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化学物質の管理を解説

2023/09/20 2023/09/21

【化学物質】保護具の選択のための指標と「フィットテスト」の関係と使い方を解説

呼吸用保護具の選択は難しいですが、着用も難しいです。
呼吸用保護具はきちんと労働者の顔に密着するものでなければなりませんが、これを1年に1回ほど調べるのがフィットテストです。
かつては、フィットテストは簡易な方法である陽圧法、陰圧法を含んでいましたが、現在、陽圧法と陰圧法はシールチェックと呼ばれ区別されます。
今回は、このフィットテストについて解説いたします。


 フィットテストとシールチェックは別物で、両方を行わなければなりません。

近年、呼吸用保護具の密着性を調べるための「フィットテスト」と呼ばれていたものが「フィットテスト」と「シールチェック」に分かれました。以下の通達に記載されています。

フィットテストは、労働者によって使用される面体がその労働者の顔に密着するものであるか否かを評価する検査であり、労働者の顔に合った面体を選択するための方法(手順は、JIS T 8150を参照。)である。

シールチェック(面体を有する呼吸用保護具を着用した労働者自身が呼吸用保護具の装着状態の密着性を調べる方法。)

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

このフィットテストと、シールチェックはどちらかを行えばいいというものではなく両方の実施が必要です。以下の通達を見てみましょう。

面体については、フィットテストによって、着用する労働者の顔面に合った形状及び寸法の接顔部を有するものを選択及び使用し、面体を着用した直後には、(3)に示す方法又はこれと同等以上の方法によってシールチェック(面体を有する呼吸用保護具を着用した労働者自身が呼吸用保護具の装着状態の密着性を調べる方法。以下同じ。)を行い、各着用者が顔面と面体とが適切に密着しているかを確認すること。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

つまり、最初にマスクを入手した時にフィットテストでピッタリ着用できる呼吸用保護具を選んで、毎回作業前に呼吸用保護具を着用した直後に、シールチェックを行うということになります。
そして、1年に1回はフィットテストを行って問題ないか確認することになります。

シールチェックの主な方法には、陰圧法と陽圧法があります。こちらも通達に記載されていますが、載せておきます。

ア 陰圧法によるシールチェック
面体を顔面に押しつけないように、フィットチェッカー等を用いて吸気口をふさぐ(連結管を有する場合は、連結管の吸気口をふさぐ又は連結管を握って閉塞させる)。息をゆっくり吸って、面体の顔面部と顔面との間から空気が面体内に流入せず、面体が顔面に吸いつけられることを確認する。

イ 陽圧法によるシールチェック
面体を顔面に押しつけないように、フィットチェッカー等を用いて排気口をふさぐ。息を吐いて、空気が面体内から流出せず、面体内に呼気が滞留することによって面体が膨張することを確認する。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

他にも、作業場等に備え付けた簡易機器等で行う方法でもよいようですが、陰圧法と陽圧法は昔から利用されていた方法で簡便であるという利点があります。
今回の記事では、フィットテストの方を詳しく解説します。

 溶接ヒューム、リスクアセスメント対象物に関するフィットテストの義務について

溶接ヒュームは呼吸により人体に侵入し有害であり、溶接作業に従事する労働者は有効な呼吸用保護具を使用しなければなりません。そこで、労働者が呼吸用保護具を適切に装着していることを確認するため、令和5年4月よりフィットテストを1年以内ごとに1回実施することが義務付けられました。また、以下の通達、青色ハイライトにあるように、リスクアセスメント対象物に関してもフィットテストを行うこととされています。

5 呼吸用保護具の適切な装着

(1)フィットテストの実施
金属アーク溶接等作業を行う作業場所においては、アーク溶接告示で定める方法により、第三管理区分場所においては、第三管理区分場所告示に定める方法により、1年以内ごとに1回、定期に、フィットテストを実施しなければならないこと。

上記以外の事業場であって、リスクアセスメントに基づくリスク低減措置として呼吸用保護具を労働者に使用させる事業場においては、技術上の指針の7-4及び次に定めるところにより、1年以内ごとに1回、フィットテストを行うこと。

ア 呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用する労働者について、JIS T 8150に定める方法又はこれと同等の方法により当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数(以下「フィットファクタ」という。)を求め、当該フィットファクタが要求フィットファクタを上回っていることを確認する方法とすること。
イ フィットファクタは、別紙2により計算するものとすること。
ウ 要求フィットファクタは、別表4に定めるところによること。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

ここで、フィットファクタ(緑ハイライト)という概念が出てきました。このフィットファクタは、日本産業規格T八一五〇(呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法)に定める方法又はこれと同等の方法により当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数とあります。
簡単に言うと、「JIS T 8150」に基づいてこのフィットファクタを計算しなさいということになります。上記通達のフィットファクタに関する別紙2を引用します。

また、溶接ヒュームに関する別の通達では以下のように記載されています。

(呼吸用保護具の装着の確認)

第三条 特化則第三十八条の二十一第九項の厚生労働大臣が定める方法は、同条第七項の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用する労働者について、日本産業規格T八一五〇(呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法)に定める方法又はこれと同等の方法により当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数(以下この項及び次項において「フィットファクタ」という。)を求め、当該フィットファクタが呼吸用保護具の種類に応じた要求フィットファクタを上回っていることを確認する方法とする。

2 フィットファクタは、次の式により計算するものとする。
FF=Cout/Cin
(この式においてFF、Cout及びCinは、それぞれ次の値を表すものとする。

FF フィットファクタ
Cout 呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度
Cin 呼吸用保護具の内側の測定対象物の濃度)

3 第一項の要求フィットファクタは、呼吸用保護具の種類に応じ、次に掲げる値とする。
一 全面形面体を有する呼吸用保護具 五〇〇
二 半面形面体を有する呼吸用保護具 一〇〇

金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等 (令和二年七月三十一日 厚生労働省告示第二百八十六号)

この計算式を見ると、どちらの通達の計算式も「FF=Cout/Cin」となっており、非常に簡単に言うと呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度が、内部の測定対象物の濃度の何倍か?ということになります。
この文書を見ると、リスクアセスメントに基づく対応として呼吸用保護具を着用させる場合にもフィットテストを行わなければならないようにも見えますが、これは法律の根拠がありません、指針上のみで「フィットテストを行うこと」と記載されています。行政にも確認いたしましたが、溶接ヒューム以外の、リスクアセスメントに関係するフィットテストは努力義務の範囲内になります。

そして、通達に記載があるように、計測したフィットファクタが要求フィットファクタを上回っていることを確認しなければなりません。

「フィットファクタ」「要求フィットファクタ」と「要求防護係数」、「指定防護係数」の関係について

別記事で、「要求防護係数」、「指定防護係数」のお話をしており、「フィットファクタ」、「要求フィットファクタ」という言葉も出てきましたので、ここで「要求防護係数」、「指定防護係数」、「フィットファクタ」、「要求フィットファクタ」、「指定防護係数」の違いを解説します。

「要求防護係数」、「指定防護係数」については別記事でも解説しています。

最初に概略をまとめておきます。こちらの説明を念頭におくとわかりやすいと思います。

  • 「フィットファクタ」
    個々の労働者において、顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数
  • 「要求フィットファクタ」
    フィットファクタが良好か、言い換えれば当該労働者が保護具をきちんと着用できる保護具を選択しているかどうかを判断する基準
  • 「要求防護係数」
    実際の環境中の化学物質の濃度が、おおむね全ての労働者に健康障害を生じないと考えられている濃度の何倍の濃度かという数字
  • 「防護係数」
    実際にマスクを着用した場合に外部の化学物質の濃度を内部の化学物質の濃度で除した(割った)ものであり高いほどマスク内への漏れ込みが少ないことを意味します。
  • 「指定防護係数」
    訓練された着用者が、正常に機能する呼吸用保護具を正しく着用した場合に、少なくとも得られるであろうと期待される防護係数

そして、今からのお話は、以下の例を念頭に置けばわかりやすいかと思います。ちょっと正確でない表現がありますが、ご容赦ください。

ある化学物質を扱っていて、環境中の化学物質の濃度が、安全だと言われる濃度の10倍だとわかりました。
そこで、その化学物資の濃度を10分の1より低くできる呼吸用保護具を着用すれば労働者の吸い込む空気中の化学物質濃度は安全だと言われる濃度になると考えました。
しかし、理論的に10分の1より低くできるマスクでも顔にピッタリ合わなければ意味がないので、きちんとフィットして能力を発揮できるか、フィットテストを行います。
フィットテストでピッタリフィットできることが分かっても、普段、だらしなく着用していては意味がありません。
そこで、マスクがきちんと着用で来ているかをシールチェックで仕事前に毎回確認します。

では、個別に解説していきます。

「フィットファクタ」について解説

まず、「フィットファクタ」についてです。このフィットファクタは、呼吸用保護具を実際に使用する労働者について計測します。個々の労働者において、顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数です。どんな優秀な呼吸用保護具でも、すべての労働者の顔面に適合し、きちんと密着するかはわかりません。そのため、個別の労働者が実際に呼吸用保護具を着用し、密着の程度を測定します。

このフィットテストは、洋服でいえば、サイズが合っているかを確認することに相当します。このフィットファクタは1年に1回測定し、毎日測定しません。皆様も、洋服を購入する時には、洋服の袖の長さや、着丈をチェックするでしょうが、購入後に毎日洋服を着る際には袖の長さや着丈をチェックしませんよね。しかし、洋服をきちんと着れているかは毎日チェックするかと思います。この毎日のチェックがシールチェックに相当します。

「フィットファクタ」を計測したら、「要求フィットファクタ」を上回っているかを確認することが必要です。以下に再掲しておきます。「要求フィットファクタ」は次の項をご覧ください。
なお、フィットテストには、定性的と定量的の二種類があります。こちらはJIS T 8150の手順になります。

ア 呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用する労働者について、JIS T 8150に定める方法又はこれと同等の方法により当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数(以下「フィットファクタ」という。)を求め、当該フィットファクタが要求フィットファクタを上回っていることを確認する方法とすること。 イ フィットファクタは、別紙2により計算するものとすること。 ウ 要求フィットファクタは、別表4に定めるところによること。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

「要求フィットファクタ」について解説

「要求フィットファクタ」ですが、2つの通達、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等 (令和二年七月三十一日 厚生労働省告示第二百八十六号)「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )に記載されており、呼吸用保護具の種類に応じてつけられた固有の値です。測定したフィットファクタが数字を超えましょうという基準になる数字です。

つまり、フィットファクタが良好か、言い換えれば当該、個々の労働者が保護具をきちんと着用できる保護具を選択しているかどうかを判断する基準の数字になります。

重要なのは、「個々の労働者」が「きちんと着用できる保護具を選択しているかどうか」の基準になります。洋服でいえば、洋服を購入する方が実際に試着した(フィットチェックで測定した)着丈と袖の長さを、(要求フィットファクタの)一般的な基準と見比べておかしくないか判断するようなものです。

フィットテストは原則1年に1回なので、日々の作業前のチェックはシールチェックで行うことになります。

要求防護係数について解説

そして、最新の通達、「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )における要求防護係数を解説します。

こちらの通達の別紙1に「要求防護係数の求め方」の記載があります。
非常に簡単に言うと、この要求防護係数とは環境中の化学物質の濃度が、化学物質の濃度基準値の何倍かということになります。


「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

この、濃度基準値については通達で以下のように解説されています。つまり、濃度基準値については、健康障害を生じないと考えられている濃度になります。

○8時間濃度基準値は、長期間ばく露することによる健康障害を防止するため、8時間時間加重平均値が超えてはならない濃度基準値として設定されたものであり、この濃度以下のばく露においては、おおむね全ての労働者に健康障害を生じないと考えられているものであること。

○短時間濃度基準値は、短時間でのばく露による急性健康障害を防止するため、作業中のいかなるばく露においても、15分間時間加重平均値が超えてはならない濃度基準値として設定されたものであること。

化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針(令和5年4月27 日 技術上の指針公示第24号)

以下に概略の図を示します。


「防護係数」と「指定防護係数」について解説

そして、「防護係数」と「指定防護係数」については少し古い通達ですが、以下に解説があります。この防護係数は、外部の粉じん濃度を内部の粉じん濃度で除した(割った)ものであり高いほどマスク内への漏れ込みが少ないことを意味します。
非常に簡単に言うと、マスク内部と外部の化学物質の濃度の格差を意味します。

呼吸用保護具の選択の方法
呼吸用保護具の使用に当たっては、発散防止のための措置等の状況に応じた適切な防護係数又は指定防護係数のものを選定する必要がある。防護係数とは呼吸用保護具の防護性能を表す数値であり次の式で表すことができる。


すなわち、防護係数が高いほど、マスク内への粉じんの漏れ混みが少ないことを示し、作業者のばく露が少ない呼吸用保護具といえる。 作業現場において防護係数が算定できない場合は、各機関から公表されている指定防護係数を利用する。指定防護係数は、実験結果から算定された多数の防護係数値の代表値である。したがって、訓練された着用者が、正常に機能する呼吸用保護具を正しく着用した場合に、少なくとも得られるであろうと期待される防護係数を示している。JISで公表されている指定防護係数を表1に示す。

「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について 」(基発第0331013号 平成21年3月31日 )

上記通達は、ナノマテリアル関連のため、「粉じん濃度」となっていますが、一般的には、防護係数は以下の式により算出されます。

簡単に言うと、作業環境中の空気に含まれる化学物質の濃度を、呼吸用保護具の能力により、労働者が吸入する空気において、何分の一にすることができるかという能力になります。

例えば防護係数が50であれば、作業場の空気に存在する100ppmの化学物質は、呼吸用保護具により、労働者が吸い込む空気において2ppmになるということです。

そして、指定防護係数は、呼吸用保護具の製品に個別の数字であり、訓練された着用者が、正常に機能する呼吸用保護具を正しく着用した場合に、少なくとも得られるであろうと期待される防護係数ということです。

特に、「フィットファクタ」と「要求防護係数」の違いが、保護具外部の化学物質濃度が保護具内部の何倍かという話と、保護具外部の環境の化学物質濃度が、おおむね健康障害をきたさない濃度基準値の何倍かという違いに注意しましょう。そして、以下の通達にはこのように記載されています。

(2)要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具の選択

ア 金属アーク等溶接作業を行う事業場においては、「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等」(令和2年厚生労働省告示第286号。以下「アーク溶接告示」という。)で定める方法により、第三管理区分場所においては、「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(令和4年厚生労働省告示第341号。以下「第三管理区分場所告示」という。)に定める方法により濃度の測定を行い、その結果に基づき算出された要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を使用しなければならないこと。

イ 濃度基準値が設定されている物質については、技術上の指針の3から6に示した方法により測定した当該物質の濃度を用い、技術上の指針の7-3に定める方法により算出された要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を選択すること。

「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )

つまり、要求防護係数を計算したら、要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を使用しなければなりません。

非常にわかりやすく言うと、労働者が吸入する空気中の化学物質の濃度をおおむね健康障害が生じない、濃度基準値にしたいのです。

そのために、まず、作業の環境中の、化学物質の濃度が濃度基準値の何倍かを測定します。
何倍かがわかれば、その倍数を超える指定防護係数を有する呼吸用保護具をきちんと着用でいれば、労働者が吸い込む空気は濃度基準値になるはずなのです。

 呼吸用保護具の使用について中間まとめ

上記の話をわかりやすくまとめましょう。ここでの「物質X」は粉じん系の架空の化学物質だとします。

 ①まず、保護具を選択するために、「要求防護係数」を計算し、「指定防護係数」が上回る保護具を選択する。

環境中の化学物質の濃度の測定の結果得られた値を、化学物質の濃度基準値で除する(割る)ことにより、環境中の化学物質が濃度基準値の何倍かを示す、「要求防護係数」を計算します。
この「要求防護係数」を超える「指定防護係数」をもつ呼吸用保護具を選択します。

濃度基準値の15倍もの化学物質を吸入するとまずいですよね。そのため適切な呼吸用保護具を選択しなければなりません。
そこで、販売されている呼吸用保護具の性能としての指定防護係数を見ます。理論的には、労働者が呼吸する空気の化学物質濃度は、外部の濃度の1/指定防護係数となります。

したがって、濃度基準値の15倍であれば、15倍を超える指定防護係数を有する呼吸用保護具を着用すれば、労働者が吸い込む化学物質の濃度は、1倍以下になり、濃度基準値未満の化学物質を吸入することになります。

そして、組み合わせましょう。

これで、実際の現場でどのような呼吸用保護具を利用しないといけないかわかり、該当する呼吸用保護具を購入しようと選択することができます。
注意が必要ですが、これはあくまで理論的なマスクの選択になります。

 ②保護具を選んでも、そもそも密着性がなければ効果がないのでフィットテストを行います。

「要求防護係数」を計算し、「指定防護係数」が上回る保護具を選択し、スペック上効果があるはずであっても、実際の労働者がきちんと着用でき、密着性があるかを確認しなければなりません。

指定防護係数の定義を再確認すると、訓練された着用者が、正常に機能する呼吸用保護具を正しく着用した場合に、少なくとも得られるであろうと期待される防護係数でしたよね。つまり着用者が訓練されてなかったり、正常に機能しない呼吸用保護具だったり、正しく着用できない場合には、期待した防護係数が得られない可能性があります。

そこで、実際に、呼吸用保護具を労働者に着用してもらい、保護具外部の濃度が保護具内部の何倍かという指標である、「フィットファクタ」を測定し、「要求フィットファクタ」を上回っていることを確認します。
要求フィットファクタ及び使用できるフィットテストの種類については、通達で示されています。
引用:「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、 使用等について 」(基発0525第3号 令和5年5月25日 )



今回の図は、半面形面体なので、定性的フィットテストを行い、合格であれば要求フィットファクタである100を超えているとみなしましょう。

③保護具を着用した直後にはシールチェックをしましょう

フィットテストにより密着性のある保護具であることを確認しても。日々の保護具の着用がいい加減だと呼吸用保護具の能力は活かせません。日々の作業前にシールチェックを行いましょう。陽圧法と陰圧法ですね、練習してみましょう。

前述のように、(フィットテストと要求フィットファクタをチェックして)サイズのピッタリ合った洋服でも、きちんと着こなしているかは毎日チェックしないといけませんよね。このチェックがシールチェックに該当します。

まとめ

近年、呼吸用保護具の密着性を調べるための「フィットテスト」と呼ばれていたものが「フィットテスト」と「シールチェック」に分かれました。
今回は、呼吸用保護具の密着性を調べるための「フィットテスト」(JIS T 8150)について解説し、さらに「フィットファクタ」「要求フィットファクタ」と「要求防護係数」、「指定防護係数」の関係についてもまとめました。

フィットテストには、定性的と定量的の二種類があります。

保護具を選択するには
①保護具を選択するために、「要求防護係数」を計算し、「指定防護係数」が上回る保護具を選択する。
②保護具を選んでも、そもそも密着性がなければ効果がないのでフィットテストを行います。
③保護具を着用した直後にはシールチェックをしましょう

 

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この記事を書いた人

清水 宏泰

1975年生まれ。公衆衛生分野の専門家。現在はさまざまな組織の健康問題を予防するためにLAOにて行政書士・社労士・労働衛生コンサルタントとして活動しています。主に健康、心理系、産業保健の情報について発信していきます。

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