診の二次健診は、有機溶剤中毒予防規則29条5項に記載があります。
有機溶剤中毒予防規則29条5項
事業者は、第二項の労働者で医師が必要と認めるものについては、第二項及び第三項の規定により健康診断を行わなければならない項目のほか、次の項目の全部又は一部について医師による健康診断を行わなければならない。
そして、「次の項目」がこちらになります。
一 作業条件の調査
二 貧血検査
三 肝機能検査
四 腎機能検査
五 神経学的検査
こちらに関しては、医師が「必要と認める」場合の二次検査になります。
通達としては以下があります。こちらに詳細があります。
「労働安全衛生規則の一部を改正する省令、有機溶剤中毒予防規則の一部を改正する省令及び鉛中毒予防規則の一部を改正する省令等の施行について」
(5) 第五項関係イ 第一号の「作業条件の調査」は、従来有機則別表に定められていたが、新たに、医師が必要と認める場合に行う項目として規定したこと。
ロ 第二号の「貧血検査」とは、有機則別表の(一)に掲げる有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査以外の貧血に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査を含む貧血に関する検査をいうこと。
貧血に関する検査には、血色素量及び赤血球数の検査以外にヘマトクリット値、網状赤血球数の検査等があること。
ハ 第三号の「肝機能検査」とは、有機則別表の(二)、(四)、(六)に掲げる有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTP以外の肝機能に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTPの検査を含む肝機能に関する検査をいうこと。
肝機能に関する検査には、GOT、GPT、γ―GTPの検査以外に血清の総蛋白、ビリルビン、アルカリフォスファターゼ、乳酸脱水素酵素の検査等があること。ニ 第四号の「腎機能検査」には、尿中蛋白量、尿中糖量、尿比重の検査、尿沈渣顕微鏡検査等があること。
ホ 第五号の「神経内科学的検査」には、筋力検査、運動機能検査、腱反射の検査、感覚検査等があること
「労働安全衛生規則の一部を改正する省令、有機溶剤中毒予防規則の一部を改正する省令及び鉛中毒予防規則の一部を改正する省令等の施行について」
(平成元年8月22日 基発第462号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb2072&dataType=1&pageNo=1
以下、解説です。
一 作業条件の調査
「作業条件の調査」は上記「作業条件の簡易な調査 」と違い、「簡易」が入っていないですよね。
しっかり調査することになります。
ちなみに、こちらは有機則には規定がないのですが、特化物について以下の通達に規定されています。
化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の見直しについて(2020年7月1日施行)
https://jsite.mhlw.go.jp/kyoto-roudoukyoku/content/contents/000749005.pdf
上記通達に「作業条件の調査」(「簡易な」ではない)の記載があります。「作業条件の調査」は、労働者の四アルキル鉛へのばく露状況の詳細について、当該労働者、衛生管理者、作業主任者等の関係者から聴取することにより調査するものであることとされています。
(ウ)医師が必要と認める場合に追加する項目(四アルキル則第22条第3項関係) ① 「作業条件の調査」は、労働者の四アルキル鉛へのばく露状況の詳細について、当該労働者、衛生管理者、作業主任者等の関係者から聴取することにより調査するものであること。 ② 「貧血検査」には、血色素量及び赤血球数の検査以外にヘマトクリット値、網状赤血球数の検査等があること。 ③ 「神経学的検査」には、筋力検査、運動機能検査、腱反射の検査、感覚検査等があること。
そして、以下の項目については、「労働安全衛生規則の一部を改正する省令、有機溶剤中毒予防規則の一部を改正する省令及び鉛中毒予防規則の一部を改正する省令等の施行について」(平成元年8月22日 基発第462号) に記載があります。
(5) 第五項関係
イ 第一号の「作業条件の調査」は、従来有機則別表に定められていたが、新たに、医師が必要と認める場合に行う項目として規定したこと。
ロ 第二号の「貧血検査」とは、有機則別表の(一)に掲げる有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査以外の貧血に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査を含む貧血に関する検査をいうこと。
貧血に関する検査には、血色素量及び赤血球数の検査以外にヘマトクリット値、網状赤血球数の検査等があること。
ハ 第三号の「肝機能検査」とは、有機則別表の(二)、(四)、(六)に掲げる有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTP以外の肝機能に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTPの検査を含む肝機能に関する検査をいうこと。
肝機能に関する検査には、GOT、GPT、γ―GTPの検査以外に血清の総蛋白、ビリルビン、アルカリフォスファターゼ、乳酸脱水素酵素の検査等があること。
ニ 第四号の「腎機能検査」には、尿中蛋白量、尿中糖量、尿比重の検査、尿沈渣顕微鏡検査等があること。
ホ 第五号の「神経内科学的検査」には、筋力検査、運動機能検査、腱反射の検査、感覚検査等があること。
労働安全衛生規則の一部を改正する省令、有機溶剤中毒予防規則の一部を改正する省令及び鉛中毒予防規則の一部を改正する省令等の施行について (平成元年八月二二日 基発第四六二号)
二 貧血検査
上記通達には、「貧血検査」とは、「有機則別表の(一)に掲げる有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査以外の貧血に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対しては血色素量及び赤血球数の検査を含む貧血に関する検査をいうこと」とされています。
「血色素量及び赤血球数の検査以外」の部分につきましては、「有機則別表の(一)に掲げる有機溶剤等 」には、すでに一次検査にて「血色素量及び赤血球数の検査 」がなされているのでそれ以外ということになります。ここで「貧血に関する検査」については「貧血に関する検査には、血色素量及び赤血球数の検査以外にヘマトクリット値、網状赤血球数の検査等があること。」と記載されています。
以上より、貧血検査とは、ヘモグロビン(血色素量)、赤血球数、ヘマトクリット値、網状赤血球数の検査等ということになります。
三 肝機能検査
ハ 第三号の「肝機能検査」とは、有機則別表の(二)、(四)、(六)に掲げる有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTP以外の肝機能に関する検査をいい、それ以外の有機溶剤等に対してはGOT、GPT、γ―GTPの検査を含む肝機能に関する検査をいうこと。
肝機能に関する検査には、GOT、GPT、γ―GTPの検査以外に血清の総蛋白、ビリルビン、アルカリフォスファターゼ、乳酸脱水素酵素の検査等があること。
ここで、「有機則別表の(二)、(四)、(六) 」(改正前の別表の番号で、現在の別表とは番号が合いません)には、すでに「GOT、GPT、γ―GTP 」がなされているので、それらを除外します。
四 腎じん機能検査
第四号の「腎機能検査」には、尿中蛋白量、尿中糖量、尿比重の検査、尿沈渣顕微鏡検査等があること。
五 神経学的検査
第五号の「神経内科学的検査」には、筋力検査、運動機能検査、腱反射の検査、感覚検査等があること。
有機溶剤中毒予防規則 別表(第29条関係)の検査(別表の検査)
こちらは、有機溶剤中毒予防規則29条3項です。このように、特定の有機溶剤については特定の項目の検査を追加しなければなりません。
有機溶剤中毒予防規則29条3項
事業者は、前項に規定するもののほか、第一項の業務で別表の上欄に掲げる有機溶剤等に係るものに常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月以内ごとに一回、定期に、別表の上欄に掲げる有機溶剤等の区分に応じ、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。
e-Gov 有機溶剤中毒予防規則
一部の有機溶剤については、特殊な検査が追加されています。これが有機溶剤は健診の基本的な部分が有機則29条に記載されており、共通していますが、有機溶剤の個性に応じて追加されている項目になります。
例えば、二硫化炭素は網膜症をきたすため、眼底検査が必要です。キシレン、トルエンは尿中代謝物を測定することで、その労働者が暴露した有機溶剤の程度を知ることができるので測定します。
尿中有機溶剤の代謝物量の検査は1年に一度
なお、29条4項にて、以下のように記載されていることから
半年に一度の健康診断であれば、医師が必要でないと認めるときは、尿中代謝物の検査は1年に一度でいいということになっています。
有機溶剤中毒予防29条4項
前項の健康診断(定期のものに限る。)は、前回の健康診断において別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)について健康診断を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該項目を省略することができる。
e-Gov 有機溶剤中毒予防規則
しかし、2023年4月から化学物質の規制が改正され、有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質を除く)、鉛、四アルキル鉛に関する特殊健康診断の実施頻度について、作業環境管理や暴露防止対策が適切に実施されている場合、事業者は通常6ヵ月ごとに行われる特殊健康診断を1年ごとに1回に緩和することができると規定されています。
つまり、尿中代謝物の検査を2回に1度にするということではなく、健康診断自体を1年に1回に緩和する可能性があるということですね。
以上のように健診項目を設定いたします。
こちらにつきましては、まだ通達などがありませんので、情報が出次第追記いたします。
まとめ
有機溶剤の健診を行う業務についてお話しいたしました。医師が問診、診察を行う際のチェック項目も有機溶剤健診の個人票より解説いたしました。
有機溶剤の健診は、基本的な健診項目が共通しており、特定の有機溶剤に対しては追加の項目が設けられるという構図です。基本の部分はしっかり覚えた上で、追加の部分を必要に応じで覚えれば十分です。
また、二次健診に関しては、医師の判断で必要と認められた場合に行われます。
この有機溶剤の健康診断において必要とされる事項を知っておきましょう。
医師にとって、診察・問診自体は難しいものではありません。
なお、以下は近年の健診の改正です。
化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の見直しについて(2020年7月1日施行)
https://jsite.mhlw.go.jp/kyoto-roudoukyoku/content/contents/000749005.pdf
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