キャリアコンサルタント・心理学について|化学物質の管理を解説
2023/08/07 2023/08/09
【重要】能力の衰えを感じた時に役立つ「バルテスの補償を伴う選択的最適化の理論」
この記事をお読みの皆様、皆さまの年齢は何歳でしょうか。
年齢を重ねるにつれて、これまでできていたことができなくなったことはありませんでしょうか?
しかしながら、年をとることで初めてできるようになることもあるのではないでしょうか?
今回は、様々なことができなくなった状況にどのように対処し、これまでの経験をどのように活かしていくかについての理論をご紹介させていただきます。
バルテスの補償を伴う選択的最適化の理論
バルテスの補償を伴う選択的最適化とは
バルテスの補償を伴う選択的最適化(Baltes’s theory of compensatory selection with optimization)は、心理学者であるバルテス(Paul B. Baltes)によって提唱された理論です。この理論は、成人期や高齢期における個人の発達や適応に関する理論です。
有名な例ですが、年老いたピアニストは若いころのようにピアノを弾くことができなくなりますが、今の自分に合った曲目を選択し、長年積み重ねた熟練の技術を駆使し、さらに練習時間を増やすことで対応できます。
このように、高齢になることによってできなくなることは増えますが、それまでの経験を活かし、適応してゆくことは、仕事や生活にとって重要なテーマになります。
このバルテスの「補償を伴う選択的最適化理論」(Baltes’s theory of compensatory selection with optimization)は、「SOC理論」とか、「選択的最適化の補償理論」とも言われますが、このブログでは、「補償を伴う選択的最適化の理論」と呼びます。SOC理論という呼び名も一般的ですが、略語だとわかりにくいですよね。
補償、選択、最適化とはなにか?
「補償を伴う選択的最適化の理論」は、個人が年齢とともに有する能力が減少する中で、適応力を保ち、目標を達成するために、選択、最適化、補償の戦略を行うという理論です。
この3つのプロセスをしっかり区別できるようになりましょう。
英語では”Baltes’s theory of compensatory selection with optimization”でしたよね。
補償(Compensation): 個人が特定の弱点や制約を補うために、他のスキルやリソースを活用するプロセスです。ピアニストの例では、「選択」とも関連しており、テンポの速い曲を諦める選択をしたかもしれませんが、熟練の技術を使って曲に変化を与え、テンポが遅くなったことを感じさせないよう工夫することがあります。
選択(Selection): 個人が目標を達成するために適切な方法や戦略を選ぶプロセスです。例えば、できる範囲内で優先順位をつけて選択することや、自分ができなくなったことを受け入れることも選択に含まれます。
最適化(Optimization): 個人が利用可能なリソースを最大限に活用して目標を達成しようとするプロセスです。特定の目標を達成するために最適な方法を見つけ、練習を行うなどが該当します。
バルテスの理論は、高齢による身体機能の低下や障害が存在する状況において、適切な適応を促進する手段となります。
では、産業保健において、このバルテスの補償を伴う選択的最適化の理論をどう活用するかをお話ししたいと思います。
労働衛生における補償を伴う選択的最適化
現在、高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会確保が求められています。
今後、少子化もあり、企業において働く従業員の年齢の上昇が予想されます。当然、加齢によってできないことが増える労働者が増えるでしょう。
このような場合に、バルテスの補償を伴う選択的最適化の理論を使いましょう。
架空の事例1:優秀な営業職である従業員が、高齢で一日中歩き回ることが難しくなりました。
このような場合でバルテスの補償を伴う選択的最適化の理論を適用してみましょう。
補償(Compensation): 社内でオンライン営業を行う体制を構築し、社内からオンライン営業を行うこととなりました。また、社内で後進の営業職ための情報交換会を作り、今までのノウハウを伝える制度を作りました。どうしても営業先に向かわねばならない場合は、部下に車を運転してもらい、訪問することとしました。
選択(Selection): キャリアコンサルティングを行った結果、やはり営業職でのノウハウをよく知っていることがわかりました。しかし、体力的な面から、自ら営業を行うことはあきらめ、後進の指導を主な業務とすることにしました。
最適化(Optimization): オンライン営業を行うため、オンラインツールの利用方法を勉強しています。教育は今まであまりしたことがなかったですが、教育を効率よく行うための研修を受けに行きました。部下とのコミュニケーションを取るため、1on1を実施する時間を取るようにしました。
バルテスの補償を伴う選択的最適化の理論を産業保健の現場で適用するには、仕事の理解が不可欠です。さらに、環境へのアプローチも重要です。これに加え、自分の強みの認識することや、職務経歴の棚卸といったキャリアコンサルティングのスキルが求められ、キャリコンが適任であると考えられます。
上記の例において、「補償」の場合、新たなスキルやリソースであるオンライン営業を活用しました。
また、「選択」として、これまでと同じような営業方法を諦めています。ここで、無理に従来の営業手法を強要すると、体調不良や事故などのリスクを招く可能性があります。
そして、「最適化」については、新しいスキルやリソースを効果的に活用できるよう、本人自身も努力しなければなりません。
もしかすると、本人は現状維持で問題ないと思うかもしれません。そのような場合、実際に今まで通りで問題ないのか、今後どの程度の期間までそのペースを維持できるのかを考えてもらうことで、気づきが得られるかもしれません。このような点で、この理論はキャリアコンサルタントに相性のいいアプローチであると思います。
今後、少子高齢化が進むことで、高齢の労働者にこのバルテスの補償を伴う選択的最適化の理論を用いて、働き方を変えてゆくことが重要になってゆくでしょう。
両立支援における補償を伴う選択的最適化
年齢にかかわらず、従業員が病気や障害で、今までできたことができなくなることは、誰にも起こり得ます。
架空の事例2:ある人が脳梗塞になって、左半身麻痺が残ってしまった場合を考えてみましょう。その方のお仕事はPC作業をメインとする事務作業でした。
以下、バルテスの補償を伴う選択的最適化の理論を適用してみました。
補償(Compensation): 左手でのタイピングができなくなりました。右手でのフリッカー入力と、右足でのフットスイッチ、音声入力を利用することによりPC作業ができるようになりました。
選択(Selection): 社内と言え、階をまたぐ移動が大変なため、階を移動して行わなければならない仕事を他の人に担当してもらいました。その代わり、自席でできるPC作業の量も質も増やしてもらいました。
最適化(Optimization): PCの作業が、今まで行っていたものと違ってしまいましたので、新しい環境で一生懸命、練習を行っています。
この例では、病気・障害により困難になった業務を無理やり従前のように行うのではなく、「階を移動して行わなければならない仕事」をあきらめました。その代わり、できる仕事を増やしてもらいました。このような状況で「補償」として、以前は事務作業で使用していなかったフリッカー入力や音声入力などの新しいスキルを取り入れています。もちろん、これらのスキルを習得するために十分な時間をかけ、その後「最適化」を図ります。
これらに対応するのは、病気が関わる場合、やはり産業医の役割が大きいです。
しかしながら、ある日突然病気によって様々なことが制約される場合、転機が訪れていると言えます。また、仕事に関する理解と職場環境の調整が求められるため、キャリアコンサルタントが重要な役割を果たします。
治療(障害)と治療の両立支援において、産業医とキャリアコンサルタントの役割は重要ですが、両立支援に関わる職種の方々は、この「補償を伴う選択的最適化の理論」については常に念頭に置かねばなりません。
まとめ
バルテスの補償を伴う選択的最適化について解説しました。
「補償を伴う選択的最適化の理論」は、個人が年齢とともに有する能力が減少する中で、適応力を保ち、目標を達成するために、選択、最適化、補償の戦略を行うという理論です。
今後、少子化もあり、企業において働く従業員の年齢の上昇が予想されます。当然、高齢によってできないことが増える労働者が増えるでしょう。今後、少子高齢化が進むことで高齢の労働者にこのバルテスの補償を伴う選択的最適化の理論を用いて、働き方を変化させてゆくことが重要になってゆくでしょう。
また、年齢にかかわらず、従業員が病気や障害で、今までできたことができなくなることは、誰にも起こり得ます。
治療(障害)と治療の両立支援において、産業医とキャリアコンサルタントの役割は重要ですが、両立支援に関わる職種の方々は、この「補償を伴う選択的最適化の理論」については常に念頭に置かねばなりません。知っておきましょう。
労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。
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化学物質の個別的な規制についても得意としています。
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