2023/05/14 2023/05/14
【産業医・人事労務担当者向け】じん肺健診を行うべき対象者と事業者が注意すべき点について解説
じん肺健診については、ほとんどの事業所が医療機関に依頼することになると思われます。受託した医療機関は、じん肺法に基づく法令通りの健康診断を行います。実際、受託した医療機関がしっかりしている場合、事業所は健康診断の詳細について深く知らなくても、きちんとしたアドバイスを得ることができ、法令を守ることができます。
しかしながら、受託した医療機関が関与しない部分があります。それは、受診者の範囲です。通常、医療機関は「じん肺健診〇人」といった形で受託するため、人数が正しいかどうかは確認しません。つまり、現場をよく知る事業所は、きちんと人数を把握する必要があります。
今回は、健診を受けるべき労働者の範囲についてお話します。
じん肺健診を行うべき対象者について
じん肺法によるじん肺健診を行うべき労働者と「粉じん作業」の定義
まず、法令を確認すると、じん肺法には就業時健康診断(7条)、定期健康診断(8条)、定期外健康診断(9条)、離職時健康診断(9条の2)の規定があります。
就業時健康診断(7条)、定期健康診断(8条)、定期外健康診断(9条)の規定を確認すると、「常時粉じん作業に従事する」というキーワードが、じん肺健診を受ける対象として非常に重要な用語であることがわかります。
じん肺健診は、1~3回に分かれますが、こちらについては別記事をご参照ください。
じん肺法 第一節 じん肺健康診断の実施
(就業時健康診断)
第七条 事業者は、新たに常時粉じん作業に従事することとなつた労働者(当該作業に従事することとなつた日前一年以内にじん肺健康診断を受けて、じん肺管理区分が管理二又は管理三イと決定された労働者その他厚生労働省令で定める労働者を除く。)に対して、その就業の際、じん肺健康診断を行わなければならない。この場合において、当該じん肺健康診断は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を省略することができる。
(定期健康診断)
第八条 事業者は、次の各号に掲げる労働者に対して、それぞれ当該各号に掲げる期間以内ごとに一回、定期的に、じん肺健康診断を行わなければならない。
一 常時粉じん作業に従事する労働者(次号に掲げる者を除く。) 三年
二 常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理二又は管理三であるもの 一年
三 常時粉じん作業に従事させたことのある労働者で、現に粉じん作業以外の作業に常時従事しているもののうち、じん肺管理区分が管理二である労働者(厚生労働省令で定める労働者を除く。) 三年
四 常時粉じん作業に従事させたことのある労働者で、現に粉じん作業以外の作業に常時従事しているもののうち、じん肺管理区分が管理三である労働者(厚生労働省令で定める労働者を除く。) 一年
2 前条後段の規定は、前項の規定によるじん肺健康診断を行う場合に準用する。
(定期外健康診断)
第九条 事業者は、次の各号の場合には、当該労働者に対して、遅滞なく、じん肺健康診断を行わなければならない。
一 常時粉じん作業に従事する労働者(じん肺管理区分が管理二、管理三又は管理四と決定された労働者を除く。)が、労働安全衛生法第六十六条第一項又は第二項の健康診断において、じん肺の所見があり、又はじん肺にかかつている疑いがあると診断されたとき。
二 合併症により一年を超えて療養のため休業した労働者が、医師により療養のため休業を要しなくなつたと診断されたとき。
三 前二号に掲げる場合のほか、厚生労働省令で定めるとき。
2 第七条後段の規定は、前項の規定によるじん肺健康診断を行う場合に準用する。
(離職時健康診断)
第九条の二 事業者は、次の各号に掲げる労働者で、離職の日まで引き続き厚生労働省令で定める期間を超えて使用していたものが、当該離職の際にじん肺健康診断を行うように求めたときは、当該労働者に対して、じん肺健康診断を行わなければならない。ただし、当該労働者が直前にじん肺健康診断を受けた日から当該離職の日までの期間が、次の各号に掲げる労働者ごとに、それぞれ当該各号に掲げる期間に満たないときは、この限りでない。
一 常時粉じん作業に従事する労働者(次号に掲げる者を除く。) 一年六月
二 常時粉じん作業に従事する労働者でじん肺管理区分が管理二又は管理三であるもの 六月
三 常時粉じん作業に従事させたことのある労働者で、現に粉じん作業以外の作業に常時従事しているもののうち、じん肺管理区分が管理二又は管理三である労働者(厚生労働省令で定める労働者を除く。) 六月
2 第七条後段の規定は、前項の規定によるじん肺健康診断を行う場合に準用する。
そして、「粉じん作業」については以下に定義があります。
さらに、じん肺法2条3項に「粉じん作業の範囲は、厚生労働省令で定める」と記載されています。
じん肺法(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 じん肺 粉じんを吸入することによつて肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病をいう。
二 合併症 じん肺と合併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病をいう。
三 粉じん作業 当該作業に従事する労働者がじん肺にかかるおそれがあると認められる作業をいう。
四 労働者 労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者(同居の親族のみを使用する事業又は事務所に使用される者及び家事使用人を除く。)をいう。
五 事業者 労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第二条第三号に規定する事業者で、粉じん作業を行う事業に係るものをいう。
2 合併症の範囲については、厚生労働省令で定める。
3 粉じん作業の範囲は、厚生労働省令で定める。
e-Gov じん肺法
粉じん作業に該当する範囲を定める厚生労働省令については、じん肺法施行規則別表第1に「粉じん作業」の定義があります。
この規定に該当する業務に従事する労働者が、粉じん健診の対象となります。
事業所がこのような業務を行っているかどうか、再度確認しましょう。
じん肺法施行規則
別表第一(第二条、第三条関係)
一 鉱物等(湿潤な土石を除く。)を掘削する場所における作業(次号に掲げる作業を除く。)。ただし、次に掲げる作業を除く。
イ 坑外の、鉱物等を湿式により試錐すいする場所における作業
ロ 屋外の、鉱物等を動力又は発破によらないで掘削する場所における作業
一の二 ずい道等の内部の、ずい道等の建設の作業のうち、鉱物等を掘削する場所における作業
二 鉱物等(湿潤なものを除く。)を積載した車の荷台を覆し、又は傾けることにより鉱物等(湿潤なものを除く。)を積み卸す場所における作業(次号、第三号の二、第九号又は第十八号に掲げる作業を除く。)
三 坑内の、鉱物等を破砕し、粉砕し、ふるい分け、積み込み、又は積み卸す場所における作業(次号に掲げる作業を除く。)。ただし、次に掲げる作業を除く。
イ 湿潤な鉱物等を積み込み、又は積み卸す場所における作業
ロ 水の中で破砕し、粉砕し、又はふるい分ける場所における作業
三の二 ずい道等の内部の、ずい道等の建設の作業のうち、鉱物等を積み込み、又は積み卸す場所における作業
四 坑内において鉱物等(湿潤なものを除く。)を運搬する作業。ただし、鉱物等を積載した車を牽けん引する機関車を運転する作業を除く。
五 坑内の、鉱物等(湿潤なものを除く。)を充てんし、又は岩粉を散布する場所における作業(次号に掲げる作業を除く。)
五の二 ずい道等の内部の、ずい道等の建設の作業のうち、コンクリート等を吹き付ける場所における作業
五の三 坑内であつて、第一号から第三号の二まで又は前二号に規定する場所に近接する場所において、粉じんが付着し、又は堆積した機械設備又は電気設備を移設し、撤去し、点検し、又は補修する作業
六 岩石又は鉱物を裁断し、彫り、又は仕上げする場所における作業(第十三号に掲げる作業を除く。)。ただし、火炎を用いて裁断し、又は仕上げする場所における作業を除く。
七 研磨材の吹き付けにより研磨し、又は研磨材を用いて動力により、岩石、鉱物若しくは金属を研磨し、若しくはばり取りし、若しくは金属を裁断する場所における作業(前号に掲げる作業を除く。)
八 鉱物等、炭素原料又はアルミニウムはくを動力により破砕し、粉砕し、又はふるい分ける場所における作業(第三号、第十五号又は第十九号に掲げる作業を除く。)。ただし、水又は油の中で動力により破砕し、粉砕し、又はふるい分ける場所における作業を除く。
九 セメント、フライアッシュ又は粉状の鉱石、炭素原料若しくは炭素製品を乾燥し、袋詰めし、積み込み、又は積み卸す場所における作業(第三号、第三号の二、第十六号又は第十八号に掲げる作業を除く。)
十 粉状のアルミニウム又は酸化チタンを袋詰めする場所における作業
十一 粉状の鉱石又は炭素原料を原料又は材料として使用する物を製造し、又は加工する工程において、粉状の鉱石、炭素原料又はこれらを含む物を混合し、混入し、又は散布する場所における作業(次号から第十四号までに掲げる作業を除く。)
十二 ガラス又はほうろうを製造する工程において、原料を混合する場所における作業又は原料若しくは調合物を溶解炉に投げ入れる作業。ただし、水の中で原料を混合する場所における作業を除く。
十三 陶磁器、耐火物、けい藻土製品又は研磨材を製造する工程において、原料を混合し、若しくは成形し、原料若しくは半製品を乾燥し、半製品を台車に積み込み、若しくは半製品若しくは製品を台車から積み卸し、仕上げし、若しくは荷造りする場所における作業又は窯の内部に立ち入る作業。ただし、次に掲げる作業を除く。
イ 陶磁器を製造する工程において、原料を流し込み成形し、半製品を生仕上げし、又は製品を荷造りする場所における作業
ロ 水の中で原料を混合する場所における作業
十四 炭素製品を製造する工程において、炭素原料を混合し、若しくは成形し、半製品を炉詰めし、又は半製品若しくは製品を炉出しし、若しくは仕上げする場所における作業。ただし、水の中で原料を混合する場所における作業を除く。
十五 砂型を用いて鋳物を製造する工程において、砂型を造型し、砂型を壊し、砂落としし、砂を再生し、砂を混練し、又は鋳ばり等を削り取る場所における作業(第七号に掲げる作業を除く。)。ただし、水の中で砂を再生する場所における作業を除く。
十六 鉱物等(湿潤なものを除く。)を運搬する船舶の船倉内で鉱物等(湿潤なものを除く。)をかき落とし、若しくはかき集める作業又はこれらの作業に伴い清掃を行う作業(水洗する等粉じんの飛散しない方法によつて行うものを除く。)
十七 金属その他無機物を製錬し、又は溶融する工程において、土石又は鉱物を開放炉に投げ入れ、焼結し、湯出しし、又は鋳込みする場所における作業。ただし、転炉から湯出しし、又は金型に鋳込みする場所における作業を除く。
十八 粉状の鉱物を燃焼する工程又は金属その他無機物を製錬し、若しくは溶融する工程において、炉、煙道、煙突等に付着し、若しくは堆積した鉱さい又は灰をかき落とし、かき集め、積み込み、積み卸し、又は容器に入れる場所における作業
十九 耐火物を用いて窯、炉等を築造し、若しくは修理し、又は耐火物を用いた窯、炉等を解体し、若しくは破砕する作業
二十 屋内、坑内又はタンク、船舶、管、車両等の内部において、金属を溶断し、又はアークを用いてガウジングする作業
二十の二 金属をアーク溶接する作業
二十一 金属を溶射する場所における作業
二十二 染土の付着した藺い草を庫くら入れし、庫くら出しし、選別調整し、又は製織する場所における作業
二十三 長大ずい道(じん肺法施行規則(昭和三十五年労働省令第六号)別表第二十三号の長大ずい道をいう。別表第三第十七号において同じ。)の内部の、ホッパー車からバラストを取り卸し、又はマルチプルタイタンパーにより道床を突き固める場所における作業
事業者が注意すべき点
このじん肺作業の規定については注意すべき点があります。
①場所における業務
例として、粉じん作業(1号)を見ましょう。ここでは、「場所における作業」というキーワードが出ています。
粉じん作業は実際に掘削する者だけでなく、その場所で作業をしている者を含みますので注意しましょう。
一 鉱物等(湿潤な土石を除く。)を掘削する場所における作業(次号に掲げる作業を除く。)。ただし、次に掲げる作業を除く。
イ 坑外の、鉱物等を湿式により試錐すいする場所における作業
ロ 屋外の、鉱物等を動力又は発破によらないで掘削する場所における作業
②アーク溶接は屋内、屋外を問わない
金属をアーク溶接する作業については、屋内、屋外を問わないので注意しましょう。
二十の二 金属をアーク溶接する作業
まとめ
粉じん作業について法令から説明いたしました。粉じん作業とは、じん肺法施行規則別表1によって定められています。
健康診断を受託する医療機関は、健康診断において、本来対象となるべきじん肺健診を行っていない者が、事業所内にいるかどうかは把握できません。
粉じん作業は多くの場合、「場所における作業」という定義で規定されています。
したがって、場所における作業を行っているにもかかわらず、対象としていない者がいないか再度確認する必要があります。
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