事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【産業医・人事労務担当者向け】会社による従業員への受診命令・診断書提出は就業規則への記載が必要です。

このようなことはないでしょうか。

  • 従業員の欠勤が続いているので、会社は病院の受診をお勧めした。しかし、受診した気配がなく、欠勤が続いているので受診するように業務命令を行ったが、本人は受診しなかった。
  • 1年ほど休職していた従業員が復職可能の診断書を会社に提出し産業医面談を行ったが、病状の詳細がわからなかった。そこで具体的な項目について診断書を発行してもらうように本人に伝えたが、拒否された。
  • 治療と仕事の両立支援において、主治医の業務に対する意見(診療情報提供書)を得ようとしたが、現在通院していないので主治医の意見が出せないと言われた、または意見(診療情報提供書)の提出を本人が断った。

上記の場面は、従業員が会社の受診命令や診断書提出命令に抵抗する場面ですね。
しかし、そもそも、会社は受診命令を出したり、診断書の提出を義務付けることができるのでしょうか。
今回はそんな話題についてお話しします。


会社による従業員への受診命令・診断書提出は就業規則への記載が必要です。

就業規則の規定内容は合理的なものである限りにおいて労働契約の内容となる

前述のような場合、従業員自身が受診を拒否したり、診断書を提出しなかったりすることがあります。
医療機関の受診や診断書の提出に関しては、労働契約や就業規則などに定めがない場合、原則として従業員に提出義務はありません。

一般的に、医療機関の受診命令や診断書提出命令は、就業規則に明記されていることが多いと思われます。

まず、就業規則の効力について、秋北バス事件においては、就業規則が労働者に対し、一定事項について使用者の業務命令に服すべき旨を定めているときには、そのような就業規則の規定内容が合理的なものである限りにおいて法的規範としての性質を認められるに至っていると判示しています。

裁判要旨 
 一、使用者が、あらたな就業規則の作成または変更によつて、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されないと解すべきである。
二、従来停年制のなかつた主任以上の職にある被用者に対して、使用者会社がその就業規則であらたに五五歳の停年制を定めた場合において、同会社の般職種の被用者の停年が五〇歳と定められており、また、右改正にかかる規則条項において、被解雇者に対する再雇用の特則が設けられ、同条項を一律に適用することによつて生ずる苛酷な結果を緩和する途が講ぜられている等判示の事情があるときは、右改正条項は、同条項の改正後ただちにその適用によつて解雇されることに上なる被用者に対しても、その同意の有無にかかわらず、効力を有するものと解すべきである。
三、就業規則は、当該事業場内での社会的規範であるだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、法的規範としての性質を認められるに至つているものと解すべきである。

引用元:秋北バス事件 判例

なお、就業規則の他にも労働条件を決定する要素があります。

会社による従業員への受診命令・診断書提出は就業規則への記載が必要です

前述のより、就業規則などに内容が記載されており、その規定内容が合理的である限り、法的規範としての性質を認められるとされています。そのため、健康管理上の措置が必要であると認められる職員に対して受診を命ずる業務命令を発することは、適法でしょうか?
この点については、以下に示す判例によって状況に応じて適法と認められています。

 裁判要旨 

日本電信電話公社(昭和五九年法律第八五号日本電信電話株式会社法附則一一条による廃止前の日本電信電話公社法に基づき設立されたもの)が健康管理上の措置が必要であると認められる職員に対し二週間の入院を要する頸肩腕症候群総合精密検診の受診を命ずる業務命令を発した場合において、右職員に労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があり、右検診が疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性を有するなど判示の事情があるときは、右業務命令は有効であり、これに違反したことを理由とする戒告処分は適法である。

引用元:電電公社帯広局事件 最一小判昭61.3.13

労働規約上の義務ということで、やはり就業規則等に規定があることが必要です。
また、「合理性ないし相当性」というのもポイントですね。
以下、まとめます。

従業員に
①労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従事者の指示に従う義務があり

②右検診が疾病の治癒回復という目的との関係で合理性ないし相当性を有するなど判示の事情があるときは
業務命令は有効であるとされています。

就業規則や労働契約に定めがない場合、受診命令の拒否や診断書の提出命令の拒否などの問題が生じる可能性があります。
適切に診断書の提出義務や意見書依頼書の提出要件、産業医との面談義務などを明示する必要があります。

受診命令に関する判例としては、高裁の判例がありますが、以下に示します。
こちらでも、就業規則の記載が争点になっています。
この判例では、就業規則等に定めがないとしても、事情によっては労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であり、指定医の受診を指示することができると判示しています。

東京高裁昭和五九年(行コ)第七四号、六一・一一・一三判決
(抜粋)
被控訴人は、旧会社の就業規則等に指定医の受診に関する定めはなく、労働者の基本的人権及び医師選択の自由の面からもX1には指定医受診の指示に従うべき義務はないと主張し、旧会社の就業規則等に指定医受診に関する定めのないことは控訴人の認めるところである。しかしながら、旧会社としては、従業員たるX1の疾病が業務に起因するものであるか否かは同人の以後の処遇に直接に影響するなど極めて重要な関心事であり、しかも、X1が当初提出した診断書を作成したZ2医師から、X1の疾病は業務に起因するものではないとの説明があったりなどしたことは前述したところである。かような事情がある場合に旧会社がX1に対し改めて専門医の診断を受けるように求めることは、労使間における信義則ないし公平の観念に照らし合理的かつ相当な理由のある措置であるから、就業規則等にその定めがないとしても指定医の受診を指示することができ、X1はこれに応ずる義務があるものと解すべきである。もっとも、X1において右指定医三名の人選に不服があるときは、その変更等について会社側と交渉する余地があることは、会社側において指定医・診察についてX1の希望をできるだけ容れると言明しているところからすると明らかであり、しかも指定医の診断結果に不満があるときは、別途自ら選択した医師による診断を受けこれを争い得ることは事理の当然であるので、前記の義務を肯定したからといって、直ちに同人個人の有する基本的人権ないし医師選択の自由を侵害することになるとはいえない(労働安全衛生法六六条五項但し書は、法定健診の場合を対象とする規定であって、本件におけるような法定外健診についてはその適用ないし類推適用の余地はないものと解する。)。しかるに、X1がその挙に出ることもなく、単に就業規則等にその定めがないことを理由として受診に関する指示を拒否し続けたことは許されないところであり、以上のような事情のもとで旧会社においてX1の休職期間満了の時点で同人疾病が業務に起因するものとは認めず、復職の望みがないと判断したのはやむを得ないものというべきである。
(中略)
3 旧会社のX1に対する受診指示は法定外健診であり、就業規則等にもその旨の規定は一切存在せず旧会社には受診を指示する権限はないから、X1が右受診指示に服すべき義務はない。また、労働安全衛生法六六条五項但し書の趣旨からすれば、X1には医師選択の自由が認められ、これに反する受診指示は同人を拘束するものではない。

引用元: 京セラ(旧サイバネット工業)事件(厚生労働省HPより)



 具体的な就業規則への記載について

前述のように、就業規則への適切な記載が必要であることが分かりましたが、具体的にはどのような項目を記載すれば良いでしょうか。
私の場合、以下のような項目を記載することが多いです。
内容については、合理性ないし相当性がなければなりません。
当然、就業規則の変更なので、労働者の意見を聴く等の適正な手続くを経なければなりません。

  • 従業員の診断書提出義務について
  • 意見書依頼書を求めることがある旨について
  • 産業医への面談義務があることについて
  • 状況により受診命令を行うことがあることについて

以下は、例です。
就業規則の作成は、社会保険労務士と相談しながら作成しましょう。

①会社が・・・・・に該当すると思料した場合、会社が指定する医師の受診を命じ、医師の診断書を求める事ができる。
②従業員に・・・・・事由が認められる場合、休職の必要性を判断をするために、会社は従業員に医師の受診、及び診断書の提出を適時命じることができる。また、診断書に記された就業禁止期間満了の都度再提出させることができる。

診断書取得時の費用についての記載も考慮しておきましょう。

受診や診断書提出の勧奨 (あくまでお願いの範囲)


会社が従業員に任意で協力を求める形で受診を勧奨したり、診断書の提出を求めたりすることは問題ありません。
厚生労働省の指針に従った手続きに沿って協力を求めることが望ましいです。

 まとめ

従業員への受診命令や診断書提出命令などについて、判例から解説いたしました。
会社が従業員に対して受診命令や診断書提出命令を指示する場合は、就業規則等にその内容を明記する必要があります。
ただし、就業規則等への記載内容は合理的であり相当性がある必要があります。

産業医は、これらの就業規則の範囲内で診断書の提出や受診の勧奨などを行う必要があります。
そのため、就業規則を読み込み、理解する能力が必要です。


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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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