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【労災】「労災かくし」とはなにか?きちんと理解しましょう

「労災かくしは犯罪です」という言葉を聞いたことがある方も多いかと思います。意外に「労災かくし」の正しい意味をご存じない方が多いので解説します。

「労災かくし」とはなにか?

「労災かくし」の定義について

労災かくしの定義については、以下の厚生労働省サイトに解説されています。このブログでは、労災かくしを、以下のサイトにならって「労災かくし」と表記いたします。

質問
労災かくしとは何ですか。
回答
 事業者は、労働災害等により労働者が死亡又は休業した場合には、遅滞なく、労働者死傷病報告等を労働基準監督署長に提出しなければなりません。
 「労災かくし」とは、事業者が労災事故の発生をかくすため、労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条)を、(1)故意に提出しないこと、(2)虚偽の内容を記載して提出することをいいます。

厚生労働省 労災かくしとは何ですか。

「労災かくし」とは、事業者が労災事故の発生を隠すために、労働者死傷病報告を故意に提出しないこと、または虚偽の内容を記載して提出する行為をいいます。一般的な誤解として、労災保険の申請を行わないことが「労災かくし」と混同されることがありますが、それは誤りです。「労災かくし」の問題は、労働者死傷病報告の提出に関わるものであり、労災保険の申請とは異なります。では、「労働者死傷病報告書」とは具体的にどのような書類なのでしょうか?

労働者死傷病報告等を法令より解説

労働者私傷病報告等ですが、労働安全衛生法第100条、労働安全衛生規則第97条を見てみましょう。

労働安全衛生法
(報告等)
第百条 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者、労働者、機械等貸与者、建築物貸与者又はコンサルタントに対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。
2 厚生労働大臣、都道府県労働局長又は労働基準監督署長は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、登録製造時等検査機関等に対し、必要な事項を報告させることができる。
3 労働基準監督官は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、事業者又は労働者に対し、必要な事項を報告させ、又は出頭を命ずることができる。

e-Gov 労働安全衛生法

労働安全衛生規則
(労働者死傷病報告)
第九十七条 事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2 前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、様式第二十四号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

e-Gov 労働安全衛生規則

労働安全衛生法第100条では、事業者等が報告や出頭を義務付けられていることを定めています。その具体的な内容に関して、労働安全衛生規則第97条で、労働者死傷病報告の手続きが規定されています。

労働者死傷病報告は「死亡」または「休業」が発生した場合に届出が必要です

労働安全衛生規則97条では、「死亡し、又は休業したとき」に届出が必要とされています。よって、「工具で切り傷を負ったが、休業しなかった」場合には、労働者死傷病報告の届出は必要ありません。

重要なポイントなのですが、この労働者死傷病報告の提出タイミングは、事案が死亡事故であるか、または4日以上の休業が伴うかどうかによって異なります。これを明確にするため、以下に図表を示します。

つまり、労働者が死亡した場合や、4日を超える休業が必要な場合には、「遅滞なく」、つまり迅速に届出を行う必要があります。一方、4日未満の休業であれば、後日まとめて届出をすることが可能です。

また、労働者の死傷や疾病に関する報告を怠った場合で、違法かつ有責な場合に、労働安全衛生法第100条の違反として、労働安全衛生法第120条に基づき、50万円以下の罰金が科されます。

これが、「労災かくし」は犯罪ですと言われるゆえんです。

労働安全衛生法

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第十条第一項、第十一条第一項、第十二条第一項、第十三条第一項、第十五条第一項、第三項若しくは第四項、第十五条の二第一項、第十六条第一項、第十七条第一項、第十八条第一項、第二十五条の二第二項(第三十条の三第五項において準用する場合を含む。)、第二十六条、第三十条第一項若しくは第四項、第三十条の二第一項若しくは第四項、第三十二条第一項から第六項まで、第三十三条第三項、第四十条第二項、第四十四条第五項、第四十四条の二第六項、第四十五条第一項若しくは第二項、第五十七条の四第一項、第五十九条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)、第六十一条第二項、第六十六条第一項から第三項まで、第六十六条の三、第六十六条の六、第六十六条の八の二第一項、第六十六条の八の四第一項、第八十七条第六項、第八十八条第一項から第四項まで、第百一条第一項又は第百三条第一項の規定に違反した者
二 第十一条第二項(第十二条第二項及び第十五条の二第二項において準用する場合を含む。)、第五十七条の五第一項、第六十五条第五項、第六十六条第四項、第九十八条第二項又は第九十九条第二項の規定による命令又は指示に違反した者
三 第四十四条第四項又は第四十四条の二第五項の規定による表示をせず、又は虚偽の表示をした者
四 第九十一条第一項若しくは第二項、第九十四条第一項又は第九十六条第一項、第二項若しくは第四項の規定による立入り、検査、作業環境測定、収去若しくは検診を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述をせず、若しくは虚偽の陳述をした者
五 第百条第一項又は第三項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は出頭しなかつた者
六 第百三条第三項の規定による帳簿の備付け若しくは保存をせず、又は同項の帳簿に虚偽の記載をした者

e-Gov 労働安全衛生法

 

「休業」は、丸1日の休みを意味します

それでは、この「休業」ですが、例えば、就業前1時間に業務上災害に被災して、終業時刻1時間前に帰宅する場合に、その日は「休業」に当たるのでしょうか。
こちらは、通達等はありませんが、部分休業として「休業」に含まれません。

また、労働者死傷病報告の「休業」については、以下のように休業見込み期間を記載する欄がありますが、この休業の日数については、初日は含みません。やはり、部分休業は含まれないということになります。


労災申請をしないことは「労災かくし」ではありません

よく間違られるのですが、労災申請を行わないことが、「労災かくし」にあたるのではありません。労災申請を行わず、労働者死傷病報告のみを行う場合もあります。労働者死傷病報告を行わないことが「労災かくし」にあたります。

こちらを解説いたします。

災害補償と労災保険の関係について

まず、労働基準法8章(災害補償)の章において、使用者の責任が列挙されています。一例として、75条を見てみましょう。75条は、療養補償という費用の負担について規定しています。

第八章 災害補償
(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。
② 前項に規定する業務上の疾病及び療養の範囲は、厚生労働省令で定める。

e-Gov 労働基準法

簡単に説明すると、労働者が仕事中に負傷したり病気になったりした場合、雇用主はその療養費用を負担する義務があります。これは労働基準法に基づく規定であり、違反した場合には労働基準監督署への申告により労働基準監督署が対応してくれますし、罰則も適用されます。

ただし、例えば、適切な治療に1,000万円が必要になった場合、小規模な事業所の雇用主に1,000万円の支払いを求めると、事業の継続が困難になる可能性があるか、支払い能力がない場合も考えられます。このような状況を考慮して、労働基準法第84条では、労災保険から相当する給付が行われる場合、使用者は労災補償としての負担、この例でいう1,000万円の支払いを免除されます。

(他の法律との関係)
第八十四条 この法律に規定する災害補償の事由について、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)又は厚生労働省令で指定する法令に基づいてこの法律の災害補償に相当する給付が行なわれるべきものである場合においては、使用者は、補償の責を免れる。
2 使用者は、この法律による補償を行つた場合においては、同一の事由については、その価額の限度において民法による損害賠償の責を免れる。

e-Gov 労働基準法

つまり、労災申請をしなくても、災害補償として使用者が各種費用を支払うことが可能なのです。

 労災申請をしない場合でも、「休業」「死亡」はなかったことにできません

このように、労災申請を行わず、災害補償として使用者が各種費用を支払うことも可能なのですが、労災申請と労働者死傷病報告の届出は別の制度なので、労災申請を行わない場合であっても、労働者私傷病報告は必要になります。

労災申請をしない場合でも、「休業」「死亡」はなかったことにできません。

この点、例えばメンタルヘルス不調(精神障害)での休業の場合、業務上疾病なのか、私傷病なのかわからない場合で、労働者死死傷病報告の届出を行うか悩む場合もあるでしょう。このような場合は、労働基準監督署に相談してみましょう。

まとめ

「労災隠し」とは、事業者が労災事故の発生を隠すために、労働者死傷病報告を故意に提出しないこと、または虚偽の内容を記載して提出する行為をいいます。

労働者死傷病報告は「死亡」または「休業」が発生した場合に届出が必要ですので、死亡や休業がない場合には届出の必要はありません。なお、部分休業は「休業」に含まれないので、知っておきましょう。

このような、労働者の死傷や疾病に関する報告を怠った場合、労働安全衛生法第100条の違反として、労働安全衛生法第120条に基づき、50万円以下の罰金が科されます。

よく間違られるのですが、労災申請を行わないことが、「労災かくし」にあたるのではありません。労災申請を行わず、労働者死傷病報告のみを行う場合もあります。

労働者死傷病報告を行わないことが「労災かくし」にあたることをしっかり確認しておきましょう。

「労災かくし」はやめましょう。

 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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