2023/07/19 2023/07/20
【まとめ】人が陥りやすい思い込み、認知バイアスへの産業保健現場での対応について
認知バイアス(cognitive bias)という言葉はご存知でしょうか。これは、人が情報を収集、処理、解釈する過程において生じる誤りであり、意思決定や判断に影響を与えるものです。この認知バイアスは、情報処理を簡略化しようとする際に生じるものであり、情報処理の効率を高める反面、誤った判断を引き起こし、悪い結果につながることもあります。
産業保健現場でも、認知バイアスによってさまざまな問題が発生しています。しかし、さまざまな問題は産業保健現場に限らず、個人や集団、経済、ビジネスなど、さまざまな場面の意思決定に影響を及ぼします。
今回は、これらの類型化されたバイアスについてまとめた記事です。
バイアスに産業保健現場においてどのように介入するべきか
まず、バイアスを知らなければなりません。まだ、記事としては十分な数ではありませんが、今まで記事としてご紹介してきた、認知バイアスについてまとめました。
認知バイアスは、人が意思決定を行う際に、よくおこる思考の偏りになります。意思決定がきちんとできなければ、当然、誤った意思決定や判断につながります。
これらの認知バイアスが自分に存在することを知り、認知バイアスを避けることで、正しい意思決定を行えるかもしれません。
今回は、これらの認知バイアスを産業保健現場で応用する場合の話も記載いたしました
確証バイアスについて
確証バイアスとは、思考の偏りのことを指します。人間は利用可能な全ての事実を処理するには時間とエネルギーが必要なため、既存の意見や知識と最も一致する情報を選ぶ傾向があり、その結果、自分の意見や知識を補強する情報に目が行き、それ以外の情報を軽視してしまうことがあります。つまり、自分の既存の信念を支持する情報を積極的に探し出す傾向のことです。確証バイアスは、さまざまな場面で誤った意思決定につながる可能性があります。
産業現場においても確証バイアスはよく起こります。KY活動等において、今までの自分の経験を重視するあまり、イレギュラーな情報を軽視してしまうかもしれません。産業医も、調子の悪い従業員の状態をメンタルヘルスの事案とばかり考えず、キャリアの悩みであったり、金銭問題であったり、その他の問題があることも考え、確証バイアスにとらわれないようにしましょう。
サリエンス バイアスについて
サリエンスバイアスは、目立つ要素に注目し、目立たない要素を無視してしまう認知バイアスです。目立たない要素にも注意し、判断を誤らないようにしましょう。
例えば、産業保健においては、メンタルヘルス不調者が発生した場合、つい、当該メンタルヘルス不調者に注目してしまいます。
しかし、メンタルヘルス不調者に過度に注目してしまうと、本当のメンタルヘルス不調者発生の原因である組織や企業の中での目立たない問題が無視されがちになります。そしてその目立たない問題が大きな問題に発展していることに気づかないことがあります。
この組織における目立たない問題への介入は、システマティックアプローチにおいて重要です。
システマティックなアプローチでは、円環的因果律をうまく回すことが重要ですが、目立たない問題を無視すると、円環的因果律を認識することができず、うまく介入することができません。
また、実は目立たない問題が、円環的因果律発生の主な原因であった場合には、その目立たない問題への介入で円環的因果律を解除することができるかもしれません。
目立たない問題は、集団極化や組織内の同調によりさらに見えなくなってしまうかもしれません。
システマティックアプローチにおいて、サリエンスバイアスを克服することは重要です。
ネガティビティ バイアスについて
産業保健現場でカウンセリングを行っていると、クライエントが経験した特定の出来事がネガティビティ バイアスによって否定的な側面が強調され、クライエントが悩んでいると感じる場合があります。また、クライエントにとって情報が不足している場合にも、否定的な側面に意識が向かい、クライエントが悩んでしまうことがあります。クライエントの肯定的な側面の情報を整理して認識したり、客観的に否定的な経験を把握することは有益な手段です。
対応バイアスについて
対応バイアス(correspondence bias)とは個人を取り巻く状況を無視して、人の内的な特性、性格などに原因を求める心理的傾向のことであり、他人の行動を説明しようとする際に生じる一種のバイアスです。
どのように対応バイアスが起こるか、4つの原因について簡単に解説しました。
この4つ、認識の欠如、非現実的な期待、過大な分類、不完全な修正については知っておきましょう。
組織における問題が、この対応バイアスにより生じていることがあります。カウンセラーや産業医は、対応バイアスを考慮し、客観的な状況分析を行い、クライエント自身が自己決定できるように支援するとよいでしょう。
この対応バイアスによる思い込みで、組織内に円環的因果律が発生する可能性があります。ひょっとしたら、このような場合には、上司自身に問題があるのかもしれませんが、気付きを促す、又は認知の多様性を促すのは一つの方法です。
内的帰属と外的帰属、セルフサービングバイアスについて
内的帰属、外的帰属という概念についてご存じでしょうか。この概念は非常に重要です。
セルフサービングバイアスとは、ある個人において、うまくいったことは内的帰属とし、悪かったことは外的帰属とする傾向です。
セルフサービングバイアスにより、誤った意思決定が発生することはもちろん、自分自身の失敗を自身のミス(内的帰属)と関連付けない場合、私たちは失敗から学ぶことをせず、将来的に同じミスを犯してしまうでしょう。
このセルフサービングバイアスは、円環的因果律の発生の原因にもなります。
ヒューリスティックについて
ヒューリスティック(Heuristics)とは、複雑な状況に対処する際に、直感的な方法で迅速な判断を行うために用いられる心のプロセスです。ヒューリスティックは、詳しく分析したりすることなく、時間と労力を節約できるという利点がありますが、同時に認知バイアスを引き起こす可能性もあります。
利用可能性ヒューリスティック
利用可能性ヒューリスティックとは、何かの決定をする際に、思い浮かびやすく簡単に思いつく情報を使用する傾向を指します。
人生の重要な決断において、利用可能性ヒューリスティックは頻繁に発現し、従業員の意思決定に影響を及ぼします。従業員や会社の過去の成功体験は、自己効力感を高め、将来に向かって同じ方向性に進むことで再び成功する可能性が高いと感じるかもしれませんが、時代の変化が激しい現代社会において、自己効力感が高いとはいえ、過去と同じやり方が成功するとは限りません。
また、キャリアの選択肢が多岐にわたり、従業員に裁量がある場合、利用可能性ヒューリスティックはキャリア選択の意思決定に影響を与える可能性があります。
メンタルヘルス不調との前情報で産業医が面談した結果、現在の職場の状況について、利用可能性ヒューリスティックにより、この先、将来性がなく自分のキャリアもどうしょうもなくなってしまうと思い込んでいるといった事案もあるかもしれません。この場合、情報を多角的に集め、可能性を正確に把握することで、クライエントが元気に活躍できるようになるかもしれません。
代表性ヒューリスティック
代表性ヒューリスティックは、経験に基づいて判断するという点でよく利用されます。しかし、代表的・典型的な例に過度に頼るため、他の情報を考慮に入れることを怠ってしまい、失敗する可能性があります。
KY活動を実践されている方の多くは、過去の経験を大切にしながらKY活動を行うでしょう。しかし、その過去の経験に偏りすぎると、新たな状況を元にした危険を避けることができないかもしれません。
まとめ
まだまだ、さまざまな認知バイアスやヒューリスティックが存在します。皆さま自身が意思決定を行う際には、これらを認識し、避けることが重要です。
クライエント企業の従業員自身が、これらの認知バイアスやヒューリスティックにより誤った意思決定や判断を行う場合がありますが、認知バイアスの影響を理解することで解決の糸口が見つかることもあります。
システムズアプローチにおいては、これらの認知バイアスやヒューリスティックがどのように影響しているかを分析し、介入することが有効です。
円環的因果律の発生原因や円環的因果律をうまく利用するためにも、これらの知識は必須です。
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