2024/01/23 2024/01/24
【化学物質】濃度基準値が設定されている化学物質についてのリスクアセスメントと「技術上の指針」
2024年4月1日より、化学物質の自律的管理に関する労働安全衛生規則第577条の2第2項に基づき、濃度基準値が設定された物質に対する対策が必要となります。本稿では、濃度基準値が設定されている物質のリスクアセスメントの方法について解説します。
濃度基準値が設定されている化学物質のリスクアセスメント
まず、労働安全衛生規則577条の2第2項を見てみましょう。こちらは、2024年4月1日からの施行になります。
(ばく露の程度の低減等)
第五百七十七条の二 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。
2 事業者は、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない。
このように、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることで労働者に健康障害を生ずるおそれがない物質として厚生労働大臣が定める物質(濃度基準値設定物質)は、屋内作業場で労働者がばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準(濃度基準値)以下としなければなりません。
なお、明記されていますが、この規定が適用されるのは、屋内作業場のみです。
濃度基準値についての詳細は、以下の記事を参照してください。
濃度基準値がらみの通達で重要なのは、「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号 」という通達になります。
以下が、通達の引用ですが「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」と明記されています。この「濃度の基準」が、濃度基準値になります。
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針
令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条第1項の規定に基づき、化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針を次のとおり公表する。
「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号 」
以下は、濃度基準値が存在する物質についてのリスクアセスメントのフローチャートになりますが、この指針からの引用です。
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号
濃度基準値設定物質のリスクアセスメントを法令より解説
この濃度基準値設定物質のリスクアセスメントについてですが、化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号 に記載があります。
1-2 実施内容 事業者は、次に掲げる事項を実施するものとする。
(1) 事業場で使用する全てのリスクアセスメント対象物について、危険性又は有害性を特定し、労働者が当該物にばく露される程度を把握した上で、リスクを見積もること。
(2) 濃度基準値が設定されている物質について、リスクの見積りの過程において、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業を把握した場合は、ばく露される程度が濃度基準値以下であることを確認するための測定(以下「確認測定」という。)を実施すること。
(3) (1)及び(2)の結果に基づき、危険性又は有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用という優先順位に従い、労働者がリスクアセスメント対象物にばく露される程度を最小限度とすることを含め、必要なリスク低減措置(リスクアセスメントの結果に基づいて労働者の危険又は健康障害を防止するための措置をいう。以下同じ。)を実施すること。その際、濃度基準値が設定されている物質については、労働者が当該物質にばく露される程度を濃度基準値以下としなければならないこと。
つまり、リスクアセスメント等を行った結果、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業を把握した場合は、「確認測定」を行わなければならないということになります。
「労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業」はどのような作業か
濃度基準値設定物質の濃度を測定する必要があるのは、屋内作業場です。濃度基準値が設定された物質(濃度基準値設定物質)に関しては、リスクアセスメントの過程で、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業を把握した場合は、ばく露される程度が濃度基準値以下であることを確認するための測定(以下「確認測定」という。)を実施しなければなりません。
この点、以下に通達を示されていますが、濃度基準値を超えるおそれがある場合は、リスクアセスメント等の結果、濃度基準値の二分の一程度を超えると評価された場合になります。
3-1 確認測定の対象者の選定
(1) 事業者は、リスクアセスメントによる作業内容の調査、場の測定の結果及び数理モデルによる解析の結果等を踏まえ、均等ばく露作業に従事する労働者のばく露の程度を評価すること。その結果、労働者のばく露の程度が8時間のばく露に対する濃度基準値(以下「八時間濃度基準値」という。)の2分の1程度を超えると評価された場合は、確認測定を実施すること。
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号
つまり、リスクアセスメントの結果、濃度基準値の二分の一程度を超えないと評価される場合は、確認測定は必要ありません。
しかし、私個人の見解としては、リスクアセスメントの結果、濃度基準値の二分の一程度を超えないと評価される場合であっても、一度は測定しておき、濃度基準値を超えないことを確認しておいた方が良いでしょう。
また、事業所が、どのような手法で、濃度基準値の二分の一程度を超えないと評価したのかを説明できることも必要でしょう。いつか、労働基準監督署に説明を求められる日が来るかもしれません。
そして、このように濃度基準値の「2分の1程度」の基準を採用する理由については、以下の通達で解説されていますが、数理モデルを用いた推定や物質濃度の測定が常に確実でない可能性があるため、マージン(遊び)を設けることにあります。濃度基準値の「2分の1程度」を目安とすることで、不確実性に対応しつつ、労働者が過度なばく露にさらされるリスクを最小限に抑えることが可能となります。
(6) 確認測定の対象者の選定等については、以下の事項に留意すること。
ア 確認測定の実施の基準として、八時間濃度基準値の2分の1程度を採用する趣旨は、数理モデルや場の測定による労働者の呼吸域における物質の濃度の推定は、濃度が高くなると、ばらつきが大きくなり、推定の信頼性が低くなることを踏まえたものであること。このため、労働者がばく露される物質の濃度を低くするため、必要なリスク低減措置を実施することが重要となること。
濃度基準値設定物質の確認測定の実施手順
濃度基準値の二分の一程度を超えるかどうかをどのように判断するか
この判断を行うための手法には、実測法(検知管、リアルタイムモニターなど)と推定法(クリエイト・シンプル、ECETOC-TRA、数理モデルなど)があります。他にも手法は存在するため、どの手法を使用するかは、専門家と相談し、衛生委員会での審議を経て決定しましょう。
確認測定はどのように実施するのか。
確認測定の方法は事業者が決定することが許されていますが、その方法を労働基準監督機関などに適切に説明できる必要があります。この通達では、作業環境測定士による測定実施が望ましいとされています。
イ 労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認する方法は、事業者において決定されるものであり、確認測定の方法以外の方法でも差し支えないが、事業者は、労働基準監督機関等に対して、労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを明らかにできる必要があること。また、確認測定を行う場合は、確認測定の精度を担保するため、作業環境測定士が関与することが望ましいこと。
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号
確認測定は、すべての労働者に対して行う必要はありません。重要なのは、均等ばく露作業で最も高いばく露を受けると予測される労働者(「最大ばく露労働者」と称する)に対してのみ測定を行うことです。この最大ばく露労働者への対策によって、他の労働者も安全な状態に保たれるという考え方に基づいています。
この点、均等ばく露作業はリスクアセスメントの措置を実施する対象となり、呼吸用保護係数の算定にも影響を与えるため、均等ばく露作業の適切な設定が重要です。均等ばく露作業を適切に設定するためには、個人サンプリング法に対応可能な作業環境測定士に相談することが望ましいでしょう。
なお、均等ばく露作業ごとに確認測定を行う場合において、測定結果のばらつきや測定の失敗等を考慮し、八時間濃度基準値との比較を行うための確認測定については、均等ばく露作業ごとに最低限2人の測定対象者を選定することが望ましいと解説されています。
(2) 全ての労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するという趣旨から、事業者は、労働者のばく露の程度が最も高いと想定される均等ばく露作業における最も高いばく露を受ける労働者(以下「最大ばく露労働者」という。)に対して確認測定を行うこと。その測定結果に基づき、事業場の全ての労働者に対して一律のリスク低減措置を行うのであれば、最大ばく露労働者が従事する作業よりもばく露の程度が低いことが想定される作業に従事する労働者について確認測定を行う必要はないこと。しかし、事業者が、ばく露の程度に応じてリスク低減措置の内容や呼吸用保護具の要求防護係数を作業ごとに最適化するために、当該作業ごとに最大ばく露労働者を選定し、確認測定を実施することが望ましいこと。
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号
具体的な、確認測定における、事業者による標準的な試料採取方法及び分析方法は、「技術上の指針」中の別表1に定めるところによることとされています。以下、示します。
なお、この確認測定については、濃度基準値を超えている場合には、6カ月に一度は確認測定をしなければなりません。
事業者は、確認測定の結果、労働者の呼吸域における物質の濃度が、濃度基準値を超えている作業場については、少なくとも6月に1回、確認測定を実施すること。
化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号
「確認測定」の実施については、上記の「技術上の指針」に詳細がありますので、熟読しましょう。
濃度基準値が設定されていない場合はクリエイトシンプルの管理目標濃度を用いることができます
濃度基準値が設定されていない物質の場合、労働安全衛生規則第5777条の2の対象外であり、濃度基準値以下に保つ義務はありません。しかし、濃度基準値が設定されていない物質に対するリスクアセスメントを行う際は、GHS分類に基づいて、CREATE-SIMPLEにより算出される管理目標濃度を参考にして、労働者のばく露管理を行うことが可能です。
● 吸入ばく露による健康リスク 英国HSE COSHH essentialsに基づくコントロール・バンディング手法の考え方を踏まえ、ばく露限界値(またはGHS区分情報に基づく管理目標濃度)と化学物質の性状や取扱い条件等から推定したばく露濃度を比較し、リスクを見積もる方法を採用しています。
「CREATE-SIMPLEの設計基準 2023年11月 厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課」における、ばく露限界値が得られない場合の管理目標濃度についての記述を以下に示します。
化学物質の濃度を評価したのち行うべき措置について
濃度基準値の適用については以下のように示されています。
5-2 濃度基準値の適用に当たって実施に努めなければならない事項
事業者は、5-1の濃度基準値について、次に掲げる事項を行うよう努めなければならないこと。
(1) 別表2の左欄に掲げる物のうち、八時間濃度基準値及び短時間濃度基準値が定められているものについて、当該物のばく露における十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超え、かつ、短時間濃度基準値以下の場合にあっては、当該ばく露の回数が1日の労働時間中に4回を超えず、かつ、当該ばく露の間隔を1時間以上とすること。
(2) 別表2の左欄に掲げる物のうち、八時間濃度基準値が定められており、かつ、短時間濃度基準値が定められていないものについて、当該物のばく露における十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値を超える場合にあっては、当該ばく露の十五分間時間加重平均値が八時間濃度基準値の3倍を超えないようにすること。
(3) 別表2の左欄に掲げる物のうち、短時間濃度基準値が天井値として定められているものは、当該物のばく露における濃度が、いかなる短時間のばく露におけるものであるかを問わず、短時間濃度基準値を超えないようにすること。
このように確認測定の結果が、八時間濃度基準値、短時間濃度基準値(あるいは八時間濃度基準値の3倍)、及び天井値を超えるかどうかにより対応が変わってきます。この八時間濃度基準値と短時間濃度基準値の使い方ですが、八時間時間加重平均値は、八時間濃度基準値を超えてはならず、十五分間時間加重平均値は、短時間濃度基準値を超えてはならないとされています。
- 八時間時間加重平均値
1日の労働時間のうち8時間のばく露における物質の濃度を各測定の測定時間により加重平均して得られる値 - 十五分時間加重平均値
1日の労働時間のうち物質の濃度が最も高くなると思われる15分間のばく露における当該物質の濃度を各測定の測定時間により加重平均して得られる値
参考文献:化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針 令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号
これらの濃度基準値や、八時間時間加重平均値、十五分時間加重平均の解説については、以下の記事を参考にしてください。
では、前述の通達を図にすると以下のようになります。(1)については以下のように、十五分時間加重平均値が、8時間濃度基準値と短時間濃度基準値の間にある場合になります。この場合、ばく露の回数と、間隔につき、制限があります。
(2)についてですが、短時間濃度基準値が定められていないものについての規定になりますが、この場合、短時間濃度基準値の代わりに八時間濃度基準値の3倍を用いることになります。
(3)については、天井値は、いかなる短時間のばく露におけるものであっても超えることは許されません。15分時間加重平均値で評価しないのがポイントとなります。
このような指標については知っておきましょう。
これらの結果を踏まえて、リスク低減措置や呼吸用保護具を行っていきます。前述のように、事業者は、確認測定の結果、労働者の呼吸域における物質の濃度が、濃度基準値を超えている作業場については、少なくとも6月に1回、確認測定を実施することとされています。
まとめ
2024年4月1日より、化学物質の自律的管理に関する労働安全衛生規則第577条の2第2項に基づき、濃度基準値が設定された物質に対する対策が必要となります。
まず、労働者が当該物質にばく露される可能性が濃度基準値を超える恐れがある屋内作業において、リスクアセスメントの結果に基づき、濃度基準値の半分以上に達する可能性がある場合には、確認測定を実施しなければなりません。確認測定の方法は事業者が自ら決定できますが、その方法について労働基準監督機関などに適切に説明する必要があります。また、作業環境測定士による測定の実施が推奨されています。
濃度基準値が設定されていない場合は、クリエイトシンプルの管理目標濃度を利用することが可能です。化学物質の濃度を評価した後、必要な措置を行うには、八時間濃度基準値、短時間濃度基準値(八時間濃度基準値の3倍まで)、天井値、八時間時間加重平均値、十五分時間加重平均値などを用いて対応します。
労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。
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