2023/11/05 2023/11/06
【化学物質】リスクアセスメント対象物健康診断と事後措置についてわかりやすく解説
2024年4月1日から、化学物質の自律的管理において、事業者はリスクアセスメントの結果に基づき、リスクアセスメント対象物による健康影響の確認のため、事業者は、労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師等(医師または歯科医師)が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を講じなければなりません。
令和5年10月17日に 「リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン」が策定されましたので、解説いたします。
リスクアセスメント対象物健康診断の法令とガイドラインについて
リスクアセスメント対象物健康診断とその条文を解説
労働安全衛生規則577条の2は化学物質の自律的管理においてリスクアセスメント全般に関する規定です。
第577条の2の第3項と第4項が、リスクアセスメント対象物健康診断の規程になります。5項から9項までの事後措置も含めた部分を青色ハイライトにしておきます。
このように「リスクアセスメント対象物健康診断」の文言があります。
労働安全衛生規則
(ばく露の程度の低減等)
第五百七十七条の二 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。
2 事業者は、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない。
3 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者に対し、法第六十六条の規定による健康診断のほか、リスクアセスメント対象物に係るリスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。
4 事業者は、第二項の業務に従事する労働者が、同項の厚生労働大臣が定める濃度の基準を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるときは、速やかに、当該労働者に対し、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。
5 事業者は、前二項の健康診断(以下この条において「リスクアセスメント対象物健康診断」という。)を行つたときは、リスクアセスメント対象物健康診断の結果に基づき、リスクアセスメント対象物健康診断個人票(様式第二十四号の二)を作成し、これを五年間(リスクアセスメント対象物健康診断に係るリスクアセスメント対象物ががん原性がある物として厚生労働大臣が定めるもの(以下「がん原性物質」という。)である場合は、三十年間)保存しなければならない。
6 事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断の結果(リスクアセスメント対象物健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、次に定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
一 リスクアセスメント対象物健康診断が行われた日から三月以内に行うこと。
二 聴取した医師又は歯科医師の意見をリスクアセスメント対象物健康診断個人票に記載すること。
7 事業者は、医師又は歯科医師から、前項の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報
を求められたときは、速やかに、これを提供しなければならない。
8 事業者は、第六項の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、衛生委員会又は安全衛生委員会への当該医師又は
歯科医師の意見の報告その他の適切な措置を講じなければならない。
9 事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断を受けた労働者に対し、遅滞なく、リスクアセスメント対象物健康診断の結果を通知しなければならない。
10 事業者は、第一項、第二項及び第八項の規定により講じた措置について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けなければならない。
11 事業者は、次に掲げる事項(第三号については、がん原性物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に限る。)について、一年を超えない期間ごとに一回、定期に、記録を作成し、当該記録を三年間(第二号(リスクアセスメント対象物ががん原性物質である場合に限る。)及び第三号については、三十年間)保存するとともに、第一号及び第四号の事項について、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければならない。
一 第一項、第二項及び第八項の規定により講じた措置の状況
二 リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のリスクアセスメント対
象物のばく露の状況
三 労働者の氏名、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく
汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要
四 前項の規定による関係労働者の意見の聴取状況
12 前項の規定による周知は、次に掲げるいずれかの方法により行うものとする。
一 当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること。
二 書面を、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること。
三 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し、かつ、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、当該リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。第五百七十七条の三 事業者は、リスクアセスメント対象物以外の化学物質を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメント対象物以外の化学物質に係る危険性又は有害性等の調査の結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、労働者がリスクアセスメント対象物以外の化学物質にばく露される程度を最小限度にするよう努めなければならない。
「リスクアセスメント対象物健康診断」については、3項から9項までとボリュームがありますね。
「リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン」(厚生労働省)
また、リスクアセスメント対象物健康診断の実施については、以下の二つの指針に記載があります。
2023年10月にリスクアセスメント対象物健康診断に特化した通達として、「リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン」が策定されましたので、その内容については熟読が必要です。
リスクアセスメント対象物健康診断の内容について
リスクアセスメント対象物健康診断には、「3項健診」と「4項健診」があります。
リスクアセスメント健康診断(労働安全衛生規則第577条の2第5項)は、「前二項」の健康診断とされています。「前二項」というのは、3項と4項になります。これらについて非常に簡単にまとめると、以下のように「3項検診」と「4項検診」の2種類のリスクアセスメント対象物健康診断があることが分かります。
第3項は、リスクアセスメントの結果に基づいて、健康障害発生リスクを評価した結果、その健康障害発生リスクが許容される範囲を超えると判断された場合に行われる健康診断です。
第4項は、濃度基準値を超えてばく露したおそれがある労働者に対し健康影響を確認するために行う健康診断です。
このように、第3項は比較的安定した状況で化学物質の健康管理を行うための健康診断であり、第4項は濃度基準値を超えてばく露した場合における健康診断ということになります。後述しますが、濃度基準値には、「八時間濃度基準値」と「短時間濃度基準値」があります。リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン (厚生労働省)においては、それぞれのリスクアセスメント対象物健康診断を「3項健診」、「4項健診」と呼んでいますので、このブログでもそのように呼称します。
労働安全衛生規則577条の2 3項及び4項
3 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者に対し、法第六十六条の規定による健康診断のほか、リスクアセスメント対象物に係るリスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。4 事業者は、第二項の業務に従事する労働者が、同項の厚生労働大臣が定める濃度の基準を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるときは、速やかに、当該労働者に対し、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。
「3項健診」について
3項健診は、リスクアセスメントを行い、健康障害発生リスクを評価した結果、その健康障害発生リスクが許容される範囲を超えると判断された場合に、関係労働者の意見を聴き、必要があると認められた者について、当該リスクアセスメント対象物による健康影響を確認するために実施するものであるとされています(リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン)。
第3項健診の実施の要否の判断は、リスクアセスメントにおいて、以下の状況を勘案して、労働者の健康障害発生リスクを評価し、当該労働者の健康障害発生リスクが許容できる範囲を超えるか否か検討することが適当であるとされています。
- 当該化学物質の有害性及びその程度
- ばく露の程度(呼吸用保護具を使用していない場合は労働者が呼吸する空気中の化学物質の濃度(以下「呼吸域の濃度」という。)、呼吸用保護具を使用している場合は、呼吸用保護具の内側の濃度(呼吸域の濃度を呼吸用保護具の指定防護係数で除したもの)で表される。以下同じ。)や取扱量
- 労働者のばく露履歴(作業期間、作業頻度、作業(ばく露)時間) ・作業の負荷の程度
- 工学的措置(局所排気装置等)の実施状況(正常に稼働しているか等)
- 呼吸用保護具の使用状況(要求防護係数による選択状況、定期的なフィットテストの実施状況)
- 取扱方法(皮膚等障害化学物質等(皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質をいう。)を取り扱う場合、不浸透性の保護具の使用状況、直接接触するおそれの有無や頻度)
このような状況については、事業所により化学物質の種類や使用の状況、職場の環境が違うので、一概にこうしましょうとは言えないでしょう。また、健康診断を実施するには専門的な知識が必要なことから、産業保健と化学物質に詳しい医師に相談すべきです。しかし、産業保健を専門とする医師は多いものの、特殊な化学物質に対して健康診断を組み立てることのできるほどの毒性学に精通している医師はなかなかいないと思われます。
ガイドラインにおいては、健康診断の実施の要否の判断に際して、産業医を選任している事業場においては、必要に応じて、産業医の意見を聴取することとされています。産業医がいない場合には、健康診断実施機関、産業保健総合支援センター又は地域産業保健センターに相談することとされていますが、実際はなかなか難しいのではと思われます。
率直なところ、私は毒性学に強いですが、それでも一つの健康診断を作るというのは、とてつもない労力を必要とします。健康診断は、項目を決めるのみならず、基準値やカットオフを決定しなければなりません。化学物質を使用している労働者の数が少なく、健診の受診者が少ない場合は統計学的に処理できません。医師が、当該労働者に対して個別に対応する必要があります。
また、継続的に何年も実施する中で、過去の健診結果を踏まえて、将来的にどのように健康診断をアレンジしていくかという問題もあります。
なお、第3項健診の要否を判断したときは、その判断根拠について記録を作成し、保存しておくことが望ましいとされていますので、安全衛生委員会で審議して、議事録に記載しておきましょう。
なお、後述しますが、濃度基準値のある物質のみが対象となる4項検診と違い、3項検診は濃度基準値がない物質についても実施が可能です。
「4項健診」について
4項健診について非常に重要なことですが、濃度基準値設定物質に対して行う健康診断になります。濃度基準値設定物質でなければ、4項健診の対象となりません。
こちらに、濃度基準値について八時間濃度基準値と短時間濃度基準値の記載があります。つまり、四項検診は、八時間濃度基準値を超える場合と、短時間濃度基準値を超える場合の二種類に分かれます。
まず、前提として、安衛則第577条の2第2項の規定により、労働者が、化学物質に濃度基準値を超えてばく露することはあってはなりません。原則としてありえないはずなのです。
そのため、濃度基準値を超えてばく露した場合に行う4項健診は、何らかの異常事態が判明した場合や、漏洩事故等により濃度基準値がある物質に大量ばく露した場合など、労働者が濃度基準値を超えて当該リスクアセスメント対象物にばく露したおそれが生じた場合に実施する健康診断となっています。
詳しく解説しますと、リスクアセスメントにおいては、化学物質の濃度を実際に測定したり、数理モデル等で濃度基準値を推定します。その結果、労働者の化学物質のばく露が濃度基準値を超えている場合に、さらに労働者のばく露の程度を濃度基準値以下に抑制するために局所排気装置等の工学的措置の実施や、呼吸用保護具の使用等の対策を講じることとなります。しかし、そのような対策を講じている場合に、以下に該当するような異常事態が生じた場合には、労働者の化学物質のばく露が濃度基準値を超える可能性があるため、4項健診を行う必要があります。
- 工学的措置が適切に実施されていない(局所排気装置が正常に稼働していない等)ことが判明した場合
- 労働者が必要な呼吸用保護具を使用していないことが判明した場合
- 労働者による呼吸用保護具の使用方法が不適切で要求防護係数が満たされていないと考えられる場合
- その他、工学的措置や呼吸用保護具でのばく露の制御が不十分な状況が生じていることが判明した場合
- 漏洩事故等により、濃度基準値がある物質に大量ばく露した場合 (注)この場合、まずは医師等の診察を受けることが望ましい。
非常に簡単にまとめますと、以下のような場面で4項健診を行います。
労働者が濃度基準値が存在する化学物質を使用しており、適切なばく露防止対策が実施されていた場合には、濃度基準値を超えるばく露は発生すべきではないはずでした。
しかし、ばく露防止の対策が異常事態により十分に機能しなかった場合で労働者のばく露が濃度基準値を超える可能性があるときに4項健健診が実施されます。
4項健診については、上記のような場面が生じた際に、産業医に相談して実施するのがよいでしょう。
なお、呼吸用保護具の要求防護係数については以下の記事を参照してください。
リスクアセスメント対象物健康診断の検査項目について
リスクアセスメント対象物健康診断の検査項目を決定する際に、何を参考にすべきか?
リスクアセスメント対象物健康診断が必要だと判断された場合にどのような検査項目で健康診断を行えばいいでしょうか。これにはガイドライン上、2つのリソースを参照するように解説されています(黄色ハイライト部分)。
5 リスクアセスメント対象物健康診断の検査項目
(1)検査項目の設定に当たって参照すべき有害性情報 リスクアセスメント対象物健康診断を実施する医師等は、事業者からの依頼を受けて検査項目を設定するに当たっては、まず濃度基準値がある物質の場合には濃度基準値の根拠となった一次文献における有害性情報(当該有害性情報は、厚生労働省ホームページに順次追加される「化学物質管理に係る専門家検討会 報告書」から入手可能)を参照すること。それに加えて、濃度基準値がない物質も含めてSDSに記載されたGHS分類に基づく有害性区分及び有害性情報を参照すること。 その際、GHS分類に基づく有害性区分のうち、以下のア~エに掲げるものについては、以下のとおりの取扱いとすること。
ア 急性毒性 GHS分類における急性毒性は定期的な検査になじまないため、急性の健康障害に関する検査項目の設定は、特定標的臓器毒性(単回ばく露)、皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性、呼吸器感作性、皮膚感作性等のうち急性の健康影響を参照すること。
イ 生殖細胞変異原性及び誤えん有害性 検査項目の設定が困難であることから、検査の対象から除外すること。
ウ 発がん性 検査項目の設定のためのエビデンスが十分でないがん種については、対象から除外すること。
エ 生殖毒性 職業ばく露による健康影響を確認するためのスクリーニング検査の実施方法が確立していないことから、生殖毒性に係る検査は一般的には推奨されない。なお、生殖毒性に係る検査を実施する場合は、労働者に対する身体的・心理的負担を考慮して検査方法を選択するとともに、業務とは直接関係のない個人のプライバシーに留意する必要があることから、労使で十分に話し合うことが重要であること。 歯科領域のリスクアセスメント対象物健康診断は、GHS分類において歯科領域の有害性情報があるもののうち、職業性ばく露による歯科領域への影響が想定され、既存の健康診断の対象となっていないクロルスルホン酸、三臭化ほう素、5,5-ジフェニル-2,4-イミダゾリジンジオン、臭化水素及び発煙硫酸の5物質を対象とすること。歯科領域での検査項目の設定においては、まずは現時点でのGHS分類において記載のある歯牙及び歯肉を含む支持組織への影響を考慮することとする。
上記記載により、この二つのリソースは以下になります。
1,「化学物質管理に係る専門家検討会 報告書」
2.SDSに記載されたGHS分類に基づく有害性区分及び有害性情報
「化学物質管理に係る専門家検討会 報告書」については、厚生労働省HPにて公開されています。そして、こちらの「令和4年度化学物質管理に係る専門家検討会 報告書(別紙)」に個別の化学物質について解説されています。
また、ガイドラインにおいては、生殖細胞変異原性及び誤えん有害性については検査項目の設定が困難であることから、検査の対象から除外することと、発がん性 検査項目の設定のためのエビデンスが十分でないがん種については対象から除外することとしています。生殖毒性については、職業ばく露による健康影響を確認するためのスクリーニング検査の実施方法が確立していないことから、生殖毒性に係る検査は一般的には推奨されないともされています。
なお、生殖細胞変異原性と生殖毒性についての違いについても以下に参考資料を載せておきます。つまり、生殖毒性は生殖機能、受精能力、子の発生毒性でであり、生殖細胞変異原性は遺伝子要因に基づく子への遺伝的影響の誘発となります。
【国連GHS改訂4版】(3.7.1) 3.7.1.1
生殖毒性 生殖毒性には、雌雄の成体の生殖機能および受精能力に対する悪影響に加えて、子の発生毒性も含まれる。下記に示された定義は、IPCS/EHCの文書番号225、化学品へのばく露と関連する生殖に対する健康リスクの評価原則における仮の定義に従って作成したものである。分類という目的から、遺伝子要因に基づく子への遺伝的影響の誘発については、生殖細胞に対する変異原性という別の有害性クラスの方がより適切であると思われるため、第3.5章「生殖細胞変異原性」に示してある。
政府向けGHS分類ガイダンス (平成25年度改訂版(Ver.1.1) 平成27年3月 経済産業省、厚生労働省、環境省、 消費者庁、消防庁、外務省、農林水産省、国土交通省)
おそらく、この二つのリソースだけではリスクアセスメント対象物健康診断の項目を決定することは、なかなか難しいと思われます。しっかり、該当する化学物質に関する論文を調べて項目を決定すべきでしょう。しかし、この毒性学の論文をきちんと読んで評価できる医師がなかなかいないのです。ちなみに、毒性学の論文は、ほとんどの場合、英語の文献です。
厚生労働省の資料に概要のまとめがありますが、以下のようになります。
ここで、是非知っておいてほしいことですが、以下の青色と緑色のハイライト部分で色分けしていますが、4項健診において、八時間濃度基準値を超えて暴露した場合と、短時間濃度基準値を超えて暴露した場合で健康診断の検査項目が違ってくるのです。
つまり、4項健診は、さらに2種類に分類されることになります。
・第3項健診の検査項目業務歴の調査、作業条件の簡易な調査等によるばく露の評価及び自他覚症状の有無の検査等を実施。必要と判断された場合には、標的とする健康影響に関するスクリーニングに係る検査項目を設定。
・第4項健診の検査項目八時間濃度基準値を超えてばく露した場合、ただちに健康影響が発生している可能性が低いと考えられる場合は、業務歴の調査、作業条件の簡易な調査等によるばく露の評価及び自他覚症状の有無の検査等を実施。短時間濃度基準値を超えてばく露した場合、主として急性の影響に関する検査項目を設定。
・歯科領域の検査項目歯科医師による問診及び歯牙・口腔内の視診。
4項検診においては、八時間濃度基準値を超えて暴露した場合と、短時間濃度基準値を超えて暴露した場合で検査項目が違ってきます。
前述のように、4項検診においては、八時間濃度基準値を超えて暴露した場合と、短時間濃度基準値を超えて暴露した場合に分かれます。厚生労働省が示す濃度基準値には、八時間濃度基準値と短時間濃度基準値があり、片方だけ設定されている場合もあれば、両者が設定されている場合もあります。どちらの濃度基準値を超えたかにより、健康診断の項目が違ってくるのです。以下、引用しておきます。
(イ)第4項健診の検査項目
「八時間濃度基準値」を超えてばく露した場合で、ただちに健康影響が発生している可能性が低いと考えられる場合は、業務歴の調査、作業条件の簡易な調査等によるばく露の評価及び自他覚症状の有無の検査等を実施する。ばく露の程度を評価することを目的に生物学的ばく露モニタリング等が有効であると判断される場合は、その実施も推奨される。また、長期にわたるばく露があるなど、健康影響の発生が懸念される場合には、急性以外の標的影響(遅発性健康障害を含む。)のスクリーニングに係る検査項目を設定する。 「短時間濃度基準値(天井値を含む。)」を超えてばく露した場合は、主として急性の影響に関する検査項目を設定する。ばく露の程度を評価することを目的に生物学的ばく露モニタリング等が有効であると判断される場合は、その実施も推奨される。
(ウ)歯科領域の検査項目 スクリーニングとしての歯科領域に係る検査項目は、歯科医師による問診及び歯牙・口腔内の視診とする。
リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドラインの概要について
なお、天井値という言葉が出てきています。こちらについては、以下の通達に記載があります。
6-2-3 天井値の趣旨
(1) 天井値については、眼への刺激性等、非常に短い時間で急性影響が生ずることが疫学調査等により明らかな物質について規定されており、いかなる短時間のばく露においても超えてはならない基準値であること。事業者は、濃度の連続測定によってばく露が天井値を超えないように管理することが望ましいが、現時点における連続測定手法の技術的限界を踏まえ、その実施については努力義務とされていること。
(2) 事業者は、連続測定が実施できない場合は、当該物質の十五分間時間加重平均値が短時間濃度基準値を超えないようにしなければならないこと。また、事業者は、天井値の趣旨を踏まえ、当該物質への労働者のばく露が天井値を超えないよう、十五分間時間加重平均値が余裕を持って天井値を下回るように管理する等の措置を講ずることが望ましいこと。「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」の制定について (基発0427第2号 令和5年4月27日)
天井値があるかどうかは、上記指針の別表2の短時間濃度基準値において「※」がついている物質になります。以下、示します。
2 ※の付されている短時間濃度基準値は、第二号ロの規定の適用の対象となるとともに、第三号ハの規定の適用の対象となる天井値。
まず、リスクアセスメント対象物健康診断に携わる方は、これらの濃度基準値をしっかり理解しておきましょう。
4項健診の具体的な検査項目
では、八時間濃度基準値を超えてばく露した場合の4項健診ですが、ただちに健康影響が発生している可能性が低いと考えられる場合は、業務歴の調査、作業条件の簡易な調査等によるばく露の評価及び自他覚症状の有無の検査等を実施しましょう。
さらに、長期にわたるばく露があるなど、健康影響の発生が懸念される場合には、急性以外の標的影響(遅発性健康障害を含む。)のスクリーニングに係る検査項目を設定することとされています。
そして、短時間濃度基準値を超えてばく露した場合、主として急性の影響に関する検査項目を設定することになりますが、こちらもGHSを参照にしたり、論文を調べて検査項目を設定することになります。
ガイドラインには、急性の健康障害に関する検査項目の設定は、特定標的臓器毒性(単回ばく露)、皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性、呼吸器感作性、皮膚感作性等のうち急性の健康影響を参照することとの記載があります。
引用:リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン (厚生労働省)
いわゆる雇い入れ時健診、配転後健診についても考えましょう。
ガイドラインには、以下のような記載があります。リスクアセスメント対象物健康診断には、いわゆる雇い入れ時(配転時を含む)健診の規定はありませんが、配置前の健康状態は事業者にとっても重要です。例えば、新たにある従業員を採用する場面で、その従業員が雇い入れ前に同じような業種に従事していた場合、すでに前の会社の業務でのばく露で健康障害が発生しているかもしれません。それを確認するためにも雇い入れ時健診はお勧めいたします。
6 配置前及び配置転換後の健康診断
リスクアセスメント対象物健康診断には、配置前の健康診断は含まれていないが、配置前の健康状態を把握しておくことが有意義であることから、一般健康診断で実施している自他覚症状の有無の検査等により健康状態を把握する方法が考えられる。 また、化学物質による遅発性の健康障害が懸念される場合には、配置転換後であっても、例えば一定期間経過後等、必要に応じて、医師等の判断に基づき定期的に健康診断を実施することが望ましい。配置転換後に健康診断を実施したときは、リスクアセスメント対象物健康診断に準じて、健康診断結果の個人票を作成し、同様の期間保存しておくことが望ましい。
リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン (厚生労働省)
また、配転後健診については努力義務とされています。こちらについても、遅発性の健康障害が配転前と同様でいいのか、またどのくらいの期間保存するのかという問題が生じます。やはり、産業医等が個別にコンサルテーションすべきでしょう。
労働者に対する事前説明
ガイドライン上、リスクアセスメント対象物健康診断は、検査項目が法令で定められていないことから、当該健康診断を実施する際には、当該健康診断の対象となる労働者に対し、設定した検査項目について、その理由を説明することが望ましいとされています。しかし、要配慮個人情報である健康診断の結果を扱うことより、説明は必須でしょう。
労働者に対する説明は、労働者に対する口頭やメールによる通知のほか、事業場のイントラネットでの掲載、パンフレットの配布、事業場の担当窓口の備付け、掲示板への掲示等があり、労働者本人に認識される合理的かつ適切な方法で行う必要があるとされています。
また、通達上において、事業者は、当該健康診断の対象となる労働者が受診しないことを理由に、当該労働者に対して不利益な取扱いを行ってはならないと規定されています。
リスクアセスメント対象物健康診断の事後措置について
リスクアセスメント対象物健康診断の記録の保存
リスクアセスメント対象物健康診断を行った場合は、リスクアセスメント健康診断個人票(労働安全衛生規則様式第24号の2)を作成し、5年または30年間保存しなければなりません。この点は、特化物健診と類似しています。以下のリスクアセスメント対象物健康診断個人票の様式24号の2(第577条の2関係)を示します。特化物や有機溶剤の個人票と使い方は同じですね。
医師の意見の聴取の手続きは、他の法定健診と同様です。
リスクアセスメント対象物健康診断についても他の健診と同様に、事業者により医師の意見の聴取が必要ですが、条文は、労働安全衛生規則第577条の2第6項から9項になりますので、再掲します。
労働安全衛生規則第577条の2
6項 事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断の結果(リスクアセスメント対象物健康診断の項目に
異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するた
めに必要な措置について、次に定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
一 リスクアセスメント対象物健康診断が行われた日から三月以内に行うこと。
二 聴取した医師又は歯科医師の意見をリスクアセスメント対象物健康診断個人票に記載すること。
7項 事業者は、医師又は歯科医師から、前項の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報
を求められたときは、速やかに、これを提供しなければならない。
8項 事業者は、第六項の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、
当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるほか、
作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、衛生委員会又は安全衛生委員会への当該医師又は
歯科医師の意見の報告その他の適切な措置を講じなければならない。
9項 事業者は、リスクアセスメント対象物健康診断を受けた労働者に対し、遅滞なく、リスクアセスメン
ト対象物健康診断の結果を通知しなければならない。
この意見の聴取はリスクアセスメント対象物健康診断が行われた日から三月以内に行うことと、聴取した医師又は歯科医師の意見をリスクアセスメント対象物健康診断個人票に記載することも他の法定健診と同じです。
また、労働安全衛生規則第577条の2第7項により、事業者は医師又は歯科医師から、前項の意見聴取を行う上で必要となる労働者の業務に関する情報を求められたときは、速やかにこれを提供しなければならないと定められています。こちらも一般の法定健診と同じですね(労働安全衛生法13条)。
労働安全衛生法(産業医等)
第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。
労働安全衛生規則(産業医に対する情報の提供)
第十四条の二 法第十三条第四項の厚生労働省令で定める情報は、次に掲げる情報とする。
一 法第六十六条の五第一項、第六十六条の八第五項(法第六十六条の八の二第二項又は第六十六条の八の四第二項において読み替えて準用する場合を含む。)又は第六十六条の十第六項の規定により既に講じた措置又は講じようとする措置の内容に関する情報(これらの措置を講じない場合にあつては、その旨及びその理由)
二 第五十二条の二第一項、第五十二条の七の二第一項又は第五十二条の七の四第一項の超えた時間が一月当たり八十時間を超えた労働者の氏名及び当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報
三 前二号に掲げるもののほか、労働者の業務に関する情報であつて産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの
2 法第十三条第四項の規定による情報の提供は、次の各号に掲げる情報の区分に応じ、当該各号に定めるところにより行うものとする。
一 前項第一号に掲げる情報 法第六十六条の四、第六十六条の八第四項(法第六十六条の八の二第二項又は第六十六条の八の四第二項において準用する場合を含む。)又は第六十六条の十第五項の規定による医師又は歯科医師からの意見聴取を行つた後、遅滞なく提供すること。
二 前項第二号に掲げる情報 第五十二条の二第二項(第五十二条の七の二第二項又は第五十二条の七の四第二項において準用する場合を含む。)の規定により同号の超えた時間の算定を行つた後、速やかに提供すること。
三 前項第三号に掲げる情報 産業医から当該情報の提供を求められた後、速やかに提供すること。
また、注意すべき点としては、医師の意見について、化学物質に関連する健康診断ですので「作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備」についての措置に関する規定もあります。
また、労働安全衛生規則第577条の2第8項についても健康診断の事後措置及び衛生委員会への報告ということで、他の健診と変わりません。
リスクアセスメント対象物健康診断の結果の労働者への通知の規定もあります(8項)。関係労働者の意見も衛生委員会で聴くようにしましょう。
これらは通常の健康診断と同じ扱いですが、当然、リスクアセスメントの実施に影響するでしょう。
産業医とリスクアセスメント対象物健康診断
健康診断においては、医学的な知識が必要であり、医師が決定し、実施する必要があります。ただ、前述のように、健康診断を組み立てることができるくらいの毒性学に詳しい医師はほとんどいないのではないでしょうか。毒性学は時に危険な知識にもなりうるものであり、私も安易にブログ等で公表することは避けたいと思います。
検査項目の策定も、きちんと調べなければなりません。例えば、健康上重大な化学物質の影響が、ごく少数報告されていた場合に、ごく少数の報告だったため健康診断の検査項目に組み込まず、リスクアセスメント対象物健康診断を行った場合、後に検査項目の策定に瑕疵があったのではないかという問題も生じるでしょう。想定される健康障害について衛生委員会にて説明を行うことも必要でしょう。
また、化学物質の複合影響についても考慮すべきでしょう。例えば、四塩化炭素は、その代謝物が毒性を有しますが、他の化学物質の影響が四塩化炭素の代謝に影響し、四塩化炭素の毒性を増強させうると言われています。ほかにも、喫煙と石綿の複合影響による健康障害の相乗効果も報告されています。どのような化学物質を使用しているか、全体を考慮して検査項目を考慮すべきでしょう。
そして、実際に健康診断は医療であるため、健康診断を実施するのは、医療機関でなければできません。例えば、私が産業医や顧問医として、検査項目や事後措置を行うにしても、実際に採血を行ったり、検査を行うのは医療機関となります。そのため、多くの場合は健康診断機関だと思いますが、医療機関と産業医が連携し、しっかり打ち合わせを行うことは必須となるでしょう。
前述のように、化学物質に関連する健康診断の特殊性として、医師の意見を受けて、事業者は「作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備」についての措置を行わなければなりません。医師の意見には、このような、「作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備」に関する意見を述べることも必要となるでしょう。
今後、特化物や有機則のように、厚生労働省がある物質にどのような健康診断を行うべきかについて指針などのまとめを策定するのであればいいでしょうが、現時点では、産業医(医師)がリスクアセスメント対象物健康診断に関わる場合には、多大な労力が必要となると思われます。
そもそも、化学物質の自律的管理において、化学物質管理者、化学物質管理専門家等の要件に「産業医」や「医師」は原則として含まれていません。つまり、化学物質の自律的管理は医師が主導しない独自のジャンルなのです。しかし、その中でもリスクアセスメント対象物健康診断は医師が積極的に関与すべき部分であり、医師の皆様は頑張って勉強しましょう。とはいえ、公衆衛生や毒性学の知識はなかなか勉強する場面がないのが問題です。前述しましたが、毒性学を研究している医師の不文律として、危険な知識になりうるため、公に公表する情報には注意するという考えがあると感じます。
リスクアセスメント対象物健康診断を健診機関等の外部機関に委託する場合の注意
今後、リスクアセスメント対象物健康診断を受託しますという健康診断機関等が登場するかもしれません。あるいは、リスクアセスメント対象物健康診断の検査項目を決定したり、事後措置も可能ですという産業医が登場するかもしれません。きちんとした健診機関や産業医ならいいのですが、ひょっとしたらいい加減で精度管理のできていないリスクアセスメント対象物健康診断を提案されるかもしれません。
もし、外部の健康診断の機関や医師にリスクアセスメント対象物健康診断のすべて、又は一部の実施を委託する場合には、どのように検査項目を決定したのかを文献等の資料とともに明らかにしてもらいましょう。リスクアセスメント対象物健康診断において、自覚症状と他覚症状の決定はほぼ必須と思われますが、チェックすべき自覚症状や他覚症状についても、どのような自覚症状・他覚症状なのか、なぜ、その自覚症状や他覚症状を選んだのかも確認しましょう。現行の健康診断においても、化学物質により固有に起こりうる自覚症状や他覚症状をあえて聞かず、「体調不良はありませんか?」の質問の「ありません」の返答をもって「異常なし」としてしまう健診機関も世の中には存在するようです。
さらに、重要なことですが、健康診断において、検査項目と診断区分の判定の方法はセットで決定する必要があります。
検査項目がどのような範囲で異常とされ、どのような条件で、どのような診断区分が出されるかも確認しておきましょう。
健診結果の判定区分と医師の就業上の措置の区分の関係については以下の記事を参照してください。
リスクアセスメント対象物健康診断にかかる費用について
リスクアセスメント対象物健康診断についての費用は、通達に以下のように記載されています。
8 リスクアセスメント対象物健康診断の費用負担
リスクアセスメント対象物健康診断は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務による健康障害発生リスクがある労働者に対して実施するものであることから、その費用は事業者が負担しなければならないこと。また、派遣労働者については、派遣先事業者にリスクアセスメント対象物健康診断の実施義務があることから、その費用は派遣先事業者が負担しなければならないこと。 なお、リスクアセスメント対象物健康診断の受診に要する時間の賃金については、労働時間として事業者が支払う必要があること。
つまり、リスクアセスメント対象物健康診断は、特殊健診と同じ扱いとなります。まとめますと、以下のようになります。
1.リスクアセスメント対象物健康診断の費用は事業者が負担しなければなりません。
2.派遣先事業者にリスクアセスメント対象物健康診断の実施義務があることから、その費用は派遣先事業者が負担しなければなりません。
3.リスクアセスメント対象物健康診断の受診に要する時間の賃金については、労働時間として事業者が支払う必要があります。
まとめ
2024年4月1日から、化学物質の自律的管理において、事業者はリスクアセスメントの結果に基づき、リスクアセスメント対象物による健康影響の確認のため、事業者は、労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師等(医師または歯科医師)が必要と認める項目の健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を講じなければなりません。
2023年10月にリスクアセスメント対象物健康診断に特化した通達として、「リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン」が策定されましたので、その内容については熟読が必要です。
リスクアセスメント健康診断(労働安全衛生規則第577条の2第5項)には、「3項検診」と「4項検診」の2種類のリスクアセスメント対象物健康診断があることが分かります。
3項検診 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者に対し、法第六十六条の規定による健康診断のほか、リスクアセスメント対象物に係るリスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。
4項検診 事業者は、第二項の業務に従事する労働者が、同項の厚生労働大臣が定める濃度の基準を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるときは、速やかに、当該労働者に対し、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。
リスクアセスメント対象物健康診断の検査項目を決定するには、以下の二つのリソースを参照にしましょう。しかし、これだけではなく、論文を調べる必要があります。
1,「化学物質管理に係る専門家検討会 報告書」
2.SDSに記載されたGHS分類に基づく有害性区分及び有害性情報
リスクアセスメント対象物健康診断の事後措置についてですが、リスクアセスメント対象物健康診断を行った場合は、リスクアセスメント健康診断個人票(労働安全衛生規則様式第24号の2)を作成し、5年または30年間保存しなければなりません。医師の意見の聴取は、他の法定健診と同様です。
産業医は間違いなく、これらのリスクアセスメント対象物健康診断の実施に関わる重要な役割を担います。
また、リスクアセスメント対象物健康診断を健診機関等の外部機関に委託する場合の注意すべき点についても、一般的な健康診断の知見より解説しました。
私は、リスクアセスメント対象物健康診断の項目の決定や事後措置を実施できますが、業務や現場の確認、関係労働者や健診機関との打ち合わせもあり、産業医や顧問医でない事業所様の対応は難しいです。もし、このブログを見られて、リスクアセスメント健康診断の項目決定と事後措置についてご興味がありましたら、ご相談いただければと思います。
労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。
産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。
個人ばく露測定のご相談やリスクアセスメント対象物健康診断の実施についても対応可能です。
化学物質の個別的な規制についても得意としています。
Zoom等のオンラインツールを用いて日本全国対応させていただいております。
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