事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【資格・産業医・医師向け】産業医の専門性を高めるスペシャリティ(専門医等)について主観で解説

産業医を専門とする医師が、より高度な専門性を目指す場合に考えられるスペシャリティを私の主観で挙げてみます。
「スペシャリティ」などというよくわからない言葉を使うなと思われる方もおられるでしょうが、理由があります。
医師で専門分野というと「専門医」という言葉が知られていますが、安全衛生・産業保健分野では専門性に関する資格が医師に限られるわけではありません。
今回は、このような産業医の「スペシャリティ」について説明します。

※ この記事では、国家資格として労働衛生コンサルタントと作業環境士に焦点を当てて紹介します。医師免許と相性の良い他の国家資格等については、別の記事で紹介いたします。

産業医の専門性を高めるスペシャリティの分類

日本専門医機構が認定する「専門医」の制度について

一般的に、専門医とは、学会などがその医師を専門医・指導医と認定していることがほとんどです。そのため、多くの場合、〇〇学会認定専門医という表記が使われています。

まず、一般社団法人日本専門医機構(以下、日本専門医機構)という組織が存在します。こちらは、専門医制度になるための制度に関わる機構です。同機構において、新たな専門医の認定・更新基準や養成プログラム・研修施設の基準を作成し、専門医の認定と養成プログラムの評価・認定を統一的に行うことが役割とされています。

専門医の制度については、医師にとっては常識で、詳細な内容は長くなるため、ここでは省略します。

一般社団法人日本専門医機構
一般社団法人日本専門医機構は、国民から信頼される専門的医療に熟達した医師を育成し、日本の医療の向上に貢献することを目指します。
引用:一般社団法人日本専門医機構ホームページ

そして、専門医について、日本専門医機構では以下のように定義しています。

一般社団法人 日本専門医機構
日本専門医機構が認定する「専門医」とは、それぞれの診療療育における適切な教育を受けて十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに先端的な医療を理解し情報を提供できる医師と定義されます。
引用:一般社団法人日本専門医機構ホームページ

 

社会医学系専門医協会が認定する社会医学系専門医

このように、日本専門医機構が認定する「専門医」がありますが、産業保健に関わる産業医は一般的に社会医学系と呼ばれる分野に属しており、社会医学系専門医という資格が存在します。そして、社会医学系専門医については、前述した日本専門医機構は関与していません。

代わりに、社会医学系専門医協会が関与しています。

一般社団法人 社会医学系専門医協会HPより

社会医学は、医学を共通基盤とし、臨床医学が病める個人へのアプローチを中心とするのに対し、実践的な個人へのアプローチを有しながらも、広範な健康レベルを有する集団や社会システムへのアプローチを中心とする特徴を有している。
また医学に留まらず、科学全体やさらに経営管理等の人文系にわたる広範な学問体系を応用して理論と実践の両面から保健・医療・福祉・環境とそれらとの社会のあり方を追求する学問である。従って、社会医学を担う上での専門性を維持・向上させるためには、社会医学領域の専門医制度を構築するべきである。(共同提言:社会医学領域の専門医制度確立について(2015年6月5日)
以上より、関係学会・団体が協働して社会医学系専門医制度を構築し運営するために当協議会を設立した(2015年9月11日)。
社会医学系専門医協議会は法人化され、「一般社団法人 社会医学系専門医協会」となりました(2016年12月5日)。

一般社団法人 社会医学系専門医協会HP

上記の日本専門医機構が認定する「専門医」か、社会医学系専門医に該当する医師は専門医と呼ばれますが、例えば「労働衛生コンサルタント」は国家資格であり、上記の「専門医」には該当しません。しかし、産業保健・労働衛生の専門家を目指す場合には、「労働衛生コンサルタント」は欠かせない存在です。そのため、このブログでは意図的に「スペシャリティ」という表現を用いたいと思います。

その他、医師に限らないさまざまな学会が認定する専門家

日本専門医機構や社会医学系専門医協会は、医師の専門性に関連する組織です。その他にも、医師であるか非医師であるかにかかわらず、専門家の専門性を認定する制度が各種学会で存在します。
こちらについてもご紹介いたします。

スペシャリティを専門医、専門家、国家資格に分類 

ここで、産業医に関連する専門領域を列挙し、分類してみました。以下は私の個人的で主観的な分類です。

専門医系
①日本産業衛生学会専門医・指導医
②社会医学系専門医・指導医

医師に限らないさまざまな学会が認定する専門家
③公衆衛生専門家(日本公衆衛生学会)
④衛生学エキスパート (日本衛生学会)

国家資格系
①労働衛生コンサルタント
②作業環境測定士

これらの資格について解説します。

専門医系についての解説。

では、専門医系の解説をいたします。

①日本産業衛生専門医・指導医

産業医の専門医としては、この資格が最も有名だと思われます。ちなみに、私はこの資格を持っていません。

専門医の試験受験資格には、「指導医の所属する研修施設等にて、指導医の指導の下で研修施設における9単位以上の産業医研修を修了している」という条件があります。私は以前所属していた大学の公衆衛生学教室には指導医がおり、研修施設も存在していましたが、研修の登録は行っていませんでした。

現在、私が産業衛生専門医を取得したいかと問われれば、正直に言うと・・・うーん、必要ではありません。

クライエント企業も、私に産業衛生専門医を求めたことはありません。取得しているからと言って、産業医の顧問先が増えるかというとそうではないと思います。産業医の仕事につながる専門性を得たいのであれば、社会保険労務士がよいかと思います。

また、産業衛生専門医の更新要件に、研究業績が必須です。私も時折、研究をしたいという相談を受けるのですが、本気で人の研究をするのであれば、一個人で行うのは現代においては、極めて難しいです。

私にとっては、労働衛生コンサルタントの資格があれば十分だと思います。

②社会医学系専門医・指導医

こちらは社会医学系専門医協議会によって認められている資格です。この資格は社会医学分野での専門医や指導医の育成を目的としています。なお、指導医は専門医の上位資格です。

この資格は産業医に特化したものではなく、社会医学全般の専門医・指導医の育成を対象としています。

社会医学系専門医試験受験資格の一つには、専門研修プログラムの修了認定が必要です。その専門研修プログラムには、基本プログラムの受講が含まれています。
基本プログラムの内容は、以下のような範囲にわたります。

(1)公衆衛生総論  
(2)保健医療政策 
(3)疫学・医学統計学  
(4)行動科学
(5)組織経営・管理  
(6)健康危機管理  
(7)環境・産業保健

このように、基本プログラムの内容は産業保健に特化していないため、社会医学に含まれる幅広い分野をカバーしていますね。そして、この幅広い分野こそが、この資格の強みとなっています。

社会医学系専門医の資格を取得した医師は、社会医学の実務経験があると推測されます。ただし、社会医学全般が対象なので、産業医の経験がない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、大規模な組織や機関が社会医学系専門医や指導医を育成するためには、社会医学系の指導医が必要です。そのため、これらの資格を取得する必要が生じます。

また、クライエント企業から、社会医学系専門医・指導医の資格を求められたことはなく、産業医の顧問先の確保につながる可能性は極めて低いでしょう。

結論を言いますと、産業保健において、産業医としての専門性を高めるうえで、社会医学系専門医・指導医は必要ないと思われます。

医師に限らないさまざまな学会が認定する専門家

③公衆衛生専門家(日本公衆衛生学会)

こちらは公衆衛生学会が認定する資格です。医師以外の方も受験することができるため、「専門医」とは異なる資格ですね。私はこの資格を持っていませんが、多様な専門家が集まる公衆衛生の特徴を表していると思います。
公衆衛生専門家の資格に関しては、その要件が規定されています。

「日本公衆衛生学会認定専門家の認定に関する規定 」(日本公衆衛生学会)によりますと、以下のように記載があります。
(目的)
第1条 会員の公衆衛生学の専門能力に関わる知識、技能、態度について評価し、その能力を有するものを日本公衆衛生学会認定専門家(以下「認定専門家」という。)と認定することにより、会員の公衆衛生学の専門能力に関する自己研鑽への意欲を増し、質的向上を図ることを目的とする。
(評価項目) 第2条 前条の評価を行う際の基本的な項目を次のように定める。
① 個人と集団の関係に対する理解、ことに健康事象を集団として取り扱い、健康の実態とその規定要因を明らかにすることの意義を理解し、そのための疫学的知識と技術を持つ。
② 家庭、地域、職場、学校などあらゆる生活の場における環境条件と健康事象の関連を理解し、その改善を通じて人々の健康を実現する知識と技法を持つ。
③ 保健医療福祉の分担と連携の意義を認識し、ことに健康増進から疾病予防並びにリハビリテーションの一貫した活動の重要性を理解し、そのための知識と実践的技法および管理技法を持つ。

「日本公衆衛生学会認定専門家の認定に関する規定 」(日本公衆衛生学会)

④衛生学エキスパート (日本衛生学会)

こちらは日本衛生学会が認定する資格です。医師以外の方も衛生学エキスパートになることができるため、「専門医」とは異なる資格です。

私は過去に所属していた大学の教室との関係でこの資格を取得しました。ただし、この資格は衛生学全般を対象とする制度であり、産業医に特化した資格ではありません。衛生学の幅広い領域に強みを持っているという印象です。

日本衛生学会ホームページに記載がありますが。「衛生学エキスパート」になるメリットにつき、「衛生学分野の研究者・実践者としての自己研鑽による衛生学全体の向上に繋がります。また、就職や昇任等においてご活用いただけます。」とあります。

衛生学エキスパートを取得したからといって、産業医の仕事につながるかというとそういうこともないと思います。クライエント企業から、求められたこともありません。

ただ、最近できた資格ですので、将来的にどのような立ち位置になるかは不明です。

国家資格系

国家資格に関しては、名称独占の資格です。独占業務といって、資格を持っている者にしか許されていない業務もあります。

⑤労働衛生コンサルタント

労働衛生コンサルタントは国家資格です。労働衛生コンサルタントには、区分がいくつかあるのですが、産業医が取得するのであれば、保健衛生という区分になります。

労働衛生コンサルタントの資格取得により、日本医師会認定の産業医の更新が不要になることでも知られています。この点が最大のメリットではないかと思います。

正直に言うと、産業医に特化したスペシャリティ(資格)としては、労働衛生コンサルタントと次に記載する作業環境測定士の資格で十分であると思います。

なお、厚生労働省のHPには以下のように記載されています。
「労働安全コンサルタント・労働衛生コンサルタントは、厚生労働大臣が認めた労働安全・労働衛生のスペシャリストとして、労働者の安全衛生水準の向上のため、事業場の診断・指導を行う国家資格(士業)です。」
つまり、厚生労働省により労働衛生コンサルタントは「士業」とされています。
労働衛生コンサルタントの士業に関する詳細は、以下の記事をご覧ください。

個人的な意見ですが、労働衛生コンサルタントが本当に士業化すると良いと思います。現在は、厳密には、社労士や行政書士のような士業とは違い、非士業連携が可能なため、様々な病院や企業からの派遣が可能です。

産業医には中立性が求められますね。営利を追求する企業が大きな権限を持つ産業医を自由にコントロールできると、産業医制度の根本的な問題につながる可能性があります。独立した士業としての自律性は、将来的な産業保健の重要な要素だと考えられます。

⑥作業環境測定士(化学物質管理専門家・作業環境管理専門家)

作業環境測定士は、職場内の有害物質などの測定を行い、環境改善を促進すると同時に労働者の健康を保護することが主な職務です。作業環境測定士の資格は国家資格です。

私は、産業医を専門で行ってゆく医師にとって、作業環境測定士の資格取得は必須だと考えています。

作業環境測定士の業務内容は、作業環境測定法の2条1項の5号および6号に記載されています。

作業環境測定法 2条1項5号6号
五 第一種作業環境測定士 厚生労働大臣の登録を受け、指定作業場について作業環境測定の業務を行うほか、第一種作業環境測定士の名称を用いて事業場(指定作業場を除く。次号において同じ。)における作業環境測定の業務を行う者をいう。

六 第二種作業環境測定士 厚生労働大臣の登録を受け、指定作業場について作業環境測定の業務(厚生労働省令で定める機器を用いて行う分析(解析を含む。)の業務を除く。以下この号において同じ。)を行うほか、第二種作業環境測定士の名称を用いて事業場における作業環境測定の業務を行う者をいう。

作業環境測定士は、名称独占資格です。

作業環境測定法(名称の使用制限)
第十八条 作業環境測定士でない者は、その名称中に作業環境測定士という文字を用いてはならない。
2 第二種作業環境測定士は、第一種作業環境測定士という名称を用いてはならない。
e-Gov 作業環境測定法

近年、個人サンプリング法や個人ばく露測定がますます重要性を増しています。これらのデザイン、サンプリング、分析は複雑化しています。そのため、産業医がこれらに関与する機会も増えてきています。

個人サンプリング法は、測定を行うために一定の講習修了が必要です。一定の講習を修了した場合に限り、個人サンプリング法にも対応できるようになります。今後、化学物質の自律的管理において、作業環境測定士が関与した個人サンプリング法、個人ばく露測定の対応が必要になるでしょう。この時に、作業環境測定士の知識が必要となり、クライエント企業にとっても、作業環境測定士である医師のアドバイスは頼りになるでしょう。

その他、化学物質管理専門家・作業環境管理専門家となる一つの要件として、作業環境測定士としての実務経験があります。化学物質を扱う事業所の産業医を行うのであれば、作業環境管理専門家は必要であり、できれば、化学物質管理専門家となっておくべきでしょう。

産業医が化学物質管理専門家や作業環境管理専門家となるには、現時点(2024年4月)においては、作業環境測定士経由が確実であり、また、更新も必要ないことが利点です。ただ、これらの資格を得るためには、作業環境測定士の登録後、一定の年数が必要ですので注意しましょう。

作業環境管理専門家となる要件については、以下の記事を参照してください。

化学物質管理専門家となる要件については、以下の記事を参照してください。

個人的な主観ですが、化学物質の自律的管理により、作業環境測定士の産業保健における重要性が大きくなると思います。




まとめ

今回、産業医に関連するスペシャリティ(資格)を列挙し、分類し、個人的な主観で解説いたしました。産業医の関連スペシャリティには、専門医だけでなく、学会認定の専門家や国家資格があります。

結局、私のお勧めは、労働衛生コンサルタントと作業環境測定士であり、どちらも国家資格であることから、私個人としては産業保健に関する専門医はいらないと思います。

今回は、スペシャリティということで、医師免許と相性の良い他の国家資格等については、別の記事で紹介していますが、こちらの方が重要です。特に、産業医と社会保険労務士の相性の良さは別格です。

国家資格には業務独占や名称独占が含まれるため、キャリアプランに合わせて計画的に学習を進めることが重要です。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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