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化学物質の管理を解説

2023/09/19 2023/11/09

【化学物質】保護具着用管理責任者が行うべき業務についてわかりやすく解説

2023年9月19日、記事の内容を改定しました。

保護具着用管理責任者の選任と周知を行った後、保護具着用管理責任者はどのような業務を行うべきでしょうか。
今回は、その内容について説明します。
保護具着用管理責任者の要件と選任に関する情報は、以下の記事をご参照ください。


保護具着用管理責任者が行うべき業務について解説

保護具着用管理責任者の業務を法令より解説

保護具着用管理責任者に関する条文は、労働安全衛生規則12条の6になります。
まだ労働安全衛生規則の改正施行日(2024年4月1日)に達していないことに留意してください。

青色でハイライトされた箇所が、保護具着用管理責任者が担当するべき業務となります。

労働安全衛生規則(保護具着用管理責任者の選任等)
第十二条の六 化学物質管理者を選任した事業者は、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、
 労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任し、次に掲げる事項を管理させなけ
 ればならない。
 一 保護具の適正な選択に関すること。
 二 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
 三 保護具の保守管理に関すること。
2 前項の規定による保護具着用管理責任者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。
 一 保護具着用管理責任者を選任すべき事由が発生した日から十四日以内に選任すること。
 二 保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから選任すること。
3 事業者は、保護具着用管理責任者を選任したときは、当該保護具着用管理責任者に対し、第一項に掲
 げる業務をなし得る権限を与えなければならない。
4 事業者は、保護具着用管理責任者を選任したときは、当該保護具着用管理責任者の氏名を事業場の見
 やすい箇所に掲示すること等により関係労働者に周知させなければならない。

※ 労働安全衛生規則 施行日前です。

この労働安全衛生規則12条の6においては、以下の項目が規定されています。

1項:リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときの管理
2項:保護具着用管理責任者の要件と選任に関する事項
3項:保護具着用管理責任者への権限付与の義務
4項:周知義務に関する事項

今回は、保護具着用管理責任者が行うべき業務についての解説なので、この1項に関する部分の解説になります。

安衛則12条の6「保護具着用管理責任者の職務に関する事項」について

化学物質の自律的な管理においては、事業者が、リスクアセスメントの結果に基づき、ばく露防止のための措置を適切に実施する制度を導入しなければなりません。


リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときは、保護具着用管理責任者を選任し、次に掲げる事項を管理させなければならないと規定されています。
次に掲げる事項は、以下の「一」~「三」になります。

安衛則第12条の6第1項各号
 一 保護具の適正な選択に関すること。
 二 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
 三 保護具の保守管理に関すること。

リスクアセスメントの結果の措置に関してこれらの業務を保護具着用管理責任者に行わせなければなりません。
この保護具着用管理責任者が行う業務については、以下の通達もあります。ア~ウについては、労働安全衛生規則12条の6と同様ですね。

2 保護具着用管理責任者の選任、管理すべき事項等
(1)安衛則第12条の6第1項関係 本規定は、保護具着用管理責任者を選任した事業者について、当該責任者に本項各号に掲げる事項を管理させなければならないこととしたものであり、保護具着用管理責任者の職務内容を規定したものであること。 保護具着用管理責任者の職務は、次に掲げるとおりであること。

ア 保護具の適正な選択に関すること。
イ 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
ウ 保護具の保守管理に関すること。

これらの職務を行うに当たっては、平成17年2月7日付け基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」、平成17年2月7月付け基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」及び平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」に基づき対応する必要があることに留意すること。

労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

この、3つの事項を行うにあたり、この通達の中で以下の3つの通達につき言及されています。

しかし、この後、「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )の通達が発表され、この平成17年2月7日付け基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」と、平成17年2月7月付け基発第0207007号「防毒マスクの選択、使用等について」については、廃止されました。

標記について、これまで防じんマスク、防毒マスク等の呼吸用保護具を使用する労働者の健康障害を防止するため、「防じんマスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日付け基発第0207006号。以下「防じんマスク通達」という。)及び「防毒マスクの選択、使用等について」(平成17年2月7日付け基発第0207007号。以下「防毒マスク通達」という。)により、その適切な選択、使用、保守管理等に当たって留意すべき事項を示してきたところである。 今般、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号。以下「改正省令」という。)等により、新たな化学物質管理が導入されたことに伴い、呼吸用保護具の選択、使用等に当たっての留意事項を下記のとおり定めたので、関係事業場に対して周知を図るとともに、事業場の指導に当たって遺漏なきを期されたい。 なお、防じんマスク通達及び防毒マスク通達は、本通達をもって廃止する。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」については、現在も適用されているということにないrます。
したがって、2023年9月時点で保護具着用管理責任者が熟読すべき通達は以下の二つということになります。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」

これらはしっかり読みましょう。

 一 保護具の適正な選択に関すること。

酸欠や引火性等の爆発の恐れのある場合について

まず、酸素濃度18%未満の場所では、給気式呼吸用保護具を使用しなければなりません。防じんマスクには、防毒性能がありませんので、「給気式呼吸用保護具」を使用しなければなりません。また、引火性の化学物質により、爆発の恐れがある場合には、非防爆タイプの電動ファン付き呼吸用保護具を使用してはなりません。

溶接ヒュームの作業における要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具の選択

要求防護係数という言葉が出てきました。こちらは当初、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームに関して有名になりました。注意が必要なのですが、溶接ヒュームに関する規定は、以下の通達、「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等 (令和二年七月三十一日 厚生労働省告示第二百八十六号)」の2条にあるように、特化則38条の21第7項に基づきます。よって、溶接ヒュームに関する要求防護係数に基づく対応は法令上の義務があります。

この要求防護係数を簡単に説明しますと、溶接ヒュームの環境測定におけるマンガン濃度を0.05で割ったものが要求保護係数であり、この要求保護係数を上回る指定保護係数を有する保護具を選びましょうということになります。この0.05は、マンガンの管理濃度である、0.05mg/㎥が由来です。

つまり、マンガンの要求防護係数は、環境中のマンガンが、管理濃度の何倍かということを意味します。

そして、呼吸用保護具については、当該呼吸用保護具に係る要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものでなければならないと規定されています。
指定保護係数は、呼吸用保護具の種類に応じて定められています。

(呼吸用保護具の使用)

第二条 特化則第三十八条の二十一第七項に規定する呼吸用保護具は、当該呼吸用保護具に係る要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものでなければならない。
2 前項の要求防護係数は、次の式により計算するものとする。

PFr=C/0.05

(この式において、PFr及びCは、それぞれ次の値を表すものとする。
PFr 要求防護係数 C 前条の測定における溶接ヒューム中のマンガンの濃度の測定値のうち最大のもの(単位ミリグラム毎立方メートル))

金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等 (令和二年七月三十一日 厚生労働省告示第二百八十六号)

 

リスクアセスメント対象物における要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具の選択

そして、今回、「濃度基準値が設定されている物質」で、呼吸用保護具を労働者に着用させる場合も、これらの措置が必要になります(「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )、以下の青色ハイライト部分)
なお、濃度基準値が設定されている物質ですが、2023年9月現在では以下に記載されています。

濃度基準告示(労働安全衛生規則第577条の2第2項の厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準

つまり、濃度基準値が設定されている物質は適切な方法で濃度測定を行い、「技術上の指針」の方法で算出した要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を使ってくださいということになります。基本的は、溶接ヒュームと同じ考え方になります。

(2)要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具の選択
ア 金属アーク等溶接作業を行う事業場においては、「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」(令和2年厚生労働省告示第286号。以下「アーク溶接告示」という。)で定める方法により、第三管理区分場所においては、「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(令和4年厚生労働省告示第341号。以下「第三管理区分場所告示」という。)に定める方法により濃度の測定を行い、その結果に基づき算出された要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を使用しなければならないこと。
イ 濃度基準値が設定されている物質については、技術上の指針の3から6に示した方法により測定した当該物質の濃度を用い、技術上の指針の7-3に定める方法により算出された要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を選択すること。
ウ 濃度基準値又は管理濃度が設定されていない物質で、化学物質の評価機関によりばく露限界の設定がなされている物質については、原則として、技術上の指針の2-1(3)及び2-2に定めるリスクアセスメントのための測定を行い、技術上の指針の5-1(2)アで定める八時間時間加重平均値を八時間時間加重平均のばく露限界(TWA)と比較し、技術上の指針の5-1(2)イで定める十五分間時間加重平均値を短時間ばく露限界値(STEL)と比較し、別紙1の計算式によって要求防護係数を求めること。 さらに、求めた要求防護係数と別表1から別表3までに記載された指定防護係数を比較し、要求防護係数より大きな値の指定防護係数を有する呼吸用保護具を選択すること。 
エ 有害物質の濃度基準値やばく露限界に関する情報がない場合は、化学物質管理者、化学物質管理専門家をはじめ、労働衛生に関する専門家に相談し、適切な指定防護係数を有する呼吸用保護具を選択すること。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

このように、「技術上の指針の7-3に定める方法により算出された要求防護係数」と記載されていますので、計算方法について、「技術上の指針」を参照してみましょう。
具体的には、「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号)に記載があります。
溶接ヒュームにおいて要求保護係数を求めるためのマンガンの固有の値である0.05が、「C₀」に代わっています。「C₀」、つまり化学物質の濃度基準値で割るということになります。

7-3 呼吸用保護具の適切な選択

事業者は、濃度基準値が設定されている物質について、次に掲げるところにより、適切な呼吸用保護具を選択し、労働者に使用させること。
(1) 労働者に使用させる呼吸用保護具については、要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものでなければならないこと。
(2) (1)の要求防護係数は、次の式により計算すること。
   PFr=C/ C₀
(この式において、PFr、C及びC₀は、それぞれ次の値を表すものとする。
PFr 要求防護係数 C 化学物質の濃度の測定の結果得られた値 C₀化学物質の濃度基準値

(3) (2)の化学物質の濃度の測定の結果得られた値は、測定値のうち最大の値とすること。
(4) 要求防護係数の決定及び適切な保護具の選択は、化学物質管理者の管理のもと、保護具着用管理責任者が確認測定を行った者と連携しつつ行うこと。
(5) 複数の化学物質を同時に又は順番に製造し、又は取り扱う作業場における呼吸用保護具の要求防護係数については、それぞれの化学物質ごとに算出された要求防護係数のうち、最大のものを当該呼吸用保護具の要求防護係数として取り扱うこと。
(6) (1)の指定防護係数は、別表第3-1から第3-4までの左欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる値とすること。ただし、指定防護係数は、別表第3-5の左欄に掲げる呼吸用保護具を使用した作業における当該呼吸用保護具の外側及び内側の化学物質の濃度の測定又はそれと同等の測定の結果により得られた当該呼吸用保護具に係る防護係数が同表の右欄に掲げる指定防護係数を上回ることを当該呼吸用保護具の製造者が明らかにする書面が当該呼吸用保護具に添付されている場合は、同表の左欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる値とすることができること。
(7) 防じん又は防毒の機能を有する呼吸用保護具の選択に当たっては、主に蒸気又はガスとしてばく露する化学物質(濃度基準値の単位がppmであるもの)については、有効な防毒機能を有する呼吸用保護具を選択し、主に粒子としてばく露する化学物質(濃度基準値の単位がmg/m3であるもの)については、粉じんの種類(固体粒子又はミスト)に応じ、有効な防じん機能を有する呼吸用保護具を労働者に使用させること。ただし、4-22で定める蒸気及び粒子の両方によるばく露が想定される物質については、防じん及び防毒の両方の機能を有する呼吸用保護具を労働者に使用させること。
(8) 防毒の機能を有する呼吸用保護具は化学物質の種類に応じて、十分な除毒能力を有する吸収缶を備えた防毒マスク、防毒機能を有する電動ファン付き呼吸用保護具又は別表第3-4に規定する呼吸用保護具を労働者に使用させなければならないこと。

「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日 技術上の指針公示第24号)

つまり、要求防護係数は、環境中の化学物質の濃度の測定の結果得られた値が、化学物質の濃度基準値の何倍かということを意味します。
やはり、先ほどのマンガンの要求防護係数と同じ考え方です。

なお、指定防護係数は、「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )にも記載されています。

これらを用いて、保護具を選択していきます。

法令に保護具の種類が規定されている場合の留意事項

安衛則、鉛則、特化則、電離則、粉じん則等で定める防じんマスクは、粉じん等の種類及び作業内容に応じ、「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )の別表5に示す性能を有するものであることとされています。
別表5については、以下に引用します。

このRS、DL、PSなどについて非常に簡単に解説します。
最初のアルファベットはR、D、Pのどれかです。使い捨て防じんマスクであればDで、取替え式であればR、電動ファン付きであればPになります。
二つ目のアルファベットは、Sは固形の粉じんを想定しておりSolid(固体)のSであり、Lは液体の粉じんを想定しておりLiquid(液体)のLです。
オイルミストが混在する場合には、「L」のマスクを使用する必要があります。

区分は、どれだけ粒子捕集効率が高いかで区分1-3が決定され、数字が大きいほど粒子捕集効率が高いということになります。

以下の通達を引用しています。

防じんマスクの規格 (昭和六十三年三月三十日 労働省告示第十九号
電動ファン付き呼吸用保護具の規格 (平成二十六年十一月二十八日 厚生労働省告示第四百五十五号)

また、電動ファン付き呼吸用保護具については「漏れ率試験」があります。漏れ率は、S級が0.1%以下、A級が1.0%以下、B級が5.0%以下となります。

(漏れ率試験)
電動ファン付き呼吸用保護具を次の図に示す寸法の揺動形人体模型(以下この表において「揺動形人体模型」という。)に装着し、当該揺動形人体模型に呼吸模擬装置を接続してこれをチャンバ内に設置し、揺動形人体模型及び呼吸模擬装置を作動させた状態で、三分を経過した後、電動ファン付き呼吸用保護具の内部及び外部の塩化ナトリウムの濃度を二分間連続的に測定し、次の式により漏れ率を算定する。この場合において、測定及び漏れ率の算定は、次の各号に定めるところにより行わなければならない。

電動ファン付き呼吸用保護具の規格 (平成二十六年十一月二十八日 厚生労働省告示第四百五十五号)

 

二 労働者の保護具の適正な使用に関すること。

 フィットテストとシールチェックは別物であり、両方の実施が必要です

まず、近年、呼吸用保護具の密着性を調べるための、かつて「フィットテスト」と呼ばれていたものが「フィットテスト」と「シールチェック」に分かれました。定義はこの通達に記載されています。
以下、定義が記載されている通達を抜粋します。

フィットテストは、労働者によって使用される面体がその労働者の顔に密着するものであるか否かを評価する検査であり、労働者の顔に合った面体を選択するための方法(手順は、JIS T 8150を参照。)である。

シールチェック(面体を有する呼吸用保護具を着用した労働者自身が呼吸用保護具の装着状態の密着性を調べる方法。以下同じ。)

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

このフィットテストと、シールチェックはどちらかを行えばいいというものではなく両方の実施が必要です。
この通達の以下の部分を見てみましょう。

面体については、フィットテストによって、着用する労働者の顔面に合った形状及び寸法の接顔部を有するものを選択及び使用し、面体を着用した直後には、(3)に示す方法又はこれと同等以上の方法によってシールチェック(面体を有する呼吸用保護具を着用した労働者自身が呼吸用保護具の装着状態の密着性を調べる方法。以下同じ。)を行い、各着用者が顔面と面体とが適切に密着しているかを確認すること。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

つまり、最初にフィットテストでピッタリ着用できる呼吸用保護具を選んで、作業前に着用した直後に、シールチェックを行うということになります。
シールチェックの主な方法には、陰圧法と陽圧法があります。こちらも通達に記載されていますが、載せておきます。
他にも、作業場等に備え付けた簡易機器等で行う方法でもよいようですが、陰圧法と陽圧法は昔から利用されていた方法で簡便であるという利点があります。

ア 陰圧法によるシールチェック 面体を顔面に押しつけないように、フィットチェッカー等を用いて吸気口をふさぐ(連結管を有する場合は、連結管の吸気口をふさぐ又は連結管を握って閉塞させる)。息をゆっくり吸って、面体の顔面部と顔面との間から空気が面体内に流入せず、面体が顔面に吸いつけられることを確認する。

イ 陽圧法によるシールチェック 面体を顔面に押しつけないように、フィットチェッカー等を用いて排気口をふさぐ。息を吐いて、空気が面体内から流出せず、面体内に呼気が滞留することによって面体が膨張することを確認する。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

金属アーク溶接等作業を行う作業場所においては、アーク溶接告示で定める方法により、第三管理区分場所においては、第三管理区分場所告示に定める方法により、1年以内ごとに1回、定期に、フィットテストを実施しなければならなりません。アーク溶接に関しては特化則を根拠におく、つまり法令を根拠とするので義務となります。

通達には、「上記以外の事業場であって、リスクアセスメントに基づくリスク低減措置として呼吸用保護具を労働者に使用させる事業場」、つまりアーク溶接に関連する作業場でなく、リスクアセスメントに基づく対応として呼吸用保護具を着用させる場合には、フィットテストを行う義務があるように見えます。

(1)フィットテストの実施 金属アーク溶接等作業を行う作業場所においては、アーク溶接告示で定める方法により、第三管理区分場所においては、第三管理区分場所告示に定める方法により、1年以内ごとに1回、定期に、フィットテストを実施しなければならないこと。 上記以外の事業場であって、リスクアセスメントに基づくリスク低減措置として呼吸用保護具を労働者に使用させる事業場においては、技術上の指針の7-4及び次に定めるところにより、1年以内ごとに1回、フィットテストを行うこと。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

この通達の上記部分を見ると、前述のようにリスクアセスメントに基づく対応として呼吸用保護具を着用させる場合にもフィットテストを行わなければならないようにも見えますが、この規定は溶接ヒュームと違い、法律の根拠がありません、指針上のみで「フィットテストを行うこと」と記載されています。
したがって、行政にも確認いたしましたが、今のところ、法令に根拠がないので、実施は努力義務になります。

要求保護係数、フィットテストなど各種指標については、別記事にて解説させていただきます。


防じんマスク及びP-PAPRの選択及び使用に当たっての留意事項 

防じんマスクと電動ファン付呼吸用保護具(Powered Air-Purifying Respirator:PAPR)については、型式検定合格標章により、型式検定合格品であることを確認しましょう。、吸気補助具付き防じんマスクについては、検定則に定める型式検定合格標章に「補」が記載されています。

その他、通達には、呼吸用保護具を使用するための留意事項が記載されています。

三 保護具の保守管理に関すること。

保護具の保守に関する事項については、通達の、「第4 呼吸用保護具の保守管理上の留意事項 」に記載されていますので確認しておきましょう。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

 

平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」

こちらの通達は、化学防護手袋の選択、使用等についての指針になります。 化学防護手袋は、使用されている材料によって、防護性能、作業性、機械的強度等が変わるため、対象とする有害な化学物質を考慮して作業に適した手袋を選択する必要があります。

この通達の重要な点は、化学物質のばく露を防止するための基本的な対策です。化学物質へのばく露防止対策を講じるに当たっては、有害性が極力低い化学物質への代替や発散源を密閉する設備等の工学的対策等による根本的なレベルでのリスク低減を行うことが望ましく、化学防護手袋の使用はより根本的なレベルでのばく露防止対策を講じることができない場合にやむを得ず講じる対策であることには留意しましょう。

この平成29年の指針の中にも、「保護具着用管理責任者」という役職があります。この指針の中では、「保護具着用管理責任者」「衛生管理者、作業主任者等の労働衛生に関する知識及び経験を有する者」から指名することとなっています。

(1) 事業者は、衛生管理者、作業主任者等の労働衛生に関する知識及び経験を有する者のうちから、作業場ごとに化学防護手袋を管理する保護具着用管理責任者を指名し、化学防護手袋の適正な選択、着用及び取扱方法について労働者に対し必要な指導を行わせるとともに、化学防護手袋の適正な保守管理に当たらせること。なお、特定化学物質障害予防規則等により、保護具の使用状況の監視は、作業主任者の職務とされているので、上記と併せてこれを徹底すること。
平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」

化学物質の自律的な管理における、皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止に関して、労働安全衛生規則594条に「不浸透性の保護衣」について記載がありますが、この「不浸透性」についてもこの通達に記載があります。

以下に掲載しておきます。「不浸透性」の定義について知っておき、注意しましょう。

2 化学防護手袋の選択に当たっての留意事項
労働安全衛生関係法令において使用されている「不浸透性」は、有害物等と直接接触することがないような性能を有することを指しており、日本工業規格(以下「JIS」という。)T8116(化学防護手袋)で定義する「透過」しないこと及び「浸透」しないことのいずれの要素も含んでいること。(「透過」及び「浸透」の定義については後述)

化学防護手袋の選択に当たっては、取扱説明書等に記載された試験化学物質に対する耐透過性クラスを参考として、作業で使用する化学物質の種類及び当該化学物質の使用時間に応じた耐透過性を有し、作業性の良いものを選ぶこと。

なお、JIS T 8116(化学防護手袋)では、「透過」を「材料の表面に接触した化学物質が、吸収され、内部に分子レベルで拡散を起こし、裏面から離脱する現象。」と定義し、試験化学物質に対する平均標準破過点検出時間を指標として、耐透過性を、クラス1(平均標準破過点検出時間10分以上)からクラス6(平均標準破過点検出時間480分以上)の6つのクラスに区分している(表1参照)。この試験方法は、ASTM F739と整合しているので、ASTM規格適合品も、JIS適合品と同等に取り扱って差し支えない。 また、事業場で使用されている化学物質が取扱説明書等に記載されていないものであるなどの場合は、製造者等に事業場で使用されている化学物質の組成、作業内容、作業時間等を伝え、適切な化学防護手袋の選択に関する助言を得て選ぶこと。

平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」

定義をまとめますね。

「不浸透性」
労働安全衛生関係法令において使用されている「不浸透性」は、有害物等と直接接触することがないような性能を有することを指しており、日本工業規格(以下「JIS」という。)T8116(化学防護手袋)で定義する「透過」しないこと及び「浸透」しないことのいずれの要素も含んでいること。

「透過」
なお、JIS T 8116(化学防護手袋)では、「透過」を「材料の表面に接触した化学物質が、吸収され、内部に分子レベルで拡散を起こし、裏面から離脱する現象。」と定義し、試験化学物質に対する平均標準破過点検出時間を指標として、耐透過性を、クラス1(平均標準破過点検出時間10分以上)からクラス6(平均標準破過点検出時間480分以上)の6つのクラスに区分している(表1参照)。

「浸透」
JIS T8116では、「浸透」を「化学防護手袋の開閉部、縫合部、多孔質材料及びその他の不完全な部分などを透過する化学物質の流れ。」と定義し、品質検査における抜き取り検査にて許容し得ると決められた不良率の上限の値である品質許容基準[AQL:検査そのものの信頼性を示す指標であり、数値が小さいほど多くの抜き取り数で検査されたことを示す。]を指標として、耐浸透性を、クラス1(品質許容水準[AQL]0.65)からクラス4(品質許容水準[AQL]4.0)の4つのクラスに区分することとしている

また、「保護具着用管理責任者」は、従業員が化学防護手袋を着用する前には、その都度、着用者に傷、孔あき、亀裂等の外観上の問題がないことを確認させることが必要です。

3 化学防護手袋の使用に当たっての留意事項
化学防護手袋の使用に当たっては、次の事項に留意すること。
(1) 化学防護手袋を着用する前には、その都度、着用者に傷、孔あき、亀裂等の外観上の問題がないことを確認させるとともに、化学防護手袋の内側に空気を吹き込むなどにより、孔あきがないことを確認させること。

平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」

さらに、化学防護手袋を脱ぐ際に注意すべきことや廃棄に関する規定も存在します。保護具着用管理責任者は、保護具の廃棄に関する事項にも注意を払う必要があります。

(4) 化学防護手袋を脱ぐときは、付着している化学物質が、身体に付着しないよう、できるだけ化学物質の付着面が内側になるように外し、取り扱った化学物質の安全データシート(SDS)、法令等に従って適切に廃棄させること。

平成29年1月12日付け基発0112第6号「化学防護手袋の選択、使用等について」

 

「保護具着用管理責任者」とその他のスタッフとの関係について

保護具着用管理責任者と作業主任者の関係

もし、特定の化学物質や有機溶剤を取り扱う場合、作業主任者の選任が必要です。作業主任者の業務の中には、「保護具の使用状況を監視すること」が職務内容に含まれています。この職務は、保護具着用管理責任者とは別の規定であり、併存し、継続して行われます。
通達の中では、職務の実施に支障がない範囲内で、作業主任者が保護具着用管理責任者を兼任しても差し支えないことと述べられています。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

保護具着用管理責任者と化学物質管理者、職長の関係

こちらは、指針等に明確に記載はありませんが、職長が化学物質管理者と保護具着用管理責任者から指示を受けて、作業者を指示するということが想定されています。
保護具着用管理責任者は、職長の職務・役割・責任ををきちんと理解していなければなりません。
この図を見ると、職長の役割が重要だとわかりますね。
「化学物質規制の見直しについて(職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会報告書のポイント)令和3年7月19日厚生労働省化学物質対策課」


作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合等の義務

まだ労働安全衛生規則の改正施行日(2024年4月1日)に達していないことに留意してください。
作業環境測定結果が第三管理区分の作業場所に対する措置の強化において、 作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合等の義務につき、保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから、保護具着用管理責任者を選任し、呼吸用保護具に係る業務を担当させることが規定されています。
労働安全衛生規則等の一部を改正する省令等の施行について 基発0531第9号 令和4年5月31日

 まとめ

まだ労働安全衛生規則の改正施行日(2024年4月1日)に達していないことに留意してください。

保護具着用管理責任者に関する条文は、労働安全衛生規則12条の6になります。1項にリスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるときの管理について記載があり、こちらが保護具着用管理責任者の職務になります。

安衛則第12条の6第1項 
 一 保護具の適正な選択に関すること。
 二 労働者の保護具の適正な使用に関すること。
 三 保護具の保守管理に関すること。

関連する通達としては、「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )と「化学防護手袋の選択、使用等について」平成29年1月12日付け基発0112第6号があります。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )については熟読しておきましょう。

この通達の中で、要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具の選択を行うべきことが記載されています。
法令に保護具の種類が規定されている場合の留意事項も記載されています。

また、近年、呼吸用保護具の密着性を調べるための「フィットテスト」と呼ばれていたものが「フィットテスト」と「シールチェック」に分かれました。

「化学防護手袋の選択、使用等について」平成29年1月12日付け基発0112第6号は、化学防護手袋の選択、使用等についての指針になります。
労働安全衛生規則594条に「不浸透性の保護衣」について記載がありますが、この「不浸透性」についてもこの通達に記載があります。

「保護具着用管理責任者」と作業主任者、化学物質管理者、職長との関係性も理解しておきましょう。

 

 

 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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