2023/12/19 2023/07/24
【産業医向け】産業医と作業環境測定士のダブルライセンスについて
今回のテーマは、産業医と作業環境測定士のダブルライセンスについて解説します。
もし、産業医として化学物質を扱う事業所を担当する予定がある場合は、作業環境測定の知識が今後必要になるでしょう。
また、化学物質の自律的管理において、作業管理専門家や化学物質管専門家となる要件の一つとして、作業環境測定士であることがあり、産業医がこれらの資格取得をするためにも必要となるでしょう。
このように、化学物質の取り扱いがある事業所での産業医を受任する場合は、作業環境測定士の資格が必須となる可能性が高いです。
作業環境測定士の資格を取得すれば、作業環境測定に関する知識が身につくことになるでしょう。
【産業医向け】産業医と作業環境測定士のダブルライセンスについて
今後、産業医が作業環境測定に関与する必要が増えるでしょう。
有害業務を扱う事業所をクライアント先として活動する産業医が作業環境測定士の資格を取得することはよくあります。産業医が作業環境測定士となって活躍する場面としては、労働安全衛生法65条の作業環境測定における、従来法と呼ばれるA測定やB測定において、デザインに関与することもあったかもしれません。しかし、実際に、サンプリングや分析を産業医が行う場面はあまりなかったのではないかと思います。
(作業環境測定)
第六十五条 事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。
2 前項の規定による作業環境測定は、厚生労働大臣の定める作業環境測定基準に従つて行わなければならない。
3 厚生労働大臣は、第一項の規定による作業環境測定の適切かつ有効な実施を図るため必要な作業環境測定指針を公表するものとする。
4 厚生労働大臣は、前項の作業環境測定指針を公表した場合において必要があると認めるときは、事業者若しくは作業環境測定機関又はこれらの団体に対し、当該作業環境測定指針に関し必要な指導等を行うことができる。
5 都道府県労働局長は、作業環境の改善により労働者の健康を保持する必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、作業環境測定の実施その他必要な事項を指示することができる。
もし、自社で作業環境測定を行う事業者の専属産業医であれば、そのデザイン、サンプリング及び分析に深くかかわることもあるかもしれません。
しかし、今後は、化学物質の自律的管理のために、化学物質を取り扱う事業所では、産業医が作業環境測定士の資格を取得する必要性が増しています。
産業医と作業環境測定の接点
今回は産業医が作業環境測定に関わる場面を挙げてみたいと思います。
作業環境測定士であれば、これらの場面において、適切な対応をとれると思われます。
衛生委員会で作業環境測定は付議事項であり、産業医は作業環境測定について意見を述べます
衛生委員会の付議事項に、作業環境測定について記載されています(青色ハイライト)。産業医は、衛生委員会に参加しますので、当然、作業環境測定について知っておく必要があります。
労働安全衛生規則(衛生委員会の付議事項)
第二十二条 法第十八条第一項第四号の労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項に
は、次の事項が含まれるものとする。
一 衛生に関する規程の作成に関すること。
二 法第二十八条の二第一項又は第五十七条の三第一項及び第二項の危険性又は有害性等の調査及びそ
の結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること。
三 安全衛生に関する計画(衛生に係る部分に限る。)の作成、実施、評価及び改善に関すること。
四 衛生教育の実施計画の作成に関すること。
五 法第五十七条の四第一項及び第五十七条の五第一項の規定により行われる有害性の調査並びにその
結果に対する対策の樹立に関すること。
六 法第六十五条第一項又は第五項の規定により行われる作業環境測定の結果及びその結果の評価に基
づく対策の樹立に関すること。
七 定期に行われる健康診断、法第六十六条第四項の規定による指示を受けて行われる臨時の健康診断、
法第六十六条の二の自ら受けた健康診断及び法に基づく他の省令の規定に基づいて行われる医師の診
断、診察又は処置の結果並びにその結果
に対する対策の樹立に関すること。
八 労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成に関すること。
九 長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること。
十 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること。
十一 第五百七十七条の二第一項、第二項及び第八項の規定により講ずる措置に関すること並びに同条
第三項及び第四項の医師又は歯科医師による健康診断の実施に関すること。
十二 厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官又は労働衛生専門官から文書
により命令、指示、勧告又は指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること。
そして、作業環境測定のモデル様式には、「産業医又は労働衛生コンサルタントの意見 」という記載部分がありますので、産業医は作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立に関する意見を述べるための知識が必要でしょう。
産業医が個人サンプリング法による作業環境測定と個人ばく露測定に関わる
まず、労働安全衛生法における作業環境測定として、従来法である、A測定、B測定、さらに個人サンプリング法である、C測定、D測定、さらに個人ばく露測定があります。この違いについては以下の記事を参照してください。
今後、産業医は個人サンプリング法や個人ばく露測定により積極的に関与する必要があると考えられます。個人サンプリング法における「均等ばく露作業」という概念は、「単位作業場」とは異なります。
均等ばく露作業を設定するには、作業現場の理解が不可欠です。職場巡視を行う産業医は、この点についてアドバイスが可能でしょう。また、これには作業環境測定の知識が必要です。
従来法として知られるA測定やB測定では、時間と場所を定めて短時間でサンプリングすることが比較的容易でした。これは、外部の作業環境測定機関に委託されることも多く、事業所にとって手間はかからないものでした。しかし、個人サンプリング法や個人ばく露測定では、従業員に個人サンプラーを装着する必要があるため、事業所内の作業環境測定士が行うのが適しています。
労働安全衛生法第65条に基づく作業環境測定の一つの方法である個人サンプリング法は、C測定やD測定として知られています。最終的にはA測定、B測定と同様に、管理区分で作業環境を評価します。しかし、サンプラーを装着した従業員が移動するため、データの統計処理は複雑で、その妥当性を検討する必要があります。さらに、C測定やD測定で得られた個別データは、個人ばく露測定のデータとしても利用可能です。
これらのデータの取り扱いや統計処理を適切に行うためには、現場の作業に関する深い理解が必要です。
さて、個人サンプリング法についての話題が出てきましたが、この方法を実施するためには、第二種作業環境測定士の資格に加えて、「個人サンプリング法に関する特例講習」の修了が必要です。したがって、産業医は、これらの資格と講習を修了しておくことが望ましいでしょう。なお、個人ばく露測定については、労働安全衛生法第65条の作業環境測定ではないため、作業環境測定士が行う必要はありませんが、個人暴露測定に関する十分な知識と経験を持つ作業環境測定士が実施することが望ましいです。
また、実務上、健康診断の実施頻度の緩和について専門家の助言を行うためにも、作業環境測定と個人サンプリング法の知識が必要となります。
産業医が化学物質管理専門家、作業環境管理専門家となる方法の一つとして、作業環境測定士を経由するルートがあります。
化学物質の自律的管理において、化学物質管理専門家、作業環境管理専門家というスタッフが出てきます。作業環境管理専門家は、作業環境測定結果が第3管理区分の事業場に対する措置の強化により、作業環境測定で第三管理区分に区分された場合、外部の作業環境管理専門家に相談しなければなりません。
また、化学物質の自律的管理における労働基準監督署長の指示に関して、事業所は化学物質管理専門家に助言を求めなければならないと定められています。また、化学物質管理水準が良好な事業場で特別規則等の適用除外を受ける場合にも化学物質管理専門家が管理します。
化学物質の自律的管理の制度において、産業医がこれらの専門家になるための要件はかなり厳しいです。普通に産業医をしているだけでは化学物質管理専門家や作業環境管理専門家になれません。
産業医が作業環境管理専門家や化学物質管理専門家となるためについては、以下の記事を参照してください。
産業医が作業環境管理専門家や化学物質管理専門家になるためには、①作業環境測定士経由、または②オキュペイショナル・ハイジニスト有資格者等になるのがよいかと思われます。
なお、化学物質管理専門家は、作業環境測定の第三管理区分となる場合に意見を聴くべき作業環境管理専門家を兼ねます。
2023年に、私は作業環境測定士ルートにより、化学物質管理専門家となることができました。
今後、制度が変わる可能性はありますが、現時点では、とりあえず産業医の先生は早めに、作業環境測定士を取得することをお勧めします。
産業医が作業環境測定士になるにはどうすればいいか
産業医が作業環境測定士になるためには講習を受けましょう
産業医(医師)が作業環境測定士になることは、それほど難しくはありません。
日本作業環境測定協会のウェブサイトには、「作業環境測定士になるためのプロセス」が紹介されています。このページによると、医師の場合、国家試験の免除資格が与えられています。したがって、必要な登録講習を受けて修了すれば、第二種作業環境測定士の資格を取得することが可能です。講習の最後には試験がありますが、講習内容をしっかり学べば、特に難しいものではないとされています。
既に述べたように、産業医は個人サンプリング法や個人ばく露測定に関与する可能性が高いので、第二種作業環境測定士の資格を取得し、さらに「個人サンプリング法に関する特例講習」も修了することが推奨されます。
第1種と第2種の作業環境測定士があるが、産業医はどちらを取得すべきか?
作業環境測定士には第1種と第2種がありますが、産業医はどちらの資格を取得すべきでしょうか。通常の産業医として活動する場合、第1種作業環境測定士の資格は必ずしも必要ではないと考えられます。日本作業環境測定協会のウェブサイトに「作業環境測定士になるためのプロセス」に関する情報があり、そこでは第1種と第2種の違いについて簡潔に説明されています。分析業務まで自身で行う産業医であれば、第1種作業環境測定士の資格を取得することも検討できます。
試験がこのようになっているのは、第一種作業環境測定士は、第二種作業環境測定士に要請される知識技術のすべてをマスターしているほか、さらにその上に粉じん、有機溶剤などの種別に応じた分析技術もマスターしている専門家として位置づけられていることによります。
したがって、第一種作業環境測定士は、第二種作業環境測定士ができることはすべてできるほか、それに加えて粉じん、有機溶剤などの種別に応じた分析もできる専門家であることになります。
まとめ
産業医と作業環境測定士のダブルライセンスについて説明しました。今後、産業医が作業環境測定に深く関与する機会は増えると考えられます。
衛生委員会では、作業環境測定については、付議事項であり審議する必要があり、衛生委員会に参加する産業医は作業環境測定についての意見を提供することが期待されます。さらに、個人サンプリング法の適用範囲が拡大する可能性が高いため、化学物質の自律的管理における個人ばく露測定に関して、適切なアドバイスを行うためには産業医に作業環境測定の深い知識が求められます。また、2023年時点で、産業医が作業環境管理専門家や化学物質管理専門家になる方法の一つです。
作業環境測定士になる方法については、医師の場合、多くの科目が免除されるため、必要な講習を受けて修了試験に合格すれば、資格を取得することができます。
今後、化学物質の健康管理に関与する産業医には、作業環境測定士(特に個人サンプリング法に対応可能な資格)の保有が重要になると考えられます。
労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。