事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【まとめ】産業医の発行する診療情報提供依頼書に関する手続きと注意事項について

ここでは、産業医が発行する診療情報提供依頼書の解説を、実際の流れの順番にお話します。
診療情報提供依頼書は、労働法をきちんと勉強した産業医が発行した方がよいでしょう。
私は、診療情報提供依頼書が一般的にならないのは、労働法と診療情報提供依頼書、就業上の措置のつながりが体系化されていないことが原因ではないかと考えています。
私も、まだ判例などの紹介もできていませんが、知っておくべき判例もたくさんあります。

今回はまとめ記事になります。
関連記事を列挙しておりますので、そちらをご覧ください。

 産業医面談から診療情報提供までの流れ

 診療情報提供依頼書とはどのような性質の書面か

産業医が発行する診療情報提供依頼書は、産業医が従業員の主治医に対して発行する文書です。産業医は労働法を正確に理解していることが必須であり、その知識に基づいて診療情報提供依頼書を発行することが望ましいです。
この書面には、個人情報である従業員の医療情報を産業医に提供するため、当該従業員の個人情報の開示に同意する署名欄が設けられていることが通常です。
根拠としては、職場復帰支援の手引きと治療と仕事の両立支援となり、以下のようなガイドラインが厚生労働省より発表されています。

心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(厚生労働省)
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン
医療機関連携マニュアル

 

診療情報提供依頼書については就業規則に規定しておきましょう

会社が従業員に対して受診命令や診断書提出命令を出す場合は、その内容を明確に就業規則等に記載する必要があります。ただし、就業規則等への記載内容は合理的で相当性がある必要があります。
産業医は、就業規則の範囲内で診断書の提出や受診の勧奨などを行う必要があります。そのため、就業規則を理解し、適切に遵守する能力が必要です。
事前に就業規則を整備しておくことをお勧めします。また、就業規則の変更については社会保険労務士に相談することをお勧めします。

診療情報提供依頼書は産業医が自分で作成しましょう。

産業保健活動では多くの書類を作成する必要がありますが、事業者自身が書類を作成する場合や産業医自身が書類を作成する場合以外では、社会保険労務士法違反や行政書士法違反となる可能性があります。しかし、産業医が自分自身で、自分名義の書面を作成する場合は、「他人の依頼を受け報酬を得て」(行政書士法1条の2)、「他人の求めに応じ報酬を得て」(社会保険労務士法27条)にあたらないため、問題ありません。

したがって、会社が自分で会社名義の書面を作成したり、産業医が診療情報提供依頼書を自分名義で作成する場合は「他人の依頼」でないため問題ありません。
基本的に、書面は、その書面の名義人が作成するようにしましょう。

診療情報提供依頼書のお返事に関する費用は確認しておきましょう。

診療情報提供書等のやり取りが複数回になることがありますが、主治医からの診療情報提供書の費用についてトラブルが発生する可能性があります。従業員本人が費用を負担する場合に、産業医が何通も診療情報提供依頼をかけるのは好ましくないと思われます。実は、会社が特別に診断書(意見書、診療情報提供依頼書)を求めた場合に、費用を会社が負担することにはメリットもあります。

診療情報提供書の費用については、事前に就業規則や労働契約などで明記しておくことを強くおすすめします。会社が一定の場合に費用を負担することは、不利益変更ではないため、導入しやすいかと思います。

また、主治医の発行費用が、産業医が情報依頼をかけた時点では不明なことも問題となりますので注意しましょう。

 産業医面談において注意すべきこと

会社から依頼があって産業医面談を行う場合、会社からどのような面談かについて説明があると思います。職場復帰支援、治療と仕事の両立支援、調子が悪そうなので面談してほしい等、色々な依頼があります。まずは、当該従業員の方にお会いしてお話をお聞きしましょう。前情報はあくまで前情報であり、本人の状況を直接確認することが重要です。

有名な言葉で、カウンセリングにおいて、クライエントは二重の不安を持っていると言われています。第一の不安は、自分のかかえている問題そのものの不安であり、第二の不安は、その問題を他人に話すことの不安です。このようなクライエントに面談する産業医にはカウンセリング技術が必須です。

そして、産業医面談を依頼され、面談した結果、キャリアの相談であったということもあります。就業上の措置として医師の意見を述べる場合には、本人のキャリアにも影響するかもしれません。初回面談は、インテーク面談とも言われ、非常に重要なステップです。


就業上の措置を行う前に知っておくべき労働条件についてわかりやすく解説

産業医は、就業上の措置として医師の意見を述べる際には当該従業員の労働条件を考慮する義務はありません。しかし、労働条件を無視して就業上の措置に関する意見を述べると混乱が起きる可能性があります。
また、主治医に診療情報提供依頼書を発行する場合には、依頼事項についてどのような情報が必要かを想定し、ピンポイントで情報を得ることができます。

労働条件を決定するには、法令、労働協約、就業規則、労働契約があり、適用される優先順位があります。
細かい論点も存在しますので、実務では会社にきちんと確認しましょう。

診療情報提供依頼書における業務内容の詳細の書き方について

診療情報提供依頼書や両立支援のために主治医に診療情報の提供を求める場合、当該労働者の業務内容を記載することが多いかと思います。
この際のポイントは、業務内容につき、誰が見ても理解できるような明確な記載をすることが重要です。
紙に記載されている情報量が多いと、主治医へ聞きたいことの論点がボケるかもしれませんので注意しましょう。
従業員の業務情報を診療情報提供依頼書に記載する際、必要な情報を箇条書きでわかりやすく記載しましょう。

この診療情報提供依頼書のお返事によっては、従業員がお仕事ができないという事態も生じますので、労働条件をきちんと理解して、最小限の情報を入手することが必要になります。

産業医が作成する書面が2枚以上の用紙にわたる場合の契印の押し方について解説

もしも診療情報提供依頼書が複数枚にわたる場合は、書類をホッチキスで留め、契印を押しましょう。この契印は、契約書などでも利用されますので、覚えておきましょう。



診療情報提供依頼書を発行したら

診療情報提供依頼書をどのように主治医へ届けるか

そして、主治医へ診療情報提供依頼書を発行しますが、方法は二つあります。
一つは本人に同意欄にサインしてもらい、主治医のところへ持っていっていただく方法です。
もう一つは、本人に同意欄にサインしてもらった後に、産業医(会社)が主治医へ発送する場合です。
こちらについては注意点がありますので、以下の記事をご参照ください。

産業医が主治医の意見書を入手したら、面談を実施し意見書を会社に提出しましょう。

今回は、産業医が従業員に診療情報提供依頼書を発行し、主治医の意見書を取得した際には再度面談して、産業医の意見書を発行しましょう。
産業医の意見書の作成と取り扱いについては、特に法令やガイドラインなどで具体的に規定されているわけではありません。

医師の意見書は非常に重要で、そこに記載された内容は確定してしまうと考えてください。当該従業員の労働条件によっては、労務不能となってしまう可能性もあります。将来的に紛争が発生した場合、この意見書の内容が争点になる可能性もあります。

会社と従業員の間で紛争になり、裁判となった場合、産業医が陳述書を求められることがあります。
就業上の措置を適切に実施するためには、労働法や判例に関する知識、会社との調整能力、従業員とのコミュニケーション能力などが必要です。これらを学んでいくことが大切です。

配置転換(配転)についての基礎知識と論点について

産業医の業務の中に、就業判定があります。この中で産業医は配置転換の意見も述べることがあるかもしれません。
この時、配転ができるかどうか、どのように行うのかの配転に関する取り決めがあるかどうかのチェックが重要になってくるでしょう。

また、あらかじめ配転できる範囲がわかっていれば、主治医に診療情報提供依頼書を発行する際の文言もかわってくるのではないでしょうか。
どうしても従前の労働条件にない業務・場所に配転を命じる場合には、合意で労働条件を変更することも考慮しましょう。

診療情報提供依頼書は安易に発行すると問題が生じることがあります

診療情報提供書に記載されたことは原則として、確定してしまいます。
どのような質問を主治医に問い、その結果どのような返答が想定されるか、そしてどのような対応となるかについて、予想できなければなりません。
診療情報提供依頼書は、これらを考慮せず、安易に発行すると問題が生じることがあります。

私の経験ですが、産業医業務を行う上で高い頻度で問題となるのは従業員の無断欠勤です。
しかし、実は本人の体調が悪く、その結果として無断欠勤となっているかもしれません。その場合には、きちんと休職等の手続きを行わないと、労働者にとって不利になります。
無断欠勤を行っている労働者に懲戒処分となるかもしれないという不利益について説明を行うことも必要でしょう。

また、人事労務系担当者としては、懲戒処分に該当する可能性がある行為を放置するのも問題があるため、対応が必要です。
この対応のため、例として無断欠勤であれば、人事労務系担当者が書面により本人に理由を明らかにするように通告を行うことがよくあります。



 まとめ

診療情報提供依頼書の発行とその事後措置についての手順についてまとめました。
ここでは書ききれない論点がたくさんあります。

きちんと労働法を勉強してからでないと、特殊な診療情報提供依頼書の発行はお勧めしません。
私は、特にスポット契約での診療情報提供依頼はできるだけやりたくないです。
しかし、診療情報提供依頼書をきちんと扱いこなせれば、産業医業務の幅が広がり、従業員支援がきちんとできるようになるでしょう。

重要な産業医の業務のですが、なかなか体系的に記載している文献等がないのでまとめました。
今後も記事を増やしていきたいと思います。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、産業医・顧問医の受託をお受けしております。労務管理と一体になった産業保健業務を多職種連携で行います。

お問い合わせはこちらからお願いいたします。

この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

詳しいプロフィールはこちら

ジャンルから記事を探す

CONTACTお問い合わせ

困ったことをどの分野の専門家に相談すればいいか分からないということはよくあります。LAOが対応できる内容か分からない場合でも、どうぞお気軽にお問い合わせください。

もちろん、弊所では、オンラインによる対応を行っております。Zoom, Teams, Webexは対応しております。その他のツールをご希望の場合はご相談ください。

オンライン相談に関して詳しくはをご覧ください。

オンライン相談について

オンライン相談とは

オンライン相談とは、スマートフォン・タブレット・パソコンを使って、ご自宅にいながらスタッフにご相談できるサービスです。スタッフの顔をみながら簡単にご相談することが可能です。

使用可能なアプリ等について

Zoom・Teams・WebExは実績があります。その他に関してはご相談ください。

オンライン相談の流れ

1.お申し込み
メールフォームまたはお電話よりお申し込みください。

2.日程のご予約
メールアドレス宛に日程調整のメールをお送り致します。

3.URLの送付
日程調整後、弊所より開催当日までにオンライン相談の方法をメールでご案内します。

4.相談日
お約束のお時間にお送りしたURLより参加していただきますと、打ち合わせが始まります。