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【心理学】利用可能性ヒューリスティックの意思決定への影響と回避する方法について解説

皆様は、「利用可能性ヒューリスティック」(availability heuristic)という言葉をご存じでしょうか。利用可能性ヒューリスティックとは、何かの決定をする際に、思い浮かびやすく簡単に思いつく情報を使用する傾向を指します。この利用可能性ヒューリスティックは、理論や存在を知っていても避けるのは難しいですが、何も考えないのはまずいです。今回は、利用可能性ヒューリスティックについてお話します。

利用可能性ヒューリスティックの意思決定への影響と回避する方法について解説

利用可能性ヒューリスティックとはなにか?

まず、重要な概念ですが、ヒューリスティック(heuristic)とは、蓄えた経験的な知識によって、幾つかの選択肢の中から最適なものを選択する手法です。
そして、前述のように利用可能性ヒューリスティックとは、何かの決定をする際に、思い浮かびやすく簡単に思いつく情報を使用する傾向を指します。1970年台にAmos TverskyとDaniel Kahnemanが最初に提唱しました。
「思い浮かびやすい」、「簡単に思いつく」というのがポイントです。人はこのような情報に偏ってしまうのです。
以下に、利用可能性ヒューリスティックの例を示します。

  • 宝くじに当たった人の話を聞いて、自分も当たるのではと宝くじを購入する。
    →実際には、当たる可能性はかなり低い。
  • ある、真面目で能力の高い人を昇進させるか悩んだとき、5年前に一度の大きな失敗があったので昇進させなかった。
    →一度の失敗が印象に残っている。
  • バスの大きな交通事故のニュースを見て、バスに乗るのをやめようと思う。
    →バスで事故は起こるが、一定の確率で事故が起きており、基本的に事故の発生率は低い。

このように、人は「思い浮かびやすい」「簡単に思いつく」情報をもとに判断する傾向があります。

そして、この利用可能性ヒューリスティックは、思い出しやすい記憶に基づいて意思決定を行う、または情報不足の状況で意思決定を行うために誤った判断につながる可能性があります。

しかし、そもそもヒューリスティック(利用可能性がついていない)は必ずしも問題となるものではありません。個人が選択を迫られる状況では、詳細な調査や情報収集に時間がかかることが多いからです。現代では、迅速な決定が求められる場面が多くありますが、そのような状況ではヒューリスティックにより迅速に結論を導き出す必要があるかもしれません。情報がないからと言って、迅速に意思決定をしないことが、かえって問題となる可能性もあります。

一概に、ヒューリスティックを悪だと決めるのはまずいですね。
「思い浮かびやすい」「簡単に思いつく」情報をもとに判断する傾向が問題なのです。
意思決定の速さをとるか、質をとるかですが、バランスは大切ですね。


利用可能性ヒューリスティックから生じる問題を回避するには?

さて、利用可能性ヒューリスティックは誤った意思決定につながるということがわかりましたが、どのように、利用可能性ヒューリスティックから生じる問題を回避すればいいでしょうか。

1.情報を多角的に集めましょう。

前述の通り、利用可能性ヒューリスティックは「思い浮かびやすい」「簡単に思いつく」情報に基づく傾向があります。
利用可能性ヒューリスティックを回避するためには、情報を客観的に大量に収集することが重要です。
異なる情報源や視点から情報を集め、バランスの取れた判断を下すことに努めましょう。
デメリットとしては、時間がかかることが挙げられます。
常に自分の判断が偏っていないかに注意しましょう。

2.可能性を正確に把握しましょう。

利用可能性ヒューリスティックは、「思い浮かびやすい」、「簡単に思いつく」情報に基づくため、客観的な統計データを考慮せずに判断を下す傾向があります。客観的に可能性を数値化し、判断の材料とすることで、利用可能性ヒューリスティックをできる限り避けましょう。
それでも、可能性は100%、または0%にはならないので、第2、第3の選択肢も無視してはなりません。

3.自分のバイアスに気づきましょう。

これは、利用可能性ヒューリスティックだけの話ではないのですが、自身の思考や判断に対するバイアスや傾向に気づくように心がけましょう。一般的にカウンセラーは自身の偏りに気づくことが得意です。
自身の判断に、利用可能性ヒューリスティックによるバイアスが生じる可能性がある場合は、注意深く判断するようにしましょう。
また、判断が感情に基づくものであれば、客観的なデータに基づかないかもしれないので注意しましょう。
このブログでは、他の思い込みの原因となるバイアスについてお話していきたいと思います。

4.多角的にいろいろな人の意見を聴きましょう

 単独での判断ではなく、他の人の意見や視点を聞くことも重要です。同調理論における「同調」と利用可能性ヒューリスティックは併発します。自分と違う意見を聴くように心がけ、尊重しましょう。
集団の場合は、第三者委員会のような専門機関を設置して、そちらで意見をアウトプットしてもらうのも一つの方法です。



System 1思考とSystem2思考について

Daniel Kahnemanの著書「ファスト&スロー」は有名ですね。
System 1思考とSystem2思考についての本です。
このブログでは、System 1思考とSystem2思考を、それぞれシステム1思考、システム2思考と呼ぶことにします。
人間の思考の過程には、システム1思考とシステム2思考の2つの側面があります。

  • システム1思考は速く自動的な思考です。
  • システム2思考は論理的で注意深く、時間をかけて意思決定を行います。

システム1思考は、高速で自動的に思考する際に利用可能性ヒューリスティックにより、思い浮かびやすい情報を優先的に考慮します。このため、利用可能性ヒューリスティックはシステム1思考に影響を与え、バイアスや誤った意思決定につながる可能性があります。利用可能性ヒューリスティックに対処するためには、システム2の思考を重視することが重要です。
こちらはまた別記事といたします。

 利用可能ヒューリスティックとマーケティング

利用可能性ヒューリスティックの理論は、マーケティングにおいても応用されています。
製品やサービスを効果的に宣伝して、消費者に購買行動を促すために、利用可能性ヒューリスティックが利用されています。
人が、何かを買おうと思った際に思い浮かびやすく、簡単に思いつく広告があると、利用可能性ヒューリスティックが発動し、思い浮かんだ広告の商品を購買するかもしれません。

 利用可能性ヒューリスティックの産業保健・キャリア分野への影響

人生の重要な決断において、利用可能性ヒューリスティックは頻繁に発現し、従業員の意思決定に影響を及ぼします。
従業員や会社の過去の成功体験は、自己効力感を高め、将来に向かって同じ方向性に進むことで再び成功する可能性が高いと感じるかもしれません。
しかし、時代の変化が激しい現代社会において、自己効力感が高いとはいえ、過去と同じやり方が成功するとは限りません。

また、キャリアの選択肢が多岐にわたり、従業員に裁量がある場合、利用可能性ヒューリスティックはキャリア選択の意思決定に影響を与える可能性があります。
利用可能性ヒューリスティックにより、判断を誤る可能性があります。

前述の、真面目で能力の高い人を昇進させるか悩んだとき、5年前に一度の大きな失敗があったので昇進させなかった例で言いますと、会社の最善の選択がその人を昇進させるべきであったにも関わらず、その機会を逃したことになります。

メンタルヘルス不調との前情報で産業医が面談した結果、現在の職場の状況について、利用可能性ヒューリスティックにより、この先、将来性がなく自分のキャリアもどうしょうもなくなってしまうと思い込んでいるといった事案もあるかもしれません。

キャリアカウンセリングや産業医面談で面談者の思い込みの部分に介入する際に、利用可能性ヒューリスティックの発現の可能性がないかは考えておきましょう。

 まとめ

ヒューリスティック(heuristic)は、経験的な知識に基づいて最適な選択肢を見つける手法です。
このヒューリスティック自体は必要なものです。
利用可能性ヒューリスティックとは、何かの決定をする際に思い浮かびやすく、簡単に思いつく情報を使用する傾向を指します。
重要なポイントは「思い浮かびやすい」や「簡単に思いつく」ことです。人々はこのような情報に偏る傾向があります。

利用可能性ヒューリスティックを完全に排除することは難しいですが、情報を多角的に収集し、可能性を正確に把握し、自分の判断プロセスの偏りに気をつけながら、異なる意見を聴くよう心がけましょう。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務を行っております。

メンタルヘルス不調に関する難しい案件にも対応いたします。社労士ですので、就業規則や社会保障も含めた労務管理を考慮した対応を行い、また、主治医との診療情報提供依頼書のやり取りを通じて、従業員の復職支援、両立支援を行うことを得意としています。

行政書士事務所として、休職発令の書面や、休職期間満了通知書、お知らせ等の書面の作成も行います。

メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務は、原則として、顧問医・産業医としての契約になります。
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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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