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【産業医向け】主治医の意見書を入手したら、産業医は面談を実施し意見書を会社に提出しましょう

産業医が従業員に対して診療情報提供依頼書を発行し、従業員は個人情報の開示に同意しました。そして、当該従業員は診療情報提供依頼書を主治医のもとへ届けました。その後、約2週間ほどして、主治医から産業医へ意見書が届きました。


そして、従業員本人と面談を行いました。
さて、次に産業医が行うべきことは何でしょうか。はい、それは産業医の意見書の作成になります。
作成した産業医の意見書を会社に提出しましょう。

※ 産業医意見書は以下の記事を参照してください。


今回の記事では、「主治医の意見書(診療情報提供書または診断書とも呼ばれます)」と「産業医の意見書」の2つの意見書が登場します。読者の方には、どちらの文書かを正しく理解して読んでいただけるようお願いします。

【初心者・産業医向け】産業医が主治医の意見書を入手したら、従業員と面談を実施し、そののち産業医の意見書を会社に提出しましょう。

 産業医が発行する診療情報提供依頼書とその性質について

今回は、主治医の意見書が届いた状態からのお話ですが、その前にすこし復習しましょう。

私は、オリジナルの診療情報提供依頼書を使用していることは他の記事で書きました。
オリジナルと言っても、これを書面を見た、ほとんどの産業医の先生方は、これは職場復帰支援の手引きの書式、そのままではないか?と思われると思います。


労働衛生コンサルタント事務所 LAO版

ポイントは、このひな形に記載されている「労働者の健康を確保する」という部分が、労働安全衛生法13条5項の文言に該当することです。
労働安全衛生法13条5項は、「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告ができる」と規定しています。
したがって、「労働者の健康を確保するため」に「必要な勧告」を就業上の措置に関する意見書として、産業医が事業者に提出することになります。

産業医が意見を述べる、事業者とはなにか?

なお、産業医の意見書を事業者に提出しますが、この事業者については労働安全衛生法2条1項3号にて「三 事業者 事業を行う者で、労働者を使用するものをいう。」と規定されおり。事業者は個人事業主の場合は事業主本人ですが、法人は企業そのものを指します(労働安全衛生法の施行について (昭和四七年九月一八日、発基第九一号)。
ただし、産業医が選任される要件は、常時50人以上の労働者を雇用している事業場に限られるため、産業医が選任されている事業者は通常、法人であると思われます。

労働安全衛生法の施行について (昭和四七年九月一八日、発基第九一号)

五 事業者の意味づけ
この法律における主たる義務者である「事業者」とは、法人企業であれば当該法人(法人の代表者ではない。)、個人企業であれば事業経営主を指している。
これは、従来の労働基準法上の義務主体であつた「使用者」と異なり、事業経営の利益の帰属主体そのものを義務主体としてとらえ、その安全衛生上の責任を明確にしたものである。
なお、法違反があつた場合の罰則の適用は、法第一二二条に基づいて、当該違反の実行行為者たる自然人に対しなされるほか、事業者たる法人または人に対しても各本条の罰金刑が課せられることとなることは、従来と異なるところはない。

厚生労働省HP 労働安全衛生法の施行について

つまり、主治医からの診療情報提供依頼書を入手した後、本人と面談し、医師の意見を勧告として会社に伝えるという手続きが、このひな形に記載されている内容となります。

労働安全衛生法(産業医等)
第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。
2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。
3 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識に基づいて、誠実にその職務を行わなければならない。
4 産業医を選任した事業者は、産業医に対し、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の労働時間に関する情報その他の産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報として厚生労働省令で定めるものを提供しなければならない。
5 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。
6 事業者は、前項の勧告を受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該勧告の内容その他の厚生労働省令で定める事項を衛生委員会又は安全衛生委員会に報告しなければならない。

e-Gov 労働安全衛生法

また、労働安全衛生規則14条では、14号1項各号に記載された事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告、または衛生管理者に対して指導や助言を行うことができる旨が規定されています(緑ハイライト)
この点、この事項の一つ「六 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。」であるとして、衛生管理者に指導、助言できそうではありますが、実務上は産業医の意見は配置転換等も伴う可能性があるために、総括安全衛生管理者はともかく、人事権等が付与されていない衛生管理者に指導・助言を行うのは困難な場合があります。
そのため、私は労働安全衛生法13条5項において勧告先とされている事業者(法人)への勧告権を根拠とした方が適切であると考えます。

労働安全衛生規則(産業医及び産業歯科医の職務等)
第十四条 法第十三条第一項の厚生労働省令で定める事項は、次に掲げる事項で医学に関する専門的知識を必要とするものとする。
一 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
二 法第六十六条の八第一項、第六十六条の八の二第一項及び第六十六条の八の四第一項に規定する面接指導並びに法第六十六条の九に規定する必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
三 法第六十六条の十第一項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第三項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
四 作業環境の維持管理に関すること。
五 作業の管理に関すること。
六 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
七 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
八 衛生教育に関すること。
九 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
2 法第十三条第二項の厚生労働省令で定める要件を備えた者は、次のとおりとする。
一 法第十三条第一項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であつて厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
二 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であつて厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であつて、その大学が行う実習を履修したもの
三 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
四 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者
五 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
3 産業医は、第一項各号に掲げる事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、若しくは助言することができる。
4 事業者は、産業医が法第十三条第五項の規定による勧告をしたこと又は前項の規定による勧告、指導若しくは助言をしたことを理由として、産業医に対し、解任その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
5 事業者は、令第二十二条第三項の業務に常時五十人以上の労働者を従事させる事業場については、第一項各号に掲げる事項のうち当該労働者の歯又はその支持組織に関する事項について、適時、歯科医師の意見を聴くようにしなければならない。
6 前項の事業場の労働者に対して法第六十六条第三項の健康診断を行なつた歯科医師は、当該事業場の事業者又は総括安全衛生管理者に対し、当該労働者の健康障害(歯又はその支持組織に関するものに限る。)を防止するため必要な事項を勧告することができる。
7 産業医は、労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識及び能力の維持向上に努めなければならない。

引用元:引用元のURL

意見書は書面で事業者に提出しましょう。

さらに、この産業医意見書による勧告は原則として書面で行うべきです。口頭で行った場合、事業者や従業員で認識のずれが発生したり、後にどのような意見を述べたかわからなくなる可能性があるため、注意が必要です。

私は実務において、産業医の意見書の内容を面談した従業員に説明し、提出する会社に確認してもらいます。
法令上、面談した従業員へ、産業医の意見書の内容を説明する必要は法令上はありませんが、通常、従業員に対して会社に述べる意見の内容を説明することが殆どかと思います。
その中で、説明の解釈にずれが生じないように、書面を作成し、説明を行っています。

場合によっては、産業医の意見書について内容の説明を受けた旨の従業員の署名をいただくこともあります。

このように、産業医の意見書は、就業上の措置を行う際に従業員に提示するのが前提であり、産業医の意見書に記載した内容は確定してしまうため、内容を決める前に慎重に考える必要があります。事業者は産業医の勧告を尊重する義務が法律で定められており、さらに、勧告を無視することで従業員の健康状態が悪化する可能性を回避するために、実質的に産業医の意見書に拘束されることになります(労働安全衛生法13条5項)。

労働安全衛生法13条5項
 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。

私は、従業員本人や関係者との調整を行わずに、就業上の措置について産業医の意見を述べることはトラブルのもとになると考えています。労働法だけでなく、判例に関する知識も必要です。

就業上の措置に関する 意見書

そして、作成する就業上の措置に関する意見書ですが、公式な特定の様式が存在しません。私は職場復帰支援の手引きの「職場復帰に関する意見書」を参考にしていますが、必要なことが記載されていれば、形式は自由であり、どのような形式でも構いません。
重要なのは、意見の内容を簡潔かつ明確に書くことです。

LAOのひな形です。就業上の措置に関する意見書
就業上の措置意見書ひな形2023

 従業員との面談の実務

こういった状況を踏まえた上で、従業員との面談に臨みましょう。

まず、診療情報提供書(診断書・意見書)を受け取ったら、内容を確認した後、従業員との産業医面談を行いましょう。面談では、従業員本人の状態を確認し、就業上の配慮等について相談します。必要に応じて、従業員本人の同意を得た上で、従業員の面談後に会社の人事労務担当者に同席してもらい、情報を共有することも一つの方法です。

ただし、事前に従業員が会社に関する情報を共有したくない旨を確認しておく必要があります。このような場合、非常に高い調整能力が求められます。

 まとめ

今回は、産業医が従業員に診療情報提供依頼書を作成し、主治医の意見書を取得した際に、どのように対応すべきかについてお話ししました。
なお、今回お話した、意見書の作成と取り扱いについては、特に法令やガイドラインなどで具体的に規定されているわけではありません。

医師の意見書は非常に重要で、そこに記載された内容は確定してしまうと考えてください。当該従業員の労働条件によっては、労務不能となってしまう可能性もあります。将来的に紛争が発生した場合、この意見書の内容が争点になる可能性もあります。

会社と従業員の間で紛争になり、裁判となった場合、産業医が陳述書を求められることがあります。
就業上の措置を適切に実施するためには、労働法や判例に関する知識、会社との調整能力、従業員とのコミュニケーション能力などが必要です。これらを学んでいくことが大切です。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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