事務所LAO – 行政書士・社会保険労務士・労働衛生コンサルタント・海事代理士

【メンタルヘルス】産業医とキャリアコンサルタントの連携はシステムズアプローチに有用

産業医がクライエント企業の従業員について「メンタルヘルス不調である」と判断した場合、その対応には、厚生労働省が定める「心の健康の保持増進のための指針」や「職場復帰支援の手引き」などを活用することが、制度的にも実務的にも適切とされています。

こうした場面では、産業医と人事労務担当者が中心となって対応を進めることが一般的ですが、私はこの領域において、キャリアコンサルタントも非常に重要な役割を果たせると考えています。

キャリアコンサルタントは、従業員のキャリアの視点から本人の価値観や人生設計に寄り添い、職場復帰に向けた支援や、働き方の再構築をサポートすることが可能です。特に、メンタル不調の背景にキャリアの迷いや組織とのミスマッチがある場合には、心理的支援に加えてキャリア支援の視点が不可欠となります。

今回は、私自身が産業医・キャリアコンサルタントとしての立場から、「メンタルヘルス不調」への多角的な関わりについて、実践的な視点を交えながらお話ししたいと思います。

産業医とキャリアコンサルタントの連携はシステムズアプローチに有用

 円環的因果律の状況把握と介入について

これまで、システムズアプローチについてご紹介してきました。

メンタルヘルス不調者を「IP(Identified Patient=患者とみなされた者)」と捉える場合、その不調の背景には個人だけでなく、職場というシステム全体における円環的因果律(circular causality)が存在する可能性があります。
つまり、誰かが不調をきたしているという現象の背後には、相互作用や関係性の中で繰り返されている「構造的な問題」が潜んでいることがあるのです。

このような状況に介入するためには、まず職場全体の状況を正確に把握することが不可欠です。
ところが、実際の現場では状況が不透明であったり、表面的な情報しか得られないことも少なくありません。

そこで重要となるのが、IPの周囲にいる人々への網羅的なカウンセリングです。
彼らの話を丁寧に聴き取ることで、関係性や構造の全体像が少しずつ浮かび上がってきます。

このような場面で、キャリアコンサルタントが活躍します。
キャリアコンサルタントは、職場内での人間関係や価値観、役割に関する対話を通じて、個人と組織との関係性を読み解く力を持っています。
そのスキルは、IPの支援だけでなく、組織全体のバランスの調整や再構築においても大きな役割を果たします。

なお、多くの産業医は診断や助言の役割には長けていますが、対話を中心としたカウンセリング的な支援を行うことは難しい場合が多いのが現状です。
だからこそ、キャリアコンサルタントや心理カウンセラーとの連携が極めて重要になります。

 カウンセリングと守秘義務

システムズアプローチを実践するうえで、状況分析のための情報共有は極めて重要です。
しかし同時に、この情報共有には、守秘義務の観点から非常に慎重な配慮が求められます。

たとえば、カウンセリングや産業医面談の場面では、クライエントが自らの内面や職場での体験について、センシティブな内容を打ち明けることがあります。
このような情報は、カウンセラーや産業医に対して開示されたものであり、当然ながら守秘義務の対象となります。

そのため、クライエントの同意がない限り、企業側や他の関係者とその内容を共有することはできません。
これは、信頼関係を守るために不可欠な原則であり、専門職としての倫理でもあります。

したがって、カウンセリングや面談においては、事前に以下の点を明確に確認しておくことが非常に重要です。
システムズアプローチにおいて、関係者間の情報連携は欠かせませんが、それはあくまで倫理的かつ同意に基づいた範囲内でなければならないという点を忘れてはなりません。

 キャリアコンサルティングの有用性

私は個人的に、産業医として依頼される「メンタルヘルス面談」の多くが、本質的にはキャリアコンサルタントの専門領域であると感じています。
「キャリアコンサルタント=転職相談」というイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、それはキャリアコンサルタントの役割を狭く捉えた誤解です。

実際には、キャリアコンサルタントは「働くこと」を中心とした人間関係、組織適応、職場内での役割の再定義など、キャリア発達や職業生活全体に関わる課題の支援を担っています。

心理カウンセラーとキャリアコンサルタントは、専門領域こそ異なりますが、いずれも人の内面と向き合い、その課題の背景にある「システム」や「関係性」に注目しながら支援を行う点で共通しています。両者の違いについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご参考ください。


また、メンタルヘルス不調を訴えていない従業員に対しても、キャリア面談を実施することができます。
この段階で、本人もまだ自覚していないストレスや不安、働き方やキャリアに関する不満を明らかにすることで、将来的なメンタルヘルス不調の予防につながる可能性があります。

キャリア面談の中で、場合によってはハラスメントの兆候や職場環境における不均衡が明らかになることもあり、システムズアプローチの観点からは重要な情報収集の機会となります。
詳細は以下の記事もぜひご覧ください。

そして、もし実際にメンタル不調が発生した場合に備え、キャリアコンサルタントは産業医との連携体制を日頃から整えておくことが不可欠です。

キャリアコンサルティングの中で得られた情報は、守秘義務を遵守しつつ、クライエントの同意を得たうえで必要な範囲で共有されるべきです。
それによって、システム内に潜む円環的因果律を把握し、組織全体への効果的な介入戦略を立てることが可能になります。

メンタルヘルス支援において、キャリアコンサルタントの存在は決して補助的ではなく、むしろシステム全体に働きかけるための重要な鍵を握っていると言えるでしょう。




まとめ

メンタルヘルス不調への対応は、これまで主に産業医や人事労務担当者を中心に進められてきました。
しかし、私が産業医 × キャリアコンサルタントとして活動してきた中で明らかになったのは、キャリアコンサルタントが果たすべき役割の大きさです。

従業員が抱えるメンタル不調の背景には、職場の構造的な問題、人間関係、キャリアに対する迷いなど、多層的な要因が複雑に絡み合っています。こうした課題は「個人の問題」にとどまらず、「組織というシステム全体の問題」として捉えることが求められます。

そのためには、円環的因果律や「IP(Identified Patient)」という視点を取り入れ、丁寧なカウンセリングと全体像の把握を通じて、構造的なアプローチを行うことが重要です。キャリアコンサルタントの専門性は、こうしたシステム全体への働きかけにおいて非常に有効であり、産業医や心理職と連携することで、より効果的かつ持続可能な支援を実現することができるでしょう。

これからのメンタルヘルス支援は、「個別対応」から「システムズアプローチ」へ。
キャリアコンサルタントは、その変革を担う重要なキープレイヤーとなるはずです。

労働衛生コンサルタント事務所LAOでは、メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務を行っております。

メンタルヘルス不調に関する難しい案件にも対応いたします。社労士ですので、就業規則や社会保障も含めた労務管理を考慮した対応を行い、また、主治医との診療情報提供依頼書のやり取りを通じて、従業員の復職支援、両立支援を行うことを得意としています。

行政書士事務所として、休職発令の書面や、休職期間満了通知書、お知らせ等の書面の作成も行います。

メンタルヘルスに関する、コンサルティング業務は、原則として、顧問医・産業医としての契約になります。
オンラインツールを用いて、日本全国の対応が可能ですのでメンタルヘルス不調でお困りの方はぜひお問い合わせください。

お問い合わせはこちらかお願いいたします。

この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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