事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【人事労務担当者向け】産業保健に関連する書類の作成と非行政書士・非社会保険労務士

産業保健活動を行うと、様々な文書を作成しなければならないのは、皆様もご存じだと思います。法令により、安全衛生委員会の議事録や健康診断結果報告書、さらに産業医の意見書など多くの種類があります。

今回は、これらの書類を誰が作れるのかというお話をします。産業医紹介会社の中には、書類の作成サポートを行っている会社もあるようですが、本来はあくまで事業所が自分で作成しなければなりません。
ひょっとしたら知らずに本来やってはいけないことを行ってしまっている産業医や保健師もいるかもしれません。

産業保健活動で作成しなければならない書類と業際問題

では、産業保健活動で作成しなければならない書類には、どんな書類があるでしょうか。
例えば、以下のようなものがあります。

産業保健分野で必要となる書面
  1. 安全衛生委員会の議事録
  2. 健康診断の結果報告書
  3. 主治医への診療情報提供依頼書
  4. 休職発令の通知書
  5. 産業医の意見書
  6. 傷病手当金の申請書

実は、産業保健サービス会社や、非士業である医療職がこの書類の作成、提出を行うことが、行政書士法・社会保険労務士法違反となる可能性があるのです。
今回は、最も想定される、産業保健サービス会社(法人)がこれらの書面を作成した場合に、行政書士・社会保険労務士の独占業務とどのような関係になるのかを調べてみました。

安全衛生委員会の議事録の作成

安全衛生委員会の議事録は、労働安全衛生法18条、労働安全衛生規則23条に定められた記録です。
社会保険労務士法2条1項2号にて社会保険労務士の業務として、労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含み、申請書等を除く。)を作成すること。 」が定められており、これは社会保険労務士の独占業務(社労士法27条)になっております。

(社会保険労務士の業務)
第二条 社会保険労務士は、次の各号に掲げる事務を行うことを業とする。
一 別表第一に掲げる労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、再審査請求書その他の書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識できない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)をいう。以下同じ。)を作成すること。
一の二 申請書等について、その提出に関する手続を代わつてすること。
一の三 労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、再審査請求その他の事項(厚生労働省令で定めるものに限る。以下この号において「申請等」という。)について、又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述(厚生労働省令で定めるものを除く。)について、代理すること(第二十五条の二第一項において「事務代理」という。)。
一の四 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成十三年法律第百十二号)第六条第一項の紛争調整委員会における同法第五条第一項のあつせんの手続並びに障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)第七十四条の七第一項、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)第三十条の六第一項、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第十八条第一項、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号)第四十七条の八第一項、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)第五十二条の五第一項及び短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成五年法律第七十六号)第二十五条第一項の調停の手続について、紛争の当事者を代理すること。
一の五 地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第百八十条の二の規定に基づく都道府県知事の委任を受けて都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律第一条に規定する個別労働関係紛争(労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)第六条に規定する労働争議に当たる紛争及び行政執行法人の労働関係に関する法律(昭和二十三年法律第二百五十七号)第二十六条第一項に規定する紛争並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)をいう。以下単に「個別労働関係紛争」という。)に関するあつせんの手続について、紛争の当事者を代理すること。
一の六 個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が百二十万円を超える場合には、弁護士が同一の依頼者から受任しているものに限る。)に関する民間紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成十六年法律第百五十一号)第二条第一号に規定する民間紛争解決手続をいう。以下この条において同じ。)であつて、個別労働関係紛争の民間紛争解決手続の業務を公正かつ適確に行うことができると認められる団体として厚生労働大臣が指定するものが行うものについて、紛争の当事者を代理すること。
二 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含み、申請書等を除く。)を作成すること。
三 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること。
2 前項第一号の四から第一号の六までに掲げる業務(以下「紛争解決手続代理業務」という。)は、紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつ、第十四条の十一の三第一項の規定による付記を受けた社会保険労務士(以下「特定社会保険労務士」という。)に限り、行うことができる。
3 紛争解決手続代理業務には、次に掲げる事務が含まれる。
一 第一項第一号の四のあつせんの手続及び調停の手続、同項第一号の五のあつせんの手続並びに同項第一号の六の厚生労働大臣が指定する団体が行う民間紛争解決手続(以下この項において「紛争解決手続」という。)について相談に応ずること。
二 紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間に和解の交渉を行うこと。
三 紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約を締結すること。
4 第一項各号に掲げる事務には、その事務を行うことが他の法律において制限されている事務並びに労働社会保険諸法令に基づく療養の給付及びこれに相当する給付の費用についてこれらの給付を担当する者のなす請求に関する事務は含まれない。

e-Gov 社会保険労務士法

また、安全衛生委員会の議事録は「記録」(労働安全衛生規則23条4項)ですが、「帳簿書類」に当たりうることから例えば、産業保健サービス会社が「報酬」を得て 「業」として行う場合は、社会保険労務士以外の者が行うこととなり、社会保険労務士法違反になる可能性があります。

産業保健サービスを提供する株式会社が「衛生委員会の議事録、こちらで作っておきますよ」というのは法令違反の可能性がありますので注意しましょう。

社会保険労務士法
(業務の制限)
第二十七条 社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない。

e-Gov 社会保険労務士法


健康診断の結果報告書

定期健康診断を行った後に、常時50人以上の労働者を使用している事業場は、労働基準監督署に定期健康診断結果報告書を提出しなければなりません。

この書類の作成は社会保険労務士法法2条1項1号の業務は労働社会保険諸法令に基づいて申請書等を作成することと定義しており、
「報酬」を得て 「業」として、この社会保険労務士法法2条1項1号の業務を行う場合は、社労士以外の者が行うと、社労士法違反になる可能性があります。

社会保険労務士法
2条1項1号 別表第一に掲げる労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、再審査請求書その他の書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識できない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)をいう。以下同じ。)を作成すること。

e-Gov 社会保険労務士法

健診データー等を管理し、その結果を集計して、健康診断の結果報告書として会社にお渡しすることもあるかとおもいますが、法令違反の可能性も出てくるということですね。

主治医への診療情報提供依頼書

診療情報提供依頼書を産業保健サービス提供事業者が、クライエント企業のために診療情報提供依頼書を書面を作成する場合ですが。この場合は、行政書士の独占業務に該当するかが問題となります。


行政書士法
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

(業務の制限)
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
2 総務大臣は、前項に規定する総務省令を定めるときは、あらかじめ、当該手続に係る法令を所管する国務大臣の意見を聴くものとする。

e-Gov 行政書士法


行政書士法との関係では、行政書士法1条の2の「権利義務又は事実証明に関する書類 」に該当するかが問題となります。
そして、これらの書類については以下のようなものが挙げられます。

「権利義務に関する書類」・・・権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする書類(各種契約書等)

「事実証明に関する書類」・・・実生活に交渉を有する書類(履歴書、身分証明書等)

「権利義務又は事実証明に関する書類」であり、他人の求めに応じて、報酬を得て作成すれば、行政書士法違反になりますが、ここは微妙ですよね。
行政書士会にも聞いてみましたが、結局は、問題となった場合の司法判断によるだろうとのことでした。

まあ、産業医にどこかの産業保健サービス会社が作成した診療情報提供依頼書をもってこられて、「先生、この書類にハンコ押してください。後はやっておきます」といわれても押印するのはいやですね。
意見書にかかれたことは事実として確定してしまう可能性が高いので、あとで紛争となった場合に責任が生じる可能性もあるでしょう。。

なお、産業医が自身で診療情報提供依頼書を作成する場合には、「他人の依頼を受け」ではないので問題ありません。

休職発令の通知書

ちょっと特殊な書類になります。欠勤が続いている従業員が休職を要する旨の主治医の診断書を提出し、休職となる場合があります。このような場合には、休職発令の書面を本人に渡すことが一般的です。
この書面は、事業所(本人)が作るのは問題ありませんが、どこかの外部の株式会社等が作ることはできません。「権利義務又は事実証明に関する書類 」して、行政書士が作成しなければなりませんので注意しましょう。

しかし、少し特殊なのは、この休職発令の通知書を作成するためには、就業規則を読み込まなければなりません。労務的な知識も必要かと思われます。

まとめ

産業保健活動では多くの書類を作らなければなりませんが、事業者自身が書類を作る、又は産業医自身が書類をつくる場合以外では、社会保険労務士法違反、行政書士法違反となる可能性があるということです。

安全衛生委員会の議事録の作成健康診断の結果報告書については、社会保険労務士法違反になる可能性が高いです。
診療情報提供依頼書、休職発令の通知書に関しては行政書士会に聞いてみましたが、結局は、問題となった場合の司法判断によるだろうとのことでした。

前述のように自分名義の書面を自分で作成するのは、「他人の依頼を受け報酬を得て」(行政書士法1条の2)、「他人の求めに応じ報酬を得て」(社会保険労務士法27条)でない、つまり「他人」でないので大丈夫ということになります。したがって、会社が自分で会社名義の書面を作る、産業医が診療情報提供依頼書を自分名義でつくる場合は「他人の依頼」でないので問題ないということになります。最終的に違法となるかは、司法により判断されることになりますが、業として行わないほうがいいでしょうね。

ちなみに私は、社会保険労務士・行政書士なので業として行っても大丈夫なのですが・・・・

参照条文

 

衛生委員会議事録について
労働安全衛生法
(衛生委員会)
第十八条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
一 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
二 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
三 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
2 衛生委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第一号の者である委員は、一人とする。
一 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
二 衛生管理者のうちから事業者が指名した者
三 産業医のうちから事業者が指名した者
四 当該事業場の労働者で、衛生に関し経験を有するもののうちから事業者が指名した者
3 事業者は、当該事業場の労働者で、作業環境測定を実施している作業環境測定士であるものを衛生委員会の委員として指名することができる。
4 前条第三項から第五項までの規定は、衛生委員会について準用する。この場合において、同条第三項及び第四項中「第一号の委員」とあるのは、「第十八条第二項第一号の者である委員」と読み替えるものとする。


労働安全衛生規則
(委員会の会議)
第二十三条 事業者は、安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「委員会」という。)を毎月一回以上開催するようにしなければならない。
2 前項に定めるもののほか、委員会の運営について必要な事項は、委員会が定める。
3 事業者は、委員会の開催の都度、遅滞なく、委員会における議事の概要を次に掲げるいずれかの方法によつて労働者に周知させなければならない。
一 常時各作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
4 事業者は、委員会の開催の都度、次に掲げる事項を記録し、これを三年間保存しなければならない。
一 委員会の意見及び当該意見を踏まえて講じた措置の内容
二 前号に掲げるもののほか、委員会における議事で重要なもの
5 産業医は、衛生委員会又は安全衛生委員会に対して労働者の健康を確保する観点から必要な調査審議を求めることができる。


(健康診断結果報告)
第五十二条 常時五十人以上の労働者を使用する事業者は、第四十四条又は第四十五条の健康診断(定期のものに限る。)を行つたときは、遅滞なく、定期健康診断結果報告書(様式第六号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2 事業者は、第四十八条の健康診断(定期のものに限る。)を行つたときは、遅滞なく、有害な業務に係る歯科健康診断結果報告書(様式第六号の二)を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

e-Gov 労働安全衛生規則

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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