事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【キャリア理論】産業医のためのキャリア理論、キャリア・アンカーについて

産業医は通常、カウンセリングは行いません。産業医の活動時間は通常2時間ほどであり、安全衛生委員会への出席やその他の相談により、時間的にカウンセリングを行うことは難しいです。しかしながら、産業医がカウンセリングを行うことには非常に大きなメリットがあります。私は相談や面談の内容に応じて、キャリアや心理に関する面談も行っています。今回は、初心者の産業医向けにキャリア・アンカーという重要な概念について、わかりやすく解説します。

 

 キャリア・アンカーとは

キャリア・アンカーは、キャリアを考慮する上で非常に重要な概念です。キャリアを選択する際、自分にとって最も大切な仕事に対するこだわり、大事にしたい価値観ということになります。
産業医は、就業上の措置として配転を述べることがありますが、通常は「何ができるのか」という部分に注目し、「どのように仕事をしたいか」という視点をあまり考えることはありません。

キャリア・アンカー(エドガー・H・シャイン博士)とは、キャリアを選択する際、自分にとって最も大切で、どうしても犠牲にしたくない価値観や欲求、動機、能力等を指します。
「どんな仕事をしたいか」という価値観は重要ですが、産業構造の変化や組織内での役割の変化等によるキャリア・チェンジの選択ではあくまで希望の一つです。むしろ、「何をしたいか」より「どういう風に仕事をしたいか」という自分なりの価値観が今後のキャリア選択の鍵となります。

引用元:平成29年度 厚生労働省委託 労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業 報告書

 

エドガー・H・シャイン(Schein、E, H.)について

まず、キャリア・アンカーに入る前に、エドガー・H・シャイン(Schein, E. H.)についてご説明します。シャインはアメリカの学者で、組織心理学の分野で知られています。シャインはキャリア・アンカーだけでなく、組織の三次元モデルやキャリアの発達についても研究しています。

前述の通り、キャリアを選択する際、自分にとって最も大切で、どうしても犠牲にしたくない価値観や欲求、動機、能力等を指します。キャリア・アンカーは、個人が自身のキャリアを構築する際に重要な役割を果たし、その人の自己像の中心を示します。

面談者自身がどのようなキャリア・アンカーを持っているかを考えることで、自身のキャリアを見つめ直すことができます。実際には、キャリア・アンカーを面談者自身が気づいていないことも多いため、面談の中でキャリア・アンカーを振り返り、今後のキャリアについて考えていきます。

シャインは、キャリア・アンカーを8つの主要なタイプに分類しました。以下では、それぞれのキャリア・アンカーを簡単に説明します。

  • 管理能力
    管理能力 で人と人とを相互に結びつけ、対人関係を処理し、集団を統率する能力や権限を行使する能力を発揮し、組織の期待に応えることに喜びを感じる。

  • 技術的・機能的能力
    企画、営業、エンジニアリングなど特定の分野で能力を発揮することに喜びを感じる。
  • 補償・安定
    仕事の満足感や保障など、経済的安定を得ること。一定の顧客や組織に忠誠心をもち、献身的に尽くす。
  • 創造性
    新しいものを創り出すこと。障害を乗り越える能力があり、リスクを恐れずに何かを達成し、達成したものが自分の努力の結果であることが原動力。
  • 自律と独立
    組織のルールややり方に縛られずに、自分のやり方で仕事を進めていく。仕事のペースを自分の裁量で決めていくことを望む。
  • 奉仕・社会貢献
    暮らしやすい社会の実現、他者の救済、教育などに価値を見出し、成し遂げていく。転職してでも自分の関心ある分野で仕事をする機会を求める。
  • 全体的な調和
    個人的な欲求、家族の願望、自分の仕事とのバランスや調整を考え、全体的な調和を実現できる仕事を考える。
  • 純粋な挑戦
    解決困難に見える問題や解決の手ごわい相手に打ち勝とうとする。人との競争にやり甲斐を感じ、目新しさや変化、難しさが目標となる。

みなさまはどのようなキャリア・アンカーをお持ちでしょうか。
自身の譲れない価値観を知ったうえでどのようなキャリアを設計するか考えます。

 産業医とキャリアアンカー(治療と仕事の両立支援)

産業医が面談する場面では、従業員の方に転機が訪れていることがあります。例えば、脳梗塞による後遺障害で以前の仕事ができなくなった場合などです。復職後に産業医の面談があり、治療と仕事の両立支援が行われる場合、多くの産業医は事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインに基づいて関係者とのやり取りを経て、治療と仕事の両立を目指します。

しかし、治療と仕事の両立支援のガイドラインには、キャリアに関する視点がありません。実際にガイドラインには、「仕事と治療のバランスや今後のキャリアについて悩み、メンタルヘルス不調に陥る場合もある」と記載されていますが、具体的にキャリアに対してどのように対応すべきかは明示されていません。

なお、トライアングル型支援については「キャリアコンサルタント」という言葉が使用されています。

やはり、治療と仕事の両立支援においてもキャリアの視点は重要です。今までの仕事ができなくなり、配転する場合でもキャリア・アンカーを考慮する必要があります。会社が提示する配転先が客観的に従業員に有利であっても、従業員のキャリア・アンカーに合致しない可能性があります。



メンタルヘルス不調とキャリア・アンカー

さきほど、このように述べました。

「仕事と治療のバランスや今後のキャリアについて悩み、メンタルヘルス不調に陥る場合もある」
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン

メンタルヘルス不調の一因として、キャリアに関する悩みが存在します。産業医がメンタルヘルス不調に対応する際には、あまりキャリアの悩みが重視されていないようですが、実際には多くの人がキャリアに関して悩んでいる印象があります。

令和3年の労働安全衛生調査によると、強いストレスを感じている労働者の割合は53.3%であり、「対人関係」、「役割・地位の変化等」、「雇用の安定性」、「会社の将来性」といったキャリアに関連する要素がストレスの主な原因として浮かび上がっています。

産業医がこうしたキャリアに関連する問題に対応できるようになると良いですね。

令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r03-46-50_kekka-gaiyo02.pdf

なお、同じく令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況(厚生労働省)において、ストレスを相談できる人について、「産業医」は8.3%となっています。


 キャリア・アンカーは30代後半以降の方に適用できる。

なお、キャリア・アンカーは、キャリア形成ができていない若い人材には適用できないと言われています。組織に属してから概ね30代後半以降にキャリア・アンカーが確立されると言われています。
そのため、若い方の面談についてキャリア・アンカーを探っても効果が得られないといわれています。

 まとめ

シャインのキャリア・アンカーについてご説明しました。
キャリア・アンカーは、キャリアを考慮する上で非常に重要な概念です。キャリアを選択する際、自分にとって最も大切な仕事に対するこだわり、大事にしたい価値観です。

産業医がこの理論を治療と仕事の両立支援の場面で活用することは重要です。
令和3年の労働安全衛生調査では、仕事や職業生活に関連する強いストレスを感じる場合において、キャリアに関連する要素が多く見られ、キャリアコンサルタントが対応できる範囲も広いと思われます。
また、従業員が病気や障害を負った場合には、転機が訪れる可能性があり、配転等においてキャリア・アンカーを考慮するべきだと考えます。

キャリアの視点は今後の産業医の活動において重要な役割を果たすでしょう。




労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務を行っております。

メンタルヘルス不調に関する難しい案件にも対応いたします。社労士ですので、就業規則や社会保障も含めた労務管理を考慮した対応を行い、また、主治医との診療情報提供依頼書のやり取りを通じて、従業員の復職支援、両立支援を行うことを得意としています。

行政書士事務所として、休職発令の書面や、休職期間満了通知書、お知らせ等の書面の作成も行います。

メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務は、原則として、顧問医・産業医としての契約になります。
オンラインツールを用いて、日本全国の対応が可能ですのでメンタルヘルス不調でお困りの方はぜひお問い合わせください。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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