2023/07/18 2023/06/22
【安全衛生・産業医向け】皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止と保護具の規定について
2023年7月19日に新しい指針に沿った記事に直しております。
皮膚・眼刺激性、皮膚腐食性または皮膚から吸収され健康障害を引き起こしうる化学物質と当該物質を含有する製剤を製造し、または取り扱う業務に労働者を従事させる場合には、その物質の有害性に応じて、労働者に障害等防止用保護具を使用させなければなりません。
この規定にについて説明します。
皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止について
労働安全衛生規則594条と、594条の2、 2つの条文があります
皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止に関する条文を見てみましょう。労働安全衛生規則594条と、594条の2です。
今回はこの2つの条文について並行してお話しいたします。
この2つの関係ですが以下のように、義務規定と、努力義務規定になります。
594条・・・・・皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止の義務規定
594条の2・・・皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止の努力義務規定
さて、条文です。
労働安全衛生規則
(皮膚障害等防止用の保護具)
第五百九十四条 事業者は、皮膚若しくは眼に障害を与える物を取り扱う業務又は有害物が皮膚から吸収され、若しくは侵入して、健康障害若しくは感染をおこすおそれのある業務においては、当該業務に従事する労働者に使用させるために、塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を備えなければならない。
2 事業者は、前項の業務の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具について、備えておくこと等によりこれらを使用することができるようにする必要がある旨を周知させなければならない。第五百九十四条の二 事業者は、化学物質又は化学物質を含有する製剤(皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなものを除く。)を製造し、又は取り扱う業務(法及びこれに基づく命令の規定により労働者に保護具を使用させなければならない業務及びこれらの物を密閉して製造し、又は取り扱う業務を除く。)に労働者を従事させるときは、当該労働者に保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を使用させるよう努めなければならない。
2 事業者は、前項の業務の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、同項の保護具について、これらを使用する必要がある旨を周知させるよう努めなければならない。
まず、重要な定義を述べます。
皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に浸入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかなものを、「皮膚等障害化学物質等」と呼びます。
条文に「感染」(緑ハイライト)についても記載がありますが、条文では「健康障害若しくは感染」とあるので、健康障害と感染を区別しているという認識なのでしょうか?ここはよくわかりません。
化学物質又は化学物質を含有する製剤(皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に浸入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかなものに限る。以下「皮膚等障害化学物質等」という。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日
そして、この皮膚等障害化学物質等はさらに、皮膚刺激性有害物質と皮膚吸収性有害物質 の二つのグループに分かれます。
図にしてみます。皮膚吸収性有害物質は、以下の通達に一覧があります。
では、解説していきます。
どのような業務に、どのような対応が必要か
では、この二つの条文の業務を見てみましょう。
594条の業務
594条はの保護具の義務規定の対象となる業務です。
つまり、簡単に言うと、皮膚若しくは眼に障害を与える物、又は皮膚等障害化学物質等により、健康障害・感染をきたすおそれのある業務ですね。
この「おそれ」についてはGHS等で確認してゆくことになります。
以下、通達になります。
本規定の「皮膚等障害化学物質等」には、国が公表するGHS分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれかで区分1に分類されているもの及び別途示すものが含まれること。
上記、緑ハイライト部分である、「別途示すものが含まれること」については、通達、「皮膚等障害化学物質等に該当する化学物質について 基発0704第1号 令和5年7月4日」に示されています。
しかし、見直しや新たな知見が示された場合は、必要に応じ、見直されることがあるとされています。
594条の2の業務
594条の2については、まず、業務に関する規定を抜き出しました。
長いですね。
化学物質又は化学物質を含有する製剤(皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなものを除く。)を製造し、又は取り扱う業務(法及びこれに基づく命令の規定により労働者に保護具を使用させなければならない業務及びこれらの物を密閉して製造し、又は取り扱う業務
前段(前半)と、後半に分けて考えましょう。
①前段について(製造している業務について)
(業務の前段)
化学物質又は化学物質を含有する製剤(皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなものを除く。)を製造し
つまり、すごく簡単に言い換えまと。
皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなでない
化学物質又は化学物質を含有する製剤
を製造している事業者
になります。
②後段について(取り扱う業務について)
取り扱う業務(法及びこれに基づく命令の規定により労働者に保護具を使用させなければならない業務及びこれらの物を密閉して製造し、又は取り扱う業務を除く。)
こちらについては、さらに二つに分かれます。
(ア)法令により保護具使用の義務規定があるものは除く
(イ)これらの物を密閉して製造し、又は取り扱う業務を除く
の部分を解説します。
(ア)法令により保護具使用の義務規定があるものは除く
化学物質又は化学物質を含有する製剤取り扱う事業者であって
「法及びこれに基づく命令の規定により労働者に保護具を使用させなければならない業務・・・・を除く。」
ということになります。
「法及びこれに基づく命令の規定」である、594条の業務つまり、保護具着用義務のある業務は除かれるということになります。
その他、特化物などの規定もこれに含まれますよね。
つまり、個別に規定があるなら、そちらに従ってくださいということです。
さらに、「健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなものを除く。」とあります。
明らかに危険性がないのなら、保護具は必要ないでしょうということです。
つまり言い換えると、
法令で保護具の義務がある業務、及び明らかに健康障害を生ずるおそれがないもの以外
となります。
(イ)これらの物を密閉して製造し、又は取り扱う業務を除く
「・・・これらの物を密閉して製造し、又は取り扱う業務を除く」ということで
密閉化していればばく露の危険がないので、保護具の着用は必要ないということです。
これを、合わせて、すごく簡単に言い換えると(おこられそうですが)
保護具を法令等で着用させなければいけない業務と、化学物質を密閉して製造・取扱いする業務以外
ということになります。
前段と後段をまとめます。
化学物質又は化学物質を含有する製剤を製造している事業者であって
皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかでない場合
については、
労働者を従事させるときは、塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を備えなければならない。
または
皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなでない
化学物質又は化学物質を含有する製剤を取り扱う場合であって
保護具の着用が法令等で義務とされている業務でなく、かつ、化学物質を密閉して製造・取扱いする業務でない場合
については、
労働者を従事させるときは、当該労働者に保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を使用させるよう努めなければならない。
ということです。
「皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなもの」とは何か
では、「皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなもの」という長い文章で説明されるものはどのようなものでしょうか。
それは、以下の通達に記載があります。少々複雑ですね。
「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれも「区分に該当しない」と記載されとあることから、これらの項目のGHS区分に区分1~5までの区分がついていないことを指します。
そして、非常に簡単に言うと、眼や皮膚に暴露して、健康障害を起こさないことが明らかなものです。
本規定の「皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがないことが明らかなもの」とは、国が公表するGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)に基づく危険有害性の分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれも「区分に該当しない」と記載され、かつ、「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」を除くいずれにおいても、経皮による健康有害性のおそれに関する記載がないものが含まれること。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日
以上の黄色ハイライト部分を分解してまとめます。
SDSの有害性情報ををチェックしたうえ
① ア)「皮膚腐食性・刺激性」、イ)「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及びウ)「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のGHS区分に区分1から区分5の記載をチェックする。
② ア)、イ)、ウ)は①でチェックしたので、そのほかの部分でSDSの有害性情報に「経皮による健康有害性」が何か書いていないかチェックする。
①、②共にチェックされたものがなければ
「皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがない」
といえるということです。
今までの部分を非常に簡単にまとめます。
非常に簡単にいいますと(おこられそうですが)
皮膚または目に付着することで健康障害がおこる物質を扱っている場合で
その物質が危ないことがわかっていて、法令で保護具着用の規定があるなら、そちらで対応してください。
健康障害が起きないのが明らかなら保護具は必要ないです。
密閉していているのであれば、まあ保護具はいらないでしょう。
そうでない場合には、保護具を努力義務で着用してください
ということです。
つまり、上記では3つの化学物質(業務)が登場しています。
皮膚または目に付着することで健康障害について
1,健康障害若しくは感染をおこすおそれがある
2.健康障害を生ずるおそれがないことが明らかでない
3.健康障害を生ずるおそれがないことが明らか
この3つのどれに属するかを意識して条文を読めば意味が分かりやすいかと思います。
さらにもっと簡単な図にすると以下のようになります。文言とかが正確でないので、必ず条文で確認してください。
図の健康障害は、眼や皮膚へ暴露、眼や皮膚からの吸収により生ずるものです。
保護具の規定も少し違います
保護具の規定も少し違います。
594条・・・塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を備えなければならない。
594条の2・・保護衣、保護手袋、履物又は保護眼鏡等適切な保護具を使用させるよう努めなければならない。
微妙に違いますよね、
594条に該当する物質なら保護衣が「不透湿性」になります。
皮膚等障害化学物質等を製造し、又は取り扱う業務において、労働者に適切な不浸透性の保護衣等を使用させなければならないことを規定する趣旨であるということです。
なお、「不透湿性」については、以下の通達に解説があります。
2 化学防護手袋の選択に当たっての留意事項
労働安全衛生関係法令において使用されている「不浸透性」は、有害物等と直接接触することがないような性能を有することを指しており、日本工業規格(以下「JIS」という。)T8116(化学防護手袋)で定義する「透過」しないこと及び「浸透」しないことのいずれの要素も含んでいること。(「透過」及び「浸透」の定義については後述)化学防護手袋の選択に当たっては、取扱説明書等に記載された試験化学物質に対する耐透過性クラスを参考として、作業で使用する化学物質の種類及び当該化学物質の使用時間に応じた耐透過性を有し、作業性の良いものを選ぶこと。
なお、JIS T 8116(化学防護手袋)では、「透過」を「材料の表面に接触した化学物質が、吸収され、内部に分子レベルで拡散を起こし、裏面から離脱する現象。」と定義し、試験化学物質に対する平均標準破過点検出時間を指標として、耐透過性を、クラス1(平均標準破過点検出時間10分以上)からクラス6(平均標準破過点検出時間480分以上)の6つのクラスに区分している(表1参照)。この試験方法は、ASTM F739と整合しているので、ASTM規格適合品も、JIS適合品と同等に取り扱って差し支えない。 また、事業場で使用されている化学物質が取扱説明書等に記載されていないものであるなどの場合は、製造者等に事業場で使用されている化学物質の組成、作業内容、作業時間等を伝え、適切な化学防護手袋の選択に関する助言を得て選ぶこと。
そして、新しい言葉が出てきましたね。「塗布剤」という。
実は、この言葉は昔から特化物にはありました。特化則44条ですね。
具体的には、フッ酸火傷におけるグルコン酸カルシウムゼリー塗布などでしょうか。
保護具のチョイスについては、上記の文言を意識しましょう。
特化則(保護衣等)第四十四条 事業者は、特定化学物質で皮膚に障害を与え、若しくは皮膚から吸収されることにより障害をおこすおそれのあるものを製造し、若しくは取り扱う作業又はこれらの周辺で行われる作業に従事する労働者に使用させるため、不浸透性の保護衣、保護手袋及び保護長靴並びに塗布剤を備え付けなければならない。2 事業者は、前項の作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、同項の保護衣等を備え付けておくこと等により当該保護衣等を使用することができるようにする必要がある旨を周知させなければならない。3 事業者は、令別表第三第一号1、3、4、6若しくは7に掲げる物若しくは同号8に掲げる物で同号1、3、4、6若しくは7に係るもの若しくは同表第二号1から3まで、4、8の2、9、11の2、16から18の3まで、19、19の3から20まで、22から22の4まで、23、23の2、25、27、28、30、31(ペンタクロルフエノール(別名PCP)に限る。)、33(シクロペンタジエニルトリカルボニルマンガン又は二―メチルシクロペンタジエニルトリカルボニルマンガンに限る。)、34若しくは36に掲げる物若しくは別表第一第一号から第三号まで、第四号、第八号の二、第九号、第十一号の二、第十六号から第十八号の三まで、第十九号、第十九号の三から第二十号まで、第二十二号から第二十二号の四まで、第二十三号、第二十三号の二、第二十五号、第二十七号、第二十八号、第三十号、第三十一号(ペンタクロルフエノール(別名PCP)に係るものに限る。)、第三十三号(シクロペンタジエニルトリカルボニルマンガン又は二―メチルシクロペンタジエニルトリカルボニルマンガンに係るものに限る。)、第三十四号若しくは第三十六号に掲げる物を製造し、若しくは取り扱う作業又はこれらの周辺で行われる作業であつて、皮膚に障害を与え、又は皮膚から吸収されることにより障害をおこすおそれがあるものに労働者を従事させるときは、当該労働者に保護眼鏡並びに不浸透性の保護衣、保護手袋及び保護長靴を使用させなければならない。4 事業者は、前項の作業の一部を請負人に請け負わせるときは、当該請負人に対し、同項の保護具を使用する必要がある旨を周知させなければならない。
594条2項と594条の2第2項の規定は請負人がいる場合の規定です
594条2項と594条の2第2項ですが、請負契約に請負人が関与している場合の規定です(民法632条)。
基本的に、請負人は委託者からの指示を受けることなく、請負契約の履行を行います。この規定により、請負人は保護具を備えて作業を行い、これらを使用することができるようにする必要があります。
また、594条と594条の2の両規定について請負人に周知させる必要があります。594条は義務規定であり、594条の2は努力義務規定です。
(請負)
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
e-Gov 民法
まとめ
皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止に関する保護具の規定ですが
①どのような化学物質を使用して
②どのような業務を行うときに
③どのような保護具を着用するべきか
④保護具の着用は義務か、努力義務か
について確認しましょう。
労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。
産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。
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化学物質の個別的な規制についても得意としています。
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