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【医師向け】労働安全衛生法上の一般定期健康診断の診察についてどのような診察が必要とされるのかを法令より考察

ときどき、労働安全衛生法における一般定期健康診断の診察について、どのような診察項目が必要かというご相談を受けることがあります。
安全衛生法に基づいて、どのような診察が必要かを見てみましょう。

健康診断の項目について

健康診断の労働安全衛生規則上の項目について(雇入時健診と定期健診について)

雇入時の健康診断定期健康診断において、どのような項目が必要かを労働安全衛生法に基づいて確認してみましょう。

雇用時の健康診断に関しては、労働安全衛生規則43条1項2号によれば、「二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査」が必要です。
一方、定期健康診断に関しては、労働安全衛生規則44条1項2号によれば、「二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査」が必要です。

このように、雇用時の健康診断と定期健康診断において、法令上の条文は異なりますが、実際の診察内容に関しては、両方で「二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査」と同様の項目が必要です。

労働安全衛生規則
(雇入時の健康診断)
第四十三条 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、三月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。
一 既往歴及び業務歴の調査
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力(千ヘルツ及び四千ヘルツの音に係る聴力をいう。次条第一項第三号において同じ。)の検査
四 胸部エックス線検査
五 血圧の測定
六 血色素量及び赤血球数の検査(次条第一項第六号において「貧血検査」という。)
七 血清グルタミックオキサロアセチックトランスアミナーゼ(GOT)、血清グルタミックピルビックトランスアミナーゼ(GPT)及びガンマ―グルタミルトランスペプチダーゼ(γ―GTP)の検査(次条第一項第七号において「肝機能検査」という。)
八 低比重リポ蛋たん白コレステロール(LDLコレステロール)、高比重リポ蛋たん白コレステロール(HDLコレステロール)及び血清トリグリセライドの量の検査(次条第一項第八号において「血中脂質検査」という。)
九 血糖検査
十 尿中の糖及び蛋たん白の有無の検査(次条第一項第十号において「尿検査」という。)
十一 心電図検査

(定期健康診断)
第四十四条 事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一 既往歴及び業務歴の調査
二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
三 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
四 胸部エックス線検査及び喀痰かくたん検査
五 血圧の測定
六 貧血検査
七 肝機能検査
八 血中脂質検査
九 血糖検査
十 尿検査
十一 心電図検査
2 第一項第三号、第四号、第六号から第九号まで及び第十一号に掲げる項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、省略することができる。
3 第一項の健康診断は、前条、第四十五条の二又は法第六十六条第二項前段の健康診断を受けた者(前条ただし書に規定する書面を提出した者を含む。)については、当該健康診断の実施の日から一年間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略して行うことができる。
4 第一項第三号に掲げる項目(聴力の検査に限る。)は、四十五歳未満の者(三十五歳及び四十歳の者を除く。)については、同項の規定にかかわらず、医師が適当と認める聴力(千ヘルツ又は四千ヘルツの音に係る聴力を除く。)の検査をもつて代えることができる。

e-Gov 労働安全衛生規則

雇入時健診と定期健診における「自覚症状」と「他覚症状」は違う

自覚症状と他覚症状について

一般的に、自覚症状は、通常、受診者自身が自覚している症状のことを指します。一方、他覚症状は診察による理学的所見のことで、視診、聴診、触診、打診などによって得られる情報です。

では、雇入時健診と定期健診の「二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 」ですが、労働安全衛生規則よりは、どちらも「二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 」の文言は同じです。

しかし、この「二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 」については通達があります。
通達においては、43条(雇入時健診)(青ハイライト)44条(定期健診)(緑ハイライト)の内容について、違いがあります。
では、その部分を見てみましょう。

「労働安全衛生規則の施行について」(昭和47年9月18日、基発第601号の1)
33 第四三条関係
(1) 本条は、常時使用する労働者を雇入れた際における適正配置、入職後の健康管理の基礎資料に資するための健康診断の実施を規定したもので、旧規則では、一定の規模または業務を対象としていたが、今回の改正によりその規模および業務のいかんを問わず雇入れた労働者を健康診断の対象とするものであること。
(2) 第一号の「既往歴」については、雇入れの際までにかかつた疾病を、経時的に調査すること。
(3) 第一号の「業務歴」については、雇入れの際までにおいて従事したことのある主要な業務についての経歴を調査するものとすること。
(4) 第二号の検査には、当該労働者が就業を予定される業務に応じて必要とする身体特性を把握するための感覚器、循環器、呼吸器、消化器、神経系、皮膚および運動機能の検査が含まれ、その検査項目の選定は当該労働者の性、年齢、既往歴、問視診等を通じての所見などもあわせて医師の判断にゆだねられるものであること。

34 第四四条関係
(1) 第一号の「既往歴」または「業務歴」は、直近に実施した健康診断以降のものをいうこと。
(2) 第二号は、第一三条第一項第二号に掲げる業務に従事する受診者については、その者の業務の種類、性別、年齢等に応じ必要な内容にわたる検査を加えるものとすること。
(3) 第二号の検査のうち、「自覚症状」に関するものについては、最近において受診者本人が自覚する事項を中心に聴取することとし、この際本人の業務に関連が強いと医学的に想定されるものをあわせて行なうものとすること。
(4) 第二号の検査のうち、「他覚症状」に関するものについては、受診者本人の訴えおよび問視診に基づき異常の疑いのある事項を中心として医師の判断により検査項目を選定して行なうこと。なお、この際医師が本人の業務に関連が強いと判断した事項をあわせ行なうものとすること。
(5) 第二項は、定期健康診断において労働省告示で定める項目省略基準に基づき医師が必要でないと認める項目を省略することができる旨を規定したもので、その省略することができる項目は、それぞれの号単位のものをいうものでなく、号の中の個々の項目をいうものであること。

厚生労働省:「労働安全衛生規則の施行について」(昭和47年9月18日、基発第601号の1)

このように違います。抜粋してみましょう。

「二 自覚症状及び他覚症状の有無の検査 」(第二号の検査)
雇入健診
第二号の検査には、当該労働者が就業を予定される業務に応じて必要とする身体特性を把握するための感覚器、循環器、呼吸器、消化器、神経系、皮膚および運動機能の検査が含まれ、その検査項目の選定は当該労働者の性、年齢、既往歴、問視診等を通じての所見などもあわせて医師の判断にゆだねられるものであること。

定期健診
3) 第二号の検査のうち、「自覚症状」に関するものについては、最近において受診者本人が自覚する事項を中心に聴取することとし、この際本人の業務に関連が強いと医学的に想定されるものをあわせて行なうものとすること。
(4) 第二号の検査のうち、「他覚症状」に関するものについては、受診者本人の訴えおよび問視診に基づき異常の疑いのある事項を中心として医師の判断により検査項目を選定して行なうこと。なお、この際医師が本人の業務に関連が強いと判断した事項をあわせ行なうものとすること。

雇入時健診における自覚症状と他覚症状

労働安全衛生規則43条1項2号の検査、つまり「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」については、自覚症状も他覚症状のまとめて以下のように記載されています。

当該労働者が就業を予定される業務に応じて必要とする身体特性を把握するための感覚器、循環器、呼吸器、消化器、神経系、皮膚および運動機能の検査が含まれ、その検査項目の選定は当該労働者の性、年齢、既往歴、問視診等を通じての所見などもあわせて医師の判断にゆだねられるものであること。

定期健診における自覚症状と他覚症状

労働安全衛生規則44条1項2号の検査、つまり「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」については、自覚症状と他覚症状で違う説明があります。

定期健康診断における「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」
「自覚症状」
最近において受診者本人が自覚する事項を中心に聴取することとし、この際本人の業務に関連が強いと医学的に想定されるものをあわせて行なうものとすること。

「他覚症状」
受診者本人の訴えおよび問視診に基づき異常の疑いのある事項を中心として医師の判断により検査項目を選定して行なうこと。なお、この際医師が本人の業務に関連が強いと判断した事項をあわせ行なうものとすること。

 労働安全衛生法の一般健診において診察する医師が知っておくべき事項

診察を行う医師は労働者の「業務」について知っておかなければならない

雇用時の健康診断においては、当然ながら「就業を予定される業務」に応じた診察が必要です。定期健康診断においては、「本人の業務に関連が強いと医学的に想定されるものを併せて行う」とされています。

この文言からは、診察を行う医師が「業務」についてよく知っている必要があると解釈されます。

診察の事項は詳しく決まっていない

結局のところ、法令や通達には医師が具体的にどのような診察を行うかについて記載されていないことが分かります。
そのため、医師は自身の判断に基づいて、どの検査を行うかを決定しなければなりません。


まとめ

雇入時健診において
「自覚症状及び他覚症状の有無の検査 」(安衛規則1項2号)については「当該労働者が就業を予定される業務に応じて必要とする身体特性を把握するための感覚器、循環器、呼吸器、消化器、神経系、皮膚および運動機能の検査が含まれ、その検査項目の選定は当該労働者の性、年齢、既往歴、問視診等を通じての所見などもあわせて医師の判断にゆだねられるものであること。」
これを行うためには、「就業を予定される業務」を医師が知っておくべきということになります。

定期健康診断において
「自覚症状」(安衛規則44条1項2号)に関するものについては、最近において受診者本人が自覚する事項を中心に聴取することとし、この際本人の業務に関連が強いと医学的に想定されるものをあわせて行なうものとすること。
「他覚症状」(安衛規則44条1項2号) に関するものについては、受診者本人の訴えおよび問視診に基づき異常の疑いのある事項を中心として医師の判断により検査項目を選定して行なうこと。なお、この際医師が本人の業務に関連が強いと判断した事項をあわせ行なうものとすること。
医師が問視診による異常の疑いがあると思った事項について、医師が検査項目を決めないといけないということになります。

指針上は、雇い入れ健診と、定期健診においては「自覚症状及び他覚症状 」の内容が少し違うことを知っておきましょう。

健康診断はの目的は、就業上の措置ですので、業務を意識するのは当然かと思われます。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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