事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

化学物質の管理を解説

2023/07/18 2023/07/19

【安全衛生】化学物質の自律的管理における職長教育と職長の役割についてわかりやすく解説

今回は産業医向けの記事になります。
産業医の皆様は「職長」という言葉を聞いたことがありますでしょうか。
実は、職長等への安全衛生教育は労働安全衛生法に規定されています。
あまり、産業医の業務になじみがないのですが、化学物質の自律的管理において「職長」が登場するので、今回は理解できるように簡単にわかりやすくまとめます。

産業医があまり知らない職長等の教育についてわかりやすく解説

 職長等とはなにか、その業務について法令より解説

職長教育、職長という言葉は、実は、労働安全衛生法60条に記載があります。
「職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)」という範囲の人ですね。
職長と「作業中の労働者を直接指導又は監督する者」をまとめて、職長等と呼ぶということです。
なお、明記されていますが、作業主任者は含まれていません。
職長の業務については、労働安全衛生法60条1項1号から3号に記載がありますが、3号が「厚生労働省令で定めるもの」となっています。
この「厚生労働省令で定めるもの」は労働安全衛生規則40条に記載があります。

第六十条 事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなつた職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
一 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。
二 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること。
三 前二号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な事項で、厚生労働省令で定めるもの

e-Gov 労働安全衛生法

以下が、労働安全衛生規則40条になります。

(職長等の教育)
第四十条 法第六十条第三号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 法第二十八条の二第一項又は第五十七条の三第一項及び第二項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。
二 異常時等における措置に関すること。
三 その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること。
2 法第六十条の安全又は衛生のための教育は、次の表の上欄に掲げる事項について、同表の下欄に掲げる時間以上行わなければならないものとする。

3 事業者は、前項の表の上欄に掲げる事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、当該事項に関する教育を省略することができる。

e-Gov 労働安全衛生規則

つまり、労働安全衛生法60条と労働安全衛生規則40条を合わせてまとめますと、職長の業務は以下になります。

  • 作業方法の決定及び労働者の配置に関すること。
  • 労働者に対する指導又は監督の方法に関すること。
  • 法第二十八条の二第一項又は第五十七条の三第一項及び第二項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。
  • 異常時等における措置に関すること。
  • その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動に関すること。

法第二十八条の二第一項はリスクアセスメントです。
第五十七条の三第一項及び二項は化学物質のリスクアセスメントですね。

(事業者の行うべき調査等)
第二十八条の二 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。
2 厚生労働大臣は、前条第一項及び第三項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。

(第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等)
第五十七条の三 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
3 厚生労働大臣は、第二十八条第一項及び第三項に定めるもののほか、前二項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
4 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。

e-Gov 労働安全衛生法

これらの業務を職長等が行います。

職長などの教育

この職長等と呼ばれる立場の労働者は、様々な企業に多くおられると思います。
しかし、労働安全衛生法60条において、職長教育を行わなければならないのは、「その事業場の業種が政令で定めるものに該当するとき」と記載されています。
そして、この「その事業場の業種が政令で定めるもの」については、労働安全衛生法施行令19条に記載があります。

(職長等の教育を行うべき業種)
第十九条 法第六十条の政令で定める業種は、次のとおりとする。
一 建設業
二 製造業。ただし、次に掲げるものを除く。
 イ たばこ製造業
 ロ 繊維工業(紡績業及び染色整理業を除く。)
 ハ 衣服その他の繊維製品製造業
ニ 紙加工品製造業(セロファン製造業を除く。)
三 電気業
四 ガス業
五 自動車整備業
六 機械修理業

e-Gov 労働安全衛生法施行令

この業種は、安全管理者の選任が必要な職種とかぶります(「安全管理者の選任が必要な業種」下の黄色ハイライト部分)。どちらかというと、職長は、安全のために業務を行います。
労働安全衛生法は、安全と衛生(健康)についての法律ですが、産業医は衛生の属性になります。
ですので、安全の属性に近い職長と、衛生属性の産業医はあまり接点がありませんでした。

今回、化学物質の自律的管理において職長が登場したので、産業医との接点が増えるかもしれませんね。

安全管理者の選任が必要な業種
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。 )電気業ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業機械修理業

「安全管理者について教えて下さい。」(厚生労働省)

なお、職長教育を行うべき対象業種に、以下の業種が追加されました。正確には、追加というより、旧条文で除外されていたものが除外されなくなりました。
食品製造業でも、化学物質による労働災害が多く、新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業については、ジクロロプロパンやジクロロメタンによる胆管癌が発生しているため、追加されました。

  • 食料品製造業
    食料品製造業のうち、うま味調味料製造業と動植物油脂製造業は、すでに職長教育の対象です。
  • 新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業

以下が、通達による解説です。

(2)職長等に対する安全衛生教育の対象となる業種の拡大(令第19条関係)

法第60条の職長等に対する安全衛生教育の対象となる業種に、化学物質を取り扱う業種を追加するため、これまで対象外であった「食料品製造業(うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。)」、「新聞業、出版業、製本業及び印刷物加工業」の2業種を追加したこと。なお、「うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業を除く。」とされているのは、うま味調味料製造業及び動植物油脂製造業については、従前から職長等に対する安全衛生教育の対象業種となっており、新たに追加されるものではないという趣旨である。したがって、今般の改正により、全ての食料品製造業が職長等に対する安全衛生教育の対象となること。

労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令等の施行について  基発0224第1号 令和4年2月24日

職長教育とは具体的に何をすればいいのか

職長教育についてですが、様々な労働安全衛生教育機関が職長教育を行っています。
インターネットで検索すればすぐに見つかると思います。どこかの職長教育の講習を受講しましょう。

あるいは、社内で職長教育を行う場合には、職長、現場監督等に対する教育を行うための講師を自社で養成する方法があります。
こちらについては、以下の通達があります。

建設業における安全衛生責任者に対する教育及び職長等教育講師養成講座等のカリキュラムの改正について 基発第0512004号 平成18年5月12日

この通達に基づき、現場監督などに対する安全衛生教育を担当するトレーナーを養成するための講座として、中央災害防止協会ではRST講座が開催されています。

 化学物質の自律的管理と職長の役割について

厚生労働省の資料、「化学物質規制の見直しについて(職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書のポイント)令和3年7月19日厚生労働省化学物質対策課」によりますと、化学物質の自律的な管理体制の確立として、以下の図が示されています。

職長が、化学物質管理者と保護具着用管理責任者から指示を受けて、作業者を指示するということになっています。
職長は、化学物質管理者と保護具着用管理責任者の職務・役割・責任ををきちんと理解していなければなりません。
この図を見ると、職長の役割が重要だとわかりますね。

どちらかというと、職長教育は、対象業務からわかるように、化学物質などの衛生管理を行うというより、安全に対する対応を行うイメージが強いのですが、化学物質の管理において、職長は重要な役割を果たしてゆくことになります。

なお、2023年に職長教育を行わなければならない業種の範囲が拡大しましたが、「事業場内の化学物質管理の体制」はリスクアセスメント対象物を取り扱うすべての事業場に必要になるので、拡大された以外の業種においても必要であれば体制を構築しなければなりません。

 まとめ

職長等への安全衛生教育について、法令より解説しました。
職長教育は、安全を重視する業種を対象としていたため、衛生・健康に関連する産業医との関わりはあまりなかったですし、産業医の先生にはなじみがないかもしれません。

しかし、2023年4月以降、職長教育の対象業務が広がりました。化学物質の自律的な管理を行う必要があるため、職長は化学物質管理者と保護具着用管理責任者から指示を受け、作業者に対して指示を出すことが求められています。

産業医は、この化学物質の自律的な管理体制における職長の役割について知っておきましょう。

 

 

労働衛生コンサルタント事務所LAOは、化学物質の自律的管理について、コンサルティング業務を行っております。

産業医として化学物質の自律的管理に対応可能な医師はあまりいないと思われますが、継続的なフォローも必要なため、産業医又は顧問医としての契約として、お受けしております。

個人ばく露測定のご相談やリスクアセスメント対象物健康診断の実施についても対応可能です。
化学物質の個別的な規制についても得意としています。

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詳しいサービス内容は以下のページをご参照ください。

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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